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Govtech Meetup ~官民共創そろそろぶっちゃけナイト~【開催報告】

アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS)と一般社団法人Govtech協会は 2023 年 6 月 30 日に、「Govtech Meetup~官民共創そろそろぶっちゃけナイト~」を AWS Startup Loft Tokyo にて開催しました。

行政の非効率性を改善し、国民にとってより良いサービスを提供するために、スタートアップを中心とした民間企業と自治体とで革新的な Govtech サービスを共創することが求められています。本イベントでは、自治体 DX や公共サービスのデジタル化に取り組まれている自治体職員の方々や企業の方々を対象に、これまでの枠組みにとらわれない新しい官民連携の形について学び合える場を提供しました。今回はそのレポートをお届けします。

Opening Keynote by Govtech協会

イベントの Opening Keynote を務めるのは、Govtech協会 代表理事、xID株式会社 代表取締役 CEO の日下 光 氏。Govtech協会は、民間企業による革新的な Govtech サービスを生み出しやすくするための環境作りや法制度の整備に必要な政策提言、共創・競争環境の整備を推進することを目的に設立された一般社団法人です。

一般社団法人Govtech協会 代表理事、xID株式会社 代表取締役 CEO 日下 光 氏

“Govtech”とは、2013 年頃からスタートアップを中心として国内外で使われ始めた「Government と Technology」を掛け合わせた造語です。日本においても、これまで経済産業省主催で Govtech Conference Japan が行われたり、デジタル庁主催で行政デジタル化の知見を共有するイベントとして Govtech Meetup が開催されたりするなど、徐々にデジタルガバメントの取り組みにおいてもその言葉が認知されつつあります。

Govtech協会は「官民の境界線を溶かし、公共・行政分野に新しい価値共創モデルを実現する」というミッションを掲げています。つまり、「行政が発注者で民間が受注者」という関係性ではない、新たなモデルを構築・維持していくことが重要なテーマであると考えているのです。

主な活動は 4 つあります。1 つ目は広報活動。2 つ目は日本国内の企業間において Govtech 関連の連携を促していくこと。3 つ目がメインの活動である政策提言。4 つ目は国内の Govtech 活動と国外の Govtech 活動とのリンケージを行うことです。

「今回は『官民共創そろそろぶっちゃけナイト』ということで、登壇者の方々から本音ベースのご意見が聞けるはずです。ぜひ、今日は楽しんでいただければと思います。ご清聴ありがとうございました」と、日下 氏は結びました。

もともと自治体 DX でご活躍されていた方々による「官民共創そろそろぶっちゃけナイト」

続いて、元は公務員としてご活躍され、現在は別の立場に移られた方々による、官民共創や公共・行政サービスのデジタル化に関する本音ベースのぶっちゃけトークをパネルディスカッション形式で実施しました。ここでは一部の内容をご紹介します。

<モデレーター>

AWS パブリックセクター 官公庁事業本部 本部長 大富部 貴彦

<スピーカー>

一般社団法人 Code for Japan / Govtech推進コンサルタント、元横浜市職員 石塚 清香 氏

特定非営利活動法人 Digital Government Labs 代表理事、元船橋市職員 千葉 大右 氏

TIS株式会社 デジタル社会サービス企画ユニット デジタル社会サービス企画部 エキスパート、元加古川市職員 多田 功 氏

1. 官民共創のあるべき姿

パネルディスカッションの最初のテーマは「官民共創のあるべき姿」です。石塚 氏は自らの元横浜市職員としての経験を踏まえて「私より早く辞められてしまいましたが、横浜市で共創の取組みを主導した先輩から教わった『公平・公正』の考え方をずっと大事にしている。先輩曰く『横浜市の共創フロントは24時間365日あらゆる人からの提案を受け付けている。誰かに「あの人の提案だけ耳を傾けるのは不平等だ」と言われたら「では、あなたも何か提案してください」と言えばいい。入口を狭めて入れる人を少なくすることが「不平等」であるということだから。』と聞いてとても腹落ちした。」と述べました。

一般社団法人Code for Japan / Govtech推進コンサルタント、元横浜市職員 石塚 清香 氏

自治体は「その地域に関する資源を持っている」「市民に直接的にアクセスできる」というような強みを、企業側は「特定の自治体に縛られず、サービスを横展開できる」というような強みを持っています。そうした、自治体と民間企業が持つそれぞれの長所を活かして、良いものを生み出していくことが、共創のあるべき姿であるという議論が行われました。

千葉 氏は「製品の紹介や意見交換がしたいと言って役所に来られる方もいますが、その方々のお話を伺って『それで終わり』になってしまうことが多かった」と船橋市職員時代の経験を振り返ります。そして、特定非営利活動法人での活動内容を踏まえ、官民共創を促すためには「協力し合える“関係作り”からまず始めていくほうがいい」と推奨しました。

セッションでは他にも、石塚 氏と千葉 氏、多田 氏が自治体の職員として働いていた時代に、官民共創のためにどのような取り組みをしていたのかを解説しました。

2. 自治体から見て、どのような事業者であれば共創しやすいか?

特定非営利活動法人Digital Government Labs 代表理事、元船橋市職員 千葉 大右 氏(写真右)

自治体の側から見て、「この事業者とは協力体制を築きやすい」「ぜひ、この事業者と一緒に何かをやってみたい」と思えるような企業が存在します。では、具体的にどのような特徴を持った企業であれば、共創をしやすいのでしょうか。登壇者たちはみな口をそろえて「話をしに来られた方々の熱量や人間的な魅力があること、そしてサービスの持つ理念やビジョンに共感できること」が重要であると語ります。

千葉 氏はかつて船橋市職員時代に、日下 氏から xID株式会社の事業構想について話を聞いたといいます。同社は、マイナンバーカードを活用したデジタル ID ソリューション「xID」を提供する企業です。その頃はまだ、国民の 10 人に 1 人ほどしかマイナンバーカードを持っていなかった時代でした。

「その時代に、日下さんはマイナンバーカードに特化したソリューションを作って、その将来性について目を輝かせながら話していました。『この人、面白いな』と興味が湧いたわけです」と当時を振り返りました。

多田 氏もそれに続けて「私もこの場に登壇して意見交換をするなかで、千葉さんや石塚さんの熱量や人間的な魅力に興味を持ち、お二人の話をもっと聞きたいと感じましたからね」と同意。官民共創を促すうえでは、事業の実現可能性やサービスの良し悪しといった要素だけではなく、事業者が「未来をどう変えていきたいのか」という明確なビジョンを持っていることや、自治体側がその思いに寄り添って協力体制を構築することが肝要であると語りました。

TIS株式会社 デジタル社会サービス企画ユニット デジタル社会サービス企画部 エキスパート、元加古川市職員 多田 功 氏

3. 官民共創にこれから取り組んでいくには

パネルディスカッションの終盤では「官民共創にこれから取り組んでいくには」というテーマについて議論。そのなかで、「今回のイベントのような交流の場に積極的に参加し、さまざまな方々との関係を構築することが効果的」という意見が出ました。

また石塚 氏は「近年、官民共創の取り組みに積極的な自治体が増えているので、この流れをうまくつかんでほしい」と会場の方々にアドバイス。そして協業やサービスを自治体側に提案する際には「その自治体のことを、できる限り事前に調べておいてほしい」とも説明しました。

多田 氏は自分自身の過去の活動内容について触れ、「自治体側の方々も待ちのスタンスでいるのではなく、なるべく人が集まる場などに参加して積極的に声をかけ、人とのつながりを作っていくことが重要」と語りました。

他には、官民共創の取り組みを円滑に進めるうえで、自治体のなかにいる“キーパーソン”を巻き込むことが大切であることも解説されました。どのような自治体にも推進力や巻き込む力の強い人物が必ずおり、その人にコンタクトを取っていくことで、プロジェクトを推進しやすくなるのです。

セッション終了後は、会場の視聴者から質問を募り、パネリストたちが回答していきました。“ぶっちゃけナイト”の名が示すとおり、企業や自治体の方々からのリアルな悩みや踏み込んだ質問が寄せられました。

AWS パブリックセクター 官公庁事業本部 本部長 大富部 貴彦

最後に、スピーカーの方々から一言ずつ締めの言葉をいただきました。

「企業のみなさんは、さまざまなビジョンやソリューションをお持ちだと思います。それが自治体の方々にまだ届いていないのであれば、こういった場を積極的に活用し、情報交換をしていただければと思います。今回のイベントのように、さまざまな立場の方々が一堂に会する機会は貴重です」(多田 氏)

「官民共創の取り組みを積極的に進めていくような推進力のある人間はどこかに必ずいるので、積極的に探しにいってほしいです。民間企業の方々も自治体の方々も、ぜひどんどん外に出て行きましょう」(石塚 氏)

「良いサービスや良い仕組みは、必ず世の中で認められると思っています。ぜひ、みなさんの力でそういったサービスや仕組みを作っていただき、世の中をより良くしていきましょう」(千葉 氏)

Govtechに取り組むスタートアップによる Lightning Talk

ここからは、先進的な Govtech サービスに取り組むスタートアップ各社による、事業内容の Lightning Talk を実施しました。

株式会社AmbiRise

まずは株式会社AmbiRise の代表取締役 CEO である田中 寛純 氏による発表です。

田中 氏はかつて、札幌市役所の職員として 18 年間働いてきました。そのなかで、公平性・中立性が求められる行政の立場からのアプローチでは「全員にとって使いやすいサービスを目指すことで、かえって誰にとっても使いにくいサービスを生んでしまう」という矛盾や、サービスを提供するまでのスピードが遅い点などに課題を感じていたといいます。

株式会社AmbiRise 代表取締役 CEO 田中 寛純 氏

政府や地方自治体のサービスの改善や、これまで行政が担う範囲だと考えられていた領域への民間企業からのサービス提供のため、田中 氏は AmbiRise 社を設立しました。同社は行政向けの電子請求書サービス「Haratte」や、サービスをユーザーに効果的に使ってもらうためのコンサルティングを提供しています。

自治体の取引に必要な請求書の多くは紙でやりとりされています。田中 氏が元いた札幌市役所でも、年間 30〜40 万枚の請求書を紙で処理して、手作業で会計システムに入力する作業が、職員の大きな負担になっていたといいます。「Haratte」はそうした課題の解決を目指しており、請求書の発行・受け取りを段階的にデジタル化できます。

株式会社Godot

続いては、株式会社Godot の事業推進担当である鬼澤 綾 氏が登壇。Godot 社は、行動科学と機械学習を用いて、人々のより良い意思決定やより良い行動を促すサービスデザインに取り組んでいます。表に見える“行動”を手っ取り早く変えることではなく、その裏にある意思決定のメカニズムと真摯に向き合うことで、一人ひとりの真なる意思決定を尊重し、その意思決定に基づく行動を後押しする「Think Slow, Act Fast」の精神を大切にしているのです。

株式会社Godot 事業推進担当 鬼澤 綾 氏

同社が取り組む事業の一例として、がん検診の支援があります。創業時から、自社のコア技術である「Nudge AI」を活用し、人の認知的負荷や行動のボトルネックになる要因を排除して、市民の行動変容を促すことで、地方自治体におけるがん検診の受診率向上に寄与してきました。

また、自治体向けには「Nudge AI」を SMS と組み合わせたソリューション「BetterMe」を提供しており、すでに政令指定都市を中心に導入されています。

テックタッチ株式会社

3 社目はテックタッチ株式会社より、代表取締役の井無田 仲 氏が登壇しました。テックタッチ社は「すべてのユーザーがシステムを使いこなせる世界に」を掲げるスタートアップです。あらゆる Web システムの入力をアシストする DX プラットフォーム「テックタッチ」は大手企業や自治体・官公庁などに導入され、ユーザー数は 200 万人超。グッドデザイン賞などを多数受賞しており、経済産業省が選ぶ J-Startup にも認定されました。

テックタッチ株式会社 代表取締役 井無田 仲 氏

企業や自治体などで働く人々は、多種多様なITシステムを日々の業務で用いています。そして、基本的にそれらのツールは多機能であり、時に使いこなすための学習コストが高いケースがあります。「テックタッチ」の特徴は「ユーザーの使うシステムを改修することなく、画面上にナビゲーションを表示させることで、利活用を促進できる」という点にあります。

現在の主要なクライアントは、エンタープライズ企業や、システム開発・提供事業者です。そして最近では、官公庁・自治体といった公共機関に対してもサービスを提供し始めています。今後も、さらに多くの公共システムに「テックタッチ」を導入していくことを、私たちは目指しています。

株式会社トルビズオン

最後に登壇したのは、トルビズオン社の代表取締役 CEO、増本衞氏です。同社は、「世界中の空を利用可能にする」をミッションに掲げ、ドローンの空路インフラ整備事業である「S:ROAD」を提供しています。

株式会社トルビズオン 代表取締役 CEO 増本 衞 氏

S:ROADは特許技術「スカイドメイン」をベースに開発したプラットホームです。安全なドローン飛行環境を整備し、地権者や自治体との調整を効率化します。全国の代理店が同プラットホームを用いて、空路のリスクアセスメントや地域との合意形成を行い、そのデータをドローン事業者に共有・販売することで、双方の利便性向上と労力削減を実現しています。

トルビズオン社はこれまでS:ROADを使って、福岡県福岡市や宗像市、兵庫県神戸市、山口県下関市、茨城県つくば市、佐賀県小城市、多久市などさまざまな自治体との実証実験を行ってきました。この官民共創モデルを、さらに日本全国に展開していくことを予定しています。

「デジタル社会実現ツアー 2023」のご案内

イベント最終盤では、AWS より、2023 年 8 月 21日から全国 13 都市で実施する「デジタル社会実現ツアー 2023」についてのご説明をしました。

本イベントでは、「地域創生を“さらに”一歩進めるには?」をテーマに、デジタル田園都市国家構想によって実現を目指す地域創生や社会課題解決の各領域 (地域交通のリ・デザイン、遠隔医療、こども政策、教育 DX、観光 DX、防災 DX、スマート農林水産業・食品産業など) において、先行して取り組みを始めている先進的な企業やスタートアップおよびそれらと連携している自治体や関係各省庁の皆様をお招きし、「プロジェクトの進め方(資金調達など)」「人材育成」「デジタル技術の活用」といった注目の各トピックについての成功談・失敗談についてお話いただきます。

デジタル技術の活用により、地域の個性を活かしながら、社会課題の解決、魅力向上のブレイクスルーを実現し、ビジネス活性化の加速を目指すみなさまに、一つでも多くのヒントや気づきを得ていただきたいと考えています。これからデジタル技術を活用して地域創生や社会課題解決に取り組みたいと考えられている各地域の企業やスタートアップ企業、および、地域創生や社会課題解決を地場の企業やスタートアップと連携して取り組みたい地方自治体や地方銀行の皆様のご参加をお待ちしています。ぜひこちらからご登録くださいませ。

AWS パブリックセクターは今後も、スタートアップの方が自治体等の公共機関と共創し、イノベーションを加速させるためのさまざまなテクニカル・ビジネスセッションや Meetup を実施予定です。ご関心を持たれた方は、ぜひお気軽にこちらまでお問い合わせください。社会課題解決イノベーションに取り組まれる、スタートアップのみなさまのご参加をお待ちしております!

このブログは、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 パブリックセクター 事業開発マネージャー( Startup )である岩瀬 霞が執筆しました。