Amazon Web Services ブログ

AWS Summit 2022から振り返る、保険業界におけるAWSクラウド活用の進展

日本の保険業界において、国内の経済成長鈍化や少子高齢化により、業界各社は、従来型のマーケット及び保険商品への依存度を低減することが求められています。そして顧客は情報に上手にアクセスし、より良いサービスを見出すことに長けてきており、そのような顧客に、保険を超えた付加価値をも提供し続けなければならない環境にいるとも言えましょう。そのような中、業界各社は、デジタル戦略を推進し、保険ビジネスそのものの効率化、さらに保険ビジネスにとどまらない新サービスや新事業への取組みに向け、その有力な手段としてクラウド活用を加速している状況にあります。

保険業界におけるクラウドの活用領域としては、その迅速性・柔軟性・拡張性といった特性から、まず、お客様やパートナーとのつながりを担うSoE (System of Engagement=つながりのシステム)や、データ活用に新たな知見や洞察の獲得を担うSoI (System of Insight=洞察のシステム)といった、トライアルと改善の繰り返しが必要かつ有効な領域から着手・展開されているケースが多いと言えます。しかしここ数年、加えてミッションクリティカルなSoR (System of Record=業務記録のシステム)への拡がりも進んで来ています。 2022年の AWS Summit においても、複数の保険会社による SoR 領域を含む事例セッションで、そのことが可視化され、保険業界でのクラウド活用が次のステージに入りつつあると考えられます。

ではここから、保険会社における公開事例を中心に、AWS の活用がどのように進んで来ているのかをご紹介します。

保険業界においてAWS活用が早期に進んだのは、損害保険でのSoEやSoIの領域と言えます。

東京海上日動火災保険株式会社様は、2013年からAWS活用を開始、ITを素早く手軽に活用しニーズに合わせて随時または臨時に拡張することが求められるSoEやSoIの領域で、プラットフォームは自前では用意しない「クラウド・オンリー」の方針を打ち出され、クラウドの積極的な活用を推進されています。ここでは高速開発を目指し、AWSを活用してIaC(Infrastructure as Code)、アジャイル開発、CI/CDを推進されています。 またSoI領域においてマネージドサービス中心での構築を行うという先進的なAWS活用も実践されています。

損害保険ジャパン株式会社様は、「安心・安全・健康のテーマパーク」をスローガンに、その主軸の1つとしてデジタル戦略を推進されています。その戦略を担うサービスの1つとして、自動車保険の特約サービスとして多機能型のドライブレコーダーを活用した安全運転支援サービス『Driving!』を2018年から提供されています。 ここでAWSを活用され、インフラ構築コストの削減、運用負荷やメンテナンスコストの軽減、可用性・冗長性の確保を実現されています。「インフラの調達が不要なAWSは、新しいサービスを試してみるのに最適な環境です」という声もいただいています。 デジタル戦略を推進するサンドボックスでAWSを採用。 さらに、同社のデジタル戦略推進を担う SOMPO デジタルラボでの「デジタルR&D」においてもAWSを活用した“デジタル・サンドボックス”という PoC 実験環境を構築・活用され、2017年の立ち上げから2020年には、累計PoCは253件に上り、その中から37件のサービス化を実現されています。(AWS Summit 2018ご登壇

MS&ADグループの三井住友海上火災保険株式会社様は、中期経営計画 『Vision 2021』 における柱の1つとしてデジタライゼーションを掲げられ、AI を活用した代理店の営業支援システム『MS1 Brain』をAWS上に構築されました。『MS1 Brain』により、顧客の契約内容、契約履歴、事故情報などのビッグデータからニーズやリスクの変化を察知し、一人ひとりに最適化した保険商品やサービスを代理店の営業担当者にリコメンドすることが可能になり、顧客体験価値の向上や営業生産性の向上が実現しました。 同社の標準セキュリティ基準に対応できるというセキュリティレベルの高さも AWS 選択の決め手となりました。またオンプレミスで開発していれば3年はかかっていたであろう開発期間を1年半に短縮できたことや、拡張性を手に入れたことも、AWS 採用の大きな効果となったとのコメントも頂いています。

アクサ損害保険株式会社様は、お客様へ自動車保険料の見積を提示する際、機械学習による特約のレコメンデーションという付加価値情報の提供機能を追加しています。お客様に類似する既存のお客様の契約データを基に、特約の追加を理由付きでお勧めするというもので、これにより成約率の5%増加及び収入保険料の8%増加という成果が出ているそうです。

続いて、損害保険のSoR、基幹系業務領域における活用も進展がみられています。

東京海上グループのイーデザイン損害保険株式会社様は、“究極のCX(顧客体験)”実現に向けたインシュアテック保険会社へ変革する構想をスタートさせています。そこでAWSと2つの柱で共創を進められました。 1つは「顧客起点」で新ビジネスを創出する「デジタルイノベーションプログラム(DIP)活用」、そしてもう1つが、 AWSを活用した柔軟で迅速に展開できるシステム基盤の実現です。これまでにないCXを提供する自動車保険『&e(アンディー)』を、基本構想から約1年半でリリースしました。『&e』では、顧客体験を向上するユーザーインターフェイスや契約・事故・収納といった保険基幹業務のシステム、カスタマーセンターの電話機能、データ分析、それらを疎結合かつ柔軟に接続する API 連携、運用監視などすべての基盤を AWS 上にフルクラウドで構築しました。(AWS Summit 2020ご登壇

2022年のAWS Summitにおいて、同じく東京海上グループの東京海上日動様における、SoR領域でのクラウド活用事例が公開されました。先行したSoEやSoIでのクラウド化の取組を3年ほど行った結果、開発の迅速化・効率化といったクラウド化のメリットが確認できたこともあり、2017 年 には SoR のクラウド化検討もスタートしました。そしてIaaS (Infrastructure as a Service) と、サーバレス、マネージドサービスを活用してインフラ面を意識する必要がなくなるFaaS (Function as a Service) の2種類の SoR 標準クラウド基盤の構築を進めました。 クラウド化によりオンデマンドでのリソース作成が可能になったため、開発スピードは大幅に向上しました。また FaaS を活用した場合には AWS のクラウドネイティブなサービスによって、開発スピードはさらに高くなったといいます。 2022年1月時点で約3割のシステムがクラウドで稼働する状況となりました。「最終的には主要システムの多くをクラウドで稼働させる予定です」とのコメントを頂いています。

生命保険業界でも AWS の活用は拡がってきています。その中で、公開されたものを以下にご紹介します。

業界で最初に事例公開されたのは、SOMPOひまわり生命保険株式会社様です。同社は、SOMPOホールディングスグループの国内生保事業を担い、「日本一イノベーティブな生命保険会社」として、国民が健康になることを応援する「健康応援企業」への変革を進められています。その一環として、健康増進サービス「Linkx(リンククロス)」を推進されていますが、そのITプラットフォームとしてAWSを採用いただいています。 Amazon VPC に加えサードパーティのサーバーセキュリティや監視ツールを組み合わせることでセキュアなシステム基盤を構築しました。コスト面でも、ハードウェア調達費用が大きく低減され、同時に「インフラセットアップのための期間や人件費も1/3程度に削減された。インフラ対応のために削減できた工数は、アプリケーションの迅速な提供のために費やすことができた」とのことです。

ライフネット生命保険株式会社様は、オンライン生命保険市場におけるリーディングカンパニーを目指されています。経営方針における重点領域のひとつに、「顧客体験の革新」としてデジタルテクノロジーを活用し、全てのサービスを質的に高め進化させることを掲げられています。その実現に向け、データの取得・分析・活用に渡るサービスの拡張性を担保するため、AWSをベースにシステムを設計・構築されています。お客様のメイン窓口となるWebサイトやAPPのバックエンドにAWSを採用し、CM効果などによるトラフィック増や需要増にも対応する安定運用を実現されています。またお客様の声を統合するコンタクトセンターでもAWSのコンタクトセンターサービス、Amazon Connect を採用され、在宅勤務体制の確立やリソース効率化を狙っています。

そして2022年AWS Summitで、「生保次世代プラットフォーム」について事例公開されたのが朝日生命保険相互会社様です。同社は、人生100年時代を迎え、生命保険事業を通じお客様の「生きる」を支え続ける会社であるべきとの中期経営計画のドライバーとしてDX戦略を位置付けられています。そこで、新しいビジネスを展開しやすく、効率的で高度なセキュリティがあり、既存システムとの親和性が高いシステム基盤を目指しAWSを採用されました。お客様との接点や新しいビジネスに必要となる他のサービスとの有機的な連携は、攻めの領域としてAWSクラウドで開発するととし、今後の分散システムはこれを前提とされ、既存の業務システムの刷新を進められています。「朝日生命AWS次世代プラットフォームをフルに活用し、商品・サービスを提供していく」とのことです。

ある外資系生命保険様でも、多く稼働するレガシーシステムについて、長期的なクラウドによるベネフィットを享受するために、クラウドネイティブの活用によるマイグレーションを推進されていることを、AWS Summit でご紹介いただきました。

以上のように、保険業界でのAWS活用は加速度的に進んでおり、それに伴ってAWSの保険業界におけるお客様サポート体制やパートナーネットワークも拡大し、より安心してご活用いただける環境が着実に整ってきております。また、業界における、アーキテクトやエンジニアのお客様同志の結び付きも拡大しており、業界における切磋琢磨ができる環境として多大な評価をいただいています。

本ブログをご覧の保険業界関連のお客様におかれましても、ぜひAWSへアクセス・ご活用いただき、このAWSの保険業界ネットワークにご参加いただきたく、お待ちしております。

―著者についてー

河合俊浩

河合は、アマゾンウェブサービスジャパンの金融事業開発本部で保険業界を担当する事業開発マネージャーです。保険業界のお客様のAWSクラウド活用を支援及び推進すべく、業界事例情報の収集・提供、業界特化ソリューションのプロモーション、パートナリングの推進、マーケティング支援等を行っています。損害保険会社及び外資系ソリューションプロバイダー勤務による、保険業界の業務・アプリケーション・システムに関する知識経験、及びソリューション開発・マーケット開発の経験・実績を活かし、より多くの保険会社のお客様に、より広い領域でAWSクラウドを活用いただくための、様々なイニシアティブを策定・推進しています。