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【開催報告】生成AI ユースケース創出 Boot Camp in 大阪
西日本で製造業のお客様を支援しているソリューションアーキテクトの澤、池田、森です。
2024年 6月 27日に AWS 大阪オフィスにて「生成 AI ユースケース創出 Boot Camp」と題したイベントを開催しました。
生成 AI の進化は目覚ましく、テキストだけでなく画像や動画の分野でも急速な発展を遂げています。総務省の情報通信白書によると、日本企業における生成 AI の業務利用は 46.8%にとどまっており、他国と比べて大きく後れを取っています。
この背景には、多くの企業が「ユースケース創出」に課題を抱えていることがあります。帝国データバンクの調査によると、生成 AI の活用を考える約 6割の企業でユースケースが決まっていないようです。生成 AI の効果的な活用には、企画・ビジネス部門と開発部門が緊密に連携し、顧客ニーズを的確に把握した上で、価値提供に向けた議論を進めることが不可欠です。私達はこのイベントで、企画・ビジネス部門と開発部門の方々が共に参加して学び、実践的なユースケースを考える力を養うことを目標としました。
アジェンダは以下の通りです。AWS からのセッションだけでなく、お客様による事例発表やパートナー様による取り組みのご紹介をしていただきました。本記事ではセッションの内容を一部ご紹介します。
アジェンダ
- 「100以上の生成 AI 事例に見る 6つの高インパクトなユースケースを自社で活用する方法」
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 Machine Learning Developer Relations 久保 隆宏 - 「生成 AI を自社の利益につなげるための 4つの質問」
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 アカウントマネージャー 松村 健史 - 「Generative AI with AWS – AWS で実現する生成 AI とは」
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 西田 光彦 - 「⽣成 AI をすぐに業務活⽤するための サンプル紹介」
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 辻林 侑 - 「プロンプトエンジニアリングハンズオン」
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 西田 光彦 - 「化粧品デザイン開発における 生成 AI 活用事例」
ピアス株式会社 業務部企画グループ DX 推進チームリーダー 宮本玲氏 - 「計測機器メーカーにおけるアフターサービスの サービタイゼーション実現にむけて」
株式会社 堀場テクノサービス グローバル戦略本部
ナレッジシステムプロジェクト リーダー 今宮 隆志氏 - 「目的別ハンズオン」
- ビジネス向け – 生成 AI の活用アイディアを既存のユースケースから具体化しよう
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 澤 亮太 - 開発者向け – RAG ハンズオン
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 辻 浩季
- ビジネス向け – 生成 AI の活用アイディアを既存のユースケースから具体化しよう
- 「生成 AI によるデータ活用の具体例と 生成 AI 導入時の考慮ポイント」
富士ソフト株式会社 エリア事業本部 西日本支社
インテグレーション&ソリューション部 森田 和明氏 - 「生成 AI 活用に向けたグループディスカッション」
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 澤 亮太
セッションの紹介
100以上の生成 AI 事例に見る 6つの高インパクトなユースケースを自社で活用する方法 [資料]
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
Machine Learning Developer Relations 久保 隆宏
6/20, 21に開催した AWS Summit では 100件以上の生成 AI の公開事例を共有しました。その中から実践的な活用方法とその導入戦略について、高いビジネスインパクトが期待できるユースケースをご紹介しました。
- データ読み取り:様々な媒体からのデータ抽出を 40~90%効率化
- 対応スキル底上げ:専門知識に基づく応対を 50~90%の精度で実現
- 営業支援:情報抽出・商談要約作業を 30~70%近く削減
- コンテンツ審査:社内規定やガイドラインに基づくチェックの効率化
- 検索性の向上:検索機能の拡張によりクリック率が数倍~数十倍に
- マーケティング素材の生成:画像や動画の自動生成により 50%以上の効率化
成果を上げている企業に共通する特徴として、小規模チームによる短期間( 1~3ヶ月)での本番導入と、定量的な効果測定の実施をあげています。取り組みを成功させるためには技術面だけでなく、小規模チームの立ち上げやスピーディーな実験・改善サイクルの構築が重要であることを強調しました。
生成 AI を自社の利益につなげるための 4つの質問 [資料]
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 アカウントマネージャー 松村 健史
AI の価値創造サイクル「顧客体験の改善」「売上・利益の向上」「データの蓄積」「AI モデルの改善」の 4つの要素と、このサイクルを回すことで利用価値を最大化できること、この各ステップで実際に成功している企業の事例を紹介しました。使用頻度と効果の高いインパクトのあるケースを優先すること、小規模かつ短期間(1 ~ 3ヶ月)でプロトタイプを開発すること、そしてデータの蓄積と継続的な改善が重要であることをお話しています。
Generative AI with AWS – AWS で実現する生成 AI とは [資料]
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 西田 光彦
AWS の生成 AI 関連サービスについてご紹介しました。特に複数の基盤モデルにアクセスでき、企業のデータを安全に活用しながら、生成 AI アプリケーションを構築できる Amazon Bedrock、生成 AI を搭載したアシスタントにてビジネス、開発、データ分析など様々な場面での活用が期待されている Amazon Q をご紹介しました。
多くの企業がこれらのツールを活用し、新たなイノベーションを生み出していくことが期待されます。AWS はお客様のニーズや利用フェーズに合わせて、様々な生成 AI 関連のサービスを提供していること、そして企業データと基盤モデルを組み合わせることで、真のビジネス価値が生まれると締めくくりました。
西田はワークショップの後半で、生成 AI を効果的に活用するためのプロンプトエンジニアリングの手法や、Retrieval-Augmented Generation(RAG、検索拡張生成)によるハルシネーションの抑制方法などを体験するハンズオンを実施しました。
⽣成 AI をすぐに業務活⽤するための サンプル紹介 [資料]
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 辻林 侑
ビジネスや業務に生成 AI をどのように活用を検討する際に、すぐに試せる 2つのサンプルアプリケーションの紹介とデモを実施しました。
1つ目は generative-ai-use-cases-jp(略称 GenU)です。こちらはすぐに業務活用できるビジネスユースケース集付きの安全な生成 AI アプリケーションの実装サンプルとなっています。シンプルな生成 AI を使ったチャットはもちろん、RAG チャット、画像生成、音声認識など生成 AI の様々なユースケースを試すことができます。
2つ目は bedrock-claude-chat で、こちらはチャットに特化した生成 AI アプリケーションの実装サンプルとなっています。独⾃データによる RAG がアプリ内で構築、他ユーザへ共有ができるボット機能、生成 AI が出力した回答へのフィードバック機能が実装されています。
これらは GitHub で公開されており、すぐに自身の AWS アカウントへデプロイして、試すことができます。自社のデータとこれらのサンプルを活用し、お客様それぞれのビジネスニーズに合わせた実験をデモしました。
化粧品デザイン開発における 生成 AI 活用事例
ピアス株式会社 業務部企画グループ DX 推進チーム リーダー 宮本玲氏
ピアスグループは化粧品、医薬品、機能性食品の製造販売および施術の提供を行っています。化粧品のパッケージデザイン開発において、短納期かつ制約が多い状況で多くのデザイン案を検討する余裕がなく、独創的なデザインに挑戦することが難しいという課題があり、DX 推進チームは、生成 AI を活用して多様なデザイン案を効率的に生成することで、デザイナーの発想を刺激し、発想の枠を拡げることができないかと考えられたそうです。
当初は画像生成 AI をそのまま試しましたが、満足する結果を得ることができず、何度も試行錯誤を重ねました。その結果、デザイナーの思考プロセスに着目・分析し、業務フローの中でどこに生成 AI を活用できるのかを明確に定義したうえで、テキスト生成と画像生成 AI を組み合わせた仕組みとして構築することにより、世の中にない新しいデザインを多角的に幅広く生成することが可能となりました。
この取り組みは、デザイン開発の生産性向上に加え、斬新な発想をもとにアイデアを広げることができるようになったと、社内でも高く評価されているとのことです。
宮本様はプロジェクトを振り返り、成功のポイントとして以下の点を挙げられました。
- デザイナーの思考プロセスを分析し、人間と AI の役割分担を明確にしたこと
- 現場を巻き込みながらプロトタイプを推進したこと
- 目的に立ち返りながら粘り強く取り組んだこと
AWS にも当初から画像生成 AI に関するご相談をいただき、最後はプロトタイピングの支援をさせていただきました。副次的な効果として「生成 AI を活用して、このようなことができないか?」という相談が増えたそうです。今後は、より利用しやすい UI の開発や、他業務分野への展開などに取り組んでいくと語られました。
計測機器メーカーにおけるアフターサービスの サービタイゼーション実現にむけて
株式会社 堀場テクノサービス グローバル戦略本部
ナレッジシステムプロジェクト リーダー 今宮 隆志氏
堀場テクノサービス様は計測機器のフィールドサービスを世界に展開されています。近年、社内の様々なツールやシステム・人にナレッジが分散してしまったことで、顧客ニーズの変化への対応が難しくなってきていると感じられています。グローバル戦略本部では、サービタイゼ―ションの実現に向けてナレッジシステムプロジェクトを立ち上げ、AI チャットボットを活用して社内ナレッジから回答を生成するシステムの構築に着手されました。初期段階では一定の成果が出ましたが、回答精度に課題がありました。
今宮様は「お客様の要望に機動的に対応できるサービスを内製で開発することで、お客様と強い信頼関係を築くことができるサービス企業への転換を果たすことができる。変化の激しい時代に AI を活用してサービスを進化させ続けることが、お客様への信頼につながると確信しています」と語られていました。AWS にも当初から生成 AI の回答精度向上に向けたご相談をいただき、直近では AWS のプロフェッショナルサービスによるアジャイル開発など、開発チームの内製化支援をさせていただきました。
目的別ハンズオン
澤、辻からは、ビジネス層と開発層が分かれて参加する「目的別ハンズオン」を実施しました。
ビジネス向け – 生成 AI の活用アイディアを既存のユースケースから具体化しよう
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 澤 亮太
ビジネス向けには、GenU と AWS Summit Japan 2024 の生成 AI 展示を題材にして、実践的なユースケース創出方法をご紹介しました。テキスト要約や画像解析など、基礎的なユースケースを組み合わせることで実課題への適応が進みます。この時間では AWS Summit の生成 AI 展示を解剖して組み合わせを学び、皆様のアイデアはどのような構成で具現化できるかをディスカッションしました。
開発者向け – RAG ハンズオン
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 辻 浩季
開発層向けには、Amazon Bedrock を用いて RAG の実装を行うハンズオンを実施しました。Bedrock は基盤モデルが扱えるだけではなく、Knowledge Bases for Amazon Bedrock という RAG を実現するための機能もあります。この時間では AWS のマネジメントコンソール上で簡単に RAG が構築できる体験を行っていただきました。Q&A の時間には、RAG の実装や Bedrock の機能に関する数多くの質問が活発に行われ、皆様の関心の高さが伺えました。
生成 AI によるデータ活用の具体例と生成 AI 導入時の考慮ポイント [資料]
富士ソフト株式会社 エリア事業本部 西日本支社
インテグレーション&ソリューション部 森田 和明氏
森田様からは会社概要と AWS / Amazon Bedrock の取り組みについて紹介いただきました。富士ソフト様は AWS プレミアティア サービスパートナーとして、国内はもちろん中国リージョンでのシステム展開を支援いただいています。また Bedrock が正式リリースされる前のプレビュー段階から技術評価に参画いただき、独立系ベンダーの観点から他社サービスとの比較検証をいただいた結果、AWS サービスの優位性を評価いただいています。
従来から IoT に注力されており、3D 空間を用いたビジュアライゼーションと生成 AI を組み合わせた IoT ダッシュボード、専門知識がなくてもデータの傾向分析や、質問ができるソリューションを開発されています。具体的には、センサーデータの要約や異常検知、自然言語でのデータ問い合わせといった機能が実装されているとのことでした。
森田様は生成 AI の最も重要な機能を「人とシステムの仲介」とお話されていました。これまで人間が暗黙的に行っていた作業、例えば検索クエリの作成や複数の情報源からの情報統合などを、生成 AI を利用することで効率的に行えるようになると考えているとのことでした。生成 AI の適用範囲を考える際のヒントとして「熟練者や専門家でなければできないと思われていた仲介作業」や「難易度は高くないが人手で行っている作業」に注目することを提案していました。生成 AI の実践的な活用例と、企業のシステムに導入する際の考え方について、具体的かつ示唆に富んでいたセッションでした。
おわりに
本記事では、大阪で開催した生成 AI ユースケース創出 Boot Camp についてレポート致しました。セッションで学習した後はハンズオンで体験いただき、各社でディスカッションをおこないました。企画側・開発側の視点を取り入れて具体的な議論ができたチームも多く、参加者の実に 92%から「生成 AI 活用の検討が前進した」との評価をいただきました。
改めて、今回セミナーに参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。今回のイベントが、お客様ビジネスの変革につながるきっかけになればと願っております。
著者について
澤 亮太(Ryota Sawa)
ソリューションアーキテクト
製造業のお客様をご担当するソリューションアーキテクトを担当しています。また、AI や機械学習関連の開発にてお困りのお客様にも幅広く技術支援しております。
好きなサービスは Amazon SageMaker です。最近は活動が鈍っていますが、野球・格闘技などのスポーツも好きです
池田 敬之(Takayuki Ikeda)
ソリューションアーキテクト
関西の製造業のお客様を担当する AWS ソリューションアーキテクトです。好きなサービスは、Amazon Bedrockと Amazon Redshift です。趣味はキックボクシング、釣り、キャンプ、スノーボードとアクティブ&アウトドアな生活をエンジョイしています。
地元関西に根ざした仕事とプライベートを大切にしています
森 啓(Akira Mori)
シニアソリューションアーキテクト
製造業のお客様を担当するソリューションアーキテクトです。好きなサービスは AWS ParallelCluster。最近は CAE、HPC 領域のご支援に注力しています。九州の各所をドライブするのが趣味です