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Upbound Group が最新の POS プラットフォームを AWS で構築

この記事は 「Upbound Group builds its modernized point-of-sale platform on AWS」(記事公開日: 2024 年 11 月 18 日)の翻訳記事です。

Upbound Group Inc. (NASDAQ: UPBD) は、テキサス州 Plano に本社を置くオムニチャネルプラットフォーム企業です。 時代とともに進化する消費者のニーズや期待に応える、革新的で包括的、かつテクノロジー主導の金融ソリューションを提供することに力を入れています。 Upbound Group の顧客向け事業部門には、Rent-A-Center®Acima® などの業界をリードするブランドが含まれ、店舗をベースとしたさまざまな小売チャネルおよびデジタル小売チャネルでもブランド企業と消費者とが容易に取引できるようにしています。 Upbound Group は、米国、メキシコ、プエルトリコに 2,400 超の自社店舗を構えています。

変化するニーズへの適応

目まぐるしく変化する小売業界では、効率化と顧客満足度の向上にテクノロジーが不可欠です。 Upbound Group は、従来の Swing ベースの SIMS POS システムがイノベーションを妨げていることに気がつきました。

Upbound Group は、以下の主な阻害要因を考慮した結果、オールインクラウドの実装を進めることに決定しました。

  • 時代遅れのテクノロジー
    • 制約のある、時代遅れのテクノロジーを使用した Swing ベースのシステム
    • スケーリングや最新の SaaS ソリューションとの統合が困難
    • 回避策が必要で、開発とテストのサイクルが遅延
    • 技術的な負債が発生し、仕事の進捗において社員のストレスが増加
  • 一貫性のない顧客情報
    • 顧客プロファイルや、実店舗と E コマース事業とのやりとりを統一的に把握する視点が欠如
    • 多くの場合、満足していただける顧客体験を提供できず、また詐欺のリスクが増大
  • 運用上の混乱
    • レガシーな POS システムのため、運用状況のエンドツーエンドでの可視化が不可能
    • 問題の診断と解決が長期化

以下の図は、Upbound Group が使用したデジタルトランスフォーメーションフレームワークの概要を示しています。 この技術スタックは、API、イベント駆動を中心とする、最新のマイクロサービスアーキテクチャで構成されています。 Upbound Group の顧客需要の高まりに対応できるスケーラビリティと弾力性を備えています。

イベント駆動型のサーバーレスアーキテクチャの採用

モダナイゼーション以前は、Upbound Group はオンプレミスのレガシーインフラストラクチャ上にモノリシックなアーキテクチャを構築していました。 そのため、変化する顧客需要に応じたスケーリングができませんでした。 また、開発者は必要に応じて迅速に機能を構築することもできませんでした。 Upbound Group は、Amazon API GatewayAWS Lambda、および AWS Fargate を使用して API ファーストの設計を実装することで、マイクロサービスアーキテクチャに移行しました。 さらに自社レンタルサービスとエンタープライズサービスのアプリケーションスタックを完全にモダナイズし、 開発チームはショッピング体験を向上させる新しい機能を迅速にリリースできるようになりました。 また、ビジネスチームは戦略的および戦術的なビジネス目標を達成するために、ソリューションを自由に組み合わせることが可能になりました。

Upbound Group には、1,080 を超えるトランザクションテーブル、レガシーリース契約、アーカイブデータのほか、2,600 を超えるテーブルを含む 45 TB の履歴データがありました。また商用ソフトウェアの使用やデータベースサーバーの自己管理をやめ、データサイロ化を排除し、データ価値を最大化し、アプリケーションや組織間でデータを共有したいとも考えていました。 そこで Upbound Groupは、AWS Data Migration Service (DMS)AWS Schema Conversion Tool (AWS SCT)、カスタムデータベース開発を利用して、従来のトランザクションデータベース (Oracle Exadata 上で実行) から自社専用の Amazon Aurora PostgreSQL に移行したのです。

その後、Upbound Group は正規化と効率的なインデックス作成を優先して、トランザクションデータモデルの最適化、再設計、統合を行いました。 これによりアプリケーションのパフォーマンスが向上し、テーブル数が 400 に、データサイズが 30 TB 未満に減少しました。 また、Upbound Group は Aurora インスタンスを AWS Graviton3 ベースの R7g データベースインスタンスにアップグレードし、システム全体のパフォーマンスを向上させました。 現在では、データは予測可能な程度に安定して着実に、しかもコストを抑えて増加しています。

柔軟でスケーラブルなインテグレーションの選択

Upbound Group は、コアビジネスとエンタープライズマイクロサービスを主要なトランザクションデータベースである RACDB と統合するために、フルマネージド型の高可用性データベースである Amazon RDS Proxy を採用しました。 RDS Proxy のコネクションプールにより、Lambda のマイクロサービスと Aurora データベースが疎結合となることで、Lambda と Aurora はそれぞれの負荷や要件に応じて、個別にスケールできるようになります。これにより、RDS への過剰な接続によるリソースの不足およびメモリの競合が排除できます。というのも、Amazon Simple Notification Service (SNS) のトピックは、イベント駆動に伴う非同期処理のニーズに対応して複数の Amazon Simple Queue Service (SQS) キューにメッセージを分散することができるからです。

オムニチャネルのカスタマーエクスペリエンスを向上させるため、Upbound Group は Amazon DynamoDB を使用するグローバルカスタマーデータベース (GCDB) と Amazon OpenSearch Service を使用する検索機能を追加しました。これにより、モダナイズされた POS システムである RACPad など、顧客と接点を持つアプリケーションも GCDB と連携します。RACPad で処理される新規顧客の取引データも GCDB に反映されます。こうして Upbound Group は顧客データを一元的に把握できるため、パーソナライズされたマーケティングキャンペーン、統合型カスタマーサポート、クロスセル、アップセルといった顧客にあわせたきめ細かなアプローチが可能になります。

エンドツーエンドのセキュリティ、可用性、回復力の強化

可用性を向上させ、ダウンタイムを短縮するために、Upbound Group は技術スタックを 複数の AWS リージョンにパイロットライト戦略でデプロイしました。 データレイヤーとして、Upbound Group はリードレプリカを備えた Amazon Aurora マルチ AZ クラスターを採用しました。 ストレージレイヤーでは、Upbound Group は AWS S3 クロスリージョンレプリケーションを使用して、ビジネスデータとアプリケーションデータをプライマリリージョンからセカンダリリージョンに複製します。 DynamoDB グローバルテーブルは複数リージョンのテーブルレプリケーションの管理に使用され、DynamoDB ストリームの変更データキャプチャによりプライマリ GCDB とセカンダリ GCDB の同期が保たれます。 CI/CD パイプラインは、アプリケーションパッケージをセカンダリリージョンにデプロイし、セカンダリデータベースクラスターと統合するように設定されています。 また、プラットフォームエンジニアリングチームは AWS CloudFormation スタックを使って、IaC でデプロイを行っています。

Upbound Group は、以下のような他の AWS サービスも使用しています。

  • AWS Control Tower は AWS ランディングゾーンを作成、管理、スケーリングします。
  • AWS Direct Connect は、プライベートインフラストラクチャと AWS 間の専用のハイブリッドネットワーク接続ができるようにします。
  • アプリケーション開発者は Amazon CloudWatchAWS X-Ray を使用してカスタムメトリックス、カスタムログ、トレースを有効にし、アプリケーションのパフォーマンスをトラブルシューティングおよびモニタリングします。
  • データベース管理者は Performance Insights を使用して高度なパフォーマンスモニタリングと Aurora PostgreSQL クラスターの調整を行います。

ビジネス成果

AWS CloudFormation を使用することでインフラの設定やプロビジョニングをテンプレート化できるため、Upbound Group は、この CloudFormation のテンプレートを作成し、それに基づいてインフラのスタックをプロビジョニングしており、また作成したスタックを継続的に管理、更新しています。 AWS Config は、セキュリティとガバナンスを強化するために、AWS リソースのインベントリ、設定履歴、変更通知を管理します。 また、プラットフォームエンジニアリング、アプリケーション開発、エンタープライズサービスエンジニアリングの各チームは、複数の「Two-Pizza Teams」を結成することで効果的に連携ができます。

この変革により、Upbound Group は顧客に一貫したオムニチャネル体験を提供できるようになりました。 Amazon OpenSearch を活用したグローバル顧客データベースの統合顧客プロファイルにより、ビジネスチームは顧客獲得と維持を目的とした、ターゲットを絞ったパーソナライズされたキャンペーンを作成できます。 Upbound Group は膨大な履歴データの移行に成功し、2,400 を超える店舗とパートナー拠点で RACPad を活用してスケーラビリティ、信頼性、運用の俊敏性を高めました。 このクラウドファーストのアーキテクチャにより、店舗全体でプロセスが合理化され、1 か月あたり数百時間を節約できたため、スタッフは戦略的なタスクや顧客サービスの向上に集中できるようになりました。

次回のブログでは、RACPad の技術コンポーネントと設計フレームワークについて詳しく説明します。

「サーバーレスファーストのアプローチで AWS のサービススイートに RACPad を構築すると、革新的な体験ができます。 このシフトにより、インフラストラクチャのプロビジョニングという制約を受けずに新機能を迅速にデプロイできるため、開発サイクルを短縮できます。 サーバーレスアーキテクチャの主な利点の 1 つは、オフピーク時にコストをゼロにスケールダウンできることです。 これは従量課金制の価格モデルによって実現されています」 — Pranav Sharma、Director of Platform Delivery

「従来のオンプレミスアーキテクチャからサーバーレスアーキテクチャに移行する際には、移行に関する自社の技術的能力を考慮する必要があります… サーバーレスコミュニティと AWS エンタープライズサポートに頼ることができたおかげで、安心して移行できました」 — Mike Porras、Director of Platform Engineering

Transforming Retail in the cloud: A CIO’s Handbook」をダウンロードして、AWS がビジネスの成長にどのように役立つかをご覧ください。 AWS は MACH Alliance のメンバーでもあります。 イノベーションを促進し、企業、小売業者、CPG 企業が最高の顧客体験を提供できるよう支援します。 AWS Retail Solutions の詳細については、こちらをご覧ください。

著者について

Mike Porras

Mike Porras は Upbound Group のプラットフォームエンジニアリング担当ディレクターです。 彼は、多様な開発チームと運用チームのニーズをサポートする統合クラウドテクノロジープラットフォームの設計と保守に注力しています。

Brad King

Brad King は AWS の Enterprise Account Executive です。 Brad は、複雑な技術概念を説明し、長期的なパートナーシップを通じてクライアントがデジタルトランスフォーメーションの目標を効率的かつ効果的に達成できるようにすることを専門としています。

AK Soni

AK Soni は AWS エンタープライズサポートのシニアテクニカルアカウントマネージャーです。 彼は積極的なガイダンスを提供することで、企業顧客がビジネス目標を達成できるよう支援しています。 エンタープライズアプリケーションのアーキテクチャと開発に 19 年以上携わってきた経験から、生成 AI テクノロジーを使用して事業運営を強化し、既存のテクノロジーの限界を克服することに熱心に取り組んでいます。

Pranav Sharma

Pranav SharmaはUpbound Group のプラットフォームデリバリー担当ディレクターであり、革新的なテクノロジーソリューションを通じてデジタル変革を推進することに情熱を注いでいます。 彼は最近、AI の使用における倫理と、社会に有益な方法で開発を導く原則の実際についてより深く考え始めました。 プライベートでは料理に腕をふるい、旅行することが大好きです。

Suprakash Dutta

Suprakash は AWS のシニアソリューションアーキテクトです。 デジタルトランスフォーメーション戦略、アプリケーションのモダナイゼーションと移行、データ分析、機械学習を専門としています。 AWS の AI/ML コミュニティの一員であり、生成 AI とインテリジェントなドキュメント処理ソリューションを設計しています。

本ブログは CI PMO の村田が翻訳しました。原文はこちら