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移行パス(クラウド移行戦略)をワークショップで策定する

こんにちは。カスタマーソリューションマネージャー( CSM )の服部です。この記事ではクラウド移行戦略策定の際に必要な移行パスを策定する移行パス策定ワークショップをご紹介します。
新規システムの場合にクラウド上で最適なアーキテクチャーを検討するはもちろんですが、既存システムにおいてクラウド化する際にどの移行パスを選択すればよいのかお困りではないでしょうか。移行先を決める基準が定められていない場合は、一般的には以下のような観点で決定している事例が多いと思います。

  • 移行後の運用コスト
  • 移行にかかる作業コスト
  • 移行リスク(システム停止時間、運用の継続性、システム挙動の継続性)

これらの判断基準も重要ですが、クラウドのメリットを最大限享受するためにはこの基準だけではなく、長期的な視点で移行先を決める必要があることと、お客様の環境独自の選定基準を加える必要があります。そのため移行要件による標準的な移行パスを利用するのではなく、最適化された移行パスを策定することが重要です。ワークショップ参加メンバーでさまざまな意見を出し合うことで、自社にとって相応しい移行パスを作成することが本ワークショップの目的になります。では、詳しく見ていきましょう。

クラウド移行戦略の中の移行パス

一般的にクラウド移行方針や戦略を立案したと言える状態となるためには、下記のような論拠を明示し社内の承諾を得ておくことが必要です。

  1. 企業ビジョン(中計等)とそれを支えるIT戦略
  2. クラウド移行理由:一般論と個社事情(クラウド移行動機、現状の課題・ニーズ、費用対効果)
  3. 移行要件(企業として、あるいは、ある特定のシステム群として)
  4. AS IS と TO BE のイメージ(概念図ベース)
  5. 移行先アーキテクチャ選定の判断基準(移行先アーキテクチャの選定フロー等)
  6. 移行ロードマップ(マイルストーン定義、マスタースケジュール策定等)

5番目の”移行先アーキテクチャ選定の判断基準”が、本ワークショップでの対象になります。クラウド移行戦略を立案する際に移行先アーキテクチャ選定の判断基準の策定は重要なファクタの1つなのです。

移行戦略とは何のために、何を、何処に、いつまでに、どの様に移行するのかを策定することであり、この最後のどの様にという部分が移行パスの部分になります。移行戦略と移行パスに関する詳細は、こちらを参照してください。

クラウド移行パス

では、移行パスはどのような観点をもって選択すればよいのでしょうか。
観点は色々あるかと思いますが、以下の 2 つの軸で検討することを推奨します。

  • クラウド適合度(急激な負荷変動が予想される、災害復旧の準備(災対)が必要、機能追加/修正の柔軟性を高め改修コストを下げたいなど)
  • クラウド移行難易度

上記観点でシステムを点数化して分類したサンプルが以下になります。システムごとの大まかな特性に応じて推奨される移行パスを示したものですが、現在のシステムポートフォリオを示すことにもなります。

移行パスの4象限振り分け

本ワークショップが向いているお客様

移行パスを策定しておらずリホストが最終ゴールとなっていて、クラウドのメリットを享受しきれていない場合や、以下の必要性を感じられているお客様は、本ワークショップで改善のきっかけを作ることができます。

  • 効率的な移行先の選定
  • 複数回の移行による多重投資の防止
  • クラウド移行後のシステム煩雑化防止

AWSが用意した「システムとサーバーの棚卸しシート」に回答頂き、相応しい移行方針をアセスメントするサービスも一部のお客様で実施してはいますが、回答のためにシステム全体の棚卸しをする必要があることと、お客様独自の条件を加味させることが難しいためにアセスメント実施後の Next Action を推進していくためには少なからず労力が必要になります。本ワークショップは、もう少しカジュアルに移行パスを策定してすぐに移行アクションにつなげることを狙いとしています。

ワークショップの実施方法

ワークショップの実施方法についてお話します。
まず、本ワークショップのタイムテーブルをご紹介します。
ワークショップ本体は3時間でトータルでも1日で実施可能なスケジュールになります。

タイムテーブル

ワークショップを効果的に進めるために重要なポイントが2つあります。
1つ目は、参加メンバーにあらかじめ移行パスを判断するための判断基準の素案(ワークショップでホワイトボードに貼り付ける付箋紙の内容)と、自社がどのようなクラウド利用方針をもっているか(目指すべきクラウド利用の姿)を事前に確認、認識してもらっておくことが必要です。ワークショップの時間は限られており、参加メンバーが集まってから初めて考え始めていると時間が足りなくなってしまいます。
2つ目は、策定した移行パスを成果物としてエクゼクティブに共有することです。成果物を共有することで、現場の思いをエグゼクティブに伝えると共に、エグゼクティブの思いを知る良い機会になります。これによって移行プロジェクトの発足や推進がよりスムーズになることが期待できます。

次に実際のワークショップの進め方ですが、まずは振り分けする移行パスのグループをホワイトボードの右端に記載していただくことから始めます。この移行先グループを実際のお客様の状況に合わせて設定することが重要です。一般的な移行先として7R(リロケート、リホスト、リプラットホーム、リファクタリング、リパーチェス、リタイヤ、リテイン)があげられますが、そのグループ分けにこだわって無理に7Rに囚われる必要はありません。

振り分け移行先グループの設定が終わったら、パスの分岐条件を付箋紙に記載してホワイトボードに貼り付けていきます。この段階では貼り付ける場所は特に気にしなくても大丈夫です。一通り貼り付け終わった後でグルーピングと優先順位を考慮して、貼り付ける場所を変えていきます。優先順位の高いものほど先に判定する基準になりますので、左側に移動していきます。この付箋紙のグルーピングや移動をする作業の中でディスカッションが生まれます。このディスカッションがもっとも重要で、この時間で参加メンバーが普段イメージとして持っているものが具現化していきます。

ワークショップ実施の効果

主な効果は以下の3つになります。

  1. 参加メンバーが積極的にディスカッションすることで合意形成した移行パスが策定できる
  2. 漠然とイメージとしていたものが成果物として可視化できる
  3. 策定した移行パスをエクゼクティブに共有することで、スムーズにNextActionに進むことができる

合意形成した移行パスを策定したことで、今後更新の必要が発生した際も自律的に修正をすることができる状態になります。
これらの効果がワークショップを実施することで得られるため、クラウド移行戦略の策定で困っているお客様は是非実施することをお勧めします。仮に移行パスの判定に必要となる様々な情報がまだ入手できてないことが原因で移行パスの選定フロー自体に確証が持てないといった意見が出てきた場合は、どういった情報を入手したり作成したりすればよいのか、といった移行パス判定フローの確からしさを向上させるためのタスクを生成してNext Action としていくこともあり得ます。

移行パス策定のその先へ

移行パスの策定を行えた後は、如何に効率的にクラウドへの移行を行い、ビジネスへの成果を迅速に実現できるかが重要となってきます。AWSでは大規模なシステムの移行を実現し、お客様のデジタルトランスフォーメーションをサポートするための、包括的なソリューションである、「AWS ITトランスフォーメーションパッケージ2.0(ITX2.0)」をご提供しています。
今回ご紹介している移行パス作成ワークショップは、ITX2.0に含まれるものではありませんが、ITX2.0の評価フェーズ(コスト評価やクラウド移行への準備状況分析)の段階に位置づけられるプログラムとなりますので、ITX2.0の評価フェーズでのプログラム(クラウドエコノミクスや、マイグレーション・レディネス・アセスメント)などと並行して実施することが可能です。移行パス策定ワークショップをITX2.0よりも先に実施することももちろん可能です。

また、ITX2.0 だけでなく、移行に際し技術的な不安をお持ちのお客様には、システムの棚卸しから評価・分析、お客様環境に適した移行計画の立案、AWS環境標準の整理、クラウド推進組織の立上げ等をご支援する「クラウド移行支援サービス」や、データベースの移行検討にかかるリードタイムの削減やマイグレーションの実現をご支援する「データベース移行支援サービス」等のAWS Professional Serviceによる各種プログラムや、お客様の課題に対しAWS のエンジニアがプロトタイプを作成し、お客様の環境で動作するようご支援することで迅速に課題を解決いただけるプロトタイプ開発プログラムなどをご提供しています。

ITXパッケージ2.0

AWSへのマイグレーションについての情報はこちらからもご確認いただくことができます。
移行戦略の実現に向け、AWSの各種プログラムをぜひご活用ください。

本ワークショップおよびITXパッケージ2.0にご興味をお持ちのお客様は、担当営業へご相談ください。

著者
カスタマーソリューションマネージャー 服部 昌克
カスタマーソリューションマネージャー 髙木 昇
カスタマーソリューションマネージャー 上原 研太