AWS Startup ブログ

AWS Graviton2の導入により、RDBMSのコストを約2割削減。グラッドキューブ社の AWS活用事例

インターネット広告の運用からウェブサイトの解析・改善に至るまで、一気通貫型のデジタルマーケティング支援サービスを提供する株式会社グラッドキューブ。同社の主力事業のひとつが、スポーツ × AI × データ解析メディアの「SPAIA(スパイア)」です。ユーザーは「SPAIA」上で AI による勝敗予想や試合内容予想などを知り、スポーツをより深く愉しむことができます。

かつて「SPAIA」では、プロ野球のデータを格納する RDBMS として MariaDB(on EC2)を用いていましたが、パフォーマンスの課題を抱えていました。しかし、AWS Graviton2* プロセッサを搭載した Amazon Aurora PostgreSQL へと変更したことで、パフォーマンスを劇的に改善できただけではなく、野球関連システムの RBDMS のコストが約2割減という、大幅なコスト削減も実現したのです。

 

グラッドキューブ社へのサポートを行う、Amazon Web Services スタートアップ事業本部 アカウントマネジャー(西日本統括)の金海 裕市とソリューションアーキテクトの永山 大輔*が、グラッドキューブ社の代表取締役 CEO 金島 弘樹氏とプロダクト開発部 マネージャーの川畑 雅哉氏、南 吉隆氏、三代 豪氏にお話を伺いました。

 

*…AWS Graviton2 は AWS が Arm Neoverse N1 コアをベースに独自開発したプロセッサ。初代 Graviton と比べてコア数で4倍、浮動小数点計算でコアあたり2倍の速度、メモリの速度で5倍、全体として7倍の性能向上を実現します。さらに AWS Graviton2 は、x86 プロセッサのサーバと比較して40%の価格性能比向上があります。

*…永山はリモートにて取材に参加しました。

 

AI とデータ分析によりスポーツをさらに愉しく

AWS 金海:まずは「SPAIA」のサービス概要についてお聞かせください。

 

金島:「SPAIA」は2017年から開始したスポーツ × AI × データ解析メディアで、スポーツの「SP」、AIの「AI」、Article(記事) や Analyze(分析する) の頭文字である「A」から名付けました。「SPAIA」の最大の特徴は、AI やデータ分析により試合展開を予想することです。

グラッドキューブ 代表取締役 CEO 金島 弘樹氏

 

例えば「SPAIA」のプロ野球コーナーでは、各チームの勝率を予想する機能だけではなく、ピッチャーの配球・球種予想と結果をリアルタイム配信する「一球速報」という機能があります。データを活用することで、多種多様なスポーツの愉しみ方をユーザーに提供しているメディアです。

「一球速報」の画面イメージ

 

私はこのメディアのコンセプトを、2014年くらいから構想していました。これからのスポーツ産業は3つの「みる」が重要になります。試合を視聴するという意味の「観る」、データや記事などを閲覧するという意味の「見る」、怪我などを防ぐため診療するという意味の「診る」。このいずれにおいても、AI やデータ分析を活用することで、より良い施策を実施できるはずだと考えていました。

 

さらに、スポーツ産業は今後右肩上がりで成長していくと予想されています。内閣府の「日本再興戦略2016」によれば、2015年の時点で5.5兆円だったスポーツ関連市場が、2025年には15兆円まで拡大する可能性があると発表されています。将来性があると考え、スポーツをテーマに事業展開することを選びました。

 

現在、世界各国ではスポーツベッティングが盛り上がりを見せています。また、日本においてもスポーツくじ「toto」が​「Jリーグ年間順位予想」や「単一試合の投票」といった新しいくじの販売を検討しており、スポーツベッティングはより一般の人々に普及していくはずです。「SPAIA」が提供する機能は、そうしたスポーツベッティングの流行も後押しできると考えております。

 

かつて抱えていたデータベースのパフォーマンス課題

 

AWS 金海:「SPAIA」の野球関連のシステムでは、もともとデータベースの課題を抱えていたとお聞きしました。

 

三代:かつて野球関連のシステムでは MariaDB を用いており、データ冗長化のためレプリケーションを行っていました。しかし、扱うデータが非常に膨大であるためレプリケーションのタイムラグが大きくなっていたのです。

グラッドキューブ プロダクト開発部 マネージャー 川畑 雅哉氏

川畑:最もひどいときは、約9,000秒(2時間30分)ほどのレプリケーション遅延が発生していました。ユーザーの方々に影響を与えるわけにはいきませんから、インスタンスサイズの大きいデータベースを複数台用意して、パフォーマンスの課題を軽減する形をとっていたのです。しかし、インスタンスサイズを大きくしたことで金銭的コストが増大していました。

 

三代:2020年の下旬ごろから、プロ野球のシーズン開始の2021年3月までに、Amazon Aurora PostgreSQL に移行したいと考えるようになりました。Amazon Aurora の方が MariaDB(on EC2)よりも性能が優れているためです。

 

Amazon Aurora へと乗り換える際にどの種類のインスタンスを使おうかと検討していたとき、AWS Graviton2 を搭載したインスタンスの存在を知りました。調査を進めると、他のインスタンスタイプよりもコストメリットが大きいことがわかったため、導入可否の検証を進めることにしました。

 

グラッドキューブ プロダクト開発部 マネージャー 三代 豪氏

AWS 金海:2020年11月ごろ、データベースの移行について AWS サイドへとご相談いただきましたね。その後、かなりスピーディーに Amazon Aurora へと切り替えられた印象があります。

 

南:移行を急いだのにはいくつかの理由があります。まず、2020年末から2021年にかけて、他企業から連携していただいているデータのフォーマット変更が入ったこと。データ連携のために発行する各種 SQL の見直しが必要となり、ちょうど良いタイミングだと考えて AWS Graviton2 プロセッサを搭載した Amazon Aurora の性能検証を行いました。

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グラッドキューブ プロダクト開発部 マネージャー 南 吉隆氏

 

三代:さらに、2021年から SmartNews との連携を予定していたことも、データベース移行を急いだ理由です。SmartNews 内のプロ野球関連のタブ内に、「SPAIA」のウィジェットを表示することが決定していました。ユーザー数やアクセス数が増加する前に、より性能の良い Amazon Aurora に切り替えたいと考えたのです。

 

RDBMS のコストを約2割削減

 

AWS 金海:GA のタイミングで利用されていたことから、おそらく日本国内において最速に近いくらいのスピードで、Amazon Aurora で AWS Graviton2 搭載のインスタンスを本番環境に適用した事例だと思います。データベース移行後、どれくらいのコスト削減を実現できたでしょうか。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネージャー(西日本統括) 金海 裕市

 

三代:アーキテクチャ変更やアクセス数の増加などがあったため単純比較はできませんが、野球関連システムの RBDMS にかかるコストは2割ほど下がったように感じます。かつ、性能に優れる Amazon Aurora に変更したことで、パフォーマンスの課題も解消されました。

 

今後は競馬AI予想解析メディア「SPAIA AI競馬」のデータを格納する RDBMS もAWS Graviton2 プロセッサを搭載したインスタンスへと変更したいと考えています。「SPAIA AI競馬」はユーザー数の急増によりアクセスが増加しています。

 

競馬情報を扱うシステムは野球情報のシステムと近いアーキテクチャを用いているため、同様のコスト削減が実現できるはずです。当社では可能な限り積極的に新しいインスタンスタイプを使うようにしています。

 

AWS 永山:多くの企業ではデータベースインスタンスのコストが AWS の利用額の中でも大きな割合を占めるため、いかにコストダウンするかが各社共通の課題になっています。その参考になる事例だと感じました。

 

AWS Well-Architected フレームワーク*でも、新しいインスタンスタイプほどコスト効率が良くなるため、使用するインスタンスタイプを更新し続けていくことが推奨されています。AWS Well-Architected フレームワークの観点からも、グラッドキューブ様の選択は非常に理にかなっています。

 

*…AWS Well-Architected フレームワークは、AWS を用いてアーキテクチャを構築するための知見をまとめたベストプラクティクス集。優れた運用効率、セキュリティ、信頼性、パフォーマンス効率、コストの最適化という5つの柱に基づいて解説されています。

 

データをさらに活用し、スポーツの世界に貢献する

AWS 永山:今後のアーキテクチャ改善の予定を教えてください。

 

三代:グラッドキューブはデータを活用して価値創出する企業ですから、今後も Amazon S3 や Amazon Athena、Amazon Aurora、Amazon Elasticsearch Service といったデータ分析の各種サービスを積極的に利用し、ユーザーにより高い価値を届けていきたいと考えています。また、リリースサイクル高速化のため各システムのコンテナ化を推進しており、Amazon EKS や Amazon ECS の導入を増やしていく予定です。

 

さらに、Amazon Aurora への移行が完了し、野球関連のシステムは当面の間、現在のアーキテクチャを利用する方針が固まったことから、2021年7月に RDBMS のリザーブドインスタンス*を購入しました。これにより、さらなるコスト削減が実現できるはずです。

 

*…RDBMS の特定インスタンスを一定期間継続して利用することを前提に購入することで、通常のオンデマンド料金と比べて大幅な割引価格が適用される機能。

 

アマゾン ウェブ サービス ジャパン ソリューションアーキテクト 永山 大輔

リモートにて取材に参加

AWS 永山:そのエピソードも、読者の方々にとって役に立つ情報となりそうです。リザーブドインスタンスはコストメリットに優れる反面、一度購入するとしばらくはインスタンスタイプを変更できない点を考慮しておく必要があります。そのため、インスタンスタイプを最新のものに変えてからリザーブドインスタンスを購入するという手順は、セオリーに忠実だと感じました。

 

AWS 金海:どの側面を切り取ってもベストプラクティスに沿っている素晴らしい事例でしたね。最後に事業としての今後の展望を教えてください。

 

金島:冒頭で少しお話ししましたが、試合を視聴するという意味の「観る」、データや記事などを閲覧するという意味の「見る」に加えて、将来的には怪我などを防ぐため診療するという意味の「診る」という領域もグラッドキューブが担っていけたらと考えています。

 

私は学生時代から野球をやっており、かつてはプロ野球選手を目指していました。野球は体の故障に悩む人の割合が高いスポーツです。そして、多くの場合は怪我をする前にピッチングフォームやバッティングフォームが崩れるなど、なんらかの兆候が現れます。

 

この課題を AI やデータ分析によって解決したいと考えています。例えば、選手のフォームを動画で撮影して、怪我をする可能性などを割り出せれば、事故を未然に防げるかもしれません。実現はまだ先になるかもしれませんが、そんな世界を現実にできれば「SPAIA」はスポーツのありとあらゆる情報を扱うプラットフォームになれると考えています。

 

AWS 金海:今後の展開に期待しております。みなさん、今回はありがとうございました。

 

一同:ありがとうございました!