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Bio-IT World 2022 – マイグレーションからイノベーションへ : What’s Possible (何を実現するか) への旅

この記事は、「Bio-IT World 2022—From Migration to Innovation: The Journey to What’s Possible」を翻訳したものです。

AWS では、「Art of What’s Possible. (『何を実現するか』の技術)」についてよく話します。もし機械学習と量子計算を使用してタンパク質の折り畳みアルゴリズムを進化させるとどうなるでしょうか? 沢山の研究者が高性能計算機を自在に使用できる状態で、クライオ電子顕微鏡のデータが沢山のコミュニティからアクセスできるようになったら何が起こるでしょうか? そして、私たちの原動力である「パーソナライズド ケア(個別化医療)が全ての人に行き渡るようになったら、何が可能になるでしょうか?」という問いについてもです。

20 周年を迎えた Bio-IT World では、Art of What’s Possible の思想が存分に発揮されました。その典型的な例は、AstraZeneca のチームによって発表された、AWS 上に構築された新しい拡張医薬品デザインプログラムであり、Bio-IT World Innovate Practice Aword を受賞しています。

最先端のイノベーションは私たちにインスピレーションを与えてくれますが、それは偶然見つけられるものではありません。むしろ、戦略的なクラウドへの旅とモダナイゼーションへの取り組みの結果として見つかります。この旅は終わることはありませんが、スタート地点と途中の足がかりは明確です。

ライフサイエンス企業のクラウドへの移行を支援してきた過去 10 年にわたって、AWS はお客様が安全でコンプライアンスに準拠した、スケーラブルなイノベーションの基盤を構築することを支援する、4 つのステージを持つ旅路を考え出してきました。Bio-IT World では、AWS は Thermo Fisher Scientific、AstraZeneca、TetraScience、そして Vertex Pharmaceuticals のリーダーと共にこの取り組みを深く掘り下げ、イノベーションの旅における 4 つのステージの探求を行いました。

  1. マイグレート
  2. セキュリティとコンプライアンス準拠
  3. 統合
  4. イノベート

マイグレート

私たちの旅はマイグレーションから始まります。マイグレーションとは、お客様が必要とするレガシーデータ、ワークロード、アプリケーションをクラウドに移行し、イノベーションのための基盤を確立するという考え方です。Eli Lilly のような 145 年の歴史を持つ企業であろうと、Relay Therapeutics のようなスタートアップ企業であろうと、移行への戦略的アプローチの策定は、将来のイノベーションへの中核となります。

長年にわたり、移行段階で私たちが耳にした最も一般的な懸念事項の 1 つは、レガシーデータと機器との継続性の確立に関するものでした。Thermo Fisher Scientific のデジタルサイエンス製品管理担当シニアディレクターである Bill Goodman は Bio-IT World に参加して、Thermo Fisher が顧客のシームレスなクラウド移行とレガシー機器の活用をどのように支援しているかを紹介しました。

2015 年にシカゴで開催された AWS サミットにおける Thermo Fisher の講演を振り返ると、同社は、顧客がクラウドに移行し、クラウドの利点を活用して、統合されたデータ駆動型の環境を構築できるよう支援することに注力していました。それ以来、Thermo Fisher は、ライフサイエンス企業がアプリケーションやデータをクラウドに簡単に移行し、クラウドのパワー、スケーラビリティ、コスト削減を活用して科学的なデータからより多くの情報を得ることができるように、Thermo Fisher Connect の作成と最適化に真摯に取り組んできました。

「オンプレミスの機器とクラウド環境が接続されたエコシステムを構築することで、お客様はアプリケーションとデータをシームレスに移行して、より統合されたデータリッチな体験を得られます」と Goodman 氏は言います。「私たちにとってのクラウド移行とは、環境接続の新たな時代を迎えることを意味しています。お客様をデータの中心に据え、機器の機能と性能を向上させるものです」 – Thermo Fisher Scientific プロダクトマネジメント担当シニアディレクター Bill Goodman 氏

より詳細な移行ステップについては、Getting Started with AWS for Life Sciences (ライフサイエンス向け AWS 入門) eBook でご覧いただけます。

セキュリティとコンプライアンス準拠

機密データの保護と継続的な GxP コンプライアンスの維持は、あらゆる規模と分野のライフサイエンス企業にとって「ジョブゼロ (真っ先にやらなくてはならないこと) 」であり、クラウドへの移行に不可欠な次のステップです。

AWS Head Solutions Life Sciences の Lita Sands が指摘するように、過去 5 年間で、クラウドのセキュリティとコンプライアンスに関する議論は、「クラウドで GxP ワークロードを実行することは可能か」から「もちろん、それは想定内」へと劇的に変化しています。この変化は、Moderna のような革新的な企業による取り組みや、AstraZeneca による進歩によるものが大きいです。

Bio-IT World では、AstraZeneca の R&D IT のバイスプレジデントである Anna Berg Åsberg 氏により、同社が企業文化の観点からセキュリティとコンプライアンスにどのように取り組んでいるかについての講演が行われました。re:Invent 2021 では、人生を変える医薬品を提供するためのセキュアな基盤を AWS 上に構築することに焦点を当てた講演となっていましたが、今回の Bio-IT World の講演は、それに加えて、堅牢なアクセス制御とローカルガイドラインに対するコンプライアンス準拠を維持しながら、データを FAIR (発見可能、アクセス可能、相互運用可能、再利用可能)に保つことの必要性に焦点を当てたものでした。

「AstraZeneca では、素晴らしい AI ソリューションを構築することは戦いの半分に過ぎませんでした。私たちは、人々がそれを信頼し使用してもらえるようにする必要がありました。つまり、データを FAIR (発見可能、アクセス可能、相互運用可能、再利用可能) にする必要があり、同時にグローバルなコンプライアンス準拠とアクセス制御をリアルタイムで維持する必要がありました」 – AstraZeneca R&D IT バイスプレジデント Anna Berg Åsberg 氏

AstraZeneca のような企業が 既存環境を移行し、新たに GxPワークロード環境を AWS 上に構築する方法の詳細については、最新のホワイトペーパーである Navigating HCLS Regulatory and Compliance Requirements on AWS (AWS 環境における HCLS 規制およびコンプライアンス要件のナビゲート)をご覧ください。

セキュアでコンプライアンスに準拠したフレームワークが確立されると、データ統合を開始できます。

統合

ライフサイエンスのバリューチェーンにおいて、データはしばしばデータサイロに閉じ込められ、可視性が妨げられる状況が発生します。発生原因は、オンプレミスのデータストレージの制約や、静的アーキテクチャの維持など、さまざまです。3 番目のステップでは、データの可視性を向上させ発掘するためにデータサイロを分解することに焦点を当てています。

TetraScience の最高科学責任者である Mike Tarselli 博士は、ライフサイエンス企業が科学データの価値を最大限に引き出すことを支援することを使命としています。Bio-IT World にて同氏が指摘した通り、オンプレミス環境におけるサイロ化とポイント・ツー・ポイント統合という古い世界感は、断片化されたデータ環境をもたらし、生産性の向上と革新を妨げてしまいます。

この問題を解決するために、Tetra は製薬データ環境を再構成し、サイロ化されたデータ環境から、科学的な成果をサポートするために流動的で実用的な科学データを提供する新しいアプローチを行う環境への変革に着手しました。その結果、研究開発と製造データを統合するように設計された、オープンで設定可能なデータ クラウドが生まれました。

Tetra Scientific Data Cloud により、ライフサイエンス企業は、機器、サードパーティの協力者、および組織全体からのデータを簡単に収集することができます。データが統合されると、メタデータの統合、検証、および下流の機械学習アプリケーション向けのコンテンツの調和を促進します。Tetra Partner Network では、複数の計測機器ベンダーが共通のエコシステムに貢献し、導入スピードやデータの相互運用性を向上します。

「科学データを統合して調和させることで、ライフサイエンス企業は内在するデータの価値を解放し、科学的な成果の改善や洞察を得るまでの時間の短縮ができます。AWS 上に構築された当社のクラウド ファーストのプラットフォームにより、顧客は、いつでも好きな方法で、好きなときに、オープンで、FAIR (発見可能、アクセス可能、相互運用可能、再利用可能)で、コンプライアンスに準拠した方法で科学データを使用できます」- TetraScience CSO Mike Tarselli博士

私たちを「楽しい部分」に導く、それがイノベーションです。

イノベート

データとワークフローが移行され、保護され、統合されると、イノベーションの旅が始まります。 Bio-IT World において、Vertex の最高情報およびデータ責任者である Mike Tirozzi 氏が、同社の変革の旅の成果と、移行からイノベーションの旅に投資を行うことで何が可能になるか (What’s Possible) について話しました。

「AWS で構築した基盤があれば、患者に代わって革新を続け、限界に挑戦することができます。私たちはデータと重要な科学的な問題により一層注目し、最新の科学データ技術を提供し続けることができます」 – Vertex CI&DO Mike Tirozzi 氏

Vertex はテクノロジーとライフサイエンスの交差点でイノベーションを起こし、スピードと効率のために AWS を活用したデータテクノロジーの次世代プラットフォームを生み出しました。この新しいプラットフォームを活用して、Vertex は生体イメージング、デジタル製造、品質管理の限界を押し上げることができています。

医薬品候補を特定するための 3D 構造の生成時間を短縮するために、Vertex はクライオ電子顕微鏡のデータ処理と計算機解析を AWS 上の単一のスケーラブルなクラウド環境に統合し、次世代イメージングプラットフォームへのグローバルアクセスを容易にしました。商業生産と低分子パイプラインの成長を拡大し、細胞および遺伝子治療への拡大を可能にするために、Vertex は、自動化されスケーリングされた C&G 療法を提供し、予測的な洞察を大規模に提供するデジタルソリューションを開発しています。最終的に、品質管理、トラブルシューティング、正確な仮説生成のためのシステム間の検索を短縮するために、科学者が複数の研究化合物の処理済みデータと生データを実験中および実験間で比較するためのプラットフォームを構築しています。

Vertex の皆さまが指摘しているように、クラウド移行の旅の最後のステップでありながら、イノベーションはそれ自体が継続的な旅なのです。

共通項 – イノベーションの文化

それぞれのお客様は旅の途中の一歩について話してくれましたが、一貫していたテーマはイノベーション文化の必要性でした。新しい AWS サービスを使ったイノベーションのためのクラウド戦略を作り出す初期段階から、イノベーションの文化や研究者とクラウド人材との協業を育むことは、イノベーションを存続させ、AWS の真価を発揮するための秘訣として、多くの講演で引用されました。

クラウド移行の旅を始める方法の詳細については、Getting Started with AWS for Life Sciences (ライフサイエンス向け AWS 入門ガイド) eBook をダウンロードしてください。


原文著者

Stephanie Black

Stephanie Black は AWS のライフサイエンスとゲノミクスマーケティングに関する Worldwide Head です。ゲノミクスとクラウドコンピューティングに焦点を当てたライフサイエンスマーケティングの経歴を持ちます。Stephanie は スタンフォード大学においてゲノミクスに関する準修士を取得し、ケント州立大学においてビジネスとマーケティングに関する学士号を取得しています。

翻訳はカスタマーソリューションズマネージャー 北川 裕介 が担当し、山泉 亘 が監訳しました。原文はこちらです。