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AWS を活用した船荷証券のデジタル化 – WNS Malkom はいかにして LTL (小口トラック輸送) 請求プロセスをデジタル化したか –

船荷証券 (Bill of Lading: BoL) は、小口トラック輸送 (Less-than-Truckload: LTL) において最も重要な書類です。これは、荷送人と輸送会社の間で交わされる、輸送する商品の受領を確認するための物理的な紙の書類です。ここで荷送人とは、出荷される商品の供給者である個人または会社のことです。輸送業者は、個人および/または企業のために商品を輸送する個人または会社であり、輸送中に起こりうる商品の損失に対して責任を持ちます。船荷証券には、貨物の性質、重量、サイズ、個数による貨物の量、出発地と目的地、および請求先が記載されています。この書類を正確かつタイムリーに処理することは、小口トラック輸送会社が効率的なオペレーションを行う上で欠かせません。

船荷証券を扱う上で輸送会社が直面する主な課題

  1. 紙のフォーマットかつ標準化されていない請求書フォーマット:請求プロセス (船荷証券の詳細を貨物管理システムに入力すること) は極めてマニュアルであり、かつ標準化されていません。荷主ごとに船荷証券のフォーマットが異なり、自動化の実現が困難となります。
  2. 正確なデジタル化:デジタル化の精度は非常に重要です。デジタル化に誤りがあると、貨物のルート、処理、請求が誤って行われてしまう可能性があるからです。
  3. 突発的なワークロードの処理:トラック運転手は複数の貨物を一度に集荷し最後に全ての請求書をターミナルに届けるため、これら請求書の流入は一定にはなりません。3-5 時間の間に 70-80% の請求書が到着するようなスパイクを処理するための、スケーラブルなソリューションが必要になります。
  4. 膨大な数のビジネスルール:小口トラック輸送ビジネスは通常、さまざまな種類の貨物や荷主に対応しています。そのため、荷送人、荷受人、請求先、支払条件、商品の種類など、デジタル化する過程で様々なビジネスルールに対応する必要があります。

独自のデジタル請求プラットフォームである WNS Malkom は、AWS を活用してこれらの課題を解決し、船荷証券の処理を自動化するためのデジタルデスクを実現しています。本ソリューションは 3 つのパートで構成されており、それらをお客様に応じて組み合わせることで、AWS 上でエンドツーエンドのデジタルデスクを提供します。

Part 1: 船荷証券の取り込み

  • 主な目的:スキャンした請求書が到着すると取込処理し、必要な所要時間内にテキスト/データ/情報を抽出します。大手運送会社の場合、ピーク時には 1 時間あたり 10,000 枚の請求書が到着することがあります。一般的な所要時間は 15 分から 60 分程度です。
  • 主な非機能要件:
    • 様々なフォーマット、タイプ、解像度の請求書を取り込むことができる
    • 電子メール、ファイルアップロード、API など、複数のチャネルから請求書を取り込むことができる
    • 負荷が急増しても要求された所用時間内に処理を完了することができる
    • 荷送人、荷受人、送り状情報を約 90% 以上の精度で請求書から自動抽出することができる
    • 請求者からの修正やフィードバックにより抽出精度を継続的に向上させ、可能な限りタッチレス処理を実現できる
    • 抽出時に荷送人または荷受人に応じたビジネスルールを適用することができる

Part 2: 船荷証券の検証

  • 主な目的:デジタル化された請求書を代理人や監査人に提示し、検証や確認を行います。
  • 主な非機能要件:
    • 画像内の矩形領域を選択することにより、その場で請求書から情報を抽出できる
    • 請求書のどの部分から情報が抽出されたかを代理人に視覚的に示すことができる
    • 荷主、荷受人、送り状、輸送品の種類に応じた特別な指示やソフト・ハード検証などのビジネスルールを設定することができる

Part 3: 船荷証券の提出

  • 主な目的:貨物管理システムでの下流処理のために、記録システムと統合し検証済みの請求書を提出します。
  • 主な非機能要件:
    • RPA (Robotic Process Automation)、ファイル、API など、複数の方法を活用して統合できる
    • 例外を処理することができる

以下の画像は、WNS Malkom BoL ソリューションのリファレンスアーキテクチャです。

上述の要件を実現するために、本ソリューションは以下のようにAWSを活用しています。

機能 ソリューション 活用する AWS サービス

複数のチャンネルで様々なフォーマットを取り込むこと機能

電子メール、ファイルアップロード、API など、複数のチャネルから請求書を取り込む機能

スキャンした画像を受け取るための複数のチャンネル

  • API インターフェース
  • クラウドストレージ
  • メール
Amazon API Gateway, Amazon S3, and Amazon Simple Email Service (Amazon SES)
複数種類の請求書(画像、PDF、Word、Excel など)から内容を自動抽出する機能
  • メール受信、API コール、クラウドストレージへのファイルプッシュなどのイベントをトリガーとした、サーバーレス抽出パイプライン
  • AWS のフルマネージド機械学習サービス「Amazon Textract」を活用した、画像や PDF からのコンテンツ抽出
  • WNS 独自の Shipping contextualization エンジンを活用した、荷送人、荷受人、送り状、商品、重量、貨物タイプ、様々なタイプの出荷先参照番号 (ARN)、および出荷指示などのエンティティ抽出
Amazon Textract, AWS Lambda, Amazon SNS, Amazon SQS, WNS’ proprietary Shipping contextualization engine
負荷の急増に対応し、一貫した高性能なスループットを実現する機能
  • AWS クラウドのサーバーレス機能を活用。現在、このプラットフォームはシームレスに 1 時間当たり 12,000 枚の文書を処理することが可能
  • スケーラビリティ、信頼性、高可用性のための AWS Well-Architected Framework のベストプラクティスの活用
Amazon Textract, AWS Lambda, Amazon SNS, Amazon SES, Amazon SQS, Amazon Aurora Serverless, Application Load Balancer, Auto Scaling Groups, Amazon CloudWatch
抽出精度を継続的に向上させる機能
  • 荷送人、荷受人のために入力する出荷照会番号を自動的に検出し、請求書から抽出された情報をもとに関係者に請求。それには以下の技術を活用:
    • 代金取立手形データと参照データがある場合はそれを元に入力
    • 過去にシステムを通過したデータを基にした機械学習を用いた予測の活用
WNS’ proprietary Shipping contextualization engine
画像内の矩形領域を選択することで、その場で請求書から情報を抽出する機能 JavaScript ベースの OCR により、代理人がその場で OCR を実行可能 Open-Source JavaScript OCR Library
請求書のどの部分から情報が抽出されたかを代理人に視覚的に示す機能 抽出されたテキストの座標をもとに、画像内の一部分を視覚的に強調することが可能 Amazon Textract
RPA、ファイル、API など、複数の方法による統合機能 サーバーレスのイベントベースアーキテクチャにより、船荷証券のデジタル表現を JSON または XML 形式で生成して下流システムに連携可能 Amazon API Gateway, Amazon S3, AWS Lambda

詳しくは、Serverless on AWS をご覧ください。

まとめ

前述した技術を活用することで、一切人手を介さず、精度に妥協することなく、船荷証券の 70-90% を正確にデジタル化することができます。サーバーレスアーキテクチャによって、WNS Malkom は人手を介すことなく、1 時間あたりの請求書の処理能力を数枚から 12,000 枚以上へとスケーリングすることが可能になります。

AWS for Transport and Logistics の詳細については、AWS アカウントチームまでお問い合わせ下さい。


ブログ著者紹介

Puneet Sachdev
WNS Global Services のコーポレート バイスプレジデントとして、旅行、配送・物流、ユーティリティ、DMRT、カスタマーエクスペリエンスなど、あらゆるテクノロジーソリューションの陣頭指揮を執る。また、WNS のクラウドコンピテンシーをリードしています。

Sachin Sapkale
Amazon Web Services のエンタープライズ ソリューション アーキテクトで、メディア & エンターテインメント、金融サービス、ヘルスケアなどさまざまな業界で 21 年以上にわたってアーキテクチャと開発の実践経験を持ちます。金融サービスやヘルスケアなど、規制環境下でのクラウドベースソリューションの設計支援に注力しています。

本ブログの翻訳はソリューションアーキテクトの山田が担当しました。原文はこちらから参照できます。