AWS Startup ブログ

Amazon Alexa との連携により、人々の暮らしと調和するデバイスを実現。mui Lab 社の AWS 活用事例

「Calm Technology & Design」というコンセプトを掲げ、人と自然とテクノロジーとが調和した暮らしを実現する製品・サービスを開発している mui Lab株式会社。同社は、スタートアッププログラムや事業開発、技術サポートを通じて創業者を支援するプログラム「Alexa Startups」に選出された企業のひとつです。新進気鋭のスタートアップ企業であり、日本のみならず世界でのサービス展開を目指しています。Apple の開発者向けイベント WWDC22 で発表された「Matter に対応する企業」の中に、唯一日本勢として名を連ねていたことでも注目されています。

<参考記事>
https://muilab.com/ja/journal/matter/
https://muilab.com/ja/journal/ces2022_muiplatform/

mui Lab 社は「いつでも人の心に寄り添ってくれるデジタルテクノロジーを普及させる」ことをパーパスに掲げています。あらゆる IoT デバイスやシステムを“穏やか”にし、生活空間において柔らかく温もりのあるデジタル情報体験を実現する「mui プラットフォーム」を提供しているのです。代表的なプロダクトは、独自の UX デザイン技術を適用した木製のディスプレイ「mui ボード」。これと Amazon が提供するバーチャルアシスタント AI 技術「Amazon Alexa」を連携させることで、このプラットフォーム上で多種多様な機能を実現しています。

今回は mui Lab 社へのサポートを行うアマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネジャー(西日本統括)の金海 裕市とスタートアップソリューションアーキテクトの斎藤 祐一郎が、mui Lab Co-Founder & VPoT の久保田 拓也氏にお話を伺いました。

「Calm Technology & Design」を社会に実装する

金海:まずは mui Lab 社の事業概要についてお話しください。

久保田:私たちは「Calm Technology & Design」という概念を社会に実装している企業です。主要プロダクトとして、木製のインターフェースで違和感なく室内に溶け込むスマートホーム Hub(集約装置)の「mui ボード」というデバイスを提供しています。

壁にかけられた「mui ボード」。Alexa との連携機能の紹介映像はこちらよりご覧いただけます。

「mui ボード」は情報表示やコミュニケーション、電子機器のコントロールといった機能を提供しています。情報表示機能では天気予報やその日の予定などを確認できます。コミュニケーション機能では、手描きの絵やメッセージの送受信、ボイスメールの送受信が可能です。機器のコントロール機能では、Wi-Fi ネットワークに接続している照明やネットワークスピーカーなどを操作できます。Alexa 連携においては、タイマー設定やアラーム、天気予報の確認が可能です。特にタイマー機能は秀逸で、「アレクサ、『mui ボード』でタイマーを 3 分設定して」と伝えると、「mui ボード」上に自動で 3 分の長さを表す線が描かれます。これにより、時間の経過を視覚的に確認できます。」

「mui ボード」の詳しい機能などはこちらよりご覧ください。

https://muilab.notion.site/mui-141319b1a2104a7f9d75540b6ea86c8f

他の事業としては、弊社のテクノロジーを活用して他社との協業も行っています。最近では、北海道ガス株式会社が運営する賃貸マンションの入居者向けタッチポイントとなるインターフェースを制作しました。入居者用のアプリや、管理者向けの管理画面・BI ツールなどを開発したほか、「mui ボード」や「mui センサー(温湿度・人感)」の活用を含むユーザー体験をデザインしています。

mui Lab Co-Founder & VPoT 久保田 拓也氏

金海:御社の提唱する“Calm(穏やか)”とは、どのようなコンセプトなのでしょうか。

久保田:現在、アテンションエコノミー*の影響によって、多くの人々がスマホなどの電子機器を手放せない状態になっています。たとえば、家族がリビングに集まっていても、会話をせずに各々がスマホをいじっているような光景が多く見られるようになりました。

*…情報過多の社会において「人々の関心や注目の獲得(アテンション獲得)」が経済的価値を持つという概念。この環境下では、各社がユーザーの可処分時間を獲得するために工夫を凝らすようになる。

スマホは便利ですし生活に欠かせないツールですが、せめて家のリビングで過ごすときは、一家で団らんの時間を過ごしてほしい。そこで、過剰なアテンションを取ろうとしない、“穏やかな”デバイスをご家庭で使ってもらいたいと考えました。

この Calm という概念にはルーツがあります。もともと、ユビキタス・コンピューティングの父と言われるマーク・ワイザー氏が、生活に溶け込み人が意識しなくても活用できるテクノロジーとして「Calm Technology」という概念を提唱していました。そして、2000 年代になってからアンバー・ケースという研究者が、その思想を基に、IoT 時代で目指すものづくりのあり方として「Calm Technology」を再評価し、2015 年に書籍化*しました。

* Calm Technology: https://www.oreilly.com/library/view/calm-technology/9781491925874/

その概念は、私たちの目指すプロダクトの方向性と合致していると考えました。そこで弊社の代表取締役である大木 和典がケース氏と連絡を取って意気投合し、「Calm Technology & Design」というコンセプトを私たちが謳うようになったという経緯があります。2020 年に mui Lab は、「カーム・テクノロジー」の翻訳版を BNN 社から出版*しています。そのなかでケース氏は、Calm な技術を実装している会社として mui Lab を紹介してくれています。また、mui Lab は「京都に拠点を置くことで、日々触れることのできる日本の伝統的な精神性や美意識を、どのように mui のオリジナルの理念としてデザインに取り込み、Calm Technology と融合しているか」に関して寄稿しています。

*「カーム・テクノロジー(生活に溶け込む情報技術のデザイン」: http://www.bnn.co.jp/books/10529/

「付加価値を生まない重労働」から解放されるアーキテクチャ

斎藤:mui Lab 社が取り扱うシステムのアーキテクチャをご解説ください。

久保田:こちらが Amazon Alexa に関連する処理を抜粋したシステム構成図です。AWS のマネージドサービスを活用しており、ビジネスロジックを AWS Lambda で実装し、データベースとして Amazon DynamoDB を用いています。

また、デバイスとの通信や接続状態の監視、プロビジョニングのために AWS IoT Core を採用しています。デバイス生産時に機体の情報を 1 台ずつ AWS IoT Core に登録し、各製品の稼働情報などを把握することで機能改善などに活用しています。

斎藤:AWS Lambda や Amazon DynamoDB を採用した意図をお聞きしたいです。

久保田:私はもともとモバイルアプリや Windows デスクトップアプリなどを開発していたエンジニアで、サーバーサイド開発の知見がそれほどありませんでした。AWS のサービスを活用して REST API を作成する方法を探っていたところ、AWS Lambda と Amazon API Gateway を使うことで、開発工数をあまりかけずに自分たちのやりたいことを実現できるとわかりました。

また、今後サービスが成長していく過程で、Relational Database のキャパシティプランニングや運用にあまり工数をかけたくありませんでした。格納するデータのフォーマットに柔軟性を持たせたいという思いもあり、私たちのユースケースには Amazon DynamoDB が適していると考えました。

斎藤:優れた技術選定ですね。おっしゃるとおりで、AWS Lambda や Amazon DynamoDB を用いてサーバーレスなアーキテクチャを構築することにより、今後サービスの利用数が増大していっても、キャパシティプランニングのための作業を実施する必要がなくなります。

AWS Lambda・Amazon DynamoDB は利用量に応じた課金であるため、システムの初期投資が低く抑えられるのも有益な点です。また、AWS IoT Core をホームオートメーションの領域で採用されている事例は珍しいため、他社にとっても参考になると感じました。

金海:AWS が大切にしている概念として「付加価値を生まない重労働(Undifferentiated Heavy Lifting)からの解放」があります。要するに、スタートアップにはビジネスロジックに集中してもらい限られたエンジニアリングリソースを有効活用いただき、付加価値を生まない作業は AWS サイドがマネージドで運用を行うということです。運用負担の少ない AWS のマネージドサービスを利用してアーキテクチャを構築する mui Lab 社は、まさにそのコンセプトを体現されていると感じました。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネジャー(西日本統括) 金海 裕市

斎藤:Amazon Alexa との連携機能開発のエピソードも伺いたいです。なぜ、他のバーチャルアシスタントではなく、Amazon Alexa を選ばれたのでしょうか。

久保田:「人々の生活に浸透するサービス」という私たちのコンセプトが、Amazon や Amazon Alexa のサービスコンセプトにも通じることが、選定の決め手になりました。

斎藤:Amazon Alexa との連携機能開発では、アメリカの Amazon Alexa Team の技術サポートがどのように役立ったかをお聞かせください。

久保田:技術チームは手厚くサポートをしてくれました。ハンズオン形式で技術的な知識を教えてくれただけではなく、2 週間に 1 回くらいの頻度でミーティングを設定し、プロジェクトの進行状況なども管理してもらえました。サポートチームに質問をした場合もすぐに返答をくれるため、Amazon Alexa 関連機能の実装がかなりスムーズに進みました。

エンタープライズとスタートアップが協業する意義

金海:北海道ガス株式会社との協業の事例についてもお話しください。

久保田:北海道ガスはスタートアップと協業したオープンイノベーションの取り組みを行っており、2018 年に mui Lab を採択してくれました。PoC を実施し、その後もさまざまな案件の相談を頂くような関係が続いていました。そんな折、北海道ガスが賃貸マンションの事業をスタートする際に mui Lab に声をかけてくれ、数社間のコンペの後、彼らとの協業による事業開発がスタートしたという経緯があります。

金海:mui Lab 社の事業と北海道ガスの事業のどのような点にシナジーがあると思われますか。

久保田:北海道ガスをはじめとする社会的なインフラを提供する企業は「人の暮らしをより良くすること」に注力しています。その思想が、私たちの提唱する「家のなかを心地よい空間にする」という考えと通じていました。だからこそ、今回の協業に至ったのだと思います。

現在(取材時点)は、私たちのシステムを 1 棟・27 部屋のマンションに導入したのみですが、北海道ガスの公式発表によると今後数を増やし、将来的には 100 棟・3,000 部屋への導入を目指しているとのことです。

金海:非常に意義のある取り組みですね。私たち AWS は、エンタープライズとスタートアップとの協業促進を行っています。エンタープライズは顧客基盤や営業力、各種リソースや事業アセットを持っており、一方のスタートアップは革新的な技術やプロダクトを持っています。

両者が協業することで、エンタープライズのアセットを生かしつつスタートアップの革新的な技術・プロダクトを世の中に素早く展開できる。お互いにとってメリットの大きな協業であり、今後もこうした事例が増えていくよう AWS としても協業支援を進めていきます。

AWS を活用すれば、本質的に価値のある業務に集中できる

金海:事業やサービス、システムアーキテクチャの今後の展望をお聞かせください。

久保田:現在のプロダクトをベースとしつつ、北海道ガスとの事例のように他社との協業をさらに増やしていきたいと思います。先ほど金海さんからもあったように、私たちだけの力では資金や人も限られており、スマートホーム市場を牽引できません。同じ志を持つ企業と力を合わせてサービス展開することが、事業成長の鍵になると考えています。その目標をより実現しやすくなるように、柔軟性のあるシステムアーキテクチャにしていきたいです。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップソリューションアーキテクト 斎藤 祐一郎

斎藤:採用もさらに加速させていくと思いますが、どのような人に参画してほしいですか。

久保田:私たちは、事業を通じて人々の生活をより良くしていくことを目指しています。その思いに共感してもらえることを、何よりも大切にしたいです。また、今後はユーザーから取得した各種のデータを活用することで、より利便性の高い機能でありつつ、使い手がより豊かな気持ちになれような、人の心に寄り添える良い技術を提供したいと構想しています。

その目標を実現するには、デバイスのユーザー体験そのものもさらに向上させる必要があると考えています。タッチポイントが良くなければプロダクトの利用頻度も下がりますし、結果的に取得できるデータの量や質も悪くなってしまうでしょう。「より良い体験を作りたい」と考えられる方と、ぜひ一緒に働きたいです

斎藤:最後に、久保田さんの思う「AWS の良いところ」を教えてください。

久保田:先ほど金海さん、斎藤さんが言われたとおり、AWS のサービスを利用することで運用の負担が軽減され、ビジネスのコアになる機能の開発に集中できることに大きな価値があります。さらに、サービスの種類も多種多様であるため、広範なニーズをカバーしてくれます。

また、仮に不足している機能があったとしても、頻繁にサービス改善が行われるため、いつの間にかその機能が実装されるケースも多いです。AWS を利用することにより、自分たちの作るプロダクトの利便性や品質も、自然と向上するような感覚を覚えています。

金海:今後も御社のビジネス成長のために AWS と Alexa を使い倒していただけると嬉しいです。今回はありがとうございました。


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