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移行パス策定ワークショップ活用事例

こんにちは。カスタマーソリューションマネージャー( CSM )の髙木です。この記事はクラウド移行戦略で必要な移行パスを策定する移行パス策定ワークショップご紹介の続編となります。前回のブログ”移行パス(クラウド移行戦略)をワークショップで策定する” では、クラウド移行戦略における移行パス策定ワークショップの位置付けや、ワークショップの実施方法、効果をご紹介いたしました。これまで様々なお客様へ移行パス策定ワークショップ(Migration Path Workshop(MPW))をご提供させていただきましたので、今回はその中からお客様実施事例をいくつかご紹介させていただきます。

本ブログでは、「移行先」、「移行戦略」、「移行パス」はそれぞれ以下の定義で使用しています。
 移行先:パブリッククラウド、プライベートクラウド、SaaSといったシステムの移動先となる場所や環境のこと。
 移行戦略:システムを移行する際の具体的な手法のこと。AWSでは「Relocate」「Rehost」「Replatform」「Repurchase」「Refactor」「Retire」「Retain」の頭文字を取った「7R」を移行戦略として提唱しています。
 移行パス:分岐条件を経て到着点に至るまでの経路のこと。自社固有の移行条件であったり、到達点として選択可能な移行先を定義するもの。

実際にワークショップで移行パスを策定されたお客様の事例を3つご紹介します。
 事例#1:移行先アーキテクチャの選定基準が曖昧で移行先選定方法に課題をお持ちのお客様
 事例#2:移行計画段階で移行パスを整理しようとされていたお客様
 事例#3:クラウド移行プロジェクトをどのように進めていけばよいか模索されているお客様

下図のお客様のお悩みの①~③が今回ご紹介するお客様のケースに当てはまるかと思います。
移行パスの選定基準はお客様個社の条件や制約があり、標準化された基準をそのまま当てることが難しいため、関係メンバーに集まっていただきワークショップ形式でのディスカッションを行うことで各社の環境に合った移行パスを策定できます。

移行パス策定事例
それでは本ワークショップを利用して移行パスを策定したお客様の事例を見ていきましょう。

[事例#1]
最初の事例はすでにクラウド移行を進められていたお客様の事例になります。
クラウド移行を進めているものの移行先選定基準が曖昧であったためいくつかの課題を抱えられており、社内で統一した基準として移行パスを策定することを目標にワークショップを実施しました。
お客様が抱えていた課題は以下になります。
・業務部門がそれぞれ移行先を決めているため、移行先が全体最適化されていない
・リホストが最終ゴールとなっており、クラウドのメリットを十分に享受できていない
・可能性のあるすべての移行先の見積もりを行う必要があり、見積もり作業工数が大きい
AWS側からご提供したサンプルの移行パスと分岐条件例を参考に、あらかじめ自社での分岐条件のアイデアを考えておいていただいた上でワークショップにご参加いただきました。
当日は、自社で選択可能な移行先の整理から始めて、各々持ち寄っていただいた分岐条件アイデアを最終移行先に至る分岐条件として取捨選択をしながら移行パスを整理していきました。
ワークショップを実施した結果、移行先選定のディシジョンツリーが可視化され、移行コスト以外の判断基準も組み込まれたことで移行先の選定基準の曖昧さがなくなり、統一された基準での選定が可能となりました。
また、選定基準が明確になったことで選定した移行先の見積もりのみとすることができ、見積もり作業工数の軽減につながった事もワークショップ実施効果の一つとなりました。

[事例#2]
2つ目の事例は、移行については既に知識をお持ちでこれから移行を行っていく計画段階のお客様の事例になります。
既存システムのクラウド移行計画を進めていらっしゃるお客様から、移行先選定のための社内標準となる移行パスを作成したいというご相談をいただき、本ワークショップをご提案させていただきました。
お客様自身で移行パスの作成を検討され始めているタイミングでしたので、メンバーが集まって集中して移行パスを作成する良い機会と捉えていただき、ワークショップ実施に至りました。ワークショップはオンライン形式での開催でしたが、事前に、自社で選択可能な移行先とそこに至る分岐条件を記載した移行パスのドラフト案を作成しておいていただき、当日はその資料をオンラインツールで画面共有しながら分岐条件の追加・修正、選定順序の見直し、自社特有の条件の取り込みを行い、移行パスの品質を上げていきました。
ワークショップを実施した結果、移行対象システムのオーナーである各システム担当者が移行先を選定する際に利用可能なレベルまで移行パスを向上させることができました。
曖昧な基準のまま移行先が選定されないようこの移行パスをガードレールとして使用することをお客様は想定されており、この移行パスで移行先が選定できないようなシステムが今後出てきた際には、システムの特性を確認し、条件の緩和や分岐の追加といった対応を行く運用とすることも決定しました。
ワークショップにメンバーが集まり、集中してディスカッションすることで、短時間で移行パスの品質を上げることができ、社内展開までの時間も短縮できました。

[事例#3]
3つ目の事例は、AWS及び、移行についての知識をそれほどお持ちでなく、どのようにクラウド移行を進めていくかを模索されていたお客様の事例になります。
オンプレ環境の社内システム更改のタイミングでクラウド移行を検討されていましたが、担当メンバーの方々はクラウド移行の経験が少なく、各サーバーをどのように移行したらよいかの検討段階からなかなか前に進められない状況でした。そこで、移行プロジェクトの基準とする移行パスを策定することを目的に、社内システムのマイグレーション担当リーダとメンバーの方々と本ワークショップを実施しました。1つ目の事例と同様に、自社での分岐条件のアイデアを事前に考えておいた上でワークショップにご参加いただきました。
この事例は上記2つの事例とは異なり、AWS、Azureといった具体的な移行先ではなく、リホストやリアーキといった移行戦略(7R) を選定するためのパスを作成しました。
ワークショップでは、各人に持ち寄っていただいた分岐条件のアイディアが本当に移行戦略(7R)選定に関係する条件かということディスカッションしながら、取捨選択し移行パスを整理していきました。ワークショップを通じて策定した移行パスを移行対象サーバーのリストと突き合わせることで、各サーバーでどの移行戦略(7R)を採用し移行を進めていくかを決めることが可能となり、プロジェクトを移行の検討段階から一歩前に進めることができました。

まとめ
本ワークショップは、基本的にはクラウドジャーニーのAssesmentフェーズでご利用いただくプログラムに位置付けていますが、その他のフェーズおいてでも、移行先選定の基準が曖昧だったり、移行を手探りで行っている状況で本ワークショップを実施していただくことで、お客様の状況に応じた移行先や移行戦略(7R)、特有の分岐条件も考慮した移行パスの策定もしくは策定の見直しをしていただいています。

クラウド移行に際して状況の異なるお客様の事例を3つご紹介させていただきましたがいかがでしたでしょうか。
移行パスが整理されていない状況のままクラウド移行を進めてしまうと様々な問題が発生するリスクが高まります。
事前に関係者の認識を合わせた形で移行パスを作成し、共通のルールで移行作業を進めていくことが大切です。

また、これまでのワークショップを通して、直面している課題に対して特定の人が考えた解決策よりも、関係者が一同に集まってディスカッションした解決策の方が共通認識を持って進められるという点で次のアクションにつながりやすいと感じています。今回ご紹介した事例に当てはまらないケースでもご支援が可能ですので、本ワークショップにご興味をお持ちのお客様は、担当営業へご相談ください。
ワークショップで移行パスを策定してクラウド移行を加速させていきましょう。

参考リンク
移行パス(クラウド移行戦略)をワークショップで策定する
AWS ITトランスフォーメーションパッケージ ファミリー(ITX)
マイグレーションを実現するために – 第 2 回 : 移行戦略と移行パスとは ?

著者プロフィール

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社
カスタマーソリューションマネージメント統括本部
カスタマーソリューションマネージャー
髙木 昇
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社
カスタマーソリューションマネージメント統括本部
カスタマーソリューションマネージャー
服部 昌克