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基調講演:国土交通省「日本版MaaSの推進に向けて」- AWS「鉄道DXセミナー」開催報告

今回のブログでは、2022年6月9日(木)に開催された、AWS「鉄道DXセミナー」における、国土交通省 モビリティサービス推進課による基調講演の模様をお届けします(全40ページの投影資料は、こちら)。ご不明の点、「Contact Us」までお問合せください。AWSジャパンでは、鉄道をはじめとする幅広いMaaS ソリューションの社会実装の加速実現や、それを支えるMaaSデータ連携基盤の整備など関連技術の普及を支援していきます。

国交省では都市・移動など幅広い政策を所管

基調講演の開始に先立ち、AWSジャパン 事業開発本部の竹川寿也から “本日のセミナーでは、鉄道業界全体のDXをテーマとし、なかでも、「1.デジタルによる新市場開拓、2.現場業務プロセスの抜本的な効率向上、3.全社に影響するITオペレーションの刷新」が大きな主題である”──旨、全体の構成の予告がありました。 「本セミナーでは、“単に鉄道による移動にとどまらず、都市計画・娯楽・ショッピング・施設・製造にいたるまで” の幅広いテーマを変革するテクノロジーを主題として取り上げていきますが、これらのテーマ全てを少子高齢化や地域間連携等の社会課題に取り組みながら、横断的に所管しているのが国土交通省」である── として、基調講演のスピーカー紹介が行われました。

今回、基調講演をご担当いただいたのは、国土交通省総合政策局 モビリティサービス推進課 課長補佐 粟井勇貴様(以下、「粟井課長補佐」)です。以下に、「日本版MaaSの推進に向けて」と題した基調講演のサマリーをご紹介します。

粟井課長補佐の講演は、冒頭、モビリティサービス推進課のミッションの紹介から始まりました。国土交通省としては珍しく、「カタカナ」の部署名を持つモビリティサービス推進課に所属し、「鉄道だけに限定せず、バス・タクシー・海運・航空など交通モードを跨いだMaaSの普及を推進している」旨、ご紹介をいただきました。

地域公共交通の現状と課題

粟井課長補佐からは、まず、「公共交通政策の過去の変遷」を紹介いただきました。大枠のトレンドとして、「民営化の流れはありつつも、少子高齢化や廃線の問題にどう向き合うか」、「その活性化はどうあるべきかを国交省では考えてきた」──と述べます。そして、近時のキーワードの1つは、「共創」であり、1プレイヤー、あるいは1つの交通カテゴリーだけでなく、複数の主体が連携した取り組みを検討する必要がある──と述べます(投影資料 p.4)。

また、都市部と地方の人口格差の拡大だけでなく、現役世代の「急激な減少」、「労働力の不足」にどう向き合うか──。これが公共交通政策分野の、大きな問題であるとも指摘します( p.5-8.)。

例えば、多くの過疎地域で導入されている「コミュニティバス」の運賃収入は運行経費の約2割に留まっており、また、大きな趨勢として、高齢者による免許の返納率も高まってきている──。「そうすると、聴衆の皆さんは、こう思うのではないでしょうか?」──粟井課長補佐は問いかけます。 「高齢者は外出を避け、若者向けの政策を考えればよいのかな・・と。でも、実際には逆で、“外出する高齢者と、そうではない若者”というトレンドが鮮明になってきています。インターネットの利用は、70代でも60%であり、アクティブに情報を取得し、外出する機会がシニア層のあいだで増えているのです。そして、この文脈で、MaaSの重要性も高まってきます。」

MaaSを身近に、便利に。

MaaSを構想する際には、分散したバラバラのものではなく、「1つのサービスであること」が大事であると粟井課長補佐はUI/UXの観点からも強調します。単なる移動だけでなく、観光・物流・医療、そうした「移動の目的に沿ったサービス」であることが望まれています。

粟井課長補佐は、1つの先進事例として、MaaS発祥の地と言われているフィンランド Whimの事例を紹介します。MaaSアプリであるWhimは、電車、バス、タクシーなどの移動サービスをサブスクリプションにて提供しており、交通モードを跨いだシームレスな移動を実現しています。粟井課長補佐は、Whimがこのようなサービスを実現できている背景に、「公共交通の運営主体が国であること」──を指摘します(投影資料 p.15)。

一方、日本では、民間事業者が公共交通の非常に大きな、かつ中核の部分を担っていることなどから、交通モードを跨いだシームレスな移動を実現するには様々な課題が存在しています。しかし、公共交通を担う民間事業者の多くは、交通以外の事業も展開しており、これが日本版MaaSの特徴を基礎づけていると、粟井課長補佐は指摘します。すなわち、日本版MaaSでは、生活・観光サービスなどと連携した移動サービスの提供が進んでおり、単なる移動に留まらない、移動の高付加価値化が図られている点が特徴として指摘されているのです。粟井課長補佐は、さらに、これらのMaaSに関連するデータが集積されると、信号制御の見直しなどの交通インフラ整備やまちづくりにも活用でき、スーパーシティやスマートシティの推進にも資するものであると述べます(投影資料 p.16)。

ここで、粟井課長補佐は1つの未来予測を紹介します。「今後、より、パーソナライズされた移動手段が求められることは確実である」──と。既存の大衆向けの移動手段の整備が前世紀型だったとすれば、次世代は、そこに個々人の快適さも合わせて追求されるトレンドが生じてくるのだと述べます。

この文脈では、ソーシャル・ディスタンスを確保しながらの移動も重要となるため、「MaaSとしてのコロナ対応」の論点も、気になるところです(p.20)。多くの人間が一斉に均一の交通手段で移動する時代から、よりパーソナルかつ安心感のある選択肢と併用する時代へと、公共交通の在り方自体が進化しつつあるのです。

一例では、「リアルタイム混雑情報提供システム」が普及していくことにより、比較的空いている時間の移動経路を把握し、通勤や旅行の経路を快適化することが容易になっていきます。

国交省が推進する「日本版MaaS支援の取り組み」

もう少し、国交省の取り組みをご紹介したいと思います。一つ目は、「日本版MaaSの基盤形成支援」です。上に紹介した「MaaSとしてのコロナ対応」、あるいはキャッシュレス決済の普及決済も、この取組の支援事例です。こちらのスライドのように、令和3年度には、日本全国で合計65箇所もの支援が行われてきました。

また、もう1種類の支援策としては、「MaaS実証実験への支援」が挙げられます。こちらは令和3年度までに延べ67地域への支援を行い、令和3年度には実証から実装へとステージが進んでいます。

この取り組みにおけるフロントランナーの1つは、前橋市の事例です。「MaeMaaS」として、社会実装が進んでいる事例を、紹介します。

MaeMaaSでは、交通モードを跨いだMaaSの実装、さらには、マイナンバーカードと交通系ICカードの連携が実現されています。「前橋市民であることが確認されると、公共交通の料金が自動で毎回割り引かれる」。そんな先端的な仕組みが、すでに実現しているのだと言います。

では、令和4年度の国交省の施策。どんなものがあるでしょうか? 最新の取り組みを一言で言うと、「先端的な取り組みのエリアを広げ、他分野と連携し、交通モードの多様化も図ってほしい」──。これが今年度の事業の狙いとなります(p.27)。──このように粟井課長補佐は紹介を続けます。

MaaS実現に向けたデータ連携の検討

では、国交省がMaaS実現に向けて「継続的検討事項」と認識している課題とは、なんでしょうか。基調講演の締めくくりとして、粟井課長補佐は「MaaS実現に向けたデータ連携の検討」が普及を加速するための重要なステップである──と述べます。令和2年に策定され、令和3年に改訂された「MaaS関連データガイドライン」には、MaaSに関連する事業者間のデータの取り扱いや共有・連携について一定の方向性が示されているものの、データ連携・利活用の高度化に向けた意義や課題が整理されていませんでした。そこで、「交通分野におけるデータ連携の高度化に向けた検討会」では、「シームレスな移動の実現」に向けて、連携高度化の意義や課題等を整理し、連携高度化を実現するための具体的なステップが検討されています(注:同検討会の取りまとめは令和4年6月27日付で公表されました。報道発表資料:「交通分野におけるデータ連携の高度化に向けた検討会」の取りまとめを公表します! – 国土交通省 (mlit.go.jp))。具体的には、リアルタイムデータで遅延・運休状況を把握しながらデジタルチケットを購入する──など、より利便性の高い公共交通・MaaSの実現に向け、データ連携の取り組みの土台となる仕組みを、国交省としても他省庁等と連携しながら検討していくのだと、聴衆向けにデータ連携の高度化に向けたマイルストーンを示していただきました。

「限られた地域だけのMaaSでなく、その地域をどんどん広げていく、繋げていくことが大事である。例えば、前橋市も群馬県全体との連携を模索し、さらには、本日の鉄道DXセミナーの次のセッションにご登壇いただく小田急電鉄様のように、国を跨いだ国際的な連携の模索も、加速されていくのではないか。国交省としても様々な連携のあり方や手法を検討していきたい。もちろん、GreenなMaaS、環境負荷の少ないMaaSの実現に寄与しながら。」──このように、粟井課長補佐による基調講演は締めくくられました。

データ共有など、AWSからも支援を継続

基調講演を受け、イベントホスト役のAWSの竹川は、「日本独自の社会構造・社会課題から、現状の政策、今後の発展の可能性まで、さまざまな角度からわかりやすくご紹介いただき、ありがとうございました」と述べ、後続のセッションへの進行が行われました。当日の「鉄道DXセミナー」の後半の模様については、こちらもご覧ください。

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このブログは、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 パブリックセクター 統括本部長補佐(公共調達渉外担当)の小木郁夫が執筆し、 事業開発本部の竹川寿也が監修しました。

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竹川寿也(写真右)
 AWSジャパン 事業開発本部
シニア事業開発マネージャー
小木 郁夫(写真左)
 AWS ジャパン パブリックセクター
 統括本部長 補佐(公共調達渉外)
 BD Capture Manager
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