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データドリブンでイノベーションへの道を切り拓く
お客様あるいはお客様の会社は、イノベーションを起こそうと奮闘しているでしょうか?他社がどのようにイノベーションを起こしているのかと尋ねながら、お客様自身はまだイノベーションを推進するメカニズムを見つけられていないのではないでしょうか?私たちは日々問題に直面し、その解決に取り組んでいます。では、なぜ問題解決活動がイノベーションに結びつかないのでしょうか?
私は20 年以上自動車業界の幹部として、「カイゼン」の手法を深く知り、その原則に従って生きてきました。カイゼンは、ビジネス慣習を継続的に改善するという日本の哲学に端を発します。カイゼンには実証済みの利点がありますが、企業が求める変革的イノベーションには、漸進的な改善よりも重大な変化が必要です。
過去2 年間、私は何百もの大企業と会い、しばしばイノベーションを起こす能力(あるいは能力不足)について議論してきました。これらの議論から、イノベーションを促進する多くの方法がある一方で、1つの共通の基礎となるメカニズムがあることを学びました。それは、データドリブンなマインドセットと文化です。
この洞察に基づき、私がイノベーションに悩んでいると言う人に最初にする質問は、”イノベーションを推進するためにデータを活用していますか?”です。ほぼすべてのケースで答えは、”ノー”です。では、なぜ、そしてどのようにデータを活用することが、企業がもっとイノベーティブになることにつながるのでしょうか?
それは、まずデータドリブンであることです。そしてここから、まずはイノベーションから逆算して、データドリブンであることの必要性と、さらに組織をイノベーションの道に導くために必要な能力について説明しましょう。
イノベーション
なぜ企業、あるいは(別の言い方をすると)企業内の人々がイノベーションを起こせるのでしょうか?イノベーションの定義から始めましょう。イノベーションとは、同じことをより良くすることではありません。これは、「カイゼン」の定義です。イノベーションとは、新しいことを行うことであり、そしてその成功は、単一の大規模な変化、あるいは大規模な変化をもたらす複数の小さな変化によって測られるものです。
アジリティ(訳者注:俊敏性)がイノベーションを可能にする
アジリティをもって事業を運営することは困難であると感じるかもしれませんが、組織は、小規模で迅速な実験を実施し、学習し、それに応じて方針転換やスケーリングを行うことから始めることができます。アジリティとアジャイル・マインドセットは、組織が現在の計画に停滞してしまうことを避け、変化への意欲を促進することを意味します。意図したとおりの結果が得られないことがわかっているにもかかわらず、かなり昔に立てた計画に基づいて道を進み続けていることに、どれくらいの頻度で気づくでしょうか?
変化と破壊は絶え間ないものであり、企業はこれまで以上に、価値観、ブランド、組織、人材、テクノロジー、製品など、多方面にわたって適応する必要に迫られています。アクセンチュアの調査によると、CXO の 85 % が、自社の経営モデルが戦略的優先事項の変化に対応できる自信があまりないと答えています[1] 。大多数の組織が、ゴールを達成するために大きな変化をしなければいけないと認識しており、イノベーションを必要としています。そして、イノベーションを可能にするには、アジリティが必要です。
私は最近、AWS の顧客である大韓航空のケニー・チャン上級副社長から、変革におけるアジリティの重要性を直接学びました。パンデミックが始まったとき、大韓航空は旅客便のすべてを飛ばすことができませんした。それと同時に、貨物便はキャパシティ不足に陥りました。大韓航空のデータドリブンの文化とAWS で構築したデータ処理機能により、大韓航空はデータを迅速に分析し、わずか8 日間で旅客輸送能力を貨物輸送に振り向けるための迅速かつ確信に満ちた決定を下すことができました。ケニーは、「ビジネス・アジャイルであることが、53 年の歴史で最大の利益を上げる鍵だった 」と語りました。大韓航空のストーリーは、アジリティをもって適応することがいかに成功を生み出すかを示す素晴らしい例といえます[2]。
スピードがアジリティを支える
あらゆる業務におけるスピードの向上は、組織のアジリティを高めます。私は、誰もが、より速く動きたいという動機を持っていると信じています。その動機は個人によって異なるかもしれませんが、自動化によってタスクを簡素化する、あるいは排除することで、軋轢を減らしたいという思いは誰もが持っているものです。私のキャリアを通じて、ほとんどの場合、組織の意思決定プロセスが、より迅速に行動するための主な障壁であることを見てきました。AWS では、リーダー(社員)が “Are Right , A Lot (社員は優れた判断力と直感を備えています、そして、多くの場合正しい判断をくだします) “というリーダーシップ・プリンシプルに沿って、この問題に取り組んでいます。
そのためのAWS のメカニズムは、あればいいなと思うデータの70 %で意思決定を行い、後でその意思決定が間違っていたことに気づいたら素早く適応することです。自動車業界出身の私は、当初このプリンシプルを受け入れるのが難しいと感じました。自動車業界の一般的な考え方は、最初から完璧でなければペナルティがあるというものです。AWS では、私たちが目指す完璧さは、より速く決断を下し、必要に応じて迅速に適応することで、より現実的に達成されるものであることを学びました。
効率化がスピードへの障壁を取り除く
自動車業界では、効率化がスピードアップの核心であることを学びました。しかし、どのようなビジネスにおいても、最も抵抗の少ない道を見つけ、より少ない労力でより多くのことをこなし、無駄を省くことは、スピードを上げる能力にポジティブな影響を与えます。ビジネスを遅らせる要因の多くは、情報収集や報告、そして最も重要な意思決定に対する答えを見つけられないことです。組織の効率を改善し、スピードを促進するための強力なステップには、冗長な活動、時代遅れの活動やKPI を排除すること、ビジネスで最もよく聞かれる質問に答えるためのレポートを自動化すること、上記に言及した70 %のデータをリアルタイムまたはニアリアルタイムで入手することなどが含まれます。
データによる効率化
答えはデータの中にあります。データは、無駄を省き、時間を生み出すことができる領域を特定するのに役立ちます。データドリブンであることで、より良い意思決定を迅速に行うことができ、不測の事態への迅速な対応をサポートし、効率と価値実現までの時間を改善します。リソースをどこに集中させれば最も有意義なアクションができるかを知ることは、効率的な業務の鍵となります。このような学びは、確かな分析から得られます。
記述的・診断的なデータ分析では、何がなぜ起こったのかが分かり、改善が必要な分野を特定するのに役立ちます。リアルタイムデータは、何が起きているかを把握し、迅速な行動を促すのに役立ちます。予測的・処方的分析は、今後何が起こるかを予測し、望ましい結果を導き出す方法について洞察することで、より高いレベルの効率性を実現します。組織全体がデータドリブン型になれば(学習と改善を目的とした強固なフィードバックループを含め)、こうした効率性は比例して拡大し、プラスの影響は複合的に大きくなります。
「我々はまだそのレベルに達していない」、「我々は機械部品を製造しており、デジタルネイティブ企業のようにデータでイノベーションを起こすことはできない」といった経営陣の発言をよく耳にします。しかし、AWS のクラウドを活用すれば、セキュアで柔軟性があり、費用対効果の高いデータレイクを導入することが誰にでも可能になります。大韓航空のケーススタディのように、AWS 上のデータレイクは、すべてのデータをまとめ、より深く、より迅速な分析とより高いレベルの効率を促進するのに役立ちます。
データには非常に強い危機感が必要です。今、組織が生き残るためには、これまで以上にデータに関する能力を大幅に強化する必要があります。2020 年のIDC の調査では、その後3 年間に作成されるデータ量は、過去30 年間に作成された量を上回ると予測しています[3]。ビジネス上の問題を分析し、新たな答えを見つける機会はかつてないほど高まっていますが、データを活用する場合に限ります。アナリティクスのスペシャリストたちは、何十年もの間、「データを使うか、データに埋もれるかだ」という言葉を使ってきました。IDC の調査は、データをビジネスの中核的な原動力として活用できるようになることが急務であることを浮き彫りにしています。
イノべーティブであることは複雑な事業であり、単純な解決策は一つもありません。私は、どのような組織でも実践可能な実用的なメンタルモデルを提供できていることを願っています。場合によっては、課題に対する特定の答えやソリューションを含む可能性があるため、データそのものがイノベーションに直接つながることもあります。しかし、それ以外のすべてのシナリオでは、データドリブンの文化は効率性を高め、組織の迅速な対応能力を向上させる効果的なサイクルを生み出します。これにより俊敏性が向上します。これは、組織のイノベーション能力を向上させる最も自然な方法です。
[1] COVID-19: Busting the myths of agile transformation, Accenture
[2] Korean Air: A Data-Driven Pivot Soars to Success
この記事は、ソリューションアーキテクトの平岩梨果が翻訳を担当しました。原文はこちらです。