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地震の分析をスケールさせる:地震は防げないが、クラウドで”賢く備える”

今回のブログでは、 AWS ジャパン・パブリックセクターより、「クラウドを用いて、地震の予兆や被災範囲、震源の分析を行う取り組み」について紹介します。ご不明の点、「Contact Us」までお問合せください。(以下、AWS Public Sector Blog へ掲載された「Unleashing Seismic Modeling at Scale: We Can’t Stop Quakes, But We Can Be Better Prepared」と題された投稿の翻訳となります。)

恐ろしい記事見出しですら、その数があまりにも多いならば、それは見慣れたものになってしまいます。大地震が発生すると、人命・経済・環境に壊滅的な影響を及ぼします。最初の「揺れ」がきっかけとなって、火災や津波などの追加災害が発生し、大きな被害が出ることもよくあります。2004年のインド洋海底地震は津波を引き起こし、22万5千人以上の命を奪いました。2010年にハイチで発生したマグニチュード7.0の地震では、10万人以上の犠牲者が出ました。2011年の福島第一原発事故のように、大地震の影響が数十年以上続くケースもあります。

地震を止めることはできませんが、その影響を軽減するための手段を講じることは可能です。地震の発生確率や発生経路を把握することで、地震発生前の備えや、地震発生後の迅速かつ効果的な対応が可能になるとしたら、それは、とても大きな「備え」となるのではないでしょうか?

もし、大地震が都市部の建物やインフラにどのような影響を与えるかをより正確に予測する能力があれば、都市計画をより綿密に行うことができるのだ──と想像してみてください。このような洞察を得ることで、構造工学は建物やインフラの壊滅的な破壊の可能性を最小化するためのより良い情報を得ることができ、人命を救い、経済や環境への影響を減らすことができるかもしれないのです。

地震発生直後は、公共の安全を保つための行政機関が、緊急対応チームや機材を現場に移動させ、捜索や救助を行うことが非常に重要です。迅速な対応は、人命を守り、火災やガス爆発、余震など、最初の衝撃の後に発生する新たな損失を防ぐために不可欠です。

もし、どのような構造物や地域が最も深刻な被害を受けるかを予め把握できていれば、初動対応の効率はどれほど向上するでしょうか。また、どの道路や橋が最も被害を受け、利用できなくなる可能性が高いかを理解しておくことで、緊急対応チームが最も必要とする地域に迅速に到着できるよう、最適な対応ルートをよりよく理解することもできるのです。

地震への安全性の基礎を築く、
地震モデリング

地震に対する安全性を確保するための第一歩は、地震がもたらす影響をより深く理解することです。そのために、科学者は高度なモデルやシミュレーションのデータを活用します。地震が発生する確率や経路をより正確に把握することは、設計や施工を改善するための耐震工学の基礎となります。また、各公共組織がより良い緊急対応策を考案するのにも役立ちます。

例えば、研究者は地震動シミュレーションを作成し、確率論的な地震ハザード評価に適用できるデータを作成することができます。地震ハザード評価は、地盤の揺れや断層の破壊、地盤の液状化など、地震に関連する危険な自然現象が発生する可能性を評価するものです。この種の解析の出力は、例えば「この敷地の地震ハザードは、ピーク地盤加速度0.28gで発生し、50年以内に2%の確率でそれを超える」──というものです。

構造エンジニアは、このような解析を出発点として、構造物の設計や改修の最適な方法を決定するために、さらなる深い研究を行うこともできます。

モデルの精度を高めるには?

地震モデリングは、地震の安全対策に適用できる知見を得るための確実な方法です。しかし、地質システムは複雑であるため、地震モデルの精度と適用範囲を充分に確保することは、しばしば困難を伴います。

まず、地震モデルは広い周波数帯域をカバーする必要があります。構造物によって周波数に対する応答精度が異なるため、効果的なモデルは幅広い可能性を包含する必要があります。例えば、高層ビルは比較的低い周波数で共振し、住宅のような剛性の高い構造物は高い周波数に敏感に反応します。広い周波数帯域の地震波をモデル化するには、膨大な計算能力が必要となり、この点ではクラウドの計算資源が多大な貢献をすることが出来ます。

また、地震波のモデリングには4次元的な広がりが必要です。波が伝播する3次元の空間と、時間の次元をカバーしなければならないので、必要とされる計算能力が、さらに跳ね上がることになります。

さらに、地震を正確にモデル化するためには、単一の断層ではなく、複数の断層を考慮する必要があります。このため、断層系の将来の状態を予測することは、ますます困難です。シミュレーションでは、できるだけ多くのシナリオをテストして、精度の高いレベルに近づける必要があるのです。

官民のコラボレーション:
モデリングへの新しいアプローチ

カリフォルニア大学サンディエゴ校のスーパーコンピュータセンター(SDSC)の研究者とインテル社は共同で、地震モデリング能力を大きく前進させることができる革新的なソフトウェアパッケージを AWS を用いて開発しました。新しいExtreme-Scale Discontinuous Galerkin Environment(EDGE)ソフトウェアは、最新世代の Intel プロセッサを活用するために設計されています。この研究は、地球科学分野で最大のオープンな研究協力の1つである南カリフォルニア地震センターも含めた共同イニシアティブの結果です。この洗練されたソフトウェアは、地震探査リソースに新たなレベルの性能とスケーラビリティを AWS を活用することで提供しています。

  • 記録的なスピード:EDGEは、これまで考案された中で最速の地震シミュレーションであり、10.4 PFLOPS(Peta Floating-point Operations Per Second、1秒間に1兆回の計算が可能)の性能を有しています。この高速化により、研究者は同じ周波数でより多くのシミュレーションを行うために必要な速度を得ることができ、より徹底的に被災シナリオを比較検討することができるようになりました。
  • 複数のイベントを一度に実行: EDGEは、1回のソフトウェア実行で複数のイベントをシミュレートできるように設計されています。最も革新的な機能の1つは、複数のシミュレーションで山の地形を情報共有するなど、効率化のために設定の類似性を適用する機能です。地震分析の効率が上がると、どのようなメリットがあるのでしょうか?一度の実行で複数の地震をシミュレーションすることで、時間とコストの削減につながります。研究者は2倍から5倍ものシミュレーションを実行することができ、リソースを最大限に活用することができます。
  • スケーラビリティは根本的に重要: EDGEソフトウェアが提供する最も劇的な進歩の1つは、向上したスケーラビリティ(拡張性)です。これは、研究者がモデリングの周波数範囲を広げることができるため、他のモデリング・イニシアチブと比較して強力な利点となります。しかし、この機能を活用するためには、研究者は大規模に実行できる計算インフラを必要としてきたのです。

クラウドへの拡張でEDGEのポテンシャルを実現

クラウドサービスは、EDGEが画期的なモデリングを行うために必要な、インフラの柔軟性とスケーラビリティを兼ね備えています。Amazon Web Services( AWS )は、最大限のパフォーマンスを発揮できる、アプリケーションに合わせたクラスタに対応することができます。Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2)を利用することで、研究者はEDGEの要求に合わせて高性能なコンピュートクラスタをカスタマイズすることができます。

高性能コンピューティングのための優れたクラウドソリューションの鍵は、弾力的なスケーラビリティを提供し、極めて高速なパフォーマンスを実現するマルチ ペタ フロップ マシンへのアクセスを提供する能力です。研究者は、実質的に無制限の容量とスケールを利用できるため、ワークロードに完全に合わせて必要なインフラを拡張することができます。

ほんの数年前までは、このレベルのコンピューティングパワーを利用するには、オンプレミスのスーパー コンピューティング センターを利用する必要がありました。しかし現在では、クラウドによって実質的に無制限のHPCインフラが研究者にオンデマンドで提供されています。EDGEプロジェクトは、この種のものとしては初めて、このような大規模なエンジニアリングを実現したものです。

より良いモデリングをより多くの研究者が利用できるように

革新的な地震モデリングは、地震に対する理解を深め、地震の影響を計画し緩和する能力を向上させる可能性を秘めています。このようなメリットを享受するためには、最新のモデリングアプローチをできるだけ多くの専門家の手に届けることが課題です。

HPC on AWS のようなクラウドサービスは、スーパーコンピューティングパワーをより多くの研究者に届けるための柔軟で費用対効果の高いソリューションを提供します。また、EDGEなどのスケーラビリティを考慮して作られたソフトウェアを活用するための弾力的なスケーラビリティも提供します。

最新かつ最も革新的な研究ツールを科学研究コミュニティのより多くの人々が利用できるようにすることで、継続的なイノベーションと新たな発見のための舞台を整えることができます。エンジニアやパブリック・セーフティーの専門家は、より良い判断を下すために必要な分析や改善された洞察力を身につけることで、地震が発生する前に、より積極的な計画を立てる能力を得ることができます。また、地震発生後の対応を改善し、被害を最小限に抑え、人命を救うために必要な知識を得ることができます。

EDGEと AWS 上のスケーラブルなHPCの組み合わせが、地震モデリングの可能性をどのように再定義しているかについては、”Petaflop Seismic Simulations in the Public Cloud “をご覧ください。直近の研究成果は、フランクフルトで開催されるISC High Performance 2019で発表されています。

Learn More

■“クラウド時代の災害対応 – AWSは赤十字などNPOや各団体と協力し被災住民を支援” (2022年3月)

■”公共機関の情報システムのレジリエンスを高める – CloudEndure Disaster Recoveryを用いた災害復旧”(2022年2月)

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このブログは英文での原文ブログを参照し、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 パブリックセクター 統括本部長補佐(公共調達渉外担当)の小木郁夫が翻訳・執筆しました。

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小木 郁夫
AWS ジャパン パブリックセクター
統括本部長 補佐(公共調達渉外)
BD Capture Manager
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#AWSCultureChamp (2021年7月~)