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【開催報告】クラウド時代のエンジニア像とは?〜VPoE/CTO/Tech Leaders が語る、採用・育成・Tech 組織の作り方とは
ソリューションアーキテクトの駒原雄祐です。2022 年 6 月 28 日に、「クラウド時代のエンジニア像とは?」と題したイベントを開催し、ZOZO、ニューラルポケット、note、リクルートのエンジニア組織を牽引する立場の方々にご登壇いただいて、採用や育成、Tech組織づくりについて赤裸々に語っていただきました。
前半のセッションパートでは、高い技術力を武器にインターネットビジネスを展開しているという共通項を持ちつつも、企業規模や事業ステージの異なる 4 社のキーパーソンが、それぞれの会社における工夫や課題、現在に至る変遷などをセッション形式で惜しげもなく語っていただきました。
後半では、AWSのインターネットメディアソリューション本部 本部長の千葉をモデレーター、ご登壇いただいた方々をパネリストとして、パネルディスカッションを実施しました。パネルディスカッションでは、視聴者の方からの鋭い質問に対し、生々しいお話も披露いただき、CTOや技術人事、エンジニアマネージャから、現場で活躍するエンジニアに至るまで、幅広い層の方にとって、非常にためになる内容だったのではないかと思います。
アジェンダ
- ZOZOが歩んできたテック組織の作り方 (株式会社ZOZO 技術本部 本部長 兼 VPoE 瀬尾 直利 氏)
- ニューラルポケットの成長を支えるマインドセットとスキルセット (ニューラルポケット株式会社取締役CTO 技術開発本部 本部長 佐々木 雄一 氏、執行役員 技術開発本部 技術戦略部 統括部長 見上 敬洋 氏)
- noteプラットフォームの成長と開発組織 (note株式会社 CTO 今 雄一 氏)
- 会社統合を経てリクルートのデータ組織が目指す未来とそこに向けた組織的取り組み (株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 データ推進室 データテクノロジーユニット ユニット長 阿部 直之 氏)
- パネルディスカッション
ZOZOが歩んできたテック組織の作り方 (株式会社ZOZO 技術本部 本部長 兼 VPoE 瀬尾 直利 氏)
これまで分社化や子会社の吸収合併をおこないながらエンジニア組織も拡大を続け、2021年10月にビジネス部門とエンジニア組織が統合した ZOZO の VPoE としての立場から、採用・育成・組織について、直面した課題とそれに対する様々な取り組みを紹介いただきました。2004 年の ZOZOTOWN オープン以降、技術スタックを大きく変えることなく運用されてきた中、「技術をモダン化しないと採用が困難」という判断が起点となり、技術のモダン化を含むリプレースプロジェクトが始動したというのは、とても興味深いお話でした。育成面では、「エンジニアとして成長できる組織づくり」として 「技術トレーニングによるモダン技術の習得」、「社内技術共有会による横のつながり・ノウハウ共有」、「テックリード・技術顧問による技術レベルの引き上げ」、「開発ガイドライン策定による当たり前レベルの引き上げ」、「評価制度による成長の促進」の 5 つの施策を紹介いただきましたが、中でも、社外の各領域の有識者からアドバイスを得られる技術顧問制度は、社内だけで完結せず、業界を広く活用した特徴的な取り組みだと感じました。組織面では、「逆コンウェイの法則」を参考にした、先にアーキテクチャがあり、それに合わせて体制を作るという組織づくりがユニークでした。様々な取り組みをご紹介いただきましたが、ZOZO の「競争ではなく協調を重んじる」カルチャーを、採用・育成・組織のすべてにおいて大事にしているということは終始一貫して述べられていたのが印象的でした。
ニューラルポケットの成長を支えるマインドセットとスキルセット (ニューラルポケット株式会社 取締役CTO 技術開発本部 本部長 佐々木 雄一 様, 執行役員 技術開発本部 技術戦略部 統括部長 見上 敬洋 氏)
2018 年の創業からわずか 2 年 7 ヶ月で東証マザーズへの上場を果たした、急成長中のスタートアップとして、マインドセットとスキルセットの切り口から、独自のチーム論やスキルの捉え方について、詳しくお話しいただきました。ニューラルポケットでは、チームに足りないスキルを特定し、それを保有する人員を採用する「一般的なチーム」ではなく、チームメンバーが持つ「スパイク」を踏まえ、できる範囲で最大の効果を得る、「スパイクベースのチーム」を志向し、スキルをソフトスキルとハードスキルに分類、モデル化した上で、あくまで中核に考えるのは「ソフトスキル」であると強調されました。チーム内で、常に How? ではなく Why? の視点で会話すること、自分の価値観や原則に素直であることがそれを培い、「原則」に基づいて見いだされるタスクを対応することで価値あるハードスキルを生み出せる、という人材像・チーム像をお話いただきました。少数精鋭であるがゆえに、一人ひとりが自ら何をなすべきかを見出すことが強く求められており、それを正しいプロセスで導き出すための「ソフトスキル」を重視するという点は、まさにスタートアップとしての強みを最大限に発揮し、成果を最大化に直結する、とても興味深いお話でした。
資料: ニューラルポケットの成長を支えるマインドセットとスキルセット
noteプラットフォームの成長と開発組織 (note株式会社 CTO 今 雄一 氏)
2014 年のローンチから、急成長を遂げた note と、プロダクトの成長に合わせて急拡大を続けたエンジニア組織の課題と変遷を、4 つのフェーズに分けてご紹介いただきました。黎明期の 5 名程度の体制で、意思決定やコミュニケーションの課題はないものの、採用が後手に回って苦しい時期の続いた「初期」から、徐々にメンバーが増え、「チーム制」に移行。3 チームに分割し、カルチャー定着が必要な局面で、 Mission Vision Value (MVV) を策定し、Slack やオフィス内に掲示し、カルチャーとしての定着を図るとともに、評価軸としても組み込まれました。更にプロジェクトが大規模複雑化し、PM の必要性が認識され、職能 ✕ 目的別の「マトリックス組織」に移行。この頃にグレード制、組織サーベイ、N% ルールといった制度面での整備が多く行われ、より「組織」として機能させる施策をご紹介いただきました。これらを経て、現在は、マトリックス組織は解体し、「機能だけでなくその上に載せる価値をセットで考えて実行する組織デザイン」として、職能混合の「Cross Functional チーム」の体制が敷かれているということです。初期フェーズから、急拡大を経て、それぞれの時期の直面した課題に合わせ、取り組んできた試行錯誤と組織デザインに、とてもダイナミズムが感じられるセッションでした。
会社統合を経てリクルートのデータ組織が目指す未来とそこに向けた組織的取り組み (株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 データ推進室 データテクノロジーユニット ユニット長 阿部 直之 氏)
2021 年 4 月、7 つの中核事業会社および機能会社を統合したリクルート。それに先行して統合が行われた「データ組織」について、各社の中で個別に最適化されたデータ活用環境を一つに集約したことで発生した様々なコンフリクトを発端とし、個別最適と全体最適のバランスを目指した、様々な取り組みをご紹介いただきました。異なるスキルや文化を持つメンバーが集まっている多様性を活かしながら、キャリアラダー定義によりメンバーのキャリアモデルを可視化し、各領域への関わりで得られた知見を活かしたレビューや LT 大会を通じた情報共有を実施。加えて類似機能の共通化を図りつつもトップダウンで一律導入することはせず、ビジネスモデルやデータ特性に合わせて各領域組織での選択に委ねるなど、横断組織としての強みを最大限引き出しながら、関わる各領域に寄り添って成果を最大化するための惜しみない工夫がとても印象的でした。
リクルートデータ組織での取り組みは こちら でも紹介されています。
資料: 会社統合を経てリクルートのデータ組織が目指す未来とそこに向けた組織的取り組み
パネルディスカッション
AWS の SA 千葉がモデレーターを努め、ご登壇いただいた 4 社の方々に、セッションの内容を踏まえてより深堀ったディスカッションが実施されました。本ディスカッションでは、「組織づくり」「採用」「育成」の観点から様々な質問に答えるだけでなく、パネリスト同士での活発な議論も行われるなど、時間いっぱいまでとても盛り上がったディスカッションとなりました。テーマごとの要約を以下まとめておりますが、ぜひ動画もご覧ください。
組織づくり
冒頭では、セッションでは触れられなかった、「これから発生しそうな組織課題」について質問があり、note の今様からは事業の成長に合わせて、様々な課題を乗り越えるために組織を変化させてきた一方、機動的な施策投入や運用面でモノリシックなシステムが課題となっていることをお話いただきました。ZOZO の瀬尾様からは、それを克服するために、アーキテクチャドリブンで体制づくりをしてリプレースを進めており、事業フェーズの変化によって直面する課題と、先行してそれを経験し独自の工夫で乗り越えようとしている話が興味深く、ためになるものでした。
採用
優秀な人材を採用するために工夫していることについて、リクルートの阿部様からは、「優秀な人材の定義」として、「リクルートの環境に入って成長できる方」と捉えているということを強調した上で、今のような組織としても大きく変化しているフェーズでもコミットできる人材であれば楽しく成長していけるはずであり、アンマッチをなくすためにも、できるだけ自分たちのカルチャーを外部に発信するようにしているというお話をしていただきました。ニューラルポケットの見上様は、「採用要件としてスキルセットを要求していないが、何か特異なものがあるということは大前提として重視している」とした上で、カルチャーへの共感を持った上で、自分で考えることや議論することが好きな人は一緒に楽しく働けると考えているというお話をしていただきました。カルチャーマッチを採用時に評価する手法として、ケース面談を活用し、面接の中で具体的な問題設定をした上で、実際に解決の道筋を話してもらうことで、どういう考え方や価値観で動く人なのかが見えてくるという具体的な採用手法もご紹介いただきました。採用時にカルチャーマッチを判断するのは、面接や書類という限られた情報の中で難しいテーマですが、入口の時点でできるだけマッチする人材にエントリーしてもらう工夫や、面接の中で判断するための具体的な手法もご紹介いただき、採用に携わる多くの方にとって参考になるものだったと思います。
育成
各社「カルチャーマッチを重視する」という点で共通しているが、カルチャーマッチという観点でのメンバー評価はどのように行っているのか、それを育成するためにどう工夫しているか、という質問に対し、note の今様は、定義された Value をエンジニアの具体的な振る舞いにどう当てはまるかを分かりやすく示すために、具体的な事例をまとめたドキュメントを作成・共有されているほか、Slack でのリリース報告や取り組みの共有などの投稿に対して、今様自身や他の役員の方から、それにマッチする Value の Slack スタンプを付けていき、それらをまとめたチャンネルも用意している、という取り組みを紹介いただきました。それを見れば、Value に即したアクションが具体的にはどういうものであるかが可視化され、エンジニアのオンボーディングにも活用するなど、育成面でも活用されているとのことでした。ニューラルポケットの見上様からは、メンバーの評価方法として「他者からどう見られているか」を重要視しているとお話いただきました。定期的に、必ず評価対象のメンバーの周囲のメンバーからヒアリングを実施し、同社の Value に即しているかを評価していることを紹介いただきました。Value を一人ひとりが腹落ちしていれば、表に現れる行動に一貫性が生まれるはずで、そういうところを大事にしている、という価値観もお話いただきました。人材育成面での重要なテーマである「評価」面でも、具体的な形は異なっていても各社のカルチャーや Value の切り口にした評価が行われているのは印象的でした。
視聴者からの質問「ご自身の後任について」
当日は、ご視聴いただいている参加者の方からも質問を受け付けました。その中で、「ご自身の後任についてどう考えていますか?」というものがありました。データ組織の統合と立ち上げを担うリクルートの阿部様からは、「後任が自分のコピーである必要はない」とし、立ち上げフェーズと成長フェーズでリーダーに求められることは異なり、それに適した人材が担ってくれることを期待していることをお話いただきました。ZOZO の瀬尾様は、「自分の後任は常に考えている」とのことで、というのおも、ZOZO のエンジニア組織のマネージャ層の KPI として明確に「後任の育成」が定義されており、それができていないとステップアップができない仕組みになっているからだとのお話でした。VPoE といったポジションに関わらず、そういった評価基準・価値観が広く共有されていることで、組織全体としての強靭さにつながっていくのだと感じました。
まとめ
今回、企業規模も事業フェーズも異なる 4 つの企業から、エンジニア組織をリードする錚々たる面々に、自社のエンジニア組織の特徴や変遷、今後の課題や苦労話など、貴重なお話を数多く聞くことができました。何らかの形でエンジニア組織の運営に関わっておられる、視聴いただいた参加者の皆様にとっても、学びの多い濃密な時間だったのではないでしょうか。
組織のあり方に唯一絶対の正解などはなく、各企業それぞれに直面してきた課題を一つずつ乗り越えて来た中で、現在の魅力的な姿がそれぞれ形作られてきたということがよく分かりました。また、何より、各社で具体的な形は異なっていても、エンジニア組織として「自分たちはこうありたい」というビジョンが言語化され、それを体現するための様々な制度設計や取り組みが行われているところは共通していると感じました。
最後になりましたが、この度ご登壇いただきました 株式会社ZOZO の瀬尾様、ニューラルポケット株式会社の佐々木様、見上様、note株式会社の今様、株式会社リクルートの阿部様には、心より御礼申し上げます。
本ブログはソリューションアーキテクトの駒原が担当しました。