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デジタルコマースの歴史と次の十年で注目すべき 5 つのトレンド

コンピュータ上での売買の歴史は長いですが、e コマースという呼び名で知られるようになったのは 1994 年後半の Netscape Navigator のリリースに始まったと言えます。Netscape Navigator は消費者にインターネット利用が普及するきっかけとなった初期のウェブブラウザの 1 つです。以来、e コマースはユビキタスなショッピング形態となり、消費者売上高全体の約 10 %を占めています。2020 年のパンデミックにより e コマースの活用が加速し、イノベーションが促進されたことで、購買体験は合理化され、商品は見つけやすくなり、ショッピングにおいてもパンデミック対応のためのソーシャルディスタンスが可能になりました。

e コマースの歴史

歴史的な観点から見ることで市場がどこに向かっているのか理解できることがあります。デジタルコマースの歴史を詳しく見ていきましょう。

e コマースの台頭に貢献したトレンド、テクノロジー、企業の年表
日付は代表的なものを表しており、必ずしも発明された年ではありません

 

1970 – 1990 年代: e コマース初期

1970 年代後半から 1980 年代、オンライン掲示板や小グループによるディスカッションフォーラムで、参加者が他の参加者に販売したいアイテムを提供するようになりました。ユーザーインターフェイスはベーシックなもので、何かを売買するには向いていませんでした。標準的な支払い方法もなく、人々はどうやって支払いを行うか考えなくてはなりませんでした。この初期の形式の e コマースでは高度な信頼が必要とされるのが常でした – 郵便小切手を送り商品が届くのを待つわけです。

1990 年、World Wide Web が誕生しました。数年後には HTML が Web サイトの標準開発言語となり、1994 年には Netscape Navigator がクライアント・サーバー間のオンライン通信を保護するための Secure Sockets Layer (SSL) を提供し、Web は多くの人に身近なものとなりました。Amazon や eBay といった企業への扉を開いた技術であり、また Dell や Victoria’s Secret などの通信販売業者にとっては e コマースのパラダイムがそのビジネスモデルに適合しやすいものであったため、新しい販売機会をもたらすものとなりました。

ATG や Intershop などいくつかのベンダーが市場に参入し、小売業者が売買を行うためのウェブサイトを構築、保守するための e コマースプラットフォームを提供するようになりました(訳注: 日本での楽天の創業は 1997 年です)。e コマースのこの初期段階では、アーリーアダプターである多くの小売業者が、顧客体験を向上させるためのテクノロジーを実験していました。Amazon は有名な評価とレビューの機能を追加し、1990 年の終わりまでには「今すぐ買う」機能で特許を取得しました。一方、1999 年はじめには Salesforce がクラウドコンピューティングによりもたらされるものについてヒントを与えてくれていました。

2000 年代: e コマースの成熟

2000 年代はテクノロジー成熟期でした。RESTful API は結果的にマイクロサービスとして定着し、e コマースプラットフォームベンダーの新しい形が立ち上がりました。同時期 Amazon が Amazon Web Services (AWS) を立ち上げ、企業はマネージドデータセンター運用のためにクラウドを利用し始めました。2000 年代半ばから後半にかけてはまだ、SaaS アプリケーションは主流となっていませんでした。

Sterling Commerce が 2005 年はじめに Yantra を買収した頃、分散受注管理が主流となり、小売業者は店舗を利用したフルフィルメントに真剣に取り組み始めました。マルチチャネルという言葉がクロスチャネルに取って代わりました。最終的に IDC の Lesley Hand が、今では一般用語となったオムニチャネル小売と呼ぶようになりました。全米小売業協会の Ellen Davis と Scott Silverman が 2005 年 11 月 28 日のプレスリリースでサイバーマンデーという言葉を創り出し、Amazon がプライム会員に無料で 2 日間以内の配送サービスを提供し始めました。

2000 年代後半には e コマースは消費者に支持される勢力となりました。モバイルデバイスやソーシャルメディアでの購買も始まり、まさに「デジタル」化したのです。この頃までにはあらゆるチェーン小売業者がオンラインでも存在感を示すようになっていました。

2010 年代: e コマースの最適化

2010 年、Oracle は e コマースプラットフォームベンダーの草分け的存在である ATG を買収しました。これをきっかけに、大規模なテクノロジー企業が小売業界の e コマースにチャンスを見出し、統合が進みました。 そしてクラウドコンピューティングが主流になりました。 イノベーションにより機能が向上し、コストが削減されたため、多くの著名な e コマースベンダーがクラウドに移行できるようになりました。

2013 年 Amazon はドローン宅配サービス Amazon Prime Air の計画を明らかにし、2016 年後半にはイギリスのケンブリッジで Prime Air による宅配に初成功しました。米国におけるドローン宅配サービス普及のための規制を決定すべく Amazon は FAA (Federal Aviation Administration; 米連邦航空局) と緊密に連携して活動しています。

この間、小売業者はより良い顧客サービスのためという名目でプライバシーの境界を拡げはじめていましたが、欧州連合が 2016 年に EU 一般データ保護規則 (GDPR) を導入しました。GDPR は、消費者がオンライン上の個人データをより細かく管理できることを目的としています。一方、大手小売業の e コマースウェブサイトが多数ハッキングされ、何百万もの消費者の個人データとクレジットカードデータが漏洩し、サイバーセキュリティが最重要事項となりました。

2020 年代: 機械学習

さて、新たな十年間がスタートし、次なる e コマースの革新とは何だろうかと思われるでしょう。私は著名なテクノロジーベンダーで小売システムの開発にキャリアを費やし、多くの大手小売企業で指導的立場として働いてきました。私が考える、今後の十年間の小売業界のトレンドは以下です:

  1. 即配: この十年、企業はサプライチェーンを最適化することで納期を一週間から 2 日、2 時間へと短縮してきました。Amazon は納期を短縮するために、先駆けて消費者により近い場所に物流拠点を開設してきました。ドローンや自動運転車、Amazon Scout のような歩道配送ロボット、ライドシェア配送などが当たり前となり、即配の十年間になるでしょう。
    すべきこと: 小売業者は自社の受注管理ソリューションが多くのフルフィルメントオプションをサポートできるだけの十分な柔軟性を備えるようにしてください。消費者が新たな配送方式を利用できるようになったとき、すぐに対応できるようにしておくことです。
  2. 自動化: 特殊なタスクをこなすために設計されたロボットも、倉庫や店舗で当たり前になるでしょう。Amazon Robotics (かつての Kiva Systems)が火付け役となりました。今ではいくつかのベンダーが自動ピッキングを提供しています。英国 Ocado の自動化倉庫では、ロボットが食料品をピッキング、梱包しています。
    すべきこと: 店舗が物流拠点化になっていくにあたり、十分な広さのストックルームが準備され、ピッキングや梱包のプロセスを合理化するロボティクスやその他自動化テクノロジーによる最適化が実装されているかを確認してください。
  3. 食料品購買のオンライン化: 2020 年のパンデミックで人々が食料品を購入する方法が変わりました – これはおそらく永続的なものになるでしょう。食料品チェーンは e コマース化に消極的でしたが、著名な食料品店の多くは多額の投資を行って消費者の日々の食料品調達を早く簡単にしようとしています。これからの十年で消費者への配送選択肢は増え、食料品店による e コマースの採用も大幅に拡大するでしょう。
    すべきこと: 消費者はアプリや音声テクノロジーを使って買い物リストを作成したり購入したりするようになっており、食料品チェーンは e コマース戦略の策定と実現にできるだけ早く取り組む必要があります。
  4. あらゆるシーンに機械学習 (ML) : クラウドコンピューティングは ML をすべての小売業者が利用可能なものにしました。ML ベースのテクノロジーがますますプロセスに組み込まれるようになるということです。これらのソリューションにより、企業は顧客とのやり取りを最適化し、サプライチェーンをスピードアップし、不正を減らすことができるようになるでしょう。
    すべきこと: 多くの小売業者にとってスタッフとしてデータサイエンティストを雇うのは高すぎます。低コストの代替手段としてデータ駆動型の ML ベースのテクノロジーを活用しましょう。データサイエンティストの専門知識を利用するために必要に応じてパートナーシップを構築することもできるでしょう。
  5. 複合現実: 仮想現実 (VR) と拡張現実の利用が拡がることで、商品をイメージしやすくなり、確信を持って購買できるようになるでしょう。アバターに 2D 画像を重ねる試着ではなく、快適な自宅でのバーチャル試着で洋服のフィット感を確認することができるようになるでしょう。VR ゴーグルがあれば店舗にいるかのように商品に触ることもできます。こういった複合現実テクノロジーにより、小売業者はこれまでのオンライン販売ではあまり売れなかったような商品の売上を伸ばすことができるようになるでしょう。
    すべきこと: 3D 空間で商品を正確に再現するためには複雑な商品写真が必要になります。自前の撮影スタジオや、スタイルや審美眼、予算に合わせてくれるベテランのベンダーに投資してください。

小売業者は、オンライン掲示板や Netscape Navigator といったウェブ初期から長い道のりを歩んできました。AWS はこれらすべてのトレンドの最前線にいます。先のブログ投稿「小売業におけるデジタルコマース戦略の実現方法」では、小売業者に向けた昨今のデジタルコマースの包括的な概要と、デジタルテクノロジーを利用して最優先事項に取り組むための戦略を紹介しました。あなたがデジタルジャーニーのどの時点にいようとも、AWS がお手伝いします。ジャーニーを始めるために今すぐアカウントチームにお問い合わせください。

 


著者について

David Dorf

David Dorf は、AWS のワールドワイドリテールスペシャリストであり、小売業界のお客様にソリューションを提供しています。 これまでに Infor Retail、Oracle Retail、360 Commerce、Circuit City、AMF Bowling、Schlumberger の Retail & Banking 部門においてさまざまなテクノロジーを使用した小売システムを開発する役職を歴任してきました。テクノロジー標準について NRF-ARTS に数年間協業し、Retail Orphan Initiative の慈善団体を継続的にサポートしています。バージニア工科大学、ペンシルベニア州立大学で学位を取得しています。

 

翻訳は Solutions Architect 杉中が担当しました。原文はこちらです。