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技術選定、採用、マネジメント……。数多くの課題を CTO たちはどう乗り越えてきたか? 【CTO Night & Day 2019 Day2のダイジェスト】

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CTO Night & Day は、CTO や VPoE などの技術の立場から企業経営に関与するリーダー・マネージャーのための招待制オフサイト・カンファレンスです。

2014年から続くこのカンファレンスでは、参加者同士によるディスカッションや事例共有などを通じて、年齢や業種を超えた幅広い知識の交流が行われてきました。日常の業務から離れ、オフサイトならではの環境での交流を通じて、技術リーダー同士のコミュニティを活性化し、業界全体が発展していくことを目的としています。

2019年は、京都府京都市の「The SODOH」をメイン会場としてカンファレンスを開催。10月9日に行われた Day1 では、AWS の社員による各種セッションや国内外の著名 CTO・CEO の方々4名による Keynote などが催されました。本稿では、10月10日に行われた Day2 のダイジェストをお届けします!

Workshop

Day2 は、5つの会場に分かれての Workshop から幕を開けました。参加者は、興味のある Workshop を選び、各会場へと集まります。それぞれの Workshop がどのような内容だったのか、順に見ていきましょう。

 

A:SINIC Workshop

・講師:羽山 幸介氏

オムロン株式会社

グローバル人材総務本部 主査 博士(工学)

「社会のニーズを先取りした経営をするためには、未来の社会を予測する必要がある」との考えから、オムロンの創業者・立石一真が1970年に発表したのが「SINIC 理論」です。本 Workshop は、「SINIC 理論」を学び CTO・VPoE の業務に役立てることを目的としています。各参加者は「SINIC 理論」の内容をベースに、「事業推進において大切にしている信念は何か」「今後どのような社会課題を解決したいか」などのテーマについて議論しました。

 

B:はてな式インターンの作り方

・講師:栗栖 義臣氏

株式会社はてな 代表取締役社長

株式会社はてなは、2008年よりインターン生の受け入れを行ってきました。名著『Web開発者のための大規模サービス技術入門』(技術評論社)が、同社のインターンシップにおける技術講義をベースとしていることでも知られるように、はてなの持つインターン生の採用・育成ノウハウは非常に高いのです。

「はてな式インターンの作り方」は、そのノウハウをベースとした Workshop です。効果的な募集方法や即戦力となる人材を学生から見出す方法など、10年以上にわたる試行錯誤から得た学びを、同社の代表取締役社長である栗栖 氏が解説しました。

 

C:セルフ カルティベーション / 座禅 Workshop

・講師:川上 全龍氏

臨済宗大本山妙心寺塔頭春光院 副住職

 

本 Workshop の会場は、禅の発展において重要な役割を果たした場所として知られる、臨済宗大本山妙心寺塔頭春光院。講師である川上副住職は、国内外で企業経営者や教育機関向けに禅や自己修養の講演・ワークショップを開催されています。

荘厳な雰囲気のもとに行われたのは、グループワークを交えて自分の内面をみつめ、事業や自社、お客さまなどとどう向き合うかのヒントを得るための Workshop です。各参加者は、普段は一般公開されていない寺院の境内で、自分と向き合う貴重な時間を過ごしました。

 

D:プロダクト・機械学習フィットワークショップ(Product/ML-fit Workshop)

・講師:針原 佳貴

アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 ソリューションアーキテクト

・ラウンドテーブル相談役(アドバイザー):

・キャディ株式会社 小橋 あき氏:センサーデータの処理、バグ追跡

・株式会社Gunosy 小出 幸典氏:レコメンド、A/B テスト (基盤も含めて)、データウェアハウス

・株式会社ietty 大浜 毅美氏:画像解析、統計処理、予測

 

サービスに機械学習を取り入れる際のベストプラクティスを、ソリューションアーキテクトの針原 佳貴が共有する Workshop です。運用負荷を下げつつサービス価値を最大化するための方針や、自社のサービスに機械学習を導入する際のアイデアを、成果物として持ち帰って頂くことをゴールとしています。

Workshop は3部構成となっており、以下の内容を実施しました。

  1. 参加者のみなさんのビジネス・サービス価値の言語化と共有
  2. 過去の機械学習コミュニティイベント ML@Loft での典型的な課題と知見紹介
  3. 複数テーブルに分かれてのお悩み相談会・ディスカッション

 

E:伏見の蔵元 酒蔵見学ツアー

・協力:増田德兵衞商店

増田德兵衞商店は、300 年以上もの歴史を持つ京都伏見の老舗蔵元。その創業は延宝三年(1675年)に遡(さかのぼ)り、伏見では最も古い造り酒屋として知られています。本 Workshop では、増田德兵衞商店の酒蔵見学ツアーを実施しました。

通常は非公開の酒蔵内部にて、従業員の方によるお酒の解説や試飲などを堪能。ピリッとした辛口のなかにも、豊かな旨味を含んだ日本酒に、参加者からは「口当たりがよくて、いくらでも飲めそう」「おつまみが欲しくなりますね」といった絶賛の声があがっていました。

CTO Dojo

Workshop を終え、昼食休憩の後に行われたのは、各 CTO・VPoE に自由なテーマの発表・登壇をしていただく CTO Dojo です。登壇者にはそれぞれ20分の持ち時間が与えられ、各社または各個人の知見や技術ネタなどのテーマについて話していただきました。会場は「Seed/Early Speakers」「Mid/Later Spekers」「Exited Speakers」の3つに分かれています。

Seed/Early Speakers

 

<登壇者(登場順)>

株式会社LegalForce 時武 佑太 氏

READYFOR株式会社 町野 明徳 氏

ファインディ株式会社 佐藤 将高 氏

キャディ株式会社 小橋 あき 氏

READYFOR株式会社の町野 明徳 氏が、クラウドファンディングサイト「Readyfor」を成長させる過程で学んだ「CTO は『規制』とどう向き合うべきか」の知見を解説したり、株式会社LegalForce の若き CTO である時武 佑太 氏が、自身の経歴をふまえて「“第二新卒”としての CTO というキャリアと実態」というエピソードを披露したりと、企業の黎明期・成長期だからこそ語れる有益な情報にあふれていました。

Mid/Later Spekers

<登壇者(登場順)>

ユニファ株式会社 赤沼 寛明 氏

株式会社エアークローゼット 辻 亮佑 氏

Repro株式会社 三木 明 氏

freee株式会社 横路 隆 氏

「Mid/Later Spekers」の会場では、ミドル・レイター期企業の CTO・VPoEが登壇。企業が成長するに伴い、CTO・VPoE の悩みは“技術の課題”よりも“人や組織の課題”の割合が徐々に大きくなっていきます。本会場では、その課題に対する解決策が大いに語られました。

ユニファ株式会社の赤沼 寛明 氏が「開発チームが1人から40人になるまでにやってきたこと」というテーマで、組織を成長させるための施策や考え方について解説。株式会社エアークローゼットの辻 亮佑 氏は「エンジニアのアウトプットの定量化」というテーマで、エンジニアの評価手法について言及。各人の持つ「人や組織をどう成長させていくか」の知見が披露されました。

Exited Speakers

<登壇者(登場順)>

コネヒト株式会社 伊藤 翔 氏

コインチェック株式会社 佐藤 ニール 氏

株式会社GameWith 柴山 嶺 氏

株式会社VOYAGE GROUP 小賀 昌法 氏

「Exited Speakers」の会場では、イグジット後の企業の CTO・VPoEが登壇。

コネヒト株式会社の伊藤 翔氏が、2019年6月に CTO に就任してから取り組んだ新制度の起ち上げや組織設計、技術戦略について解説したり、コインチェック株式会社の佐藤ニール氏がこれまでの経験をもとに技術チームのグローバル化について語ったりと、多様性に富んだセッションがくり広げられました。

 

CTO 公開メンタリング

CTO 公開メンタリングは、若手 CTO の質問や悩みに経験豊富なベテラン CTO が答える、対話型セッションです。今年のメンターは、株式会社メルカリの CTO である名村 卓氏と、合同会社 DMM.com の CTO である松本 勇気 氏。数多くの難局を乗り越えてきた2名が、企業経営において直面する課題への解を示していきます。

「CTO よりはるかに優秀なエンジニアが入社した場合、どう活かせばいいでしょうか」という質問に対し、名村 氏と松本 氏はともに「優秀な人々をマネジメントしようと試みるのではなく、彼らのブロッカーを排除して、走りやすい環境を整えるのがいい」と解答。また、必ずしも CTO がひとりだけでエンジニア組織の課題を抱え込む必要はなく、企業のフェーズによっては、外部から VPoE を招くことも有効だと説明しました。

「拠点が地方にあるため、エンジニアの採用に苦労している」という若手 CTO の悩みに対しては、松本 氏は「工夫しだいで、いくつもの採用の方法が生み出せる。例えば、前職である Gunosy 時代には、Go の勉強会を定期的に開催することで、情報感度の高いエンジニアとの接点を増やしていた」と言及。

また、「ハイクラスエンジニアの年収はどのように決めるべきか」という踏み込んだ質問に対しては、「その方に入社していただいた場合に、どれくらいの価値を生み出せるかを年収の基準にする。そして、年収を出す根拠を本人に対して提示し、業務のアウトプットへの期待値調整をしなければならない」と名村 氏は解説しました。

若手 CTO から示された悩みや質問は、多くの企業も共通して抱える課題ばかりでした。会場の参加者は、それらの課題を“自分ごと”と捉え、真剣な眼差しでセッションを視聴。一言も聞きもらすまいと、登壇者の発言に耳を傾けていました。

 

CTO 1000本ノック

<登壇者(50音順)>

株式会社メルカリ CTO 名村 卓 氏

Sansan株式会社 執行役員/CTO 藤倉 成太 氏

グリー株式会社 取締役 上級執行役員 最高技術責任者 藤本 真樹 氏

合同会社DMM.com CTO 松本 勇気 氏

株式会社ソラコム Co-founder & CTO 安川 健太 氏

カーディナル合同会社 代表社員 安武 弘晃 氏

Day 2 最後のセッションは、CTO 1000本ノックです。会場のみなさんからリアルタイムで寄せられる匿名質問に、CTO Night & Day で登壇した CTO たちがバッサ、バッサと答えていきました。

普段はけして聞けないような、リアルな社内事情の話やプライベートな話、ちょっとネガティブな話や爆笑トークなど、クローズドなイベントだからこそ語れるエピソードが盛りだくさん。“ここだけの話”が多かったので記事には載せませんが、興味を持たれた方はぜひ次回の CTO Night & Day に足を運んで、会場の雰囲気を味わってみてください。

 

Farewell CTO Night!

CTO Night & Day 最後の夜には、参加者同士の親睦をさらに深めるべくパーティが開催されました。乾杯の音頭をとったのは、株式会社ソラコム Co-founder & CTO である安川 健太 氏です。

「私は今回が CTO Night & Day への初参加だったのですが、なぜ今まで参加していなかったんだろうと思うくらいに、学びの多いイベントでした。10月8日の前夜祭では、Sansan CTO の藤倉(成太)さんが『日本の CTO に乾杯』とおっしゃっていましたが、その言葉にも深く感動しました。日本だけではなく、世界に打って出ようとしているみなさんに、敬意を表したいです。それでは、日本の CTO に乾杯!」

各セッションで議論を交わした後のパーティーとあって、参加者はみな打ち解けた雰囲気。笑顔で親睦を深め合っていました。10月8日の前夜祭から10月10日まで、3日間にわたり開催された CTO Night & Day はこうして幕を閉じました。

 

おわりに

改めて、参加者の方々やイベント運営にご協力いただいた方々に、心より感謝を申し上げます。ぜひ、次回の CTO Night & Day も、多くの方にご参加いただければ幸いです。

CTO・VPoE は日々、「どのようにして、技術の立場から企業経営を推進していくべきか」というテーマと向き合い続けます。その航路は孤独であり、旅の途中では多くの困難さと戦わなければなりません。だからこそ、こうした場で CTO・VPoE が一堂に会し、それぞれの持つ知識や経験、ノウハウを共有し合うことには大きな意義があります。会場で得た小さな羅針盤が、やがて企業経営という大海を乗り越えるための道しるべとなるはずです。

次回からは、各セッションの詳細レポートをお届けします。こちらも、ぜひお楽しみください!