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生成 AI で事業はどう変化する? AWS Generative AI Night @ Startup Loft Osaka【開催レポート】
2024 年 5 月 13 日から 5 月 17 日まで、期間限定で AWS 大阪オフィスにて Startup Loft Osaka Pop-Up を開催しました。Pop-Up の期間中は、10:00 から 18:00 まで無料コワーキングスペースや AWS の技術的な質問ができる Ask an Expert コーナー、VC の方と 1:1 で壁打ちなどができる VC メンタリングを実施。その他、さまざまなテクニカルセッションやハンズオンも開催しました。
今回はそれらのうち、5 月 15 日に開催されたイベント「AWS Generative AI Night @ Startup Loft Osaka」のレポートをお届けします。本イベントでは、生成 AI の最新動向と実践的なユースケースについてご紹介しました。また、当日開催の Amazon Bedrock Prototyping Camp の参加者によるライトニングトークも実施しました。
AWS における生成 AI 利活用
イベント冒頭では、進行を務めるアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWS)ソリューションアーキテクトの濱 真⼀があいさつ。AWS Startup Loft Osaka Pop-Up の概要や本イベントの主旨を述べた後、「AWS における生成 AI 利活用」のセッションが始まりました。
スピーカーは AWS ソリューションアーキテクトの尾原 颯。AWS では、生成 AI アプリケーションを実装するために、モデルの作成をする層からビジネス層に至るまで、さまざまなレイヤー向けの選択肢を用意しています。これらの具体的な内容についてご紹介しました。
尾原は「2023 年が生成 AI にとって PoC の年だったとすれば、2024 年はプロダクション(実運用される)の年である」と発表。そして、生成 AI を導入するうえでは、データ活用が差別化の源泉になると述べました。さらに、AWS が提供する生成 AI のテクノロジースタックを「大規模言語モデル・基盤モデルを活用した構築済みアプリケーション」「大規模言語モデル・基盤モデルを組み込んだアプリ開発のためのツール」「基盤モデルのトレーニングと推論のためのインフラストラクチャー」の 3 つのカテゴリで解説しました。
大規模言語モデル・基盤モデルを活用した構築済みアプリケーション
Amazon Q … 生成 AI を活用したアシスタントで業務を改革します。4 月 30 日から一般利用可能です。
Amazon Q Business … ビジネスの質問に対して、企業に蓄積された知識とデータをもとに、迅速で正確かつ関連性の高い回答を提供します。また、Amazon Q Apps(現在はプレビュー版)を用いると生成 AI アプリを即座に作成可能です。
Amazon Q Developer … 生成 AI を利用してソフトウェア開発のライフサイクルをサポートします。
大規模言語モデル・基盤モデルを組み込んだアプリ開発のためのツール
Amazon Bedrock … API を通じて主要な基盤モデルを利用できるようにするフルマネージド型サービス。利用可能な基盤モデルは多種多様。過去には生成 AI アプリケーション構築を 1 日かけてサポートする招待制ワークショップ Amazon Bedrock Prototyping Camp も開催しました。
基盤モデルのトレーニングと推論のためのインフラストラクチャー
AWS Inferentia … 初代 ML 推論チップ。高性能かつ低価格。
AWS Trainium … 高性能 ML トレーニングチップ。高い費用対効果。
AWS Inferentia2 … 第 2 世代 ML 推論チップ。大規模モデルに対応。
これらの各種サービスに加えて、AWS はこれまで国内に法人または拠点を持つ企業・団体の生成 AI 基盤モデル・大規模言語モデルの開発を支援する AWS LLM 開発支援プログラムを実施しました。
参考記事 : 基盤モデル開発に挑む各社が成果を共有。AWS LLM 開発支援プログラム 成果発表会
大阪市における生成 AI 利活用の取り組み
続いて登壇したのは、大阪市デジタル統括室 DX 推進担当課長の中道 忠和 氏です。
大阪市は「大阪市 DX 戦略」のもと全市を挙げて DX に取り組んでいます。2023 年 8 月には AWS と連携協定を締結し、生成 AI について業務効率化に向けた利活用の可能性および課題解決方法などに関する共同検証を実施。その取り組みの内容と得られた知見について、中道 氏が解説しました。
2023 年 4 月にデジタル統括室では調査・活用検討チームを設置し、市の業務における生成 AI 利活用の可能性について 8 月まで検討を行いました。その結果、議事録といった長文の要約や SNS 投稿文のような市民向け広報文案の作成など、汎用的な文章作成業務においては有効であることを把握。一方、自治体の業務で本格的に活用していくためには、個別具体の業務に最適化したシステムの構築が必要であり、その方策を模索しなければならないとデジタル統括室は考えていたといいます。そうした折に、AWS と PwC コンサルティング合同会社(以下、PwC)から自治体における生成 AI のユースケースについて共同検証の実施の提案があり、連携協定の締結に至ったのです。
その後、同年の 9月から12月まで大阪市はAWS及びPwCそれぞれと共同検証を行いました。システムの想定利用者は、デジタル統括室職員およびさまざまな部局の職員。検証内容は「利用効果が見込まれる業務・場面の調査」「利用者が期待する結果を得るための各種手法の検証」「利用にあたっての注意点や課題の洗い出し」です。
文章の要約・添削や案文の作成(広報業務)といった汎用業務は大阪市と PwC の共同で、特定の領域の法律・制度等に関する事業者などからの問い合わせ対応業務における調べもの支援といった特定業務は大阪市と AWS の共同で行いました。
セッション内では、これらの共同検証の調査内容や結果、構築したシステムのアーキテクチャ、得られた知見や今後に向けての改善案などが語られました。
Amazon Bedrock Prototyping Camp の参加者によるライトニングトーク
当日、AWS 大阪オフィスでは Amazon Bedrock Prototyping Camp を開催していました。これは、前半パートでは座学とハンズオンを通じて生成 AI 活用のための基礎知識や Amazon Bedrock をはじめとする各種サービスの概要を学び、後半パートはプロトタイピングをするワークショップです。本ワークショップの参加者の方々が、ライトニングトークを行いました*。
*…発表内容は個人の感想であり、会社としての意見を代表するものではありません。また、あくまでワークショップに参加した後に発案したアイデアであり、発表内容がプロダクトに組み込まれることを保証するものではありません。
メトロウェザー株式会社
メトロウェザー株式会社は、大気中の微粒子の微細な動きをもとに、数十 km 先の風向や風速を測定する高性能ドップラー・ライダーを開発する京都大学発ベンチャーです。同社はドップラー・ライダーで測定されるリアルタイムの風況データに加えて、高精細に気象予測できるシミュレーション技術により、詳細な気象情報の把握を実現しています。
同社は 2015 年に設立され、創業から 9 年ほどが経過しました。そして、社内では「個々人が残した情報が点在している」「専門性の高い技術者のノウハウを、うまく他のメンバーに引き継げていない」などの課題も生じているといいます。
「そうした情報を収集・整理・検索するために、もしくはメンバーの教育のために生成 AI を活用できるのではないか」とメトロウェザー社は発表。Amazon S3 や他のファイルストレージと Amazon Kendra・Amazon Bedrock などを組み合わせて、社内の情報整理に役立てていく可能性があると述べました。
フルカイテン株式会社
フルカイテン株式会社は、データの分析や需要予測によって小売・卸売業の利益と在庫の最適なバランスを実現する SaaS「FULL KAITEN」を開発・提供しています。在庫量の最適化によって企業の利益を増加させるとともに、在庫の大量生産・廃棄を減らし、「必要なものが必要なだけ流通する社会」の実現を目指しているのです。
「Amazon Bedrock Prototyping Camp に参加して、Amazon Bedrock のプロダクトへの活用アイデアを 2 つ考えています」と同社は発表。1 つ目は「FULL KAITEN」の画面の操作方法を、ユーザーに対してチャットボットで説明すること。2 つ目は、顧客企業から商品データが連携された際に、商品の画像情報を分析してタグ付けを行い、その商品タグを用いて商品の検索や分析などに役立てることです。「これらの実現可能性について、引き続き検証作業を続けていきたい」と結びました。
iYell株式会社
iYell株式会社は、金融機関と住宅・不動産事業者とをつなぎ、両者の住宅ローン業務をテクノロジーの力で効率化することで、エンドユーザーに最適な住宅ローンを提供する住宅ローンプラットフォームを運営しています。同社ではすでに Amazon Bedrock をサービスに導入。現在は、金融機関とのやりとりの知見データを、Amazon Bedrock の RAG を中心として検索できるシステムを構築しています。
「別の領域への Amazon Bedrock 活用も考えている」と iYell 社は発表。まずはカスタマーサポート業務への利用です。カスタマーサポートにおける電話の録音データを文字起こしすることで、文章の記録を残す機能を開発中だといいます。また、他にも住宅ローンの契約書における要点を抽出し、レビューを容易にする機能も開発を進めています。
株式会社インゲージ
株式会社インゲージは、メール・電話・SNS などの問い合わせを一元管理し、チームで共有できる顧客対応クラウド「Re:lation」の開発・提供を行っています。「Re:lation」は各種の問い合わせ情報をダッシュボードで管理・分析できることが特徴。現在は、サービスに Amazon Bedrock を活用してはいないものの「ダッシュボードの使い勝手を LLM によって改善できるのではないか」と展望を述べました。
セッション後半では、Amazon Bedrock Prototyping Camp にて作成した簡易的なデモを披露。データが格納された特定のテーブルへの問い合わせを行う際に、集計したい内容を自然言語でプロンプトとして入力すると、SQL が生成されるというシステムです。これにより、SQL に詳しくない人でもデータの集計・可視化を実現できるというデモになっていました。
おわりに
こうして、「AWS Generative AI Night @ Startup Loft Osaka」は終了しました。2024 年 5 月 13 日から 5 月 17 日まで開催された Startup Loft Osaka Pop-Up は、参加者の方々から好評であり、「定期開催や常設をしてほしい」という意見が寄せられました。また、「AWS Startup Community – 関西 の運営を再開する予定」といったユーザーの声もありました。スタートアップコミュニティの方々に有益な学びや交流の場をご提供できるよう、AWS は今後も各種のイベントを開催してまいります。