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寄稿:関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みのご紹介(第 3 回) – 後半

本稿は、 関西電力送配電株式会社によるスマートメーターシステムのクラウド採用に向けた取り組みの第 3 回となります。執行役員である松浦 康雄様より寄稿いただきました。前半、後半の 2 回に分けてご紹介いただきます。本稿は、その後半となります。前半については、こちらのリンクからご確認ください。


4.クラウド利活用の重要なポイント

一方、私たちが新たにクラウド上での開発を進めている次世代スマートメーターシステムでは、前回の第 2 回のブログの 3 章でご紹介したように、疎結合アーキテクチャによる拡張性とシステム開発に対する柔軟性、高い可用性の実現、マネージドサービス活用によるスケーラビリティや俊敏性、および運用最適化の実現、スマートメーターデータを分析し利活用するための AWS のデータ分析サービスの活用、という 3 つの開発方針に基づいて取り組んでいます。
この方針に沿って TCO 削減を含めたクラウドメリットを最大限に享受するため、AWS サービスの最適な組み合わせでシステム開発を進めていくことが重要ですが、AWS は多様なサービスや機能を提供しており、それぞれに特長や利用方法も異なります。要件やニーズにマッチした最適なサービスや機能を選択するためには、AWS クラウドを正しく理解して使いこなしていくことが肝要です。また、データの保護やアクセス制御など適切なセキュリティ対策を実現していくためには、AWS クラウドのセキュリティ機能やベストプラクティスを理解して使う必要があります。

こういった背景を踏まえて、AWS クラウド上でシステム開発を進めるうえで特に重要なのは、次の三つのポイントだと考えています。

  • 私たち自身がシステムとクラウドを正しく理解すること。
  • システムベンダーがクラウドを正しく理解して受け入れ、積極的な活用に向けた体制整備ができていること。
  • 私たち自身もシステムベンダーも、継続的なクラウドスキル獲得と向上を図っていくこと。

つまり、私たち自身の強い意志は不可欠ですが、それだけでクラウド活用を成功させることは容易ではなく、やはりクラウド活用を積極的に伴走してくれるシステムベンダーを私たちが適切に選択し、綿密に協業しながらシステム開発を進めることが不可欠です。

4-1. システムとクラウドに対する私たち自身の正しい理解

従来のシステム開発の経緯を顧みて、上記の方針に沿って着実にシステム開発を進めていくためには、アプリケーションシステムの全体像を私たち自身が正しく捉えることが重要と考え、業務とシステムの両面から現行システムへの理解を深めるよう取り組みを進めています。同時に、クラウド活用の議論を進めていくためにも、私たち自身がまずクラウドを正しく理解することも重要です。この点については、第 2 回のブログの 5 章の共通基盤の導入とシステム統制で詳しくご紹介した通りです。つまり、私たちがインフラレイヤを正しく理解し、深層まで把握することで、これを基盤とするアプリケーションの開発についても、システムベンダーとしっかり連携して協調しながら進めることができると考えています。

クラウド活用に関連して、よくある議論として「自分たちが所有することで得られる安心」に根差した意見提起がなされることもありますが、私たちはこれまで取り組んだ結果として、「クラウドを正しく理解する」ことで、自分たちが所有する以上のメリットがクラウド活用により享受できると考えています。特にフォーカスされやすいセキュリティ面で言うと、AWS を利用する場合、AWS 自身が多種多様なセキュリティ対策とそれを保証するための認証を取得しています。こうした対策を自分たち自身で実現しようとすると、自らがその検討や実装に時間を割く必要があります。しかし、餅は餅屋です。セキュリティ面を含めたインフラの整備や維持運用はクラウド事業者にアウトソーシングし、私たちはそれらを適切に利用しながら環境準備する(責任共有モデル)とともに、本来実現したい業務要件に的を絞り、システム開発に本質的に注力すべきと考えています。

4-2. システムベンダーの適切なクラウドの理解と体制整備

また、正しいクラウド活用に向けては、私たちがクラウドを活用しようとする理由や動機、またどのように取り組もうとしているか、その方針などクラウド活用に係る基本スタンスの整理と、システムベンダーへのメッセージングも非常に重要です。クラウド活用方針を正しく伝えない限り、従来のサーバを Amazon EC2(EC2) 上に載せ換えてクラウド実現しただけ、ということになりかねません。それがたとえパッケージシステムであっても、そのまま EC2 の上に載せただけではクラウドの本質的なメリットを享受できるような取り組みとは言えません。クラウドメリットを最大限享受していくうえでは、マイクロサービスアーキテクチャの思想に根差し、AWS サービスのビルディングブロックを形成しながら AWS マネージドサービスをフル活用するようなシステム構想など、多様なサービスや機能を適材適所で選択しながら開発を進めていく必要性があります。

従来、オンプレミスでサーバ環境を整備しシステムを構築してきたシステムベンダーは、ともすればクラウド上に従来のシステムを組む方向に流れがちだと感じており、ユーザである私たちの強いニーズや意図を明確にシステムベンダーに示し、それを伝えなければ、クラウド活用に係る検討さえもなかなか進まないという状況はよく見られるかと思います。システムベンダーがクラウド活用の必要性を腹落ちして理解し、従来のやり方を刷新し、将来性を見据えて積極的なクラウド活用を一体的に推進できるよう、システムベンダーを活用する私たちからの積極的な働きかけは不可欠です。つまり、保有する安心感やメリットからクラウド活用へのマインドチェンジが重要なポイントだと考えます。アプリケーション開発を担うのはシステムベンダーであることから、このマインドチェンジは、私たちユーザのみならずシステムベンダーも一緒に実現すべきなのは明白です。そういった姿勢で並走できるシステムベンダーを私たちが選択し、相互に協調したシステム開発でなければクラウドの正しい活用は成功し得えないといえます。

その大前提としては、システムベンダーがそもそも正しくクラウドを理解していることが必須です。まず、システムベンダーがこれまで組み上げてきたアプリケーションシステム自体が、クラウド上でも正しく動くことを前提として理解を進め、クラウドの仕様や要件を適切に取り入れ組み直すことで、システムの移行や運用におけるトラブルや障害を防ぐことができます。また、その際には AWS のサービスやその機能を正しく理解することを通して、マイクロサービスの考え方やサーバレスアーキテクチャ、各種マネージドサービスの活用などクラウドメリットを最大限享受できるように設計開発を進めることで、システム自体の性能や信頼性を向上させることができます。堅牢なシステムの組み上げには、クラウドセキュリティを正しく理解することも不可欠です。

こういった協業関係を深化させるうえでも、第 2 回のブログの 5 章で説明したような共通基盤の導入を通して私たちがインフラを統制し、アプリ開発を担うシステムベンダーに必要な環境を共有する形で協業体制を整理してシステム開発を進めることも有効と考えています。

なお、私たちのプロジェクトにおいては、AWS Professional Services も本プロジェクトに参画し、システムベンダーの自律的な取り組みを促しながら、システムベンダーの全体統括や技術支援という立ち位置で、私たちやシステムベンダーと常にコミュニケーションを図りながら強力なプロジェクト推進に協力いただいています。

4-3. 継続的なクラウドスキル獲得と向上

こういったクラウド活用推進において重要な考え方として、コンテナやサーバレスに代表されるクラウドと相性の良い技術の採用とその技術習得は非常に重要です。新しい技術を採用することが目的であればシステムとして導入することでゴールを達成できますが、第 2 回のブログの 5 章の共通基盤に係る説明でも触れた通り、自分たちのスキル醸成を狙うためには技術力向上の実現とは切り離せない取り組みであり、これら AWS クラウドの技術を理解しながら活用することも必須と考えています。新しい技術の習得やそれに伴うスキル醸成には、どうしても属人的な活動になりがちですが、それをいかに組織的に実現するか、当社の関係者にモチベーション高く活動を継続的に行っていくかという観点は、私たちが目指すスマートメーターシステムの実現や、その先のデータ利活用の更なる高度化にとっても必要不可欠だと考えています。

5. まとめ

本ブログでは、私たちのスマートメーターシステムの取り組みについて、現行世代システムのクラウドシフトとフルクラウドによる次世代システムの開発という、性格の異なる二つのプロジェクトの同時並行の様を、私たちの着眼点や留意事項を中心にご紹介してきました。
いずれのシステムもクラウドをベースにする、という判断は大きな判断であり、ブログの中でも紹介致しました通り、詰めた社内議論を経て、やっと合意形成を取り付けて進めてきました。クラウド推進側にも慎重側にも、踏み込んだ議論を要求してきたこともあり、私たちも非常に苦労してここまで進めて参った次第です。

AWS の紹介で海外の同業者との意見交換の場を持つことができましたが、そこで聞けたのは、私たちが経験してきたような社内議論を繰り広げてクラウド採用に至った等の話でした。日本に比べて進んでいる印象の海外事業者といえども社内にはクラウド慎重派がいて、クラウドの導入が手放しで円滑に進んでいるわけではない、ということがよく分かりました。また、国にもよりますが、規制当局がクラウドの利用に制限を設けたり、そもそも OT システムについてはクラウド利用を認めていなかったりなどの事情があることも分かりました。
このように、クラウドの利活用については、まだ慎重に考える関係者や制約となる規制の存在など、課題が残っているものの、これもブログにてお示しした通り、システムの将来における拡張性や柔軟性、これから間違いなく肝になるデータ利活用の環境整備、という観点からクラウドの徹底的な利活用は避けて通れないと考えています。

クラウドを徹底的に利活用していくためには、私たちのようなエンドユーザーとシステムベンダーの双方が、何を目指しているのか、そのためにどういう仕組みを導入しようとしているのか等々、相互理解を深め、双方ともに知見や知識、スキルを磨き続けていく意識が問われてくると考えています。私たちが導入した共通基盤の考え方や、それに伴うインフラ統制やアカウント管理のあり方などが、そうした意識を形にした一つの姿だと思います。また、こうした地道な意識浸透の活動を進めていくに当たって、クラウドのプロ中のプロである AWS、なかんずくAWS Professional Services の方々に負うところが非常に大きく、彼らのサポート無しには私たちの活動は簡単に頓挫していたように思います。私たちの取り組みはまだまだ道半ばではありますが、この場をお借りして改めてお礼申し上げます。
このブログが、読者皆様方のこれから先のシステム開発にあたって、クラウド利用を考えられる一助になれば幸いです。


執筆者

Yasuo Matsuura

松浦 康雄
関西電力送配電株式会社 執行役員(配電部、情報技術部)

2000 年代初期より、次世代配電網に適用する通信メディアの技術開発に携わり、 2010 年よりスマートメーターシステムの開発・導入プロジェクトを担当。
この経験を踏まえ、 CIGRE (国際大電力会議)にてスマートメーターのデータ利活用に関するワーキンググループを立ち上げて報告書をまとめるなど、スマートメーターシステムの全体像からデータ利活用にかかる論点を国内外の場で調査・発表し、脱炭素社会の実現、レジリエンス向上や効率化の実現に欠かすことのできない重要なキーデバイスとして、日本におけるスマートメーターの認知度向上に貢献。
2020 年には、資源エネルギー庁の声掛けのもと再開された次世代スマートメーター制度検討会に委員として参画し、次世代スマートメーターに求められる構造、機能や性能などについて、現行スマートメーター導入の経験や諸外国調査の知見を活かして議論をけん引。
2022 年度には、同社の現行スマートメーター全数導入を成し遂げるとともに、データプラットフォームとなり得る次世代スマートメーターシステム構想を描き、同社における検討を推進。
現在に至る。