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産業設備の予知保全サービス Amazon Monitron の紹介と、多拠点・大規模な設備群における保全効率化への取り組み

Amazon Monitron は産業設備の予知保全を行うためのデバイス、アプリケーションが一体となったエンドトゥエンドのサービスです。このブログでは産業設備予知保全の課題と Amazon Monitron によるソリューション、2024年現在のアップデート、利用方法の学び方、大規模設備への適用方法などをこれまでに公開された資料をもとに紹介します。

この記事を読んでいただきたい読者

生産工場、物流拠点、プラントを操業する企業の方、モーター・ベアリング・ポンプ・ファンなど多くのコンポーネントを持つ設備を稼働し、その保守・点検を改善することに課題を持つ生産部門の方、あるいは自社製の設備や製品の予知保全に関心を持つ方を想定しています。

産業における設備保全の課題

製造工場やプラント、物流倉庫など、産業の現場には、膨大な数の機器が存在します。そして、機器の故障は、生産活動の停止を意味します。これらの産業現場において計画外のダウンタイムはメンテナンスにコストがかかり、生産効率の低下による機会ロスにもつながります。

定期的に交換する消耗品などは、余裕を見て交換のサイクルを短縮すれば良いという考えもあると思います。設備保全において、故障後に交換する事後型、寿命に応じて交換時期を決め、計画的に交換する計画型のアプローチが一般的です。一方で、コストの観点から、可能な限り壊れる直前まで寿命一杯使いたいものです。ただ、使い方によっては想定よりも早く摩耗し、結果として機器の故障に繋がるので交換タイミングを適切に予想する必要があります。これは予測型のアプローチ(予知保全)と言えます。

予測型アプローチでは、継続的なモニタリング、データ分析による予測、必要なタイミングでのアクションが組み合わされています。これにより、設備保全のチームは、実際の機器の状態に基づいて、必要なときにだけ機器を修理することができます。予知保全は主に大規模・高価な装置や工場・プラント全体の監視に多く導入されています。しかしながら、モーター、ファン、ベアリング、ポンプといったコンポーネントには高価なセンサーや複雑な検知システムを導入することが難しく、多くの機器が事後保全や計画保全を中心に運用されている現状があります。

(図: 産業メンテナンス戦略)

産業設備の予知保全サービス Amazon Monitron とは

Amazon Monitron は、産業設備の予知保全ソリューションで、アプリケーションからセンサーデバイスまでを一貫して提供します。Amazon Monitron には、振動や温度データを取得するセンサーデバイス、データを AWS クラウドに転送するゲートウェイデバイス、データを ML で異常解析する Amazon Monitron サービス、設備の潜在的な故障を確認するための専用モバイルアプリが含まれています。お客様の保全者は、このアプリを使用して、産業設備の診断や保全計画を立てることができます。

(図: Amazon Monitron による設備予知保全)

Amazon Monitron は安価なセンサーと統合されたアプリケーションを組み合わせたサービスで、これまで保全ソリューションの導入が困難だったモーター、ギアボックス、ベアリング、ポンプ、ファン、コンプレッサといった回転部分を有するコンポーネントに予知保全を導入することを目的としています。これらのコンポーネントは単純ですが、工場などの現場には大量に存在し、計画外の稼働停止が発生すると時には工場・プラント全体の操業に影響を与え大きなビジネス損失を生む可能性があります。

Amazon Monitron は小型の Amazon Monitron センサーを対象設備へ貼り付けることで予知保全を実現します。センサーは3軸の振動センサーと温度センサーを持ち、またバッテリーを内蔵することで5年間バッテリー交換や充電の手間なく稼働することが可能です。センサーは電源や通信ケーブルを必要とせずに機器に取り付けることができます。これにより、長年稼働している古い設備やセンサーとの接続手段をもたない機器へ「後付で予知保全」を実現することが可能です。

(図: Amazon Monitron センサー )

Amazon Monitron は Web アプリケーションとスマートフォン用のモバイルアプリケーション( Monitron アプリ)を提供します。 Monitron アプリは利用ユーザー管理、設備(アセット)とMonitron センサーの関連付け、設備毎の状態表示、不具合の通知といった機能を持ち、は AWS の知識がなくても Monitron アプリだけで完結して保全を行うことが可能です。 Monitron アプリでは取り付けたセンサーから送られたデータをグラフ表示し、不具合の可能性を検知した場合にスマートフォンアプリから保守員へ通知します。保守員はアプリの「確認」ボタンをおして設備を「メンテナンス」状態に設定します。「メンテナンス」状態では Monitron アプリは予知保全による通知を一時停止します。

(図: ML と ISOをベースにした分析)

不具合の予兆を知った保守員は現場へ赴き設備の調査を行います。結果、問題があれば交換や調整などの適切な対応を行います。ユーザーは Monitron アプリに「障害モード」「障害の原因」「保守員が実行したアクション」の3項目を入力し対策したことをMonitronへ送信します。その後、Monitron はその設備が正常になったことを認識して予兆検知を再開します。

(図: Amazon Monitron アプリ上での問題の解決)

Amazon Monitron デバイスの 日本発売と2023〜2024年の機能アップデート

Amazon Monitron デバイス (センサー、ゲートウェイ)は各国の法規に基づき、認定を取得し動作可能な国・地域で販売されています。日本では 2023年8月にAmazon Monitron デバイスが販売開始されました。その後も様々な機能のアップデートが行われています。2023年から2024年までの Amazon Monitron サービスアップデートは AWS ブログ 「Amazon Monitron (産業設備の異常予兆検知) 2023-2024年アップデートのまとめ」を御覧ください。

多拠点・大規模な設備群における保全の効率化の課題と取り組み

前述したように Amazon Monitron は産業設備の予知保全に必要な機能を備えていますが、多拠点・大規模な産業設備群の保全には多数の機器状態の効率的な把握や作業員との連携、設備構成管理システムと協調した機器交換計画の管理が必要になる場合があります。例えば、拠点ごとに現在保全が必要な機器数を知り、保全要員のスケジュールを決定したり、過去の保全履歴から不良の原因を分析し、保全マニュアルを改善したり機器交換のタイミングを計画することができます。

現場の保守員の観点では、保全が必要なタイミングで保全の必要性を通知し、作業員のスケジュールを確保し、作業にかかる時間を短縮する仕組みが必要で、これらを実現するには既存の保全管理システムとの連携が必要です。

これらを実現する手段として、Amazon Web Services ブログ「Amazon Monitron と Amazon Kinesis により予知保全のためのアクションにつながる洞察を得る方法 」 で Amazon Monitron のデータを他サービスと連携する機能「データエクスポート」を使用して、Infor EAM 、 SAP Asset Management 、 IBM Maximo などの Enterprise Asset Management (EAM: 設備資産管理) システムと連携できること、その実例として、収集したデータを Amazon S3 に蓄積し、 AWS Glue や Amazon Athena といった分析サービスを使うことで大規模運用計画を支援するダッシュボードを構築できることをご紹介していますので御覧ください。

より詳しく知るには

この記事では Amazon Monitron の概要を説明し、大規模・多拠点の設備を有する産業に向けた、設備群の不良予兆検知ダッシュボードとその実装構成について、 Amazon Monitron によるソリューションとその活用を紹介しました。

製造業を始めとする産業での AWS 利用について、実際の事例やリファレンスアーキテクチャを知りたい方は、 AWS の製造業に対する取り組み を御覧ください。
今回のデモで用いた各 AWS サービスの詳細はサービスの紹介ページをごらんください。

AWS サービスについてより詳しく学びたい方は、AWS Black Belt Online セミナーにてサービス毎のオンデマンドセミナーを公開しています。Amazon Monitron は基本編、設定編、サービス連携編の3つのオンデマンドセミナーを提供しています。

今回のソリューションについて、自社の現場への導入にご興味のある方は、「AWS に問い合わせする」からお問い合わせください。

このブログについて

このブログの内容は AWS Japan のソリューションアーキテクト 吉川晃平 が執筆しました。