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ミシガン大学の学生チームが AWS 上のハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) でエネルギー効率の高いソーラーカーを開発

太陽光だけを動力源とする自動車を運転し、幅 3,000km の大陸を最短時間で横断するのは容易なことではありません。ミシガン大学のソーラーカー・チームは、Amazon Web Services (AWS) 上のハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) の助けを借りて、まさにそれを実現しようとしています。学生チームは最初のコンセプトから部品製造、組み立て、車両テストに至るまで、アストラムソーラーカーをゼロから開発しました。チームは 2023 年 10 月 22 日に開催される 2023 ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジに出場するため、オーストラリアのアウトバックで、アストラムでレースに挑んでいます。

Pictured University of Michigan Solar Car Team’s Astrum race car
写真:ミシガン大学ソーラーカーチームのアストラムレースカー。

チーム独自の課題を理解する

ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジはオーストラリアのアウトバックを横断する 3,000km のソーラーカーレースです。2023 年 10 月 22 日、50 を超えるチームがオーストラリア大陸北岸のダーウィンから南部のアデレードまで、荒涼としたアウトバックを横断します。このイベントには何百人もの学生が参加し、太陽だけを動力源とする車を設計・製作し、地球上で最も過酷な環境のひとつでテストを行うことを目標としています。このイベントが本当に際立っているのは、気候変動という課題に取り組むための斬新で革新的な解決策を開発するために学生たちを集めていることです。

ミシガン大学ソーラーカー・チームは 100 人以上の学生と 33 年の歴史を持つ完全学生運営の組織で、1990 年からソーラーカー・レースに参戦しています。毎シーズン、チームはコンセプトから設計、製造、組み立て、テストに至るまで、まったく新しいソーラーカーを設計・製作しています。ソーラーカーレースに参戦してきた 33 年間で、チームは 17 台の完全ソーラーカーを製作し、最新のものは 2023 年のアストラムです。車両を製造するだけでなく、チームはレースルールの範囲内でさまざまなパラメーターを最適化し、勝利するレース戦略を開発しなければなりません。

ソーラーカーレースは、35 時間に及ぶチャレンジの勝敗が 5 分以内の性能差で決まる複雑なスポーツです。空気力学とエネルギー消費に違いをもたらすあらゆる細部を最適化しなければなりません。アストラムの消費電力は一般的なオーブントースターの約半分であり、抗力係数は一般的な乗用車のサイドミラーに近いものです。文字通り、ミリワットのゲームです。

成功に向けて、チームは 2 つの重要な課題に取り組まなければなりませんでした。ひとつは、可能な限り最速の走行速度を達成するために、車両の形状を最適化することで空気抵抗を減らすことです。もうひとつは、多くのパラメーターを最適化することで、最大のアドバンテージを得るためのレース戦術を戦略的に決定することでした。

AWS 上 のハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) で車両技術を完成させる

ミシガン大学ソーラーカーチームは車両の空力特性を最適化し、何千ものレースシナリオを評価するために、何千ものシミュレーションを実行する必要がありました。彼らはこれらの大規模なタスクに AWS 上の HPC を使用しました。

車両の空力最適化

チームのエアロダイナミクスグループは Siemens Simcenter StarCCM+ ソフトウェアを使用して、5,000 万から 2 億のセルを含む計算メッシュを使用して、車の周りの気流の数値流体力学シミュレーションを実行しました。チームは最も抵抗の少ない車両形状を見つけるために、何百ものシミュレーションを実行してさまざまな車両形状を試す必要があったため、AWS Amplify で構築された Web アプリから始まる AWS 上の自動ワークフローをセットアップしました。シミュレーションが実行されるたびに、チームの空力学者はアプリにログインし、Amazon Simple Storage Service (Amazon S3)に保存される入力ジオメトリをアップロードします。バックエンドでは、Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2)hpc6a.48xlarge インスタンスと Amazon FSx for Lustre スクラッチファイルシステムで構成される HPC クラスタを作成・運用する AWS ParallelCluster にアプリを接続しています。ジョブ投入キューの管理には Slurm ジョブスケジューラを使用します。シミュレーションのジョブが投入されると、AWS ParallelCluster が AWS Auto Scaling グループでコンピュートインスタンスをスピンアップし、ジョブを実行します。シミュレーションの結果は Amazon S3 に保存され、メタデータは AWS Lambda を使って抽出され、MongoDB に保存されます。チームの空力学者はウェブアプリで結果を確認し、空気抵抗を減らすために車両の形状を変更するための決定を下すことができます。

AWS 上で空力シミュレーションのワークフローをセットアップしたミシガン大学ソーラーカーチームのメンバーである Ibrahim Syed 氏は次のように語ります。「AWS を利用する前は、オンプレミスで利用できるコンピュータで空力シミュレーションを実行するために、エンジニアは 8 ~ 10 時間を要していました。AWS を利用することで、合計 960 ~ 1536 個の物理的なコンピュートコアで構成される 10 ~ 16 個の Amazon EC2 hpc6a.48xlarge コンピュートノード上でシミュレーションを並列実行するようにスケールアップすることができ、わずか 1 ~ 2 時間でシミュレーションを完了することができます。これにより、我々のチームは 1000 回を超える空力シミュレーションを実行できるようになりました。AWS では車両のノーズコーンに最適な形状を見つけるために、より広範囲に設計空間を探索することができました。その結果、車両の空気抵抗を 30 %以上減らすことができました。私たちのチームがエレクトラムと名付けた前世代のレース車両は 2.5 m2 の太陽電池パネル・アレイを搭載していましたが、最新世代のアストラムは 4 m2 という非常に大きなアレイを搭載しています。アレイの大きさが約 2 倍になったにもかかわらず、空力的な改良のおかげで、全体の抗力の重要な要因である車両の正面面積を減らすことができました。」

Picture More aerodynamic nose-cone for the year-2023 Astrum solar car (left) compared to the year-2019 Electrum car (right and side)
写真: 2023 年型アストラムのソーラーカー (左) と 2019 年型エレクトラムのソーラーカー (右)。

AWS を使い始めるプロセスについて、Syed 氏は「AWS 上でワークフロー全体をセットアップするのは非常に簡単でした。ドキュメントは明確でわかりやすく、直感的でした。ウェブアプリ、AWS ParallelCluster、ストレージ、データベース、AWS Lambda 関数を含む、AWS 上の完全な空力シミュレーション自動化パイプラインをセットアップするために、2 ~ 3 回のシミュレーションを実行するのに必要なのと同じ時間がかかりました。AWS 上で空力シミュレーションプロセスをセットアップすることで得られた投資対効果は非常に大きく、投資した労力よりも 2 ~ 3 桁大きいものでした。」と付け加えています。

ビークルダイナミクスと戦略シミュレーション

ミシガン大学ソーラーカーチームは、AWS 上で空力シミュレーションを実行するワークフローを設定し、成功させた後、AWS 上でビークルダイナミクスシミュレーションの実行も開始しました。これらのシミュレーションは、Applied Intuition 社の CarSim というソフトウェアを使って行われます。各車両ダイナミクスシミュレーションは単一の Amazon EC2 インスタンス上で実行され、リモートデスクトップ経由で GUI を操作します。ビークルダイナミクスシミュレーションは風や天候などの変数を考慮した車両の静的・動的安定性の向上に役立っています。Syed 氏は「チームは今、オーストラリアで今週のレースに向けて最終準備をしています。AWS の柔軟性のおかげで、チームはオーストラリアのアウトバックから車両ダイナミクスのシミュレーションをライブで実行し、実際の地面の状態や直前の設計変更に基づいて車両パラメータを微調整することができます。AWS を使い始める前は、このようなことはできませんでした。」と語っています。

チームはまた、過去数年にわたり開発してきた C++ ベースの戦略シミュレーターでレース戦略シミュレーションを実行するために AWS を使用しています。このシミュレーターは天候、クルマにかかる物理的な力、ソーラーパネルの陰影などの要素を考慮し、最短時間でレースを走るための最適な戦術を決定します。AWS を使用する前は、チームはこれらのシミュレーションをパーソナルコンピュータ上で手作業で行っており、完了までに数日を要していました。AWS 上で、チームは現在、空力シミュレーションのために設定された同じワークフローを使用して、戦略シミュレーションを実行しています。現在、各シミュレーションの実行時間は約 60 秒で、チームはこれまでに 10 万回以上のシミュレーションを実行しています。

ミシガン大学ソーラーカー・チームについて詳しくは、このビデオをご覧ください

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翻訳はソリューションアーキテクトの 吉廣 理 が担当しました。原文はこちらです。

Dr. Sandeep Sovani

Dr. Sandeep Sovani

Sandeep Sovani 博士は、Amazon Web Services (AWS) のプリンシパル・ゴートゥーマーケット・スペシャリストです。AWS のスケーラブルでセキュアなハイパフォーマンスコンピューティングソリューションを用いて、エンジニアリング・シミュレーションのワークロードをクラウド上で実行できるよう、世界中の顧客を支援しています。余暇は旅行、ハイキング、写真撮影、家族と過ごす時間を大切にしています。

Min Kwon

Min Kwon

Min Kwon はミシガン大学で経済学を専攻し、翻訳学とクリエイティブ・ライティングを副専攻する学部4年生です。ミシガン大学ソーラーカーチームのマーケティング・スペシャリストで、ビデオ撮影が専門です。趣味は読書、翻訳、料理、ランニングです。