AWS Startup ブログ

国内外のスタートアップ CTO, VPoE が京都に集結 【CTO Night & Day 2019 – Day1のダイジェスト】

CTO Night & Day は、CTO や VPoE などの技術の立場から企業経営に関与するリーダー・マネージャーのための招待制オフサイト・カンファレンスです。

2014年から続くこのカンファレンスでは、参加者同士によるディスカッションや事例共有などを通じて、年齢や業種を超えた幅広い知識の交流が行われてきました。日常の業務から離れ、オフサイトならではの環境での交流を通じて、技術リーダー同士のコミュニティを活性化し、業界全体が発展していくことを目的としています。

2019年は、京都府京都市の「The SODOH」をメイン会場としてカンファレンスを開催。参加した CTO・VPoE の方々は、なんと合計約120名です。企業経営・組織運営を牽引する立場だからこそ抱える課題やその解決策について、熱い議論が交わされました。今回の記事では、10月9日に行われた Day1 の模様を、ダイジェスト形式でお届けします。

 

AWS Office Hour

午前中にまず実施されたのは、事前申込制のテクニカル個別相談会である AWS Office Hour です。AWS のソリューションアーキテクト(以下、SA)が、お客さまの抱える課題に対して、直接お答えしました。

CTO・VPoEの方々から語られたのは、AWS のコスト削減方法や SageMaker 推論パイプラインのためのコンテナ作成など、システムの運用・開発における生々しい課題。どのような方針で改善を行うべきか、各 SA から参加者の方々にご提案させていただきました。

 

AWS Morning Session

次に実施された AWS Morning Session では、AWS の社員が8テーブルに分かれ、前半パート・後半パートで合計16テーマのセッションをお届けしました。参加者の方々は、興味のあるセッションのテーブルに着座し、耳を傾けます。

<前半パート>

岡嵜 禎 AWS Japan 執行役員「CTOのためのAmazonカルチャー

AWS Japan Media SA Manager「高可用性アーキテクチャについて真剣に考える – 東京リージョン障害を振り返る

吉田 英世 AWS Japan Game SA Manager「AWSのコスト最適化

塚田 朗弘 AWS Japan Startup SA Manager「AWS Amplify で Web/Mobile 爆速スケーラブル Serverless 開発

中武 優樹 AWS Japan Startup SA「[AWS Start-up ゼミ / DevDay 編] よくある課題を一気に解説! 御社の技術レベルがアップする 2019 秋期講習

松田 和樹 AWS Japan Startup SA「CTO のための一歩進んだコンテナ入門

針原 佳貴 AWS Japan Startup SA「AI/ML:Amazon Personalize, Amazon Forecast でレコメンド・時系列予測の AutoML

北村 聖児 AWS Japan Sr.SA「AWS DB Overview – データベースの選択指針

 

<後半パート>

岡嵜 禎 AWS Japan 執行役員「AWS Japan 執行役員が技術組織マネジメントについてクローズド Q&A を受け付けます」

千葉 悠貴 AWS Japan Media SA Manager「GraphQL/AWS AppSync 活用事例詳解 – Firebaseからの移行事例

吉田 英世 AWS Japan Game SA Manager「グローバルサービス展開に向けたマルチリージョンアーキテクチャ

塚田 朗弘 AWS Japan Startup SA Manager「Amazon Pinpoint でかゆいところに手が届くユーザー動向分析とセグメント通知

中武 優樹 AWS Japan Startup SA「Blockchain on AWS Amazon QLDB, Amazon Managed Blockchain と活用事例

松田 和樹 AWS Japan Startup SA「CTO のためのセキュリティ

針原 佳貴 AWS Japan Startup SA「AI/ML:Amazon Sagemaker で MLOps

北村 聖児 AWS Japan Sr.SA「AWS で構築するデータレイク基盤概要とamazon.comでの導入事例

 

AWS の最新技術情報やシステムの可用性・信頼性を高めるためのアーキテクチャ構築手段、マネジメントのノウハウなど、CTO・VPoE の方々のリアルな悩みを解決してくれるセッションとあって、その眼差しはみな真剣です。

なかでも、前半パートでひときわ多くの注目を集めたのは、Media SA Manager の千葉 悠貴による「高可用性アーキテクチャについて真剣に考える– 東京リージョン障害を振り返る」でした。

2019年8月23日に AWS 東京リージョンで発生したシステム障害をふまえ「障害の発生原因は何だったのか」「特定のデータセンターに障害が発生した場合でも、システム稼働可能なアーキテクチャを作るには」というテーマについて、千葉が徹底的に解説。システムの可用性・信頼性に直結する内容とあって、参加者の方々は熱心に聞き入っていました。

また、後半パートでは Startup SA の 松田 和樹による「CTO のためのセキュリティ」が多くの方の注目を集めます。

シード期〜アーリー期のスタートアップ企業においては、「新しい機能を開発すること」が最優先であるため、どうしてもセキュリティ対応の優先度は低くなりがちです。松田が提示した資料では「スタートアップ企業の創業者の半数以上が、セキュリティを重要視していない」というデータが示されていました。

ですが、企業やサービスが一定の規模以上へと成長すると、セキュリティ対策の重要性は増してきます。ひとたびトラブルが発生してしまえば、サービスの信用は失墜し、ユーザーへ甚大な被害が出てしまうためです。本セッションでは松田がシステム設計・運用の大局的な考え方とベストプラクティス集である AWS Well-Architected Framework の内容をふまえ、セキュリティ対策の基礎知識について解説しました。

 

Welcome Lunch

午前の部を終えた後は、全員が一堂に会しての Welcome Lunch です。まだ見知らぬ方々との新しい出会いを期待して、ランダムな席順での昼食をお楽しみ頂きました。“CTO あるある”や新技術の話題などを切り口に、議論に花が咲きます。

 

Keynote

ランチの後に実施されたのは、国内外の著名 CTO・CEO の方々4名による Keynote です。企業やサービスを牽引してきた実績をふまえ、過去に実施した各種の施策や、技術の立場から企業経営に関与する意義について説いていただきました。

Keynote 1 – Gremlin Inc Kolton Andrus 氏

1人目の登壇者は、Gremlin Inc の Co-Founder & CEO である Kolton Andrus 氏です。Kolton 氏は Amazon や Netflix でソフトウェアエンジニアとして経験を積んだ後、カオスエンジニアリングのプラットフォームを提供する Gremlin Inc を創業しました。

カオスエンジニアリングは「稼働中のサービスにあえて擬似的な障害を起こすことで、システムが障害に耐えられるかを確認する手法」です。この手法は Netflix が取り入れたことで一躍有名になりましたが、導入を推進したエンジニアのひとりが Kolton 氏でした。Kolton 氏はカオスエンジニアリングを“ワクチン”に例えます。いわば、システムに対して障害を注入することで、有害物質に対する免疫を身につけるような手法である、ということです。

「Gremlin Inc の創業には、Amazon や Netflix での経験が大いに影響している」と Kolton 氏は続けます。Amazon や Netflix でいくつもの障害対応を経験するなかで「運用に携わるエンジニアにとって、本当に必要なツールとは何か?」というテーマと向き合った経験が、Gremlin Inc の提供する数多くのサービスへと結実したのです。

「今後も、システム運用の前線にいるエンジニアにとって、有益なサービスを提供していきたい。エンジニアの持つ痛みを解決していくことが、私たちの役割だと思っています」と Kolton 氏は結びました。

 

Keynote 2 – Snyk Ltd Guy Podjarny 氏

2人目の登壇者は、Snyk Ltd の Co-founder & CEO である Guy Podjarny 氏。オープンソースソフトウェアの脆弱性を検出・解消するセキュリティプラットフォームを提供する Snyk Ltd が、創業から現在までどのように成長してきたかを解説しました。

同社の創業メンバーたちは、「昨今ではセキュリティの重要性が大きくなっているにもかかわらず、良質なオープンソースソフトウェアの脆弱性データベースがない」ことに気づき、製品の開発に取り組みます。

最初にベータ版として誕生した製品は、Node.js/npm 向けの、オープンソースソフトウェアの脆弱性を発見・解消する CLI ツールでした。このツールは多くのユーザーに受け入れられました。ですが、彼らは「ユーザーにツールを継続して使ってもらえない」という課題に直面します。

継続的な利用をうながすため、正規版では GitHub とのインテグレーション機能も盛り込みます。この機能の導入は奏功し、多くのユーザーが同社のツールを利用するようになりました。ですが、有料プランに加入する方はなかなか増えません。

Guy 氏は「ユーザーの『より多様なプログラミング言語、ライブラリをサポートしてほしい』『もっとインテグレーション可能なツールを増やしてほしい』といったニーズを拾い切れていなかったことが、課題の原因でした」と語ります。

この反省をふまえ、シングルサインオン機能の導入や対応プログラミング言語の増加、他ツールとのインテグレーションの拡大などを行い、より魅力的な製品へとブラッシュアップしていきました。その結果、有料プランの導入数も順調に増加していきます。さらに、近年ではコンテナを利用する企業が増えていることから、2018年11月にはコンテナの脆弱性データベースをスタンドアローンの製品としてリリースしました。

Snyk Ltd の創業から4年が経ち、企業は大きく成長しました。「ですが、どれだけ企業が大きくなろうと、Snyk Ltd の理念は変わりません。私たちはこれからも、デブ・ファーストのセキュリティ企業として世界を牽引していきたいと考えています」と Guy 氏は強調しました。

 

Keynote 3 – 株式会社ソラコム 安川 健太 氏

3人目の登壇者は、IoT 通信プラットフォーム事業を展開する株式会社ソラコムの Co-founder & CTO 安川 健太 氏です。同社は2015年9月に初めてのプロダクトローンチを行ってから、2017年8月に KDDI グループに参画するという急成長を成し遂げました。成功の裏にはどのような工夫があったのか、そして通信大手企業のグループに参画する利点は何かなどを解説しました。

ソラコムは創業当初から、プロダクトを海外展開させることを前提とした経営を行っていました。その姿勢は、アプリのアーキテクチャにも如実に現れています。例えば、配信するアセットを全て Amazon S3 上に置き、Amazon CloudFront を経由して配信することで物理的な距離の影響を緩和していました。また、初期フェーズからアプリのコンソールの他言語対応や、タイムゾーンの UTC 化などを行っていました。

「こうした施策を初期の頃に行ったことで、のちに海外展開した際にもアーキテクチャを大きく変える必要がありませんでした」と安川 氏は語ります。

また、2017年8月の KDDI グループ参画についても言及します。ソラコムは IoT に特化した MVNO(仮想移動体通信事業者)として通信サービス事業を展開していました。しかし、MVNO のみを扱うという業態では、お客さまが増加してくるにつれ、多種多様なニーズに応えられないケースが生じてきたのです。

「KDDI とのパートナーシップ締結により、実現できることの幅がより広がります。そのシナジーに魅力を感じました」と安川 氏は前向きな表情を見せます。今後のソラコムの明るい展望を予感させるセッションとなりました。

 

Keynote 4 – Sansan株式会社 藤倉 成太 氏

4人目の登壇者は、Sansan株式会社の CTO である藤倉 成太 氏です。法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」や個人向け名刺アプリ「Eight」を提供する同社は、2019年6月19日に、東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たしました。上場までの過程において取り組んできたことを、藤倉 氏が回想しました。

「私たちがここまで来れたのは、『Sansan』のプロダクトコンセプトが『人々の足元の課題を解決するソリューション』だったことが幸いした」と藤倉 氏は語ります。

売れるプロダクトとそうでないプロダクトを分かつ要素として、「人々の抱える“生々しい課題”を解決できているか、そうでないか」という軸は非常に重要です。法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」が解決したのは、ビジネスパーソンが抱える「名刺管理がとにかく面倒」という課題でした。ビジネスと不可分であるその課題と実直に向き合ったからこそ、同社のサービスは多くの支持を得たのです。

また、プロダクトデザインにおいて、Sansan は「ユーザーに徹底的に楽をさせる」ためのコンセプトを守り抜きました。「簡単に名刺をスキャン」「正確にデータ化」「検索できる」という3つの軸を突き詰めたのです。

なかでも、「正確にデータ化」という軸は極めて重要であるため、同社はいまでも名刺画像の文章化プロセスにおいて「人の目によるチェック」を活用しています。なぜなら、現代の技術をもってしても、OCRの識字率はまだ100%には到達していません。ですが、名刺データ化の精度は100%でなければ、正確な情報を求めるユーザーにとって有益なものとはならないのです。

藤倉 氏は「エンジニアであれば、人の手を介すのではなく、全てをシステムで解決したくなります。ですが、何よりも大切なのはユーザーに価値を届けることです。そのためならば、ときに泥臭い手段を使う姿勢も必要になってきます」と解説しました。

Unconference / Round Table with Global Startups

次に実施されたのは、Unconference / Round Table with Global Startups です。エンジニアの採用や評価、育成といったテーマごとにグループ分けを行い、少人数でディスカッションを行いました。また、Keynote 登壇 Global Startup との、少人数での Round Table も同時開催しました。

「経営者として CTO がすべきこと」「エンジニアの採用と評価」「エンジニアリングマネージャーの評価と育成」などの、多くの CTO・VPoE が悩むテーマについて、参加者同士で意見を交わします。

 

Panel Discussion グローバルCxOで激論!~Role of the CTO~

<モデレーター>

株式会社WiL パートナー 代田常浩 氏

<パネリスト>

グリー株式会社 取締役 上級執行役員 最高技術責任者 藤本 真樹 氏

カーディナル合同会社 代表社員 安武 弘晃 氏

Gremlin Inc CEO and Founder Kolton Andrus 氏

Snyk Ltd Founder, President and Chairman of the Board Guy Podjarny 氏

夕方からは、日本やアメリカ、イギリスといった国々で活躍する4名の CTO・CEO が、CTO のロールについて技術やステージ、グローバルなどの視点からディスカッションを実施。CTO Night & Day 参加者の実態調査の結果もふまえ、日米の違いについても議論しました。

企業の各フェーズにおける CTO が担うべき役割、創業メンバーと CEO と CTO との関係性、企業のエンジニア割合、年収とストックオプションのバランスについての考え方など、企業経営において必ず直面する課題について、各登壇者が本音で議論。数多くの難所を乗り越えてきた方々だからこそ語れる、説得力のある意見の数々が飛び出しました。

 

CTO Night!!

各セッションを終えた後は、全員参加の立食式パーティである CTO Night!! が催されました。Kolton 氏、Guy 氏による乾杯の音頭を皮切りに、和気あいあいとした雰囲気でパーティーはスタート。

滋味深い料理とお好きなドリンクを味わいながら、思い思いに和やかな会話を交わします。みなさんの口から飛び出すのは、CTO・VPoEが集まるクローズドな場だからこそ出てくる“ここだけの話”の数々。みなさん、時間を忘れて語り合っていました。

 

CTO MidNight

食事の後は別会場へと移動して、特別パーティである CTO MidNight を開催。今年の CTO MidNight では、関西の学生エンジニアによる LT 大会を実施しました。学生たちは、「京都をシリコンバレーにするための挑戦」「優秀な学生エンジニアを採用する方法」など、個性あふれるテーマでプレゼンテーションを披露。CTO 数名が審査員となり、厳しくも愛のあるコメントを返していました。

 

おわりに

CTO Night & Day の Day1 では、各セッションで非常に熱量の高い議論が交わされました。

どの方も、口々に「多くの学びや気づきがあった」「技術の立場から企業経営に関与する者だからこその悩みを、同じ目線で語り合うことができた」と言っていらっしゃったのが印象的でした。「自分も CTO・VPoE の方々と議論してみたい」「第一線を走る先駆者の、高い視座に触れてみたい」と思う方は、ぜひ次回の CTO Night & Day にご参加ください。

次回は、10月10日に行われた Day2 のダイジェストをお届けします。お楽しみに!