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【寄稿】 入札書解析の完全自動化を目指す三井物産の取組み

こんにちは。ソリューションアーキテクトの齋藤です。三井物産株式会社(以下、三井物産) デジタル総合戦略部 デジタルテクノロジー戦略室では、先端技術の調査・検証、および、先端技術をてこにした新規事業の企画や事業性検討(R&D)を行っております。また、本 R&D 活動の中で創出されたソリューションやプロダクトを、事業本部と連携して社内外へ展開しています。本ブログは、三井物産がどのように AWS 上で生成 AI を活用し、三井物産グループ内における入札業務に活用可能なソリューションの開発につなげたか、三井物産 デジタル総合戦略部 デジタルテクノロジー戦略室 伊藤友貴 氏 から寄稿していただいたものです。

背景

AWS : 入札書解析業務に生成 AI を活用するに至った際の背景を教えてください。

三井物産 伊藤様 : 三井物産は総合商社ということもあり、国内公共事業、大規模プロジェクト(都市開発, 風力発電など)海外事業の入札案件に参加することが頻繁にあり、このとき数百ページにおよぶ入札書の内容を確認しますが、ここにビジネスとして下記の課題がありました。

  • 海外事業での入札の場合、入札仕様書が英語記載のため担当者が理解するのに熟練者でも 30 〜 40 時間がかかる。
  • 正確に案件を理解するために、入札書に記載されている事業の業界知見が必要になる。
  • 担当者が 3〜5 年周期で異動があり、知見が引き継がれないケースがある。

元々、三井物産では上記ビジネス課題を解決するために、自然言語処理を用いたソリューション開発に関する取り組みをしていました。最初の顧客として、弊社グループ企業である三井物産スチール株式会社の協力を得て、継続的フィードバックをもらいながら取り組んでおり、本プロジェクトの、いちツールとして生成 AI を活用しています。

AWS : どのような要件が、ユーザー(入札担当者)から上がりましたか ?

三井物産 伊藤様 : 商社の業務として、公共入札に参加することがあります。発注者から入札広告が行われたら、担当者は数百ページにおよぶ入札書類を読み込み、その内容を社内外の関係者に確認します。その後、発注者へのカウンター(回答)案を作成必要があります。通常入札書類の読み込みには 30 〜 40 時間程度必要とします。担当者は、入札書類から必須で確認すべき項目(金額, 契約期間, 納品日, 条件など)を把握することができて、抽出された項目が入札書類のどの文書を参照して抽出されたかを自身で把握できるようにしたいと要望が上がりました。

AWS : 三井物産様のような総合商社が入札するプロジェクトは、公共事業など数 10 億円から数 100 億円になる大規模案件になる場合が多いと予想しています。さっそくではありますが、入札書解析システムのソリューションについて説明していただいてもよろしいでしょうか ?

三井物産 伊藤様 : 全体アーキテクチャは下記の通りです。

入札書解析システム アーキテクチャ

ソリューション

三井物産 伊藤様 : 入札書解析システムは、AWS のフルマネージド型のサービス を中心としたアーキテクチャで構成されています。対象の入札書を Amazon S3 にアップロードすると、自動で解析業務が実行されます。AWS Fargate は、Amazon S3 に格納されている入札書を取得し、大規模言語モデルの Legal-RoBERTa-large を用いて、入札業務に必要な項目を抽出します。Legal-RoBERTa-large で抽出された項目は、そのままでは使用することが出来ず、さらに細かく分割する必要があります。これに、AI21 Labs が開発した大規模言語モデルである、Jurassic-2 Ultra を、Amazon Bedrock 上で使用しています。分割された項目は Amazon DynamoDB に保存されます。

担当者は、WEB UI を通じて、入札書の解析結果を確認することができます。

入札書解析システム UI

本システムで工夫した点は以下です。

  • 入札書から抽出された項目で、契約期間日、引渡日、特記事項など、入札担当者が必ず確認する必要がある項目にフラグを指定することができます。
  • Legal-RoBERTa-large で抽出した項目が多数あるので、AWS Fargate から、Amazon Bedrock が提供する API を通じて Jurassic-2 Ultra を並列で呼び出し、入札書解析の処理時間を短くすることができます。

なお、本取り組み成果にの一部ついては、2024 年 5 月に開催の Web データマイニング分野のトップ会議、The Web Conference 2024 の DEMO Track にて発表されました。

Why AWS ?

AWS : 入札書解析システムに、AWS が採用された決め手を教えてください。

三井物産 伊藤様 : まず、AWS 技術者の数です。他社と比較して、使える技術者の多さ、学習教材の多さもポイントです。これは、構築委託をする場合、パートナー選定時における幅広い選択肢につながりました。又、Amazon Bedrockを採用することで、複数 LLM の試行錯誤を簡単に実施することが可能です。最終的に、Jurassic-2 Ultra を採用しましたが、Claude を初めとする他 LLM の検証も並行して実施しました。

導入効果と今後の展望

AWS : 入札書解析システムの導入効果および今後の展望について教えてください。

三井物産 伊藤様 : 導入効果として大きく 3 つあります。

  1. システム導入後には入札書の解析時間が、今までより 70 % 短縮することに成功しました。これは年間で 2,000 時間分の作業時間になります。
    1. 33 時間 → 21.2 時間、約 12 時間削減(入札業務 経験豊富)
    2. 96 時間 → 30.4 時間、約 65 時間削減(入札業務 経験少なめ)
  2. AWS のフルマネージド型のサービス を採用することにより、OS やミドルウェアの開発・保守などの運用費削減にもつながりました。
  3. AWS のフルマネージド型のサービス を採用することにより、システム全体に拡張性を持たせられるので、使用量に応じて柔軟にスケーリングが可能です。

今後の展望として、まずは三井物産事業部内に横展開、その後は社外への販売を検討しています。既存の仕組みを継承しつつ、顧客の要件に応じてフロントエンドをカスタマイズすることで、開発コストおよび期間が 10 分の 1 になり、より価値あるサービスを顧客へ提供していくことを目指しています。

著者について

伊藤 友貴

2020年東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修了。博士(工学)。
大学院では主にAI・テキストマイニング・解釈可能な AI に関する研究に従事。この研究は AI およびデータ解析分野のトップ会議 AAAI や ICDM 等にに採択。
博士課程終了後、三井物産に入社。入社後は新規事業立上げを見据えた自然言語処理に関する R&D や社会実装に従事。本取組成果の一部は Web 分野のトップ会議 WWW に採択。