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アマゾンで AWS を活用して準リアルタイムで再生可能エネルギープラントのパフォーマンスを最適化している監視方法
この記事は、「How Amazon Achieves Near-Real-Time Renewable Energy Plant Monitoring to Optimize Performance Using AWS」を翻訳したものになります。
アマゾンは、2040年までに炭素排出量をゼロにするという目標の一環として、当初の目標である2030年よりも5年早く、2025年までに再生可能エネルギーを100%使用することを目指しています。2021年6月、アマゾンは再生可能エネルギーを購入した世界最大の企業となり、事業全体で65%の再生可能エネルギー化を達成しました。将来的には、アマゾンの年間総電力使用量を世界中のプロジェクトから得られる再生可能エネルギー 100%で賄う予定です。
動画:「Inside Amazon: シニア再生可能エネルギーマネージャー」
アマゾンは、世界中の再生可能エネルギー事業者と協力して、当社の電力需要に対応するための新たな再生可能エネルギープロジェクトをオンライン化しており、アマゾンの再生可能エネルギー最適化(REO)チームがこれらを監視しています。この REO チームは、発電設備の運用および財務パフォーマンスの最大化も担当しています。これらの最適化により、アマゾンはグローバル規模の取組みで大規模に持続可能性の目標を達成することができます。
再生可能エネルギー(再エネ)の保有設備群が急激に増加するにつれ、発電目標を確実に達成するために、再エネ発電設備の運用パフォーマンスをリアルタイムで監視するニーズが高まっています。その一方で、30カ国以上にある何百もの再エネ設備のパフォーマンスを監視するという難題は、日に日に増加していっています。これらの課題には次のようなものがあります:
- 様々なメーカーの様々な設備(風力タービン、ソーラーパネル)やシステム(SCADA、ヒストリアン)が異なる時期に構築
- 複数のデータフォーマット(独自形式、XML、IEC)やプロトコル、インターフェース(OPC-UA、Modbus、DNP3、API、非API / フラットファイル)
- 異なるデータ定義(IEC-61850、IEC 61450-25、RDS-PP)
- 様々なデータソース粒度(準リアルタイムから分単位、時間単位、日単位まで)
- 発電設備ごとに最大10,000タグのデータポイントと1秒以下の細かいサンプリング頻度を持つ巨大なデータセット
これらの課題を克服するためには、1つの戦略ですべてを解決できるわけではないことは明らかです。それぞれのユースケースは独立しており、個別のソリューション・アーキテクチャを必要とする場合が多いため、Amazon Web Services(AWS)では、常に仕事に適したツールを使用することを信条としています。AWS は、アマゾンでのエネルギー転換の取り組みの経験から学び、その学びをお客様やパートナーと共有することをおこなっています。そしてお客様がコンピュート、ストレージ、人工知能/機械学習 (AI/ML)、セキュリティ、IoT などの AWS のサービスを利用して、発電所全体や末端機器(発電機等)それぞれの単位で再エネソリューションを展開・管理・最適化できるようにすることで、ニーズに合わせた構築ができるよう AWS はアプローチしています。
次のセクションでは、REO チームが AWS IoT サービスを利用して、再生可能エネルギー設備のリアルタイムパフォーマンスモニタリングを行っている方法をご紹介します。将来的にデータサイエンティストや開発者が高品質なMLモデルの準備(データ整形など)、構築、トレーニング、デプロイを迅速に行うことができる Amazon SageMaker とアマゾンの発電設備の出力と収益を最大化するための機械学習モデル(ML)をREOチームがどのように活用しているかについてブログ記事を公開していきます。さらに REO チームは、アマゾンが再エネや蓄電池の設置面積を拡大するのに合わせて、MLに基づく高度な分析を開発し、アマゾンの持続可能性の目標やビジネス目標をサポートしていきます。
REO チームの再生可能エネルギー設備監視のリファレンスアーキテクチャ
REO チームは発電設備のパフォーマンスを準リアルタイムでモニタリングするために、全てAWS上に構築された包括的なソリューションを開発しました。このソリューションのリファレンス・アーキテクチャは以下の図1に示されており、再エネ設備の運用データのストリーミング、保存、管理、計算、および可視化に使用される様々なAWSサービスが含まれています。
REO チームは、この AWS IoT ベースのリファレンス・アーキテクチャを用いて、数百の再生可能エネルギー・プロジェクトのSCADAデータを準リアルタイムで取り込むことができる「安全性」、「信頼性」、「拡張性」に優れた低コストのソリューションを構築しました。
- エッジのデータソースには、SCADA システム、サードパーティのプロトコルコンバータ、データヒストリアン(OSI PIなど)、Web API などがあります。
- データは、AWS Lambda、または AWS IoT Greengrass 2.0 と AWS IoT Greengrass ストリームマネージャー(Stream Manager)を使って、設備から Amazon Kinesis に取り込まれた後、AWS Lambdaの関数で処理されます。Amazon Simple Storage Service(Amazon S3)は、SCADA データのタグを AWS IoT SiteWise ID にマッピングするために使用されるデータメタマップを保存します。
- データは、データ量に応じてスケールしながら取り込まれます。設備のモデリングが必要なデータについては AWS IoT SiteWise で、モデル化されていないデータについては Amazon Timestream で取り込むので、様々な設備データをサポートします。
- REO チームは、Amazon Managed Grafana を使用して、重要な設備のパフォーマンスをモニタリングするための準リアルタイムの分析ダッシュボードを作成しています。
- AWS IoT SiteWise や Amazon Timestream データは、AI/MLサービス(例:Amazon SageMaker など)やサードパーティのMLサービスによって、設備故障の予測分析、評価に利用されます。
- 詳細なビジネスインテリジェンスレポートはデータを活用する様々な特徴/役割の人に提供されます
- AWSのセキュリティ、認証、監査のサービスにより、全ての通信は完全にセキュア、追跡可能、認証済、かつ暗号化されています。
データの取込み
REO のソリューションでは、SCADAデータのストリーミングのために2つの主な手法を用います。
まず初めに、REOソリューションでは、デバイス開発者がインテリジェントなデバイスソフトウェアを簡単に構築、デプロイ、管理出来るようにした AWS IoT Greengrass の新しいバージョンである AWS IoT Greengrass 2.0 を利用しています。加えて産業機器データの収集、構成、分析を簡素化するマネージドサービスである AWS IoT SiteWise も使用しています。これらの2つのサービスを利用して、SCADA システムからのデータをストリーミングしています。AWS IoT Greengrass 2.0 は、複数のネイティブコネクタをサポートし、大容量かつ高解像度のデータを AWS クラウドに転送します。REO チームは、AWS IoT Greengrass ストリームマネージャー や AWS IoT Greengrass のバッチ処理、エクスポート機能を使って、データを Amazon Kinesis にルーティングしています。データ収集の頻度はサブ秒(1秒以下)から分単位で設定可能で、エッジ上のセンサーとタグの種類に依存させています。このソリューションにより、REO チームは1つの再エネ発電設備から数千のデータタグを大規模かつ低コストでAWSクラウドに信頼性高くストリーミングすることができます。
別の方法として、一部の事業者からの SCADA データはデバイスとの直接接続ではなく、API を介して送られてくる場合もあります。AWS Lambda 関数は、APIからデータを読み取り、SCADA の運用データをAmazon Kinesis に送信するようにスケジュールします。AWS Lambda はサーバーレスのコンピュートサービスで、サーバーのプロビジョニングや管理をせずに関数コードを実行することができます。
最終的に、別の AWS Lambda 関数が Amazon Kinesis によって起動され、生データの処理、データのマッピングと変換を行い、ターゲットとなるデータストレージのエンドポイント(AWS IoT SiteWise または Amazon Timestream のいずれか)にデータを送信します。Amazon Timestreamは、IoT および運用アプリケーション向けの高速、スケーラブル、サーバーレスの時系列データベースサービスで、リレーショナルデータベースと比較して1日あたり数兆件のイベントを最大1,000倍の速度、かつ10%程度のコストで簡単に保存、分析することができます。
データストレージ
REO チームのソリューションでは、AWS IoT SiteWise と Amazon Timestream の2つのレベルのデータストレージを使用しています。
REO チームは、重要なビジネス機能を持つタグのデータを整理分類して保存するヒストリアンとして、アマゾンのビジネス要件の大半を満たしている AWS IoT SiteWise を選択しました。各再エネ発電設備は、風力・太陽光発電所、変電所、タービン、インバータ、気象観測所といった階層に分類されています。
以下は、風力・太陽光発電所用の AWS IoT SiteWise リファレンス設備モデルです。
加えて、各タービンやインバータに対応するリファレンスデータモデルも定義されています。
アマゾンは、以下の点から AWS IoT SiteWise を使うことを選択しました:
- REO チームが保守作業のための多くの時間を削減出来るフルマネージドなサーバーレスアーキテクチャ
- 高速で効率の良いデータの読み書き API インターフェース
- 再エネ発電設備を効率的、かつ柔軟に分類できる標準化された設備モデル
- 産業界の一般的なパフォーマンスメトリクスを高速に算出できる能力
- 異なる時間粒度でデータを取り込む機能
- Amazon Managed Grafana を利用した Grafana へのネイティブコネクタ
Amazon Timestream は、データソースからの全生データを保存するのに利用しており、以下の点を評価しています:
- 高速、スケーラブル、サーバーレスな時系列データベースサービス
- ほとんどのデータをマグネティックストアモードで保存することで、低コストで高パフォーマンスな性能を発揮
- SQL クエリにより簡単に検索や集計
- Grafana へのコネクタ
準リアルタイムのオペレーショナルダッシュボード
AWS IoT SiteWise は Amazon Managed Grafana へのデータソースとしてデータを提供します。Amazon Managed Grafana は可視化ツールとして以下の点から選定されています:
- アマゾン社内のコンプライアンス要件にある複数のAWS のセキュリティサービスとネイティブに連携
- AWS IoT SiteWise や Amazon Timestream など産業界で頻繁に利用される AWS サービスに透過的に連携
- サードパーティのプラグインオプションを含むパワフルなビジュアライズ機能
以下は、前述したリファレンスアーキテクチャで説明した AWS サービスによる、13基の風力タービン(各定格3,600kW、20秒ごとに 110個のタグをサンプリング)を含む風力発電所を対象とした準リアルタイムダッシュボードのスクリーンショットです。
風力タービン発電量ヒートマップダッシュボード
この図は風力発電所の48時間周期の発電量のヒートマップを示しています。下部の目盛りは、約0~3,600kWの電力範囲を示しています。このプロットでは、タービン1、5、8、12に異常があり、この期間に頻繁に停止していることが明らかになっています。
単一の風力タービンの状態ダッシュボード
この画面は24時間周期の単一の風力タービンのパフォーマンスを表示しています。このタービンは自主的に毎日深夜0時から2時間停止しています。
タービンの稼働率ダッシュボード
この画面は、風力発電所全体の稼働率、個々のタービンの状態、過去1時間のタービンの稼働率、過去7日間のタービンの稼働率などを含む7日間の稼働率の指標を示しています。ダッシュボードを見ると、タービン4、6、8、11が他のタービンよりも頻繁にオフラインになっていることがわかります。
風力発電所のパフォーマンスダッシュボード
この画面では、現在の風力発電所全体のパフォーマンスや天候状態、日々のエネルギー生産量、過去7日間の風力発電所レベルの電力と風速、風速分布のヒストグラムなど、7日間の風力発電所のパフォーマンスを表示します。
まとめ
本ブログの冒頭で紹介したように、ユースケースはそれぞれ固有のものであり、お客様はどのサービスの組み合わせが最も要件を満たすかを自由に選択することができます。このリファレンス・アーキテクチャでは、REO チームが AWS IoT サービスを利用して、風力発電所や太陽光発電所などの大規模な再生可能エネルギー設備を対象とした、可用性、拡張性の高い、準リアルタイムの運用データ監視システムを実現したソリューションを紹介しています。AWS のあらゆるサービスとクラウド技術のベストプラクティスを利用することで、運用・保守管理者、データエンジニア、データサイエンティストのニーズに効率的に応え、再生可能エネルギー発電設備の状況把握を準リアルタイムで行うことができます。さらに、データを分析することで、異常検知や予防保全のユースケースなど、発電設備のパフォーマンスに関するより多くの知見を獲得することができます。このソリューションは、アマゾンが2030年までに事業運営の電力を100%再生可能エネルギーで賄うというオペレーション上のコミットメントを達成するための基盤となるもので、この目標は5年前の2025年までに達成できる見込みです。
さらなる情報については、Amazon renewable energy or AWS Power & Utilities をご覧ください。
本ブログは、ソリューションアーキテクトの丹羽が翻訳しました。原文はこちらです。