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認知科学と学習 1: 反復学習テクニックを活用した学びの効率化

アマゾン ウェブ サービス (AWS) の 175 を超えるサービス群、数百にもおよぶ機能、クラウドコンピューティングの用語や概念という新しい語彙。これらは AWS の構築を学ぼうとする際に最初の壁となり立ちはだかります。この壁は多少険しいものに感じられるかもしれません。また、情報を受動的にインプットする学習法にばかり頼っていると、壁を乗り越えるのは難しくなってしまいます。

一方でこの障壁の高さを引き下げて、 AWS ビルダーとしての学習目標の達成を支援してくれるものもあります。人間にとって最も効果的な学習方法に関する、数十年にわたる研究から得られた認知科学的な知見、そして 数百に及ぶ AWS トレーニングポートフォリオ を活用できることです。

これからシリーズブログとして、数回にわたってこのテーマを扱っていきます。シリーズ内の各記事では、AWS のサービス、機能、および関連する概念をより効果的に学習し、結果としてより優れたビルダーになるために活用できる認知科学の原則に焦点を当てていきます。このシリーズでは次のテーマに基づいて概説していきます。

  1. 反復学習
  2. 時間差学習
  3. エラボレーション

 

シリーズ第 1 弾となる今回は、反復学習についてご紹介しましょう。

反復学習の原則とは、学習者が以前に見たり聞いたりした情報を定期的に記憶から取り出して、その情報を使用して問題を解決したり質問に回答したりすることで、長期学習が強化されることと規定されています。

つまり反復学習とは、自分の記憶から情報を引き出す機会を学習者が自分自身に与えることです。 これは情報のインプットのみに重点を置いた、前述のアプローチとはまったく対照的です。学習した情報を保存するニューラルネットワークはその情報を繰り返し受動的に取り込むのではなく、自分の力で情報を思い出す(または記憶から取り出す)ことで強化されます。

 

Retrieval

通俗的な学習方法においては情報のインプットに重点を置く傾向がありますが、脳の学習方法に関する研究では、(反復: Retrieval により) 情報の取り出しを行うことが長期学習に不可欠であることがわかっています。

 

簡単な例を見てみましょう。2 つのグループがあります。どちらのグループも、Amazon S3 に関するプレゼンテーションに参加しました。それ以降 2 週間にわたり、1 つ目のグループ (反復学習グループ (Retrieval Group):RG) のメンバーは、参加したプレゼンテーションで紹介された主な概念やトピックを思い出せるかどうかを試す一連のクイズに参加します。

一方で 2 つ目のグループ (非反復学習グループ (Non-Retrieval Group):NRG) のメンバーは、プレゼンテーションで紹介され主な概念とトピックを繰り返す、一連のフォローアッププレゼンテーションに参加します。RG とは異なり学んだ情報に関するクイズやテストは受けません。

最初のプレゼンテーションから数週間さらには数か月後、RG は Amazon S3 に関連する記憶の保持に関して NRG を圧倒するパフォーマンスを発揮します。両者の違いを決定づけたのは NRG が行った受動的な情報のおさらいとは対照的に、RG はクイズという形で反復学習を実施したという点です。こうして RG のメンバーは、Amazon S3 という重要なストレージサービスを使用して構築を開始するために必要な基礎を習得したのです。

 

情報の受動的なインプットは短期的な学習効果につながる可能性がありますが、反復学習は長期的な学習効果の向上につながります。

 

では、AWS クラウドの学習に反復学習を活用するにはどうしたらよいでしょうか。以下にいくつかのアイデアを示します。

  1. プレゼンテーションやビデオを聴講した後に学んだことを要約する。 数百におよぶ AWS トレーニングのどれを受講したとしても、修了後すぐに教室を出たり動画をオフにしたりしただけでは、学習した内容が自分の記憶の中にその後数週間にわたってとどまることはありません。記憶から情報を取り出す復習をしない限り、学んだ知識を習得することにはならないのです。受講内容を思い出せる限り、特に自身の学習目標に関連性の高いトピックを書き出してみましょう。また AWS クラウドの知識を深めるにつれ、要約用に学習ノートをつけるのも良い方法です。複数日(または複数週)にまたがるコースに参加する場合は、学習内容を小さなチャンク(各モジュールまたはコースセクションごとなど)に区切ってまとめます。
  2. 学習している内容について他の人に話す。 学習内容を書いてまとめることにあまり熱心になれない場合は、同じ目的で学習している内容に興味を持ってくれそうな人を探し、学んだ内容のうち最も興味深いと思ったことについて話してみます。さらにもう一歩踏み込んで、同じコースの受講生でグループを作り一緒に学習していることについて話し合うのも良いでしょう。
  3. セルフテストをする。 コース資料(ビデオ、PowerPoint スライド、技術文書など)を参照し、最も重要なトピックや概念に関連する小テストを作成します。テストには選択問題やメモカードを使ったものなど、さまざまなタイプのものを用意します。コンテンツをマスターしたと感じられるまで、これらの問題 / メモカードでセルフテストを繰り返しましょう。多くの AWS トレーニングには、このような反復学習をより簡単に行えるように、知識チェックと演習が組み込まれています。また各 AWS 認定に対応した試験準備コースを受講すると、各トピック分野の試験サンプル問題を確認し、その概念を理解して認定へ向けた学習過程に反復練習を取り入れることができます。
  4. AWS マネジメントコンソールでハンズオンを行う。 たとえば Amazon S3 の入門レベルのビデオを視聴したばかりなら、実際にそのサービスを使ってみることが何よりもすぐれた学習法です。 しかし詳細な手順を示したドキュメントが手元にある場合には、記憶から情報を取り出す訓練にならなくなってしまいます。たとえば視聴したビデオが Amazon S3 バケットの作成方法について説明したものだった場合、いったんビデオをオフにしてドキュメントを閉じます。次に AWS コンソールに移動して、学習した内容を思い出しながら自分でバケットを作成してみましょう。ステップバイステップの手順書は便利な反面、自分自身の力で情報を思い出すことを想定していないため、長期的な学習効果を得られにくくしてしまうことがあります。コスト効率よく AWS コンソールでハンズオンを行うための方法として、AWS セルフペースラボおよび AWS 無料利用枠という 2 つの選択肢を用意しています。

 

どのようなやり方を実践する場合でも重要なのは、学習している情報を記憶から引き出すことです。情報をインプットするだけではなく、自分の力で情報をアウトプットできるように挑戦してみましょう。

By Tom Kelly