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SCM: サプライチェーンを強化するか、それとも近代化するか?

Ships and containers

お客様との会話の中で、サプライチェーンマネジメント(SCM)は人材やアジリティに関する事と同じくらいよく議論されるテーマになっています。過去2年間にわたるパンデミックやその他の破壊的な出来事と、持続可能性の目標を達成する必要性に直面し、企業はサプライチェーンについて、自分が思っているほど多くの事を知っているとは限らないことに気づかされました。私の同僚の Dimitrios Armenakis Sebastian von Berg の2人に、変化の為の原動力が何か、そして効率的で効果的になるためにはどうすればよいかについての見解を共有してもらいました。 — フィル

SCM: サプライチェーンを強化するか、近代化するか?

最近の出来事により、ビジネス上の成果を実現する上で SCM が重要であることが浮き彫りになっています。破壊的な出来事、顧客需要、人手不足という大嵐は、企業がサプライチェーンと戦略的な必要なことに迅速に対応する為の洞察を深めるきっかけとなっています。

多くの企業、特にグローバルに事業を展開している企業は、サプライチェーンの混乱により、収益と株価の急落を経験しました。彼らの反応は、調達や計画にもっと多くの人員と資金を投入したり、リスクを特定して軽減するために大量のリソースが必要なプロセスを実行したり停止したりするなど、しばしば受身の反応でした。パンデミック、ブレグジット、気候による自然災害、そして悪名高いスエズ運河封鎖などの出来事は、世界中の産業に影響を与えています。共通点は SCM です。

これと並行して、パンデミックは新しい顧客の行動も生み出しています。企業間取引(B2B)の顧客や最終消費者は、より多く、より速く、を要求してきました。彼らは、企業が自分達のニーズに迅速に対応することを望んでいます。競合他社を 1 つの Web ページで簡単に比較できるようになったため、ほとんどの場合に取引先や購入先を変える為のスイッチングコストはそれほど重要ではなくなっています。

最後に、最近の社会経済的変化は労働市場を混乱させ、地理的条件が障壁ではなくなり、人材をめぐる世界的な競争を生み出しています。職場で必要とされるスキルは急速に進化しており、さまざまな役割でデータやテクノロジーをより深く理解する必要があります。この変化により、企業は人材の誘致、エンゲージメント、モチベーションなど、従業員体験の向上に集中する必要に迫られています。この状況が SCM ほど当てはまる場面はほとんどありません。企業のサプライチェーンの弱点、サプライヤーやサプライヤーの下流リスクを深く理解すること、スコープ 3 の排出量に関するサプライチェーンを完全に理解する必要性などが、この需要の一因となっています [1]。

こうした複雑な変化に対して、より多くの資金や人材を問題に投下し、強引に力を加える事でサプライチェーンを「強化」しても、ビジネスや顧客のニーズに追いつくことができません。そうではなく、より戦略的なアプローチを取りサプライチェーンを近代化することで、製品供給ネットワークの耐障害性と費用対効果を高め、顧客の心情に対応するために業務をスピードアップすると同時に、イノベーションの継続的な機会を通じて才能ある人材を鼓舞することができます。

これを実現する方法には朗報があります。テクノロジーも急速に進化しており、クラウドベースのサービスでこれらの課題の多くに対処できるという事です。人工知能(AI)や機械学習(ML)、ビッグデータセットの分析、IoT 対応デバイスなどのテクノロジーは、サプライチェーンが革新的で障害に強くなるための道を切り開いてきました。これらのテクノロジーをうまく活用している企業は、市場の新しいリーダーになりつつあります。サプライチェーン内で豊富なリアルタイムデータが利用できるため、企業はこれまで不可能だった洞察を引き出して自社の業務に反映することができます。これにより、上流ではサプライヤーと、下流では取引先とのコラボレーションが強化され、活発になっています。サイロ化されたデータを持っていた企業もサイロから解放されつつあります。最近では、パートナーは企業と緊密に協力することで、データレイクとブロックチェーン技術の幅広い利用可能性によって実現されるエンドツーエンドのサプライチェーンにおいて、双方にメリットのある状況にしたいと考えています。

ほとんどの組織はまだそうなってはいません。計画プロセスの現状に関するマッキンゼーの最近の調査によると、約 80% の企業が今もなお従来の S&OP (Sales and Operations Planning) プロセスに従っており、リアルタイムの意思決定や自動化は限られています [2]。これらのプロセスは、信頼性の低いデータソースや時代遅れの IT システムに依存することが多く、機能間での調整は限られています。製品の不足、在庫コストの増加、在庫償却、バリューチェーンを上下する際の非効率性など、このような単純なアプローチの結果は想像できるでしょう。

業界のリーダーやイノベーターは次世代ソリューションを採用し始めており、他の分野もそれに追随し始めています。最新のソリューションには、AI、ML、データ分析が組み込まれて意思決定をスピードアップし、自律的な計画への道が開かれています。内部および外部からのリアルタイムデータを活用した AI/ML により、資材の流れとサプライチェーンの混乱をエンドツーエンドで可視化し、それらを軽減することで機敏なサプライチェーンを構築できます。俊敏性を高め、サプライチェーンのリスクを軽減するためには、意思決定支援プラットフォームからの予測的かつ規範的な推奨事項とともに、データを使用して実用的な洞察を導き出すことが不可欠です。自動化により、費用対効果の高い、質の高い作業を大規模に実現できます。これらのテクノロジーをはじめ、ロボティクス接続デバイスなども、人と連携してタスクを遂行できるようになることで、運用の効率が大きく向上しました。

サプライチェーンは、自らを改革し、進化するビジネスニーズに先んじる必要があります。そうしないと、ビジネスにとっての足枷となってしまいます。サプライチェーンの幹部は、次の 3 つの質問を自問し、適切な行動を取る必要があります。第 1 に、自社のサプライチェーンは回復力があり、混乱を迅速に克服できるか? 次に、自社のサプライチェーンは、市場開拓、顧客、ビジネスのさまざまなニーズに応えられる高い汎用性があるか? 最後に、自社のサプライチェーンは、需要に応じて拡大/縮小し、現金、コスト、顧客サービスについて同時に要求を満たす弾力性があるか? 確実に YES と言えない場合や、まだ改善の余地があると思われる場合は、変化が必要です。

そして、サプライチェーンの近代化を熱望している幹部達からよく聞かれる質問につながります。「何から手をつければ良いのか?」または「すでに IT 投資と長期計画を立てているのに、今、本当に複雑さとコストを加えるべきか?」 デジタル化の旅への出発点は大変すぎてはいけません。大きく考え、小さく始めて、素早く拡張します。まず目的を念頭に置き、考えを制限せず、直近の業務に影響した出来事から学んだことを活かし、顧客とビジネスのニーズを満たすために今後5年間のサプライチェーンがどのようになるべきかを定義します。次に、小規模ながらも代表的なバリューチェーンから始めて、パイロットで変化を証明します。顧客またはビジネス上の課題を小さなプロブレムステートメント [3] に分割し、1 つずつ解決するように努めます。すべてのデータソースをまとめ、サイロ化を解消し、クラウドが提供する機械学習などの膨大な数のツールを使い始めて、これまで検討されたことのない洞察を得ましょう。プラットフォームやシステムの標準化から始めようとして、多くの IT 資本を費やす必要はありません。代わりに、データを連携させ、高度な分析を使用して、新しいビジネス価値を獲得する方向を目指して下さい。価値が明らかになったら、迅速に規模を拡大して下さい。この時点で、データレイクの作成、機械学習の導入、サプライチェーンのエンドツーエンドの可視化など、統合的で回復力のあるサプライチェーンを構築するための基盤となる近代化の第一歩をすでに検討したことになります。そして、自動化され、場合によっては完全に自律的なサプライチェーンへの道が開かれました。

サプライチェーンを近代化すべきか、それとも強化すべきか、まだ疑問に思っていますか?

参考文献

[1] Description of scope 3 emissions, Environmental Protection Agency, 2022

訳注:(参考)日本の環境省のウェブサイト「サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ」。

[2] Autonomous supply chain planning for consumer goods companies, McKinsey, March 2022

[3] 訳注:問題解決のために、背景、課題を簡潔にまとめる文章。

 

 

Phil Le-Brun

Phil Le-Brun は、アマゾンウェブサービス (AWS) のエンタープライズストラテジストおよびエバンジェリストです。Philip は企業のエグゼクティブと協力して、より多くのリソースをお客様に費やしながら、クラウドがスピードと俊敏性を向上させる方法についての経験と戦略を共有しています。AWS に入社する前は、McDonald’s Corporation で複数の上級技術リーダーの役割を務めました。Phil は、電子および電気工学の学士号、経営管理の修士号、および実践システム思考の修士号を取得しています。

Dimitrios Armenakis

Dimitrios Armenakis は、アマゾンウェブサービス (AWS) のサプライチェーン、輸送、ロジスティクスの主任コンサルタントです。この役職では、Dimitriosはさまざまな顧客や業界の経営幹部と協力して、破壊的なテクノロジー、システム、サービスを適用してサプライチェーン業務を変革し、機械学習、AI、デジタルツイン、IoT、E2E コントロールタワーなどのデジタル化ロードマップの作成を支援しています。AWS に入社する前 20 年以上にわたり、Dimitrios は Amazon Transportation や Procter & Gamble などのデジタルサプライチェーンをマスターしている企業で、グローバルおよびリージョナルサプライチェーンを統括する複数の上級管理職を歴任してきました。Dimitriosは、機械工学の学士号と修士号、応用経済学と金融の修士号を取得しています。

Sebastian von Berg

Sebastian von Berg は、アマゾンウェブサービス(AWS)サプライチェーン、輸送、ロジスティクスのグローバルスペシャリティプラクティスの主任コンサルタントです。テクノロジーを活用してサプライチェーンを変革したいと考えているさまざまな業界のクライアントと協力しています。AWS に入社する前は、自動車業界、経営コンサルティング、スタートアップの創設者として、12 年以上働いていました。セバスチャンは、機械工学の理学士号、インダストリアルエンジニアリングおよびオペレーションズリサーチの修士号、経営学のMBAを取得しています。

 

翻訳は Solutions Architect 多田が担当しました。原文はこちらです。