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IoT@Loft #10 スマート工場(IIoT)に向けた課題と取り組み 〜見える化、予知保全、品質管理〜 vol.2

IoT@Loft の第10回目は「スマート工場(IIoT)に向けた課題と取り組み 〜見える化、予知保全、品質管理〜 vol.2」をテーマに、2回目となるオンライン開催を行いました。

工場のIoT 化は、予知保全、生産性向上、デバイス管理、設備の安全管理など多岐にわたり、収益向上やコスト削減を実現しています。今回、様々な分野で工場のスマート化にご尽力されているエンジニアの方々にご登壇頂き、現場の課題とそれに応えるソリューション事例などをご紹介頂きました。また、IoT@Loftでスマート工場をテーマにするのは今回が2回目となります。前回スマート工場をテーマに実施したIoT@Loftの情報や登壇者の方の資料はこちらにあります。さらにこれまでのイベントまとめ記事はこちらにありますので、合わせて確認してみてください。

この回では、目視検査を AI で自動化する取り組みについてシーシーエス様に、工場オペレーションを管理するアプリケーションについて丸紅情報システムズ様に、そして製缶ラインの高速機械をIoT化した取り組みについて東洋製罐様にお話いただきました。また、AWSからはスマートファクトリーを実現する AWS の IoT ソリューションについて紹介しました。

IoT@Loft とは ?

IoT 関連ビジネスで開発を担当するデベロッパーのためのイベントです。IoT の分野は、「総合格闘技」と呼ばれるほど、必要な技術分野が非常に多岐に渡ること、ビジネスモデルが複雑なケースが多く、全体を理解することは難しいと言われています。その結果、実証実験 (Proof of Concept : PoC) から商品への導入が進まないケースや、PoC でさえ十分に実現できていないケースも多々あります。

IoT@Loft は、そういった IoT 特有の課題と向き合い、情報共有・意見交換を行う場として、参加者の事業や製品開発を成功に近づけることができれば幸いです。この勉強会では、膨大な IoT 関連の情報の見通しを良くするために、各回ごとにテーマを定め、それに沿った形で登壇者に事例や技術のご紹介を頂きます。テーマは、インダストリー、ソリューション、テクノロジー、開発フェーズなどを軸に決めていきます。

LT セッション

ここからは各LTの内容をダイジェストで紹介してまいります。また今回はどのご講演に関しても、視聴していただいた皆さんから多数のご質問をいただきました。いただいたご質問については、ご講演者より回答をいただき掲載しておりますので、あわせてご覧ください。

LT1 – 目視検査を AI で自動化する取り組み

まずシーシーエス株式会社様には、目視検査を AI で自動化する取り組みとして、シーシーエスの検査ソリューションをご紹介いただきました。シーシーエス株式会社様はLEDを活用した検査用照明機器メーカーで、国内で約40%のシェアを持っています。

外観検査の際には、見たい特徴を撮れないといった課題がよくあります。そこで照明を工夫することによって、見たい特徴を抽出できるようになります。例えば500円硬貨の例だと、携帯のカメラと室内照明では見えなかった偽造防止の刻印も、最適な検査用照明を用いることで見えるようになります。その他にも検査用照明を正しく用いることで、IC パッケージの表面に刻印されたモデル番号がはっきりと読めるようになったり、顆粒中の小さな異物が明瞭に見えるようになったりします。このようにライティングソリューションを用いることで、これまで見えなかったものが見えるようになります。

またここで、携帯カメラとマシンビジョンカメラ(以下、MV カメラ)を比較しながら、MV カメラの良さを説明します。カメラレンズや照明については、携帯カメラでは交換できないが、MVカメラでは交換可能であるため、最適なものおよびパラメータを選択可能です。製品の良品・不良品を判別した推論結果を比較すると、携帯カメラだと推論結果の分布が重なり合ってしまい明確な閾値設定が難しいです。一方でMV カメラを用いた場合には分布が重ならず、その分布の境目に閾値を設定することで、判別の精度が向上します。

このように外観検査を実施する際には、機器選定からそれらのパラメーター調整、撮影環境の準備など、多くの準備と考慮事項があります。そこでシーシーエス様では、最適な撮像が行えるよう、ライティングコンサルタントと共にテスティングルームを国内に12拠点を配置しています。また撮影から学習と検証までを行う、AIラボを東京と京都に設置しています。ここでは、画像検査に特化した AI ソフトウェアを複数用意し、外観検査を行う AI 導入に向けた支援を行なっています。

このように、最適なカメラ・レンズが決められない、いつも安定した撮像ができないといったお客様に対してシーシーエス様は上記のようなソリューションの提供を行なっています。

Q&A

Q. 工場の生産ラインに新規に撮影用カメラを設置する場合に用意すべき器具はカメラ、ケーブルのほか何が必要でしょうか?

お客様が必要とされる仕様によりますが、他に必要な機材は一般的にはカメラからの画像データーを撮り貯めるPC/ソフトと、対象物を観察するのに最適化した照明(電源)が必要となります。

Q. 新規にカメラを設置しデータ収集できる状態にするまで、いくらほどかかりますか?

条件により大きく金額が異なりますので、個々でお見積りが必要となります。

Q. DeepLensをカメラとして用いて照明に関して相談にのっていただくことは可能ですか?

是非、ご連絡下さい。御相談をお待ちしています。

Q. AIを使う/使わない の判断はどの様に行われているのでしょうか?

お客様の判断となりますので一概にお答えできません。もし、目視での検査が最適となれば、その内容から最適な照明や機材などのご提案を差し上げます。

Q. テスティングルームのような理想的な環境で撮像するのではなく、環境の悪い実際の生産現場で条件設定や学習データの収集をしたほうが効率的ではないでしょうか。

ラインへ導入するフェーズでは、実際の現場での学習データーが必要となります。しかし、導入検証を始めるフェーズでは理想的な環境により、照明、カメラ、レンズ及びAIのハイパーパラメータを最適化する過程で、何が有効かを大きな知見を得ることが出来きます。

Q. セッション中でご紹介頂いた照明により映し出された様々な画像は、画像処理により同様の画像を導くことも可能なものもあるのではと思います。画像処理ではなく、照明で当該画像を生み出すことのメリットがあれば教えて下さい。

画像処理の上で得られる内容は沢山あります。しかし、撮像した画像で予め必要とする情報の取捨選択されていれば、安定して処理を行うことが可能です。また、その画像処理に要する時間も短縮されます。

Q. テレセントリックレンズの場合、ご紹介頂いた特性から撮影するものから遠ざけても映し出せる画像の範囲は一定になるのではと思いましたががいかがでしょうか?例えば、携帯の一般的なカメラでは撮影物から遠ざければ広い範囲が移せると思いますが、テレセントリックレンズの場合、範囲は広がらないのではと思いました。テレセントリックレンズを選定する場合のポイントや注意点があればお教えいただければと思います。

多くのレンズは、フォーカスの合う距離(ワークディスタンス)は固定されていますので、必要とされるレンズ仕様から選定する必要があります。そして、テレセントリックレンズは観察する画角は一定となります。立体物による影からの死角の影響を少なくしたり、遠近による寸法の変化が少なくなることから、位置の観察用途に多用されます。一般的に、テレセントリックレンズは大きくなりますし、価格などは一般なレンズより高価になる場合が多いですので、仕様に応じた最適なレンズ選定につきましてもお手伝いすることが出来ます。

Q. AI納入に関して、3ステップ踏んでいる理由は何でしょうか。

導入に当たり、成否の可能性の分からない案件に最初から大きな時間や費用をかけることなく、ステップ毎で成否の見極めを行うことが出来ます。

Q. イテレーションの回数は、どのように決めたのか?

最初は少ない回数からスタートして、良品、不良品を正確に判定していること、また、分別が出来る回数にしています。

Q. vidiの評価が高いようですが実際のところどうでしょうか?

撮像画像に応じて、検証しながら最適なAIをご提案します。

 

LT2 – ”せっかくの IoT データ、ためこんだままでいいですか?” 工場オペレーションを管理するアプリケーションをノンプログラムで Web アプリケーションを構築

次に、丸紅情報システムズ株式会社様には、工場オペレーションを管理するアプリケーションをノンプログラムで Web アプリケーションを構築するソリューションについてお話いただきました。本LTでは、色々な設備のデータを統合してみたい、データをすぐにみたい、工場のオペレーションに対して課題を持っているお客様をターゲットに、Operations Hub という工場の運用を改善するツールについてご紹介しました。


Operations Hub は、ノンプログラミングかつ、ブラウザベースであるためデバイスに依存せず、いつでもどこでも開発環境を提供できます。工場内のセンサやPLC接続でき、ドラッグ&ドロップ操作でブラウザ上でコンポーネントを選んで簡単にモニタリングダッシュボードを作成できます。そのため、現場の専門家であるパワーユーザーを主なターゲットとしています。また、開発環境から実行環境にすぐにデプロイおよび確認できます。

プリント基板の製造ラインの事例では、在庫状況をリアルタイムで可視化する仕組みを構築し、在庫が少なくなるとアラートを発報するよう設定しました。またこの事例では、在庫管理者が見る画面や生産技術者が生産情報を見る画面など、現場や担当者ごとに画面を作り込んでいました。この事例では、半年かかると見積もられるの開発期間を Operations Hub を導入したことで、3ヶ月と半分に短縮することができました。

また、モバイル行灯についても紹介しました。

  • 設備の異常発生の見落としを解消し、リアルタイムに把握したい
  • 作業を優先するため、両手を使って作業をしたい
  • 復旧時間を短縮したい

などといった課題に対し、モバイル行灯を用いることで、

  • リアルタイムに通知
  • 復旧処理の短縮化
  • 担当者別やライン別、通知作の振り分けが可能
  • 復旧対応を誰が対処しているのか把握可能

となります。

そして最後に、Operations Hub と AWS との連携イメージを紹介しました。まず工場内に AWS IoT Greengrass をインストールしたゲートウェイを設置し、センサやPLCからのデータを Greengrass 経由で AWS クラウドへ送信します。AWS 側の受け口となるのが AWS IoT Core です。この AWS IoT Core に送信されたデータを、AWS IoT Core のルールエンジンに設定した AWS Lambda へ転送します。そしてこの AWS Lambda が Amazon EC2 の Windows インスタンス上の Operation Hub へデータを送信します。このような構成で AWS クラウド上に構築した Operation Hub へデータを送信し、可視化することができます。

ご登壇資料

Q&A

Q. 他社製品との違いは何ですか?

Operations Hub を現在ご使用頂いているお客様よりは、直感的な操作性と、この開発環境であれば、難しくなく現場でも使って貰えるレベルであり、使用するコンポーネントが揃っていると評価を頂いております。またパーマネントライセンスの設定があり、安価でありながら、センサーの接続数、アクセスユーザー数に制限が無く、ノンプログラミングで柔軟にアプリケーションを開発出来る点を評価頂いています。その他ご不明点や、ご確認事項が御座いましたら丸紅情報システムズまでお問い合わせ下さい。

Q. 買い切りのソフトウェアでしょうか。ソフトにデータを送り込むにはどのようにすれば良いのでしょうか。

Operations Hub のライセンス形態は、パーマネントライセンスとなります。なお、初年度より年間保守契約に加入頂いており、ライセンスのアップデートの権利が得られます。Operations Hubとのデータ接続については、REST-APIコネクターというオプションをツールがありますので、こちら機能を利用頂くことでデータ接続の部分を簡易にしております。なおデータ接続ドライバの作り込みを弊社で承ることも出来ますので、丸紅情報システムズまでご相談下さい。

Q. Operation Hub をお試しすること(ライセンスや費用、入手性)は簡単ですか?データソースは OPC-DA/OPC-UA です。

Operations Hubの評価及びライセンス費用については、丸紅情報システムズまでお問い合わせ下さい。なお OPC-UA での接続は、標準機能で実現できますが、OPC-DA での接続は、オプションでご用意しております、IGS-Driver(プロトコル変換ドライバ)を利用することで接続することが出来ます。

Q. Operation Hub はデータを保持しているのでしょうか?それとも周辺システムのデータをのぞきに行くのでしょうか?

Operations Hub は周辺ステムから REST または MQTT プロトコルで送られてきたデータを内部データベースに保持します。

Q. Operation Hubは対応している PLC メーカーの制限はありますでしょうか?

各種メーカーの PLC との接続は、オプションでご用意しています、IGS-Driver(プロトコル変換ドライバ)を利用して接続することが出来ます。詳しくは丸紅情報システムズまでお問い合わせ下さい。

Q. Operations Hub の価格体系を教えてください。

詳細な価格につきましては、丸紅情報システムズまでお問い合わせ下さい。

Q. どのようなデータベースに接続できますか?

時系列データベースとなる GE Digital 社の Historian との接続は、標準機能で接続することが出来ますが、現行バージョンではリレーショナルデータベース(RDB)に直接接続することはできません。中間サーバ等で RDB データを MQTT、REST プロトコルで送信する手立てを加えれば連携することは可能です。データ連携につきましては、弊社で承ることも出来ますので、丸紅情報システムズまでご相談下さい。

Q. こちらのアプリはローカル(ネットワークに接続していない環境)で実行することは可能なのでしょうか?

Operations Hub は、CPU:クワッドコア以上、メモリ:16GB 以上、対応 OS:Windows Server 2016/2019 のサーバー上で動作致します。オンプレミス/クラウドのどちらの環境でもご使用頂けます。

Q. アプリ開発に関して、貴社の補助は受けられますか?

Operations Hub 上で動作するアプリケーション開発については丸紅情報システムズで承ります。

Q. オンプレ⇒クラウドに移行しているのはなぜでしょうか?

製造部門及び製造現場の中でご使用頂く場合、サーバー管理のノウハウがない、独自に管理するのが手間であったりする場合に、情報システム部門に相談した場合にIT側のシステムの延長で、クラウドの拡張利用を提案され、ご使用頂く場合が出てきています。

Q. Operations Hub のAWS 連携イメージで紹介されていた AWS IoT Greengrass を動かすゲートウェイのハードウェアで想定・推奨されているものはありますか?

現時点では推奨ハードウェアはございませんが、Greengrass がインストールできるハードウェアでしたら基本的には問題ないと考えております。詳細は、こちらをご覧ください。

Q. スマートウォッチを使用した事例についてですが、スマートウォッチについてメーカーの指定などはあるのでしょうか。またブラウザについても指定はありますでしょうか。

実際には、搭載 OS:Android7.1 WiFi機能付のスマートウォッチをご利用頂いております。基本的には、Webブラウザがあれば動作します。詳細には丸紅情報システムズまでお問い合わせ下さい。

Q. 機械学習機能は、いくつのアルゴリズムが搭載されているのでしょうか。

Operations Hubそのものには、機械学習機能はありません。四則演算までとなります。機械学習は、AWS のサービスである「Amazon SageMaker」ないし、他社の Analytics ツールをご利用いただき連携する形となります。「SageMaker」につきまして詳しくお聞きになりたい場合は、AWS社にお問い合わせをお願い致します。

Q. 多言語対応はしていますか?

開発環境の対応言語としては、英語、日本語となります。作成されるアプリの言語については、開発で利用されるPCがサポートする言語に依存します。例えば、中国語を入力できるPCであれば、中国語のアプリ画面の作成が出来ます。

Q. 設備データを学習して、何が判るのでしょうか?

設備からのデータをHistorian(時系列データベース)を利用して蓄積する事で、トレンド分析(統計的)が出来ます。簡易的な異常のトレンドを見ることが出来ます。

Q. PLCからゲートウェイへのデータ転送もノンプログラミングですか?

PLCからゲートウェイへのデータ転送は、オプションでご用意しております、IGS-Driver(プロトコル変換ドライバ)を利用する事で接続することが出来ます。基本的には設定をする事で実現出来ます。

Q. 既存設備のデータの取り込みについては、工場毎に様々なケースがあると思いますが、これら接続のサポートはどのようになっていますでしょうか?MQTTで取り込めるとスライドに記載されていましたが、他対応可能なプロトコルなどオペレーションハブへのデータの取り込みについてもう少し詳しくお教えいただけたら幸いです。

現時点ではMQTTの他にRESTも対応しております。今後は随時OPC-UA等他のプロトコルに対応していく予定です。設備側からMQTTやRESTで決められたデータフォーマットでアップロードしていただく必要がございます。

Q. ユーザーがWebアプリを作成することが簡単なことは理解しましたが、その前段の条件として、

– どこにどんな機器を設置して
– どのようなデータをどうやって吸い上げるか
– セキュリティ面を鑑みたデータやり取りに関するネットワーク設計

等を考える必要があると思います。過去事例では、IT部門のかかわり方はどの範囲まで踏み込むことが多いでしょうか?(どこまでユーザー部門に任せられるものかの力加減を気にしています)

Operations Hubには、データを蓄積する機能と蓄積したデータを可視化する両方の機能がございます。通常のアプローチとして、ご指摘いただいたポイントなどの実現方法を検討した後、どこまでをOperations Hubで達成するかを検討する必要がございます。この場合、お客様毎に最適なアプローチを検討することになりますので、詳細をヒヤリングさせていただき検討を進めさせていただくことになります。また、IT部門との関わり方につきましても、お客様毎に状況が異なり、技術的な面とともにヒヤリングさせていただき進めさせていただければと思います。

Q. うまく導入できなかった事例はどのような事例でしょうか。

利用するデータが取得出来ていない場合や、解決すべき課題や目的がはっきりしていない場合となります。

Q. MESとはどう違うのでしょうか?

Operations Hubは、ノンプログラミングでWebアプリケーションを迅速に簡単に開発出来る事を目的としたツールとなります。MESの一部の機能を実現する等は出来ますが、生産管理システム(MES)の全ての機能を網羅するものではありません。なおMESと連携をし、必要な人に必要な情報を提供する役割をOperations Hubが担うことが可能です。

Q. クラウドを活用したアラート機能のリアルタイム性とはどのぐらいの時間を言うのでしょうか。

取得するデータ間隔やご使用になるネットワーク環境にもよりますが、Webブラウザをベースにしていますので、数秒から数十秒程度となります。

LT3 – 製缶ラインの高速機械を IoT 化した取り組み

そして東洋製罐株式会社様には、自社の製缶ラインの高速機械を IoT 化した取り組みについてご紹介いただきました。

東洋製罐株式会社様は、金属や樹脂容器におけるリーディングカンパニーで、主に缶やペットボトル、レトルト容器のバウチを製造しています。この製缶の工程で、高速成形機械における不良缶の発生を予知したい、というのが今回お話です。この背景としては、

  • 事後対応を減らすことによって、コスト削減を図りたい
  • 定期的に人が目視確認している作業をなくしたい
  • 熟練者ではなく初心者でも判断できるようにしたい

といったモチベーションがありました。そこで、加工軸が缶の品質に影響を与えているのではないかという仮説を立て、加工軸に8種類のセンサーを取り付けました。このセンサデータを収集し可視化および分析することによって、この仮説を検証することとしました。これを実現するため、製造現場のデータを安全に社内サーバへ取り込む必要が出てきました。そのため今回、AWS とソラコム様のサービスを使用し、このセンサを IoT 化することとしました。その構成を以下に示します。

工場内のPLCから Armadillo-IoT ゲートウェイを使用してセンサデータを収集します。またこのゲートウェイに SORACOM AIR という SIM を挿すことによって、閉域網で SORACOM プラットフォームに繋がっています。この SORACOM プラットフォーム上では、SORACOM Funnel というサービスを使用して、AWS クラウドにある Amazon Kinesis Data Firehose にデータが転送されています。Firehose は、オブジェクトストレージである Amazon S3 へデータを保存しています。S3 に保存されたデータは、Amazon EC2 を用いて Amazon Direct Connect 経由で、東洋製罐様のテクニカルセンター内にあるデータ収集サーバー(RDB)へ蓄積されます。また今回特筆すべきは、たった1回の工場への訪問で、機器を設置しこの構成を動作させることができました。
これは、SORACOM Napter を用いてゲートウェイへのリモートアクセスを実現したため、普段なかなか出張できない工場へ導入することができました。

この構成によって、現在大量の正常データを収集することができました。これから教師なし学習をし、異常データを含む波形を検出する予定で、この検出結果から品質変化の分析を進めていきます。このように、高速成形機械のデータを AWS へアップロードし、蓄積することができました。また SORACOM を利用することで、セキュアなデータ取得方法も確立できました。

今後の目標としては、よりインテリジェントな製造ラインへすることを目指していきます。そのためにまずは今回のアーキテクチャをスタンダード化し、製造現場の隅々に IoT で光を与えたいと考えています。また、セカンドプランを現在 AWS と計画中です。

ご登壇資料

Q&A

Q. 高速成型という事なのですが、タクトはどの位なのでしょうか?

今回紹介した事例では200ミリ秒です。サンプリングとデータ送信を並列に行っております。

Q. 機械学習サーバをクラウド上に構築しなかった理由はなにになりますでしょうか?

オンプレミスのシステムで機械学習PCを利用しており、今回の事例のデータも同様に処理したかったためです。また、初めて製造現場をSORACOMで繋ぐ試みだったので、データ収集基盤を作ることを重視していました。

Q. 工場=>AWS=>機械学習PCという通信経路だと、通信時間がかかる様に思いましたが。通信時間に関する課題は無かったのでしょうか?

今回の事例ではデータ収集に重きを置いており、リアルタイム性は必要としておりませんでした。一方、タイムスタンプは重要です。SORACOM Funnelを通過した時間が記録されるので、データ発生時刻のタイムラグはほとんどなく、分析に使うことが出来たと考えております。

Q. 回線不安定などによるデータ欠損の防止策は何か講じてしますか?

現在は対策が出来ておりません。デバイスやゲートウェイ側でのバッファリングや再送処理を実装する必要があると考えております。

Q. DynamoDB などもありますがS3にデータを蓄積しているのはなぜでしょうか?

ストレージのコストが安価であったことと、元々保有していたオンプレミスの RDB を利用するためです。S3は仲介ストレージとして位置付けております。

Q. ゲートウェイには何らかのソフトが入っているのでしょうか?自動で SORACOM Funnel に投げてくれるのでしょうか?

LINUXが動いており、標準的なネットワークコマンドが利用できます。iptables コマンドで IP ヘッダを変換する NAPT テーブルを作れますので、そこで宛先に funnel.soracom.io:23080 を指定すると Funnel に転送できます。

Q. 国内と国外両方で導入されているのでしょうか?実現している場合、どのような課題がありましたか?

現在は国内のみです。国外は未実施ですが、通信部分にSORACOM社のグローバルSIMを利用することで、今回紹介したアーキテクチャを構成可能です。

Q. Soracom air は専用線を用意するといった認識でしょうか。また、自社データセンターは経由せずにsoracomへデータを送出するのでしょうか。

はい。SIM カードを購入して、種々設定しますと AWS とセキュアな通信環境が構築できます。データは自社よりも先に AWS 内に構築してある SORACOM プラットフォームへ投げられます。

Q. 非常に速い周期でサンプリングしたようですが、一方で通信速度は遅いと思います。この差異はどのように解決したのでしょうか?

解決策として、データ分析に影響がないレベルでサンプリングレートを落としたり、エッジ/ゲートウェイ側で間引きやバッファするなどの工夫が必要と考えております。

Q. ありえない波形の除去方法は?

ある角度範囲において取りうるセンサー値の範囲が決まっていますので、その範囲外の値が含まれていたら、その周期番号に紐づくデータは除外するプログラムを組んで対処しました。

Q. 得たデータからあり得ないデータを取り除いたとありましたが、その際に異常も取り除いてしまうリスクがあるのではないでしょうか。

上記回答と関連して、除外する対象の範囲がおおざっぱすぎると異常データも除外してしまう可能性がありますので注意が必要だと考えております。

Q. 社内で AI エンジニアをどのように育成されたのかご教示頂けると嬉しいです。

AI エンジニアは育成できておらず、今回の取り組みを行ったタスクフォースチームのメンバーで小規模で進めております。

Q. 機械学習にはどのようなソフトを使われてますか?AWS 様のソフトですか?

オープンソース系のものを使用しております。

Q. パケットロスは、回線側の要因でしょうか?センサー側の要因でしょうか?取得されているデータ周期から、センサー側もスペック必要なのでしょうか?

恐らくゲートウェイの処理能力だと考えております。オンプレミス環境では同様のセンサー、PLC でパケットロスは見られません。過剰なデータ量となっている可能性もあるため、データの軽量化など盛り込む必要があると考えております。

Q. ネットワーク開発は、生産部門としてやられているか、情シス部門となるか、どちらの体制でしょうか。工場 IoT への情報システムの関わり方の議論をしており、もし差支えなければお教えください。また、そのような体制とした理由や課題があればお教えください。

IoT の取り組みは部門間の組織連携を図りながらシステム構築・開発することが重要であり、課題でもあります。社内体制の話が含まれますので、詳細は個別に回答させて頂ければと思います。

 

LT4 – スマートファクトリーを実現する AWS の IoT ソリューション

AWSからは、IoT スペシャリスト ソリューションアーキテクトの園田より、スマートファクトリーを実現する AWS の IoT ソリューションについてご紹介しました。

生産現場におけるクラウドの活用例

まず、生産現場におけるクラウドの活用例を以下にご紹介します。

  1. 生産状況の見える化
  2. 分析による業務改善
  3. 予兆保全・品質予測
  4. 品質データの改ざん防止

まず複数拠点の生産状況を可視化するために、クラウドが活用できます。また可視化は生産現場におけるクラウド活用のファーストステップとなります。複数拠点からのデータを集約する場所としてクラウドは最適です。大量のデータをストレージ容量を気にすることなく保存できます。

可視化しただけでは生産現場の改善には繋がらないため、その次のステップとして、可視化されたデータをもとに分析による業務改善を実施します。これにより、改善箇所や改善すべき内容が明確となってきます。

また分析した結果から、機械学習などの技術を用いて予兆保全・品質予測までを行うのが次のステップです。さらには品質保証のため、品質データの改ざんを防止する仕組みを導入されるお客様もいらっしゃいます。

AWS を活用した工場 IoT のデータ活用基盤例

次に、工場 IoT のデータ活用基盤例として、AWS サービスを用いたリファレンスアーキテクチャを以下に示します。

この構成は、大きく以下の3つのパートに分けることができます。

  1. エッジ
  2. 収集、前処理、蓄積
  3. 活用

まず、生産現場においてエッジコンピューティングが必要となるのは、以下のような場合です。

  • 既存環境の各種設備のデータを収集する必要がある
  • ネットワークの帯域に制限がある
  • オフライン時もラインを停止できない
  • 高頻度でデータが発生する
  • 制御ロジックは継続的にアップデートしたい

このようなエッジコンピューティングが必要となる場合にご活用いただけるのが、AWS IoT Greengras です。Greengrass は、AWS の処理機能の一部をデバイスの上に拡張することのできる、デバイスソフトウェアです。お客様の任意のデバイス上にインストールして、そのデバイス上でエッジ処理を実行可能です。また OTA 更新の機能を持っているため、継続的な開発およびアップデートも可能です。

特に工場のケースで Greengrass が以下のような場面で活用いただけます。

  1. 工場とクラウド間のプロトコルアダプタ
  2. クラウドからプログラムを配信、運用

まず、直接クラウドとやり取りできない設備に対し、クラウドへのゲートウェイとして様々なプロトコルでローカル通信する、工場とクラウド間のプロトコルアダプタとして活用いただけます。また、クラウドで開発したプログラムをエッジに配信して実行する機能を持っているため、生産現場に行くことなく機能アップデートを行うこともできます。

工場 IoT におけるデータの活用

産業用 PC と AWS サービスの連携による生産の見える化では、産業用 PC から AWS IoT Core へデータを送信し、AWS IoT Core のルールエンジンを使用して、Amazon ElasticSearch Service や AWS IoT Analytics などへデータを転送することができます。ElasticSearch や、IoT Analytics と QuickSight を組み合わせることで分析や可視化を AWS 上で実現することができます。ElasticSearch の Kibana は生産現場の稼働状況などを、QuickSight は稼働実績や統計情報などを可視化するのに適しています。

また、予兆保全や品質予測には、AWS IoT Greengrass によるエッジ推論の機能が活用できます。本機能は、クラウドで学習したモデルをエッジ側に簡単にデプロイし、エッジでの機械学習の推論を行うことができます。さらに本機能では、AWS の機械学習サービスやパートナーにより生成したモデルをエッジに配信して推論することもできます。

また、工場 IoT における品質データの改ざん防止には、フルマネージド台帳データベースである Amazon QLDB がご活用いただけます。

最後にまとめとして、スマートファクトリーにおけるAWSの活用は進んでいます。AWS を利用することで、差異にならないインフラの構築から脱却し、ビジネス成果に Focus したスマートファクトリー化を進めましょう!

登壇資料

Q&A

Q. 「工場IoTにおけるデータ種別ごとの収集例」のページで Greengrass Core から S3 に画像データを送るような矢印が出ていますが具体的にどの機能を利用して実現するのかを確認させてください。

S3 にアップロード頂く場合、Greengrass 上で動作する Lambda の program に例えば python であれば boto3 を import して S3 にアップロードする形になります。権限は Greengrass Group Role に付与できるため、プログラムやデバイスに AWS の認証情報を埋め込む必要はありません。

Q. EdgecrossにGreenGrassを搭載し、PLCからのデータを連携させることはできますか?エッジでAIを動かすようにしたいと考えています。

Edgecross に Greengrass を搭載、というよりは、 Edgecross と Greengrass を別々のプロセスで動作させて連携させる形になります。PLC から Edgecross が取得したデータを csv ファイル、MQTT、OPC-UA のいずれかの形で export できますので、そのデータに Greengrass がアクセスし、エッジで AI 処理を行うことが出来ます。

Q. ストリームデータを AWS IoT Core を介さず、AWS IoT Analytics を経由して、S3 に格納する絵になっておりましたが、どのような機能になりますでしょうか?

Greengrass では IoT Analytics ConnectorStream Manager for IoT Analytics といった、ある程度のデータをまとめて batch で送る機能を提供しており、これを利用することでリアルタイム処理不要なデータを効率的にアップロードすることができます。

Q. 製造業において変化を嫌う傾向があると思うのですが、エッジ側のロジックのアップデートを安全に行うためにはどのようするのがよいかなどのベストアーキテクチャはございますでしょうか?

試験環境の Greengrass で評価後、本番環境にリリースするといった手段や、本番リリース後に実現場の精度を監視し、必要に応じてロールバックするといった手段が考えられるかと思います。

Q. Greengrass に対して画像・動画を Ingest する場合のプロトコルアダプタはございますでしょうか?

6/2 時点ではありません。Lambda で実装頂く形となります。

Q. 画像/動画ファイルをクラウド上に持ってくると、データ容量が大きくなってしまうので、エッジ側で扱う為の AWS さんのサービスはありますか?

AWS IoT Greengrass を活用し、画像や動画ファイルをクラウドにアップロードすることなく推論に活用したり、精度が低い画像や、再学習に利用したい期間の画像のみクラウドにアップロードする、といった制御を行うことができます。

次回 IoT@Loft のご案内

前回に続き今回もオンライン開催となりましたが、今後も IoT@Loft はオンライン開催(もしくは Loft 現地とオンラインの併催)を続けていく予定です。次回の IoT@Loft は、6/17(水)に「スマートビルディングにおける IoT 活用の取り組み」というテーマでオンライン開催予定です。また、Connpass のグループに登録していただくと、イベントの開催情報や登壇資料のアップロードなどの通知が届きますので、是非ご登録ください。

IoT@Loft #11 申し込みページ

著書について

 

 

 

 

 

飯塚 将太

AWS の IoT スペシャリスト ソリューションアーキテクトとして、お客様の IoT 関連案件を支援しています。