AWS Startup ブログ

スタートアップが活用できる APN プログラムをご紹介 – サイバーセキュリティクラウドと AWS とのビジネスパートナーシップ

アマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)は、パートナー企業が AWS ベースの製品を構築し、市場に出して販売することを支援する AWS パートナーネットワーク(以下、APN)を提供しています。2020年11月26日に開催された Webinar「サイバーセキュリティクラウドと AWS とのビジネスパートナーシップ」では、前半パートで AWS 社員が APN の内容について解説。後半パートでは APN をご利用いただいている サイバーセキュリティクラウド 前代表取締役社長 大野 暉 氏に、APN の有効な活用方法について事例を含めお話しいただきました。

事業成⻑に活用できる AWS メニュー

Webinar 前半では、ISV/SaaS ビジネス推進部 部⻑ 岡﨑 貴紀や AWS Marketplace ビジネス開発マネージャー 竹部 智実、パートナー金融事業開発マネージャー 大村 健一郎が登壇。事業成⻑に活用できる 各種 AWS メニューについてご紹介させていただきました。

岡﨑からは、アマゾン ウェブ サービスを活用して顧客向けのソリューションとサービスを構築している企業向けのグローバルパートナープログラム APN をご紹介させていただきました。APN では Build、Market、Sell という3つの切り口で支援プログラムを提供しており、それぞれの概要は下図の通りです。


また、ISV/SaaS 事業者におすすめしたい AWS サービスとして AWS PrivateLinkAmazon EventBridgeAmazon AppFlow についてもご紹介。さらに、岡﨑の所属する ISV/SaaS ビジネス推進部では SaaS・サブスクリプション事業に必要な各種コンポーネント(認証基盤や CI/CD、課金管理など)の導入支援も行っていることも解説しました。

竹部からは AWS Marketplace についてご説明させていただきました。AWS Marketplace は、サードパーティーのソフトウェアやデータ、サービスを簡単に検索、購入、デプロイ、管理できるデジタルソフトウェアカタログです。AWS Marketplace は2012年に US でローンチし、現在では非常に規模の大きなマーケットプレイスへと成長しました。

以下は AWS Marketplace の仕組みを表す概要図です。


かつて、AWS Marketplace に出品するには US 法人を持つことが必須条件でした。ですが2020年9月30日に AWS Marketplace と AWS Data Exchange が日本のベンダーをサポートしたため、US 法人を持たない日本法人も出品可能になりました。セラーであるISVは、顧客にセルフサービスでソフトウェアやデータを購入頂くだけでなく、プライベートオファー機能を使って、顧客へ戦略的にカスタマイズした価格・契約条項を提供できたり、パートナー経由でそのオファーを提供できたりします。また、AWS Marketplace ではスタートアップ企業向けの支援プログラムもご用意しております。

大村からは、サードパーティーデータを検索・購入できる基盤サービス AWS Data Exchange について解説させていただきました。2019年に AWS Data Exchange がローンチしてから現在まで、プロバイダー数やコンテンツ数は増加し続けています。今では170以上のプロバイダーが、2,700以上のサービスを提供。AWS Data Exchange の販売フローはとてもシンプルであり、下図のような流れになっています。


また、AWS Data Exchange は新機能として Private mode も提供開始しました。この機能をご利用いただくことで、特定のユーザーのみへのデータ提供が可能になります。

 

サイバーセキュリティクラウド社による APN 活用事例

Webinar 後半パートでは サイバーセキュリティクラウド 前代表取締役社長 大野 暉 氏に、APN の有効な活用方法について事例を含めお話しいただきました。


サイバーセキュリティクラウドはWebアプリケーションレイヤーのセキュリティに特化したソリューションを提供する企業です。Web サイトへのサイバー攻撃の可視化・遮断ツール、クラウド型WAFの「攻撃遮断くん」や AI による AWS WAF、Azure WAFのルール自動運用ツール「WafCharm」、AWS WAF のルールセット「Managed Rules for AWS WAF」という3つのサービスを提供しています。

これらのサービスのうち、最初期から存在するのが「攻撃遮断くん」です。このサービスを普及させていく過程で、サイバーセキュリティクラウドはある課題に直面しました。サービスの品質は高かったものの、企業への導入数がなかなか伸びなかったのです。そこで、自社やサービスの信用度を向上させる目的から、2016年12月に APN を利用開始しました。

翌年の12月に同社は「WafCharm」を提供し始めます。当時はまだ AWS WAF に関連したサービスを扱う AWS のパートナー企業がほとんど存在しなかった時代。「AWS WAF の運用を自動化できるサービスを作成することで、お客さまの日々の運用が楽になり、セキュリティも向上させられると考えました」と大野 氏は解説します。

「WafCharm」のローンチ時に、サイバーセキュリティクラウドは各種メディアへの通達を行い大規模な記者会見を実施。会見の場には、AWS ソリューションアーキテクトのメンバーも登壇しました。大野 氏が AWS サイドと粘り強い交渉を行ったことにより、この登壇が実現したのだといいます。

「たとえ AWS 向けのサービスだとしても、サービスローンチ時に AWS 社員の方々が会見に登壇してくださるケースはほとんどありません。この事例ではそのレアケースを実現できたことで、より効果的にサービスの情報発信ができました。とても思い出深いエピソードです」と大野 氏は語ります。

その後、サイバーセキュリティクラウドは「Managed Rules for AWS WAF」を開発し、AWS Marketplace での提供を決めます。当時はまだ US 法人がなければ AWS Marketplace への出品ができなかった頃。そこで同社は、2018年9月に US 法人 Cyber Security Cloud Inc. (USA)を設立し、2019年2月には AWS Marketplace での同サービスの提供を開始しました。

US 法人の設立はいくつもの困難がありました。日本と US では、法人に関連する法律や税制も異なります。また、現地での社員雇用や AWS Marketplace への出品に必要な技術要件の達成にも苦労したといいます。 「大変な道のりではありましたが、この経験が会社をよりタフにしてくれました。AWS と手を取り合って事業展開する過程で、企業やサービスが磨かれたといえます」と大野 氏は振り返りました。

「Managed Rules for AWS WAF」の提供開始から約1年半が経過し、導入数は世界中で1,400ユーザー弱(うち789ユーザーが日本以外の法人(2020年9月末時点))となりました。

大野氏 & AWS 畑による対談


セッション終盤では、大野 氏がかねてからの知り合いだというスタートアップ事業開発部 本部長 畑 浩史も登場。畑への相談がきっかけで AWS とのパートナーシップがスタートしたことを大野 氏は説明。その後、大野 氏と畑は過去のやりとりを思い出しながら、これまでの歩みについて対談しました。

畑:過去に取り組んだ施策で、思い出深いエピソードはありますか?

大野:いくつもありますが、一例を挙げるとテレビ番組にて当社のことを取り上げていただいたときのことです。シアトルにある Amazon 本社で、社員の方々と私とのミーティング風景を撮影していただきました。ちょうど US 法人を設立して間もない頃で、AWS Marketplace でサービスを提供するための下準備をしていましたね。

畑:当時のことははっきり覚えていますね。大野さんからある日、「Amazon 本社でテレビの取材をしたいです」という連絡が来ました。Amazon は広報チェックが厳しくて、かつ本社での取材となると相当にハードルが高い。ですが、大野さんの言葉から強い熱意が伝わったので、なんとか実現したいと思いました。調整にはかなり苦労しました、現地のメンバーを巻き込み、セッティングを成功させられてよかったです。

大野:あのときは本当にありがとうございました。

畑:APN に参画したからといって、黙っていてもサービスの人気が出るわけではありません。パートナーとして享受できる利点を使い倒すくらいの気概が大切で、大野さんにはそのマインドがありますよね。

AWS Marketplace への出品を行うために US 法人を立ち上げたことも、その好例です。だからこそ、私たちもその気持ちに応えたいと感じるんです。それから、AWS 最大のイベントである AWS re:Invent に サイバーセキュリティクラウド社が参加されたときのエピソードも印象に残っています。

大野:懐かしいですね。私たちは AWS re:Invent で、サービスのユーザー企業やパートナー企業の候補を探したいと強く思っていました。そのためには数多くの企業との接点をつくることが重要だと考え、とにかく各企業のブースを回って全員と名刺交換をしました。おそらく400枚くらい名刺を集めた気がします。その結果、複数の企業からユーザー企業・パートナー企業としてのご承諾をいただきました。がんばった甲斐がありましたね。

畑: AWS re:Invent は大きな成功事例ですね。大野さんは「何かチャンスがあれば全力で取り組む」というスタンスを大切にされている印象があります。

大野:畑さんをはじめ AWS 社員の方々には「私たちにできることがあれば何でもお声がけください」と常々言っていますからね(笑)。がむしゃらにチャンスを得ようとする理由は、顧客を増やしてサービスの課題を可視化していくことが、事業の成長に直結するからです。

AWS のビッグユーザーに当社のサービスの導入をご検討いただく際、要件をヒアリングするとサービスの明確な弱点が見つかることが多いです。「○○ができるようにならなければ、導入は難しい」とお話しいただくわけですね。その課題を解決するためのロードマップを引き、ひたすら改善していくというサイクルによって、サービスが磨かれてきました。

畑:そのスタンスはスタートアップとしてすごく大切ですよね。スタートアップが大企業と組む際、「自分たちはまだまだ体制が整っていない」「売り上げの規模が小さい」といったように萎縮してしまうケースもありますが、大野さんは全くそんなことがありません。

「チャンスがあるならば積極的につかみとるべき。たとえ自分たちに未熟な部分があるとしても、これから進化していけばいい」というマインドで各プロジェクトに取り組まれてきました。その気持ちがあったからこそ、今回のような成功事例に結びついたのだと思います。

おわりに

サイバーセキュリティクラウド社の事例には、スタートアップにとって参考になるような知見が詰まっていました。この記事をご覧になって APN の各種プログラムにご興味を持たれた方は、ぜひお気軽に AWS へお問い合わせいただければ幸いです。