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シンプレクス が Oracle Database からAurora PostgreSQL への移行で、20% 以上のコスト削減を実現
シンプレクスは創業以来、日本を代表する金融機関のテクノロジーパートナーとしてビジネスを展開していて、金融領域で培った技術力を武器にクラウド/AI/ブロックチェーンなどの最新技術を活用し、公共/エンタメなど様々な業界のお客様の課題解決を支援している企業です。シンプレクスでは、FX 事業者向けのパッケージを開発、販売しており、2024 年 9 月現在で 20 社以上の導入実績があるソリューションです。
このパッケージは、2023 年 12 月に Aurora PostgreSQL への移行が完了しています。本ブログは、シンプレクスが提供する FX 事業者向けパッケージのデータベースを Aurora PostgreSQL に移行した時のエピソードについてご紹介します。
Aurora PostgreSQL 移行前の課題
今回、Aurora PostgreSQL に移行したシステムは、シンプレクスが提供している FX 事業者向けのパッケージです。このパッケージは、オンプレミスのデータセンターで稼働していました。数千から数万件の取引を遅延なく処理する必要があり、高可用性と性能が求められていました。データベースには Oracle RAC を採用していましたが、大きく 3 つの課題がありました。
1. コストの増大
オンプレミスの運用においてコストが大きな課題になっていました。コストは、データベースのライセンスコストとデータセンターの使用コストが増大していました。このような状況から、シンプレクスでは OSS データベースエンジンの採用や AWS のマネージドサービスへの移行など、会社として AWS への移行を推奨していました。
2. ビジネスの柔軟性の欠如
お客様のビジネスは日々変化しており、パッケージとしてもその変化に追随していく必要がありました。このような変化に対応するためにはフレキシビリティが必要であり、オンプレミスでの開発では限界を感じていました。また、パッケージを新規顧客に提供する際の環境の準備で、ハードウェアの発注から準備まで数ヶ月のリードタイムが発生していたことや、デモ環境の提供もコスト観点で難しいなど、オンプレミスによる運用がビジネスに影響を与えている状況でした。
3. 開発エンジニアへの負担
当時、シンプレクス社内では、AWS の採用が推奨されていたものの、金融サービスの多くにおいてはまだクラウド化が進んでいませんでした。旧来の開発手法やオンプレミスのハードウェア障害対応で夜間にデータセンターに呼び出されることもあり、エンジニアへの肉体的・精神的な負担が課題でした。
移行先の検討
このような課題に対して、シンプレクスでは AWS への移行検討を開始しました。2022 年 10 月から移行に向けた検証、移行工数の見積もり、移行に向けた設計を開始しました。移行先のデータベースエンジンについては、高可用性と、他システムでの採用実績、Oracle との互換性などから Aurora PostgreSQL を採用することに決定しました。
数十以上の PL/SQL と 500 以上のオブジェクトの移行とアプリケーションの移行見積もりについては、過去に実施した別システムでの移行実績をもとに見積もりを実施し、移行計画を作成し、内製で移行することに決定しました。また、AWS CDK の採用による開発の効率化も進めることにしました。
データ移行方式の検討
当該システムのデータは、4 億件近いテーブルを含む 600GB を超えるデータサイズでした。移行には、過去に実施した別システムでの実績から AWS Database Migration Service(DMS) を採用する方向で検討を進めました。移行時のダウンタイムの要件と、サプリメンタルロギングやログ領域の拡張などソースへの影響や検証作業にかかる工数への懸念から、CDC は使わずフルロードを前提にデータ移行の検証を実施しました。検証では、転送量やデータ件数、テーブルに対するデータ更新の特性など、精緻な調査を実施。件数が多いテーブルではパラレルロードを使用し、その他のテーブルではテーブルサイズを元に移行時間が最短になるような並列度を検証。移行時間を短縮するために更新が発生しないデータを事前に転送しておくなど、データ移行時間短縮に向けた最適化を実施しました。結果、フルロードでもダウンタイムの要件におさまる 4 時間で移行が完了することを確認できました。
データベース移行とその効果
アプリケーションの移行テストやデータ移行の入念な検証を実施した後、2023 年 8 月から更新がないデータの移行を開始。この際に、当初更新されないと想定していたデータへの更新が発生して手動での対応が必要なこともありましたが、2023 年 12 月に移行本番を迎え無事に全データの移行が完了。大きな問題もなく本番稼働させることができました。
今回の移行により、当初課題だった3点についても大きな改善が見られました。
1. コスト削減
今回のパッケージを AWS に移行することでデータセンターのコストがなくなり、Aurora PostgreSQL への移行でデータベースのライセンスコストも削減することができました。これにより、データベースだけで 20 %以上のコスト削減を実現することができています。
2. ビジネスの柔軟性向上
AWS CDK を有効利用することで、パッケージ全体の品質と再利用性を大きく向上させることができました。これにより新たな環境の構築に、これまで数ヶ月かかっていたリードタイムが 1 週間程度と大幅に改善されました。また、新規アカウント向けのデモ環境も 2 日で構築できるようになりました。さらに、新しい機能を追加した後に本番データを使用した性能検証ができるようになったことでサービス品質も向上しており、ビジネスに直接良い効果を与えることができています。
3. 開発エンジニアの負担軽減
AWS で提供しているモダンな機能、サービスで開発できることや、休日や深夜でのデータセンターへの呼び出しがなくなったことなどで、エンジニアへの負担が大きく改善しました。さらに、移行してよかったと気づいた点も何点かありました。例えば、AWS のサポートの品質が高く問い合わせた以上の提案をしてもらえる点や、データベースの障害でもワンストップで対応してもらえる点、緊急のパフォーマンス問題もスケールアップで対応できる点など、AWS やマネージドサービスに移行したことで移行前に想定していた以上のメリットも感じることができました。会社にとっても、最先端の技術に触れられるというメリットから、エンジニアがよりモチベーション高く参画してくれるといった効果も見られました。
最後に
今回の移行を振り返って、シンプレクス株式会社のクロスフロンティア・ディビジョン、正木和也氏は、移行によるコスト削減以上にエンジニアへの負担軽減をメリットとして挙げています。
“ 顧客のビジネススピードに追従するためには AWS のフレキシビリティが必要であり、オンプレミスでは不可能でした。AWS への移行で、コスト削減以上に、エンジニアへの負担が軽減できたことが一番の効果です。”
一方で、正木氏からは移行後に AWS リソース起因の課題が発生したこともあり、サービス品質の向上をリクエスト頂いています。AWS としてもお客様のご意見を真摯に受け止め改善に向けて取り組んでいくとともに、お客様のビジネスをより加速できるよう引き続き支援していく予定です。