Amazon Web Services ブログ

SAP Database Migration Option(DMO)を使ったAWSへの移行

Somckit Khemmanivanhは、Amazon Web Services (AWS)のSAPソリューションアーキテクトです。

このブログ記事では、SAP Software Update Manager(SUM)の機能であるDatabase Migration Option(DMO)を使って、AnyDBデータベースからAWS上のSAP HANAに移行する方法を説明します。SAPでは、SAP社がサポートするSAP HANA以外のソース・データベース(DB2、Oracle、SQL Serverなど)を指すときに、AnyDBという用語を使用しています。ここでは、オンプレミス・アーキテクチャからAWSへの移行オプションについて説明します(ここで留意すべきは、SAP HANAがターゲット・プラットフォームでない場合、他にも多くの移行オプションがあることです。詳細はホワイトペーパーMigrating SAP HANA Systems to X1 Instances on AWSをご覧ください)。

SAP HANAは完全なインメモリーで、列指向に最適化され、また圧縮されたデータベースです。 SAP社により認定されたSAP HANAシステムでは、160+ GB RAMから2TB RAMまでのシステムでSAP HANAデータベースをスケールアップ構成として稼働できます。また、最大14TBまでの認定されたスケールアウト構成も利用可能です。AWSであれば、このシステム構成の柔軟性により、ビジネスとITのニーズに合わせて拡張することができます。もしこれ以上のメモリーを要求するワークロードがある場合は、ぜひご連絡ください。私たちは、お客様要件にお応えできるよう取り組みたいと考えています。

DMOの概要については、SAP Community Networkをご覧ください。大まかには、AnyDBで稼働するSAPシステムをSAP HANAデータベースに移行する際にDMOを使うことができます。また、DMOにより、SAPシステムのソフトウェア・アップグレードとユニコード変換を移行時に合わせて行うこともできます(Enhancement Package(EHP) 8以降、ユニコードは必須)。 標準的なDMOのプロセスでは、ソースのAnyDBをターゲットのSAP HANAデータベースにオンラインかつ直接移行します。

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図1: SAP HANA DMOのプロセス

移行先がAWS上のSAP HANAシステムである場合、この直接の移行プロセスを容易にするためにネットワーク接続を確立する必要があります。加えて、標準的なDMOのプロセスにおいて、SAP Note 2277055 – Database Migration Option (DMO) of SUM 1.0 SP18に記載されているように、特定の制限があります(SAPノートの参照には、SAP Service Marketplaceの資格情報が必要です) 。このSAPノートには、ネットワーク接続を介して(つまり、データセンター間で)DMO転送を実行する際の制限事項が説明されています。私たちが行ったテストと経験では、レイテンシーはDMOの実行時間に多少の影響を及ぼします。私たちは、お客様のアーキテクチャと設計を評価し、可能な解決策を提示する支援もいたします。 ぜひ、sap-on-aws@amazon.comまでお問合せください。

AWSでは、標準のDMOの範囲を超えた追加の移行オプションもご用意しています。AWSアドバンスドテクノロジーパートナーのATADATAが提供するATAmotionのような移行自動化製品を使うことで、ソース・システムを(オンプレミスのネットワークから)AWS上に複製し、複製されたシステムからDMOを使ってSAP HANAに移行できます。AWSのパートナーが提供するそれ以外の移行ツールやサービスは、AWSパートナーソリューションファインダーから探していただけますでしょうか。

一旦ソース・システムをAWS上に持ち込めば、AWSサービスの俊敏性と柔軟性を活用して、移行をテストしたり、本番移行を実施したりできます。シナリオの一例として、DMOによるダウンタイム最適化のテストを複数実施するなどがあります。それぞれのテストにおいて、EC2インスタンスのサイズ変更を活用することで、異なるシステムサイズや組合せを試すことができます。

大まかなプロセスとツールについて説明しましたので、ここからは2つの移行オプションに含まれる手順を説明します。まず、標準的なDMOの移行プロセスから始めます。このプロセスでは、現行のSAPシステムがオンプレミスのデータセンター内にあり、AWSに接続する必要のある単一のコンポーネントがDMOサーバーであることが前提となります。移行中、DMOサーバーはソース・データベースからターゲットのSAP HANAデータベースにデータをエクスポートします。この移行プロセスは以下のステップで構成されます:

      1. AWSアカウントを作成していない場合は作成します。
      2. WebサイトAWS Answersに掲載されているAWS Single VPC Designの図のように、データセンターとAWSリージョン間の仮想プライベートネットワーク(VPN)、またはAWS Direct Connect接続を確立します。設計上の考慮事項と詳細については、”Internal-Only VPC”の項を参照してください。vpc-connectivity-for-dmo

        図2: DMOによる移行のためのVPC接続

      3. SAP HANAデータベースインスタンスとSAPアプリケーションインスタンスを展開します(導入手順はSAP HANA Quick Startを参照してください)。
      4. DMOサーバーを構築します(DMOサーバーはオンプレミスでもAWS上どちらでも使うことができます)。DMOサーバーは 、ソースのデータベースサイズ、性能要求、システムリソース、およびダウンタイムなどの要件に応じて、独立したサーバーまたはSAPアプリケーションサーバーと同じ場所に配置できます(このステップの詳細はSAP社資料を参照してください)。
      5. オンプレミスのDMOサーバーとAWS上のSAP HANAデータベースインスタンス間の接続をテストします(詳細については、APNブログのAmazon VPC for On-Premises Network Engineersシリーズを参照してください)。
      6. DMOを使用して、オンプレミスのデータベースをAWS上のSAP HANAデータベースに移行します(詳細はSAP社資料を参照してください)。
      7. SAP HANAデータベースインスタンスに接続する新しいSAPアプリケーションサーバーをAWS上にインストールします(詳細はSAP社資料を参照してください)。

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図3: 標準的なDMOのアーキテクチャ

2つ目の移行オプションとして、AWSパートナーツールを使用してソース・システムをAWS上に複製した後、SAP HANAに移行する方法を説明します。このプロセスを使用するには、現行のSAPシステムがオンプレミスのデータセンター内に存在する必要があります。この手順は、標準的なDMOのプロセスに似ています:

      1. AWSアカウントを作成していない場合は作成します。
      2. WebサイトAWS Answersに掲載されているAWS Single VPC Designの図のように、データセンターとAWSリージョン間のVPN、またはAWS Direct Connect接続を確立します。設計上の考慮事項と詳細については、”Internal-Only VPC”の項を参照してください。
      3. AWS上にソース・システムを複製します。ATAmotionを使う場合は、ATADATAコンソールを使用してこの複製処理を実行します。
      4. SAP HANAデータベースインスタンスとSAPアプリケーションインスタンスを展開します(導入手順はSAP HANA Quick Startを参照してください)。
      5. AWS上にDMOサーバーを構築します。DMOサーバーは 、ソースのデータベースサイズ、性能要求、システムリソース、およびダウンタイムなどの要件に応じて、独立したサーバーまたはSAPアプリケーションサーバーと同じ場所に配置できます(このステップの詳細はSAP社資料を参照してください)。
      6. ステップ3の複製されたソース・システムに対してDMOで移行プロセスを実行します。AWS上の移行プロセスを完了します(詳細はSAP社資料を参照してください)。詳細については、SAP文書を参照してください。
      7. SAP HANAデータベースインスタンスに接続する新しいSAPアプリケーションサーバーをAWS上にインストールします(詳細はSAP社資料を参照してください)。

partner-migration図4: ATADATAを組み合わせたDMOのアーキテクチャ

次に、両方の移行オプションに共通するアーキテクチャーと設計のいくつかの側面について説明します。

ネットワーク接続(帯域とレイテンシー)

データセンターとAWS間のネットワーク接続には、転送する必要のあるデータ量がどれくらいなのか、移行をどれくらいの時間で完了したいかによって、VPNまたはAWS Direct Connectを使用します。転送するデータ量は、ターゲットのSAP HANAデータベースのサイズと相互関係にあります。例えば、ソースのデータベースサイズが2TiB未満の場合、ターゲットのSAP HANAデータベースのサイズは250から600GiBになります(この見積もりは、SAP HANAの標準的な1:4または1:5倍の圧縮率を前提としていますが、より高い圧縮率のときも見受けられます)。お客様はネットワーク越しに200から250GiBの転送を行う必要があります。SAP Note 1793345 – Sizing for SAP Suite on HANASAP Note 1736976 – Sizing Report for BW on HANAに記載のあるSAPサイジングレポートからターゲットのデータベースサイズを見積もることができます。

移行プロセス中に切断があるとデータを再送信する必要があるため、信頼性の高いネットワーク接続を確立することをお勧めします。AWS Direct ConnectはVPN接続よりも高い信頼性と帯域を提供します。

SAPアプリケーションサーバー

DMOはソース・データベースをターゲットのSAP HANAデータベースに移行するだけで、SAPアプリケーションサーバーを設定しません。そのため、DMOによる移行が完了した後、AWS上に新しいSAPアプリケーションサーバーを構築する必要があります。以下のような様々なインストールシナリオから選択できます:

組織の要件、制約、サイジング、コスト、複雑さ、その他のトレードオフに基づいて最適なインストールオプションを決定する必要があります。

SAPアプリケーションサーバーのインストールと設定プロセスを合理化するために、多くのAWSの技術が利用できます。これらには、AWS CloudFormationテンプレートスナップショットからのAmazon Machine Image (AMI)の作成、そしてAmazon EC2 Run commandなどがあります。このトピックについては、今後のブログ記事で説明する予定です。

SAP仮想ホスト名

SAPシステムは、DNSまたはローカルのホストファイルを通じてホスト名を解決します。私たちは、SAPシステムのSAP仮想ホスト名と組み合わせてDNSを使用することをお勧めしています。SAP仮想ホスト名を使用すると、AWS上で同じ仮想ホスト名を維持できるため、移行が容易になります。詳細は、SAP Note 962955 – Use of virtual or logical TCP/IP host namesを参照してください。

小さく始めましょう

SAPの移行は複雑で、潜在的な問題を最小限に抑えるためにも適切な計画が必要です。SAP on AWSとAWSそのものの理解を深めるために、まずは小規模なスタンドアロンSAPシステムを対象にすることをお勧めします。サンドボックス、開発、トレーニング、デモ、およびSAP IDES(Internet Demonstration and Evaluation System)環境がそのようなシステムとして見込めます。SAP DMOによる移行を続行しない場合は、現行のソース・システムを元通りお使いいただけます。再有効化するだけです。

ご不明な点がありましたらsap-on-aws@amazon.comまでご連絡ください。SAP on AWSでサポートが必要な特定の問題については、コンポーネントBC-OP-LNX-AWSもしくはBC-OP-NT-AWSのSAPへのサポートメッセージを作成してください。

読んでいただきありがとうございました!

— Somckit

翻訳はPartner SA 河原が担当しました。原文はこちらです。