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認知科学と学習 2: 時間差学習で知識の定着度を高める
このブログは、認知科学の原則を使って AWS クラウドの学習効果を高める方法に関するシリーズ記事の第 2 回です。
シリーズの第 1 回では、長期学習における反復学習の重要性について取り上げました。学習にあたっては数百のアマゾン ウェブ サービス (AWS) のサービスや機能に充分に留意しておく必要があります。すべてをより効果的に学習するには、ビデオを観たりドキュメントを読んだりして情報を受動的にインプットするだけでは不充分です。クイズやメモカードを使った学習、 ラボなどのハンズオンアクティビティを通したセルフテストを実行することで、学習中の情報を能動的に活用して、記憶から引き出す必要があります。
しかし多くの場合、多忙なスケジュールの中で継続的に反復学習を行っていくのは簡単ではありません。そこで有用なのが、時間差学習 (Spaced Practice) という概念です。
時間差学習とは、ある一定の期間中に徐々に時間間隔を広げて学習時間を分散させるというやり方です。
たとえば今週初めに視聴した Amazon S3 に関するビデオの内容に合わせて自身で作成したメモカードを確認するとします。メモカードでの学習にかかる総時間は約 60 分です。時間差学習ではこの時間を複数回に分散させることで、60 分間かけてすべてを 1 回で学習するよりもはるかに高い長期的学習効果を得ようとします。
この場合にカギとなるのは、覚えようとしている情報が記憶から消えてしまうギリギリのタイミングで復習を行うことです。このスイートスポットは人それぞれで異なります。
いずれにしても、学習中の情報が脳内の長期記憶に関連する部分に統合されるまでには時間が必要です。脳内からその情報を取り出すタイミングを遅らせる(または間隔を空ける)と、その情報は長期記憶を司るニューラルネットワークへより強く取り込まれます。間隔を空けずに行う反復学習は、この記憶の取り込みに要する時間を考慮しておらず、結果的に学習内容が短期記憶の範疇にとどまりやすくなります。
Amazon S3 ビデオの例に戻りましょう。ビデオを見た直後に聞いたことをセルフテストすると、質問に回答する際には短期記憶の中から情報を引き出していることになります。情報を長期記憶に取り込むのに十分な時間がなかったためです。
時間差学習では、セルフテストを数時間あるいは数日の間隔を空けて行います。この時点で、情報を長期記憶に統合する時間があったことになります。テストへの回答は難しくなりますが、長期的には学習効果に大きな効果をもたらします。
では、AWS クラウドの学習に時間差学習を活用するにはどうしたらよいでしょうか。
以下にいくつかのアイデアを示します。
- 集中詰め込み式をやめ、学習を小さなチャンクに切り分ける。 1 週間休むことなく勉強すると短期的には有効に感じられるかもしれませんが、長期的には学習効果が低くなってしまいます。そのかわりに数百におよぶ AWS トレーニングを活用してください。トレーニングの多くはオンラインで受講できるショートトレーニングコースで、これを活用するとインプットからある程度の間隔 (数日間というよりは数週間程度の期間にわたって) をおいて簡単に学習内容を復習できます。
- ラーニングパスを選択し、独自の間隔で学習スケジュールを立てる。 AWS のラーニングパスは一連のコースと試験で構成されており、このパスに従って学習を進めることで AWS クラウドのスキルを段階的に向上させることができます。自分に適したラーニングパスを見つけたら、ある程度の期間にわたって学習予定を区切り間隔を意識した自分なりの学習スケジュールを立てましょう。学習をいくつかの大きなブロックにまとめて一気に詰め込むようなことは避けてください。
- 重要なトピックを再確認し、総合的なセルフテストをする。 何かを一度見たり聞いたりするだけで、それを完全に習得することはできません。長期的な学習には、トピックを何度も何度も再確認する必要があります。 シリーズブログの第 1 回で取り上げたように、単なる情報を受動的にインプットするだけではだめです。自分で小テストを作成して復習したり、キーとなる情報を思い出すことが必要となるラボ演習を受講したりして、反復学習テクニックを最大限に活用します。具体的なやり方としては、反復学習が常に過去に学んだ内容をもとに積み上がっていくように気をつけるようにします。たとえば単に Amazon S3 のビデオを視聴し、そのビデオに関連するいくつかの主要なトピックについてセルフテストをして次へ進み、同じテスト問題に 2 度と取り組まない、といったやり方はお勧めできません。効率的に学習を進めるには、他のサービスの学習に進んでからも Amazon S3 のトピックによるセルフテストを続けます。同じ問題に少なくとも 3 回、自信を持って正しく回答できるようになるまでは、反復学習のローテーションからその問題を外さないようにします。
ここで述べた例や、そのほかの場合における時間差学習を取り入れる際の難点としては、学習がより難しく感じられるようになりやすいことです。しかし、長期記憶の獲得がそもそも簡単ではないということをご理解いただければ、この研究と科学に裏打ちされた原理を AWS クラウドの学習に適用することの意義もお分かりいただけると思います。このシリーズの最終回では、エラボレーションが学習にどのように役立つかについて説明します。
By Tom Kelly