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【開催報告】公共分野でスタートアップが事業拡大するには?AWS Startup Ramp Meetup vol.2 【前編】

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWS) パブリックセクター 事業開発マネージャー(Startup)の岩瀬霞です。AWS は、2022年 11月 25日に公共分野で活躍する AWS Startup Ramp メンバーのスタートアップ企業と、そのスタートアップ企業の活動を支援している自治体の方を招いて AWS Startup Ramp Meetup vol.2 を開催しました。AWS 目黒オフィスの会場での対面開催と同時に、オンラインでの配信も加えたハイブリット形式で開催し、長崎県、静岡市、つくば市、三重県、など地方自治体職員・関係団体、AWS パートナー、スタートアップの方々など、対面とオンライン合わせて 100 名以上の方にご参加いただきました。

AWS Startup Ramp について

AWS Startup Ramp は、アマゾン ウェブ サービス(AWS)を活用した革新的なソリューションで公共分野の課題解決に取り組むスタートアップを支援するプログラムです。行政、スマートシティ、シビックテック、ヘルスケア、サステナビリティ、宇宙などの公共分野への参入・事業成長に必要な技術支援・トレーニング、コミュニティ、コネクション・Go-To-Market 支援、AWS 無料利用クレジットの提供を通じて、スタートアップの事業成長を支援し、公共分野のイノベーションを加速させることを目的としています。日本では 2022年 2月に発表され、5月より、AWS や公共に特化したテーマで様々なセッションを行いました。詳細は AWS Startup Ramp をご覧ください。

AWS Startup Rampのこれまでの成果と今後の展開について

イベントの冒頭では、AWS ジャパン執行役員 パブリックセクター 統括本部長の宇佐見潮より、Opening Keynote を行いました。

AWS Startup Ramp は 2022 年2 月に発表、5月に開始して以降、公共に特化した様々な技術・ビジネスセッションや、個別技術相談会、ハンズオン、Meetup などの活動を行ってきました。2022年 9 月には、つくば市、浜松市と連携協定を締結し、AWS Startup Ramp 等のプログラムを通してスタートアップ支援で連携することを発表しました。こうした AWS Startup Ramp の取り組みの今後について3つの方針をご説明しました。

AWSジャパン 執行役員 パブリックセクター 統括本部長 宇佐見潮

まずは全国の共創スペースと連携し、 AWS Startup Ramp の支援を日本全国にいち早く届けます。二つ目に、支援の範囲を拡大します。公共を軸に、AWS Startup Ramp の支援の範囲をディープテックや地域のスタートアップにも広げ、公共調達活用のセミナーなどを実施していきます。三つ目に、AWS Startup Loft Tokyo における、公共に特化したセミナーや Meetupを継続して開催します。今後もより多くのスタートアップが公共分野の課題解決に取り組めるよう、資金面、技術面、事業面の支援に加え、コミュニティ作りを強化していきます。

スタートアップと行政の協業について、シリコンバレー流『ユーザーファースト』の価値の作り方に学ぶ

Opening Keynoteの後は、カーネギー国際平和財団の櫛田 健児 氏より、「スタートアップと行政の協業:シリコンバレー流『ユーザーファースト』の価値の作り方に学ぶ」という題目で基調講演をいただきました。フレーミング (思考モデル)の重要性を解説した上で、今まで行政が提供してきたことのフレームと、スタートアップが提供することのフレームは異なるため、双方とも相手のフレームを理解してアプローチすべきだと説明します。スタートアップエコシステム構築のワーストプラクティスの突破口として、ユーザーの視点に立って、ペインポイントの解消された状態である具体的な未来ビジョンをたくさん語ること等が重要であると解説しました。

カーネギー国際平和財団 シニアフェロー 櫛田 健児 氏

スタートアップと自治体の協業加速に向けて

続いて、「自治体xスタートアップのベストプラクティス、難しさ」というテーマでパネルディスカッションが行われました。スピーカーとして、株式会社 tsumug(以下、tsumug ) 代表取締役社長 awabar kyoto 店長 牧田 恵里 氏、xID 株式会社(以下、xID) 代表取締役 CEO 日下 光 氏、つくば市 スタートアップ推進室 室長 屋代 知行 氏、三重県 最高デジタル責任者(CDO)田中 淳一 氏をお迎えしました。AWS ジャパンパブリックセクター 官公庁事業本部 本部長 大富部 貴彦がモデレーターを務め、公共分野にスタートアップが参入する際のチャレンジや、公共分野ならではの魅力についてお伺いしました。本ブログでは、その一部を抜粋してお知らせいたします。

スタートアップと行政が交わる場を設け、まず目線を合わせること

AWS 大富部:スタートアップの皆さんは、どういうきっかけで公共分野に参入されましたか?公共分野に参入する際に直面したチャレンジについて教えてください。

tsumug 牧田 氏:公共分野に参入するきっかけは人の繋がりでした。店長を務めている awabar kyoto は、スタートアップの聖地になっていて、スタートアップ、大企業、公務員の方など色々な人と交流することができます。awabar fukuoka にいくと福岡市の方ともお話できて、飲みながら情報の交換ができたことが、公共事業をやってみようと思ったきっかけです。

株式会社 tsumug 代表取締役社長 awabar kyoto 店長 牧田 恵里氏

xID 日下 氏:公共に参入すること自体はチャレンジではないと考えています、飛び込んでしまえばいいんです。私は元々エストニアにいて、政府と民間が近かったので、それに比べると日本は距離が遠く感じますが、ややこしくて複雑なだけで、eGovポータルなどに情報は整備されている。しかし、一歩目より先に進むとなると、学習コスト、情報収集コストが民間より高いなど、難しくなっていきます。

三重県 田中 氏:スタートアップと行政は他の惑星のように感じていますが、理由の一つは接点が少なすぎるからです。目線が合わないと対話ができず、協業も生まれにくいので、awabarのような場を作って、そこに行政の方もどんどん入っていくことが必要だと思います。加えて、できれば人材の流動が起きると、両者の目線が大分合ってくると思います。

三重県 最高デジタル責任者(CDO)田中 淳一氏

公共ビジネスの魅力とは

AWS 大富部:公共ビジネスの魅力についてはいかがですか?行政側は接点をどう作ろうとしていますか?

つくば市 屋代 氏:行政としては、公益のためにスタートアップと協業するのですが、スタートアップの方も地域のまちづくりを担っていただけるのはお金にはない魅力だと考えています。

xID 日下 氏:公共は、いい意味で風通しがよいと感じています。キーマンになる職員同士が繋がっていて、先進的な議論がなされています。そこに民間の立場から飛び込みながら、そういったキーマンの方々とアイデアを作っていけるのはとても楽しいです。

tsumug 牧田 氏: 自治体との関わりに興味をもったきっかけが、福岡市の高島市長です。スタートアップとして街づくりに関わる魅力を感じました。自治体は遠い存在ではなくて、民間企業の活動の先に事業を広げていける対象なのだと気づかせてもらいました。とはいえ、民間向けよりは事業のハードルが高いと感じていますが、福岡市で事業をやっていてよかったと思っています。

三重県 田中 氏:今世界中にデジタル社会に転換をしていっている大きなチャンスだと思います。日本の地域で実績を出した後、世界に行けるというタイミングです。日本のスタートアップが社会実装したプロダクトを海外展開することに取り組んでいかなければいけないと考えています。

AWS 大富部:牧田さん、日下さんは日本以外の事業展開も考えられていますか?

tsumug 牧田氏:今のところはないですが、前職のときにアメリカで事業をやっていたことがあります。住む環境に興味があり、国や自治体がやっていることへの関心が高く、日本とは異なることに驚きました。

xID 日下 氏:今のままだとGovtech、スマートシティの分野で海外進出は難しいです。日本の制度に合わせるとガラパゴスの製品ができてしまい、海外では絶対売れないものとなります。本当にGovtech サービスを輸出する気があるのであれば、日本の制度を世界標準に合わせないといけないと思います。政府にも後押ししていただいて、Govtech サービスの海外展開など進めてもらうと、もっと風通しのよい公共サービスの議論ができるようになると思います。

xID 株式会社 代表取締役 CEO 日下 光氏

AWS 大富部:今日参加された方へのメッセージや、今一番解決されたい課題を教えてください。

つくば市 屋代 氏:つくば市は、仕組みのところでスタートアップに限らず、地元企業や大企業がどう市の事業に関わっていただけるかという仕組みに悩んでいます。1 対 1 ではなくて、色々な関係者の横の繋がりを含めて、全員で公共をどうよくできるか、という点を悩みながら考えています。

AWS 大富部:つくば市さんはその面では大きく先行されていると思っていました。

つくば市 屋代 氏:つくば市は先行しているといっても悩みながら進んでいるというのが正直なところです。実証実験や共同研究などもやってみないとわからないので、スタートアップ側に合わせるよう私たちも努力しています

つくば市 スタートアップ推進室 室長 屋代 知行氏

xID 日下 氏:民間企業が本気で公共に取り組めば、日本は変われると考えています。また、難しいほど面白いのが Govtech です。

tsumug 牧田 氏:スタートアップがチャレンジしたいと思う環境があるかどうかも自治体の魅力の一つになると思います。東京で創業してから福岡市に移って、納税したいと思う自治体に初めて出会えました。福岡市のように積極的に自治体がスタートアップのサービスを使える状況になっているか、市民に提供できる環境になっているかも重要です。そうすると民間企業から自治体に対するアプローチも増えてくると思います。

三重県 田中 氏:三重県はスタートアップの皆さんと一緒にデジタル社会を形成していきたいという強い意志を持っていますので、ぜひ様々なスタートアップの方々に三重県に関わっていただければと思います。

AWS 大富部:AWSも行政のデジタルトランスフォメーションを支援していますが、同時に行政やスタートアップの方々を繋げる役割も果たしていきたいと考えています。本日はご登壇いただきまして、ありがとうございました。

左から、AWS ジャパンパブリックセクター 官公庁事業本部 本部長 大富部 貴彦、三重県 最高デジタル責任者(CDO)田中 淳一氏、株式会社 tsumug 代表取締役社長 awabar kyoto 店長 牧田 恵里氏、xID 株式会社、 代表取締役 CEO 日下 光氏、つくば市 スタートアップ推進室 室長 屋代 知行氏、AWS ジャパンパブリックセクター 事業開発マネージャー(Startup)岩瀬 霞

続いて、公共調達にスタートアップが参入しやすくするには?のパネルディスカッションを行いました。後編に続きます!

このブログは、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 パブリックセクター 事業開発マネージャー(Startup)である岩瀬 霞が執筆しました。