Amazon Web Services ブログ

米国州政府に学ぶ、コスト配分戦略の5つのベストプラクティス

今回のブログでは、 AWS ジャパン・パブリックセクターより、「複数の機関・部局横断的にクラウドの利用コストを按分・集約する精算手法のパターン分岐の考え方と、ベストプラクティス」について紹介します。ご不明の点、「Contact Us」までお問合せください。(以下、AWS Public Sector Blog へ掲載された「5 best practices to create a cloud cost allocation strategy for government customers」と題された投稿の翻訳となります。)

クラウド コンピューティングは、公共部門の顧客機関がテクノロジーを導入し、予算を組み、支払いを行う一連のプロセスに、根本的な変化をもたらすことができます。しかし、クラウドを構築する前に、政府機関は、所管部門=管轄区域の透明性要件と法的な監視要件に従って、クラウドのコストをどのように配分したいか(allocate cloud costs )を決定する必要があります。クラウドのコストの配分戦略(=発生したコストのユーザーまたは受益者に、あらかじめ定義された方法でクラウドのコストを配分する方法を決定すること)──は、あらゆる機関のクラウド化にとっての土台となるステップであると言えます。

アマゾンウェブサービス( AWS )を利用する政府機関は、 AWS の従量課金制モデルにより、個々のリソースの単位でコストを追跡・報告・配分することができます。これにより、政府・公共機関はコストを最適化し、透明性を高めることができます。つまり、1)使用する AWS リソースに対してのみ支払い、2)使用するすべてのリソースを可視化することが可能となるのです。より高い可視性とコスト管理のケイパビリティが付与されることにより、政府機関の中央IT部門は、政府機関内のクラウドサービスの指定の所有者・所有機関に財務責任の管理を委ねることができます。消費者である政府・公共機関は、自分たちが「何」を支払っているのかを明確に理解できる仕組みを持つことで、納税者や他の政府指導者に対してコストを正当化するために、より多くの情報に基づいた意思決定を行うことができるようになるのです。

コスト配分のモデルはもちろん、組織によって異なるかもしれませんが、各組織のニーズを満たす効果的な戦略を設計するために活用できる、いくつかの共通のパターン、アプローチ、ベストプラクティスが存在します。

1. 所管部門=管轄領域の IT 予算取得の経路を精査

クラウドのコスト配分モデルを設計する際には、所管部門・機関の IT コストの資金調達・予算獲得の方法を検討しておく必要があるます。予算が一元的に配分されているか、あるいは、複数の予算に分かれているかは、どのようなコスト配分モデルを選択すべきか、そのシナリオ検討に影響を与える可能性があります。例えば、連邦政府資金を使用している場合、「OMB Circular A-87」に規定されているように、特別な報告要件がある場合があり、これはコスト配分戦略に影響を与えるものです。 AWS が政府機関のお客様に多角的で可視化可能な、配分機能を提供するとしても、お客様はその要件を満たすために、内部会計や定義されたチャージバック・プロセス(=機関同士の予算移出入)を通じて、これらのコストを配分する内部プロセスを開発しなければならない場合があるのです。

2. お客様の組織に適したコスト配分モデルの定義

クラウドの導入を検討されているお客様の中には、「ユーティリティ・コスト・パススルー・モデル」で要件を満たす方もいらっしゃいます。このモデルでは、中央のIT部門がクラウドリソースまたは AWS アカウントごとに実際のコストを分離し、その分の料金の請求をリソースの消費機関に渡します[passes those charges]。アリゾナ州では、チャージバックとコスト回収のために、中央で管理されたマルチアカウント戦略を用いたレイヤー・アプローチを採用しています。この方法では、Arizona Strategic Enterprise Technology(ASET)が総費用を把握できる一方、クラウドリソースを消費する機関が独自の AWS アカウントを持ち、その利用料を[ASETは]直接請求できるようになっています。各機関は、その利用について直接責任を負い、必要に応じて組織内でコスト配分することができます。さらに、ASETは同州の総費用を集計し、割引プログラムの適用を受け、その節約分を各機関に還元することもできます。

ミネソタITサービス(MNIT)は、2017年にクラウド・ジャーニーを始めたとき、このシンプルなモデルでスタートしました。やがて、中央ITサービス、管理、共有サービスのコストを計上してゆくための付加的な方法を模索し、「ユーティリティ・プラス・アップリフト・モデル」を採用しました。この「ユーティリティ・プラス・アップリフトモデル」は、各機関に個々のユーティリティ・コストを請求し、さらにセントラル IT サービスを考慮したパーセンテージを追加で掛け合わせて請求するものです。この割合は自治体によって異なりますが、20%前後であることが多いことが分かっています。これに対して、「スタンダード・アップリフトモデル」では、より多くのリソースを消費する機関が、より多くの共有コストを支払います。この割合は、ITスタッフの時間をコストモデルに組み込む必要性、チャージバックが損益分岐点を満たす水準であれば良いのか等の見通し、さらには年度外のコスト予測の影響などの要因に基づいて、管轄領域によって異なる数値が妥当とされることに、留意することが重要です。

公共機関のお客様は、 AWS の利用からより多くの経験とデータを得ることで、コスト配分戦略を反復し、洗練させていくことができます。例えば、MNITは現在、「ユーティリティ・プラス・固定費モデル」へと移行しています。このモデルでは、中央の IT 部門が、ユーティリティコストを直接機関に渡して請求するだけでなく、共有リソース、管理ツール、および管理手数料の過去の実績の計算も行います。中央 IT 部門は、これらの年間コストを分割し、各機関に所定の割合を割り当て、月単位で請求することで、各機関にコスト変動の予測可能性を提供することができます。

また、「マネージド・ホスティング・モデル」のように、中央 IT 部門がインフラストラクチャー・アズ・ア・サービス(IaaS)プロバイダーとして、すべてのインフラストラクチャ リソースを構築、維持、管理するモデルも有り得ます。このモデルでは、リソース、インフラ機能、時間、共有コストをカバーするサービスに対して特定の料金レートを設定するのが一般的な方法です。「マネージド・ホスティング・モデル」は、多くの場合、各組織が従来からオンプレミスのリソースに対して料金を賦課してきた方法と類似しています。このモデルは、サーバーやストレージなどの従来の静的なワークロードを扱う場合には料金分担のシンプルさを提供しますが、クラウドのコスト削減機会に対する透明性と柔軟性は低く、かつ、人工知能(AI)や機械学習(ML)サービスなどの高度なクラウド機能を考慮に含めることもできません。さらに、 AWS はリソースコストが透明であるため、「マネージド・ホスティング・チーム」は、これまでよりも正確に支出を予測でき、エンドユーザーに請求される単価をより正確に割り出すことができます。

最後に、組織ごとに能力や構造が異なるため、一部のお客様は、これまでのモデルとは異なる要素を包含した「複合モデル」[composite model]を活用しています。例えば、MNITは、アプリケーションを構築する能力を持つ機関には、クラウドリソースへのアクセスを許可し、前述の「ユーティリティ・プラス・モデル」で課金しています。自己管理能力が充分には無いその他の機関に対しては、MNITは「マネージド・ホスティング・モデル」に従ったハイブリッド エンタープライズ クラウド環境を提供しています。これにより、MNITはリソースを提供しながら、クラウドの機能・性能を活用し、パートナー機関の独自のニーズと能力に対応しながら全体的なコスト削減を追求することができるのです。

3. 主要なステークホルダーとコスト配分戦略を共有する

各組織・機関が自分たちのニーズを満たしうるコスト配分モデルを決定したら、当該モデルへの試算の実施、コストドライバー、および料金レートについて、各機関およびリーダーとコミュニケーションをとる必要があります。中央IT部門が請求方法と計算の根拠について各機関に明確に伝えることで、信頼と賛同を得ることができます。一般的に、クラウドの財務管理[cloud financial management]とこれらのプロセスは、各組織のクラウド ビジネス オフィス(CBO)が所管します。州によっては、公的な料金体系表[rate cards]を通じて戦略と配分モデルを伝えているところもあります。また、オンボーディング プロセス[=包括的なクラウド契約の傘下に入る場合の手続き]でクラウド財務管理と料金に関するトレーニングを行い、その詳細をコラボレーションプラットフォームやラーニング マネジメント システム(LMS)で公開する州もあります。どのような方法であっても、透明性が共通の「鍵」となります。

4. イノベーション推進に耐えうる
コスト配分モデルの構築

現在、コスト(使用料)と使用量をどのように計算しているかを調べ、そのモデルのコンポーネントが、クラウド・リソースの適用範囲を拡大してゆく方法に将来的にも適用可能なものかどうか、判断していくことが重要となります。予算サイクル、資金源、戦略的計画について検討し、それがコスト構造およびチャージバックにどのような影響を与えるかを検討するのです。福利厚生の加入時期の集中など、季節変動要因がITリソースの消費に与える影響を検討することもまた、必要です。

クラウド技術は急速に変化し続けてゆくため、現在のITリソースの消費方法をスナップショットで理解するだけでなく、将来的にどのようにクラウドサービスにより自機関のミッションを革新し、予算を投じていくべきかを理解しておくことが重要なのです。各組織・機関は、そのモデルが自らの組織の目標を反映し適合的であることを、常に確認しておく必要があります。

5. クラウドのコスト配分モデルに反復性を持たせる

最後に、コスト配分モデルまたはチャージバックモデル(=内部での予算移出入)を適切な頻度で再評価してゆく必要がある──ということを強調させてください。各組織・機関は、毎年または数年ごとに行われる予算編成のプロセスに反復的な評価システムを組み込んで、料金の精緻化と調整を行い続ける必要があります。こうすることで、固定費を検証するだけでなく、クラウドリソース消費の変化トレンドを把握し、クラウドサービスの将来計画について同一のコスト配分モデルに参加している各機関・部局と話し合うことができます。

小さく始めて、実験し、経験を積み、反復し続けるお客様こそが、最も成功することが多いことが分かっています。上記のアリゾナ州とミネソタ州では、小規模でシンプルなモデルから始めましたが、 AWS の使用に関する経験とデータを得るにつれて、組織の変化するニーズに対応するために、自らの取り組みを検証・反復し続けています。

Learn More: クラウドのコスト配分

クラウドは、公共部門のお客様がテクノロジーを利用し、その対価を支払ってゆく方法に革新をもたらします。すべての公共機関のお客様の要件を満たす単一のコスト配分モデルは残念ながら存在しませんが、AWS から紹介する戦略・考え方がお客様のニーズを満たす一助となることを願っています。

クラウドの財務管理に関する関連資料

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このブログは英文での原文ブログを参照し、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 パブリックセクター 統括本部長補佐(公共調達渉外担当)の小木郁夫が翻訳・執筆しました。

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小木 郁夫
AWS ジャパン パブリックセクター
統括本部長 補佐(公共調達渉外)
BD Capture Manager
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