Amazon Web Services ブログ

消費財企業がイノベーションを推し進めるために活用している強力な”データプロダクト”戦略

Amazon Web Services (AWS) は、デジタルネイティブな食品飲料ブランドから大手ファッション、アパレル企業まで、世界中で多数の消費財(Consumer Packaged Goods; CPG)企業のお客様を支援しています。消費財企業にとって、データの統合と分析は長年にわたり投資の最優先事項となっています。柔軟で俊敏、そしてスケーラブルなクラウドプラットフォーム、またオンプレミス環境には存在しなかったような新しい分析基盤の利用の拡がりによって、この傾向は加速の傾向にあります。

データ分析が広範な業務領域に導入されていることは、次のようなソリューションの需要が市場で急速に成長することにも顕れています:

  • データ分析市場は、2023 年の 70.4 億ドルから、2030 年までに 3,034 億ドルに成長すると予測されている
  • Analytics-as-a-Service 市場は、2023 年の 92 億ドルから、 2030 年までに 401 億ドルに成長すると予測されている
  • 産業分析市場は年率 15.4% で成長し、2030 年までに 547 億ドルに達すると予想されている
  • 人工知能市場は、2023 年の 5,153 億ドルから 2030 年までに 2 兆 251 億ドルに成長すると予測されている

よりデータ駆動な組織となりたい、という要望は過去 5 年間にわたり私たちのお客様における共通のテーマの一つです。データ駆動型の組織作りのベストプラクティスを明らかにするべく、我々は Amazon、AWS、先進的な消費財企業のお客様においてパフォーマンスの高いデータ駆動型組織とともに協業してきました。

コラボレーションの成果を、データ駆動型組織作り成功のための新しいアプローチ「Making The Shift to Data Products – The missing guide for how organizations become data driven」としてまとめました。このホワイトペーパーでは、ビジネス成果を上げるための自動化を提案し優先順位付けし、予算化、組織化、提供する方法に焦点を当てています。データプロダクトというアプローチは、IT 部門の分析チームの現行のオペレーションとは異なるものですが、消費者向けプロダクト(商品)でビジネスを成長させてきた消費財企業リーダーにとっては馴染みのあるものであるはずです。

消費財企業にとって商品管理は得意とするところです。大きな責任を持つブランドオーナー、厳しい SKU 最適化のテクニック、効率的にステージゲートを行うための手順を確立して、ブランド、商品、包装、価格、チャネルの決定をサプライチェーン、製造、販売のチーム全体で調整、承認できるようにしてきました。すべては、消費者に愛されるブランドを作りたいという願望から生まれています。データプロダクトはデータ分析に対する新しいアプローチではありますがが、消費財企業の既存の商品体験と文化がデータ駆動型組織作りにどれほど適用されているか知れば驚くことでしょう。

現状の課題

データ分析への投資に苦戦している消費財企業もあります。なぜなのでしょうか。苦戦している顧客企業から「データは豊富にあるのにインサイトに至らない」という話を聞きます。過去十年間におけるデータセットの爆発的な増加は驚くべきものであるにも関わらず、データから価値を引き出せている、と感じている企業はほとんどありません。さらに、データから洞察が得られていてもそれがビジネス上のアクションにほとんど繋げられていない、という声も聞きます。過去この領域に投資したのに投資効果をほとんど得られなかった企業リーダーは、ビジネスに変化をもたらす新しいテクノロジーの力に当然のことながら懐疑的になっています。顧客企業からの典型的な意見には次のようなものがあります:

  • 「会議では、誰のスプレッドシートのデータが正しいのかが議論になる。」
  • 「データは大量にあるが、意味のある活動に繋がっていない。」
  • 「データセットを見つけアクセスすることがものすごく困難だ。」
  • 「データにアクセスできても、データが意味するものを理解するのが困難だ。」
  • 「データ分析の投資対効果が得られていない。」

データ分析への投資が企業の年間ビジネス目標や取り組みと一致しておらず、結果が未達に終わることがよくあります。データレイクのプロジェクトが組織のボトルネックにつながっている可能性もあります。分析やインサイトの基盤を導入するために、企業が望まないビジネスプロセスの変更が必要になる場合もあります。継続的オペレーションのための予算不足から分析プロジェクトが停滞することもあります。

しかしながら、こういった失敗のほとんどはテクノロジーに起因するものではなく、適切なプロセスの採用と展開方法が欠けていることによるものです。

データプロダクトへのアプローチ

データプロダクトというアプローチをより詳しく見てみましょう。データプロダクトは、データと自動化を活用しダイレクトなビジネス価値を提供するものです。データプロダクトチームは俊敏性を備え、継続的に予算を提供できるプロダクトオーナー、そしてビジネスステークホルダーと緊密に連携する小規模チームがリードします。 データプロダクトには、ビジネス目標に対してどのようにパフォーマンスを発揮するかを測定するための SLA とメトリクスが明確に定義されます。データプロダクトには 4 つの成熟度レベルがあります:

  1. 可視性
  2. アラート
  3. ガイダンス
  4. 自動化(最終目標)

組織内のデータプロダクトについてこの成熟度モデルのどの段階に該当するかを考えてみてください。取り組みを始めたばかりの組織は可視性に重点を置いていることが多いでしょう。一方、成熟したデータ組織であれば可視性から自動化までのプロダクトを揃え、より自動化にフォーカスしているでしょう。

可視性の一例として、AWS Supply Chain Control Tower ダッシュボードが挙げられます。これは様々なシステムからデータを収集し、パフォーマンスや運用上の課題、商品の搬送状況を可視化します。このシステムを使用することで配送センター、仕分けセンター、フルフィルメントセンター、そしてビジネス全体で利用されるあらゆる輸送手段といったネットワーク全体の KPI をビジネスオーナーが確認することができます。

このダッシュボードは可視性レベル(成熟度は低い)の一例ではありますが、それでも実現するためには多くの作業を必要とします。このような可視性を実現するためには以下のような要素が要求されます:

  • サプライチェーン内の各コンポーネントにアクセスするための標準 API
  • 一元化されたデータウェアハウスへの統合。これによりレポート作成を可能にし、データ品質を強化
  • データ標準化
  • ロール(役割)に応じたデータアクセス制御

成熟度モデルの最終目標はデータプロダクトの自動化です。Amazon.com における商品検索機能はそのよい例です。Amazon で購入される商品の大部分は検索結果から参照されており、検索アルゴリズムの改善により消費者体験が大きく向上します。それが収益の増加に繋がっています。

Amazon が使用している検索機能には興味深い点がいくつかあります。まず、カート追加、クリック、購入といったユーザーのアクションによって学習された人工知能(AI)が使われています。この AI は一日に数回再学習されています。また、Amazon における長年にわたる商品検索とそこから購入に繋がったデータも考慮されます。マーチャンダイジングのスコアや価格、評価、レビューも考慮することで、Amazon は消費者が喜びそうな商品だけを紹介しています。最後に、消費者の検索レベルが高い場合には、配送速度も考慮し多様な種類の商品を表示します。成熟度の高い「自動化」データプロダクトとして、専任のチームと予算を持つプロダクトオーナーがおり、プロダクト自体が完全に自動化されています。

データプロダクト戦略を成功させるための 5 つの信条

データプロダクト戦略を構築し維持していく鍵として次の 5 つがあります:

  1. Working Backwards(ワーキング・バックワーズ)。新しいデータプロダクトを提案する際、課題やビジネス目標から逆のぼって考えます。いくつかの質問を繰り返してデータプロダクトの必要性を明確にしていきます。このプロダクトのお客様は誰でしょう?お客様の課題や目標は何ですか?お客様にとっての最大のメリットは何ですか? お客様の要望をどうやって知りますか?
  2. Two pizza チーム。小規模で俊敏なチーム(「ピザ 2 枚」で十分満足できる人数、という意味でこう呼ばれます)が、完全に責任を持ち迅速に行動します。プロダクトオーナー、ステークホルダー、プロダクトパイプライン、運用計画が備わっています。主要なパフォーマンス指標が識別されており、明確に定義された目標を持ちます。
  3. ビジネス目標に基づく優先順位付け。 多くの分析イニシアチブは年間のビジネス目標と一致していないため、分析からビジネス価値を得ることができないことがよくあります(ある世界規模の消費財企業では、構築したダッシュボードの 80% がまったく使用されていない、と話していました)。 集中管理されたデータチームが提供するデータやビジネス領域を理解していないことが多く、この状況をさらに悪化させます。最高のデータプロダクトチームはビジネスと高度に連携しており、チームのリーダーからのコミットメントを取り付けてから機能を提供します。
  4. SLA と KPI。データプロダクトに対し、稼働時間、データ品質、レスポンス時間などのサービスレベルを明確に定義します。顧客獲得コスト、予測精度、カートサイズといった KPI がいずれも収益増加、利益率向上というビジネス目標を達成するために積み上げられるようになります。
  5. ロードマップ。成功しているデータプロダクトオーナーは、ビジネスステークホルダーの意見に基づく機能のバックログを慎重に精選しています。チームの規模とビジネス価値に基づき継続的に予算を確保するための運営計画を実施しています。

データプロダクトのアプローチは、データセキュリティ、エンタープライズアーキテクチャ、ガバナンスに関する疑問を提起する新しい方法です。データプロダクトにおいては、データプロダクトチームにビジネス結果における責任が生じるという点がこれまでと根本的に異なります。 IT チームとエンタープライズアーキテクチャチームは CISO (Chief Information Security Officer)と協力し、クラウド環境のプロビジョニングやツールのゲートキーパーではなく、機能を実現するために活動します。データプロダクトチームは、データのセキュリティ、プライバシー、データ漏洩に関する企業の要件を満たさねばなりませんが、これらの要件を満たす方法に関しては柔軟性も備えます。

まとめ

統合されたデータと分析は、今後も長きにわたり消費財企業の投資最優先事項であり続けるでしょう。組織内のデータプロダクトについて考える際には、自分の組織が成熟度モデルのどこに位置するかの検討し、今回ご紹介した 5 つの信条を参考書として活用し、成功戦略を立てそれを維持してください。

詳細については、ホワイトペーパー「Making The Shift to Data Products – The missing guide for how organizations become data driven」もご覧ください。あるいは AWS Data Products にメールまで連絡ください。AWS 担当営業に問い合わせ、データ駆動への道を歩み始める方法を相談することもできます。

参考文書

 


著者について

Michael Connor

Michael Connor は、AWS 消費財向けグローバルソリューションリードとして、クラウド テクノロジーを使用してお客様が収益増加とデジタル変革の目標を達成するお手伝いをしています。前職コカ・コーラのフリースタイルのチーフアーキテクトとして、デジタルイノベーション、データサイエンス、アナリティクス、エンタープライズアーキテクチャを主導した豊富な経験があります。デジタル変革の一環としてコカ・コーラ・ノースアメリカのエンタープライズクラウドへの移行をリードし、コカ・コーラのイノベーショングループを率いて開発した IP は 2020 年の同社のトップ 4 イノベーションのうちの3つにあたります。AWS カスタマーアドバイザリーボードのメンバーを 5 年間務めました。人工知能、自動化、プライバシー、文化、倫理といった領域に情熱を注いでいます。

Justin Honaman

Justin Honaman は、AWS グローバルに消費財小売業界の Go-to-Market チームを率いています。食品飲料のセグメントリーダーでもあります。消費財小売業界において、世界中のお客様にサプライチェーン、e コマース、データ分析、デジタルエンゲージメントに関するビジネスソリューションを提供することに注力しています。

 

翻訳は Solutions Architect 杉中が担当しました。原文はこちらです。