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コンテンツ制作と配信の将来のためにAWS CDIが意味するもの

Media & Entertainment(M&E)におけるそれぞれの新しい技術進化は、業界をコンテンツの作成と消費について再考するよう推進しています。例えば、SDI(Serial Digital Interface)ファミリーのデジタルビデオインターフェースや、インターネットプロトコル(IP)を介したビデオ転送などのイノベーションは、テレビ放送やコンテンツ制作の仕組みに多大なる影響を与えました。クラウドの果たす役割の増大により、オーバーザトップ(OTT)やインターネットプロトコルテレビ(IPTV)の普及は促進され、これまでのテクノロジーにはなかったようなコスト効率と拡張性が実証されています。しかし、放送局やライブプロダクションの専門家たちは、主にオンプレミスワークフローに最適化されたアプリケーション間の低レイテンシーと高帯域幅の接続に依存しているため、クラウドの可能性を最大限に活用できていませんでした。なんとしてもこのギャップを埋めるため、Amazon Web Services(AWS)のチームはAWS Cloud Digital Interface(AWS CDI)を導入しました。

さて、AWS CDIとは何でしょうか?これは、クラウドでSDIを置き換えるものお考え下さい。AWS CDIは、高い相互運用性、低レイテンシー、耐障害性に優れたネットワーキングテクノロジーにより、クラウド内のアプリケーションとサービス間で非圧縮ライブビデオの転送を容易にするものです。AWS CDI Software Development Kit(SDK-ソフトウェア開発キット)は、オープンソースプロジェクトとして使用可能で、クラウドベースのブロードキャストアプリケーションとライブプロダクションアプリケーション間の信頼性の高い通信を実現するために必要な高性能クラウドネットワーキングと、相互運用可能なオーディオ、ビデオ、メタデータ(AVM)スキーマを提供します。

AWS CDIのインスピレーションは、クラウドで非圧縮ビデオを扱うために必要な高度なネットワーク接続性という、他のどのテクノロジーもなし得なかった課題を解決したいという包括的な願いから生まれたものです。SDIは、本来クラウドには存在しない同軸ケーブルに依存するため、選択肢には入りませんでした。2110や2022-6などのSMPTE規格はネットワーク接続プロトコルを提供しているものの、残念ながらクラウドには非対応です。クラウド内のアプリケーション間でビデオを移動する効率的な方法がないと、ライブプロダクションとブロードキャストワークフローのミッションクリティカルな部分は、オンプレミスに固定されたままになります。

このため、クラウドに移行済みのメディアワークフローの大部分は、クラウドネットワーク経由の移動が容易な圧縮メディアの使用に基づいていました。クラウドにデプロイされたユースケースも、レイテンシーの影響が少ないものでした。AWS CDIは、非圧縮ビデオが1フレーム未満のレイテンシーでAWSクラウド内を移動する方法を生み出す事で、これらの制限を解消します。この画期的なテクノロジーにより、チャンネル配信、ライブプロダクションの切り替え、マスターコントロール、リアルタイムグラフィックスなどのワークフローがクラウドに移行しつつも、地上と同じ非圧縮品質とフレーム精度で実行できるようになりました。

AWS CDIを使用すると、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)は、スケーラブルで信頼性の高い、低レイテンシーのクラウドベースのビデオアプリケーションを構築する堅牢なツールセットにアクセスすることが出来ます。AWS CDIを使用すると、ライブプロダクションとブロードキャストワークフローの最も重要な機能 (以前はローカルハードウェアと専用ネットワーキングだけで実現可能と考えられていたタスク)の一部が、クラウドでも実行可能になるだけでなく、高いパフォーマンスを発揮します。チャンネルプレイアウト作成からライブプロダクション、切り替えとミキシング、スローモーションリプレイまで、可能性は無限に広がりました。AWS CDIは、コアの部分で独自の相互運用性があり、複数のAmazon Elastic Compute Cloud (EC2)インスタンス間で非圧縮ビデオをベンダーアプリケーション間で転送するために必要なネットワーキング機能を提供するため、これらのワークフローが可能です。信じられないほど速いデータ転送速度と8ミリ秒という低レイテンシーで、異なるベンダーのクラウドベースのアプリケーションをリンクすることができます。これは、1秒あたり60フレームのビデオで1フレーム未満です。その結果、エンコード/デコードサイクルによるジェネレーションロスがなく、以前はオンプレミス環境でしか実行できなかったタスクをクラウドで実行する能力があるため、クラウドでのビデオ品質が向上します。

AWS CDIは、ビデオおよびVideo-over-IP規格の進化し続ける世界を、AWSクラウド経由でデータを移動するための革新的なプロトコルで橋渡しすることで、従来はハイパフォーマンスコンピューティング用に指定されていたテクノロジーの新しいビデオユースケースを実現しています。この点において、AWS CDIは、高まり続ける業界の期待に応える品質で、ブロードキャストとライブプロダクションがクラウドに完全移行するための道を開きつつあります。

基幹放送機能をサポートするクラウドベースのツールを開発するISVが増え、放送局やライブプロダクションのプロフェッショナルがそれらを取り入れるにつれ、制作プロセス全体がクラウドに移行する可能性があります。そこから、これらのワークフローをコンバージド(OTTおよびプライマリスクリーン)配信ヘッドエンドと簡単にリンクでき、クラウドで制作、放送、コンテンツ配信を統合できます。つまり、放送局やライブプロダクションのプロフェッショナルは、このテクノロジーを使用して最も差し迫った要求に応えたり、AWS CDIを使用して独自のアプリケーションを開発したりするようISVに促すゆえ、次なる動向に重要な役割を果たすことになります。

AWS CDI SDKを統合するアプリケーションは、ブロードキャストワークフローの従来の複雑な部分をクラウドに移行し、他では実現できないハイエンドなブロードキャスト品質のコンテンツを作成するのに役立ちます。クラウドを使用することで、従来のインフラストラクチャへの投資と関連するメンテナンスコストという、しばしば参入障壁となるものを削減します。AWS CDIは商業モデルを反転させ、ISVや放送局が、各イベント制作をより商業的に実行可能にするために拡大・縮小可能なプロダクション環境を構築し、テレビ放送へのアクセスを民主化する段階を設定できるようにします。これは消費者にとって、より多様でキュレーションされたコンテンツ体験を意味し、ストリーミング制作コミュニティにとっては、プロフェッショナルレベルのツールに簡単にアクセスして、多額の費用をかけずにコンテンツの品質を高めることができます。

EvertzGrabyoなど、AWS CDIを活用する驚異的な技術開発は既に存在していました。例えば、Evertzでは従来、AWS Elemental MediaLive動画処理サービスに送信する前にクライアントのために動画をエンコードする必要があり、品質低下や遅延が発生していました。そこで、AWS CDI SDKを利用し、Evertz OvertureコンポジティングエンジンからAWS Elemental MediaLiveに直接フィードを取り込むことで、追加エンコードが不要となりました。また、AWS CDIを使用して、複数のソースをイン/アウトに切り替える新しいライブプロダクションアプリケーションで、FOXをサポートしています。Grabyoでは、AWS CDIにより、複数のEC2インスタンス間でデータの移動が可能となり、ライブプロダクションアプリケーションに新たな高度化と水平スケーリング機能を追加できるようになりました。

AWS CDIは2020年9月に正式ローンチされたので、業界はその可能性を解き放ったたばかりの段階です。放送局や配信事業者がAWS CDIを使用して業界を前進させるにつれ、チャネル再生からプロダクション切り替え、非圧縮ビデオベースの合成まで、従来のオンプレミス放送やライブプロダクションワークフローがクラウドに移行することを期待しています。既に利用可能なAWS CDI SDKはhttps://github.com/aws/aws-cdi-sdk経由でアクセスできるようになったため、一般の皆様にはさっそく利用開始することをお勧めします。我々が共により多くの技術進出を行えば、ブロードキャストとライブプロダクションは、不可能がますます可能になっている場であるクラウドにより速く移行することができます。

 

AWS Media & Entertainment 参考コンテンツ

AWS Media & Entertainment Blog (日本語)

AWS Media & Entertainment Blog (英語)

AWS Media Services

 

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翻訳は BD山口 賢人、SA斎藤 兼一が担当しました。原文はこちらをご覧ください。