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【寄稿】 AWSを活用したブルーカーボン事業の取り組み

この投稿は株式会社 Insight Edge の Lead DataScientist 羽合佳範 氏、 Lead Engineer 三澤秀明 氏に、 Amazon SageMaker Ground Truth および AWS Lambda を活用した藻場面積の測定自動化や、それによるブルーカーボン事業への貢献について、寄稿していただきました。

Insight Edge 様は、カーボンニュートラルに向けた目標の一環として、住友商事様及びナイルワークス様とともに、 AWS を活用してブルーカーボン事業を推進しています。マングローブ、海草藻場などの海洋生態系に蓄えられた炭素であるブルーカーボンは、近年気候変動対策として注目を集めています。これらの海洋生態系は、陸上の森林に匹敵する量の二酸化炭素を吸収し、長期間にわたって炭素を蓄積する能力があると言われています。 Insight Edge 様は、画像および動画データに、簡単にラベルを付けることができる Amazon SageMaker Ground Truth を活用し、画像中の藻場に対して目視修正を行いました。 これによりドローンでの撮影画像から算出されたブルーカーボン量をより精緻に算定することが可能となり、高い認証率の J ブルークレジット®️の取得に繋がりました。

J ブルークレジット®認証申請の手引き - ブルーカーボンを活用した気候変動対策

AWS: ブルーカーボン事業を検討されていた際の事業化背景・ビジネス要件をお聞かせください。

Insight Edge 羽合様: 脱炭素社会が進んでいる中、住友商事はカーボンニュートラル実現に寄与する事業を模索した結果ブルーカーボン事業にたどり着き、検討を進めることとなりました。その中で、実証実験として岩手県洋野町のクレジット創出支援を行うこととなり、 Insight Edge も参画いたしました。

AWS:それは素晴らしいお取り組みだと思います。その中で、 Insight Edge 様はどのような役割を担っていたのでしょうか?

Insight Edge 羽合様: 我々の役割は、ブルーカーボン量の算定と、そのために必要なデータを取得する計画の立案でした。ブルーカーボンの算定にはドローンや衛星で撮影した画像だけでなく、藻場の実際の繁茂状況も必要になります。繁茂状況の確認には現地に赴いて潜水調査などを行う必要があり、金銭的・時間的コストがかかってしまいます。藻場の繁茂状況のデータは多いほど高い精度でブルーカーボン量が算定できますが、その分コストがかかってしまうため、いかにコストを下げながら高い精度を達成するかが重要になります。そのため、藻場の繁茂状況を効率良く調査する方法や調査する分量・範囲などを検討し、その調査結果を用いてブルーカーボン量を算定しました。

AWS: 上記を進めるにあたり、課題はあったのでしょうか?またどのようにその課題をクリアしたのでしょうか?

Insight Edge 羽合様: 課題は3点あったと思います。①ブルーカーボン量の認証②短期間での算定③認証の信頼性です。

  1. J ブルークレジット®︎の認証にあたり、ブルーカーボン量の算定が必要でした。算定方法は特に決まっておらず、自身が取り組む問題設定に応じて妥当な方法を柔軟に考えて、算定を行いました。
  2. 分析環境の構築を含む、藻場繁茂状況の計測から算定までの全てを短い期間に完遂させる必要がありました。分析の設計を事前に練り上げて効率よく進めただけでなく、設計運用が容易なシステムを選定して活用しました。
  3. 認証の信頼性を高めるため、計測で得られた画像の解析結果をより精緻にする必要がありました。ドローンや衛星で撮影した画像と現地での調査結果を用いて算定するだけでなく、設計運用が容易な AWS Lambda で事前ラベリングを行い、 Amazon SageMaker Ground Truth を用いてラベリングの追加、修正を行いました。さらに、算定結果に対して目視による修正を行いました。当初は藻場のアノテーションを一から人手のみで付与しようとしました。しかし、複数種類の藻場が入り乱れ、密集し、細かすぎることから、1枚の画像に対してもアノテーションができなかったのです。

藻場の調査

AWS: 様々なソリューションがある中で AWS の Amazon SageMaker Ground Truth を活用していただきありがとうございます。決め手となった箇所と具体的な活用方法を教えていただけることは可能でしょうか。

Insight Edge 三澤様: 決め手は、他社と比較し AWS の操作性とドキュメント、サポート対応が充実していること、システムを構成する全てのコンポーネント(アノテーションワーカーの管理・認証処理、アノテーション処理)を、サーバレスサービスを使用して即座に構築・運用できることです。今回、実際にアノテーション画像の管理だけでなくアノテーションワーカーの管理もワンストップで実施できましたので、運用保守を大幅に効率化することができました。また、開発観点でもシンプルな構成で所望の機能を実現でき、 AWS の使いやすさを改めて実感することができました。

アーキテクチャ図: 機械学習を活用し藻場面積の測定を自動化

AWS: ブルーカーボン事業の今後の展望についてお聞かせください。

Insight Edge 羽合様: 引き続き、住友商事と連携してブルーカーボン・ブルーエコノミー領域での事業化の検討を進めたいと考えています。岩手県洋野町におけるクレジット創出支援については、引き続き今年度も実施予定です。また、今後はより正確な藻場計測を目指し、グリーンレーザや水中ドローンの活用も検討したいと思っております。

著者について

三澤 秀明
株式会社 Insight Edge
Advanced Technology部
Developmentチーム所属

 

 

 

 

羽合 佳範
株式会社 Insight Edge
Advanced Technology部
DataScienceチーム所属