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簡単に構築できる AWS コスト可視化ダッシュボードのユースケース – Cost and Usage Dashboard (CUD) と CUDOS –

みなさん、こんにちは、カスタマーソリューションマネージャー (CSM) の西口です。このブログ記事では、AWS のコスト最適化および可視化を支援するダッシュボードである Cost and Usage Dashboard (CUD) と Cloud Intelligence Dashboards のひとつである CUDOS Dashboard (CUDOS) をご紹介します。

これらビジュアル化されたダッシュボードは、AWS コンソールにアクセスできない、より広い範囲のステークホルダーに対して、コストに関するインサイトやインタラクティブな分析結果を共有することを容易にします。コストの「見える化」、そしてその分析した情報の共有について、課題をお持ちのお客様におすすめします。
また、AWS では、定常的に無駄なコストを減らし適切なコスト状態とするための「最適化」活動を実践するフレームワークとして Cloud Financial Management (CFM) を提唱しています。これらのダッシュボードを利用することで、CFM フレームワークの 4 つの柱のうち特に「可視化」の実現に寄与することが可能となっています。CFM フレームワークについてはこちらをご参照ください。

このブログの流れとして、CUD と CUDOS の各特徴を説明した後にそれぞれのユースケースを説明します。その特徴やユースケースを通じて、ダッシュボードが AWS コストの最適化および可視化にどう役立つか詳しく見ていきましょう。

CUD と CUDOS の特徴

CUD は、Amazon QuickSight によって提供され、オープンソースプロジェクトの Cloud Intelligence Dashboards (CID) から着想を得たダッシュボードです。CUD は CID のダッシュボードの 1 つである CUDOS の主要なシートやビジュアル (グラフやチャート) を抽出しており、AWS コンソール画面からセットアップすることが可能です。具体的には AWS コンソールの AWS Billing and Cost Management の Data Exports ページから CUD を数分でデプロイすることができます。後述の CUDOS に比べると、セットアップが簡単であり、また Amazon Athena や AWS Glue クローラのようなベースとなる AWS サービスが不要という特徴があります。そのため運用上の理由などで Amazon Athena の利用を制限している環境やお客様でも CUD を利用することが可能です。CUD のセットアップ方法についてはこちらを参照ください。
一方、CUDOS も Amazon QuickSight によって提供されるダッシュボードですが、セットアップに Amazon Athena と AWS Glue クローラを使用する AWS CloudFormation (CFn) テンプレートベースのデプロイメントが必要です。CUDOS では CFn のデプロイメントが必要であるため、CUD に比べるとセットアップは簡単ではありませんが、AWS のリソースレベルの情報表示、 リザーブドインスタンス (RI) や Savings Plans (SPs) に関するインサイト、CUDOS 以外の他の CID のダッシュボードを利用することでコスト以外のデータソースをサポートするなど CUD にはない特徴もあります。CID のセットアップ方法については Well-Architected Labs を参照ください。

表 1) CUD と CUDOS の特徴と代表的な違い
特徴 Cost and Usage Dashboard (CUD) CUDOS Dashboard
デプロイメントの方法 AWS コンソールからのデプロイ CloudFormation, Command Line, Terraform
AWS Organizations 管理単位全体のコスト使用状況確認 管理アカウントのみ 管理アカウント、または専用の個別アカウント (注)
複数の AWS Organizations を統合可能
必要な AWS サービスの違い Amazon Athena や AWS Glue クローラが不要
(Amazon S3, Amazon QuickSight は必要)
Amazon Athena や AWS Glue クローラが必要
(Amazon S3, Amazon QuickSight は必要)
コスト使用状況に対する情報表示
リソースレベルの詳細表示
リザーブドインスタンス (RI) や Savings Plans (SPs) に関する情報表示

注:専用の個別アカウントとは、CUDOS 構築時に作成したダッシュボード参照用アカウントのこと。詳細はこちらを参照ください。(リンク先では、Destination / Data Collection Account と表記)

CUD と CID の違いについての詳細情報を確認したい場合はこちらを参照ください。但し、CUD と CUDOS ではなく、CUD と CID との違いに言及したドキュメントである点にはご注意ください。

CUD と CUDOS のユースケースと差異

CUD と CUDOS の使い分けをより深く理解してもらうために、Amazon QuickSight のシート (タブ) ごとのユースケース例を用いて違いをご紹介します。Amazon QuickSight の基本的な用語や機能についてはこちらを参照ください。CUD でも様々なユースケースをカバーしています。前章でご紹介した通り CUD はリソースレベルの詳細表示が省略されているため、ARN やリソース ID レベルでコスト状況を分析したい場合には、CUDOS を利用ください。CUDOS のみで確認できる具体的なグラフは図 1 から図 11 をご参照ください。

表 2) CUD と CUDOS のユースケースと差異
シート名 内容 利用ユースケース例 CUD CUDOS CUDOS と CUDの特徴的な差異
Introduction ダッシュボード全体像やそれぞれのシートの内容に関する情報を紹介 ダッシュボードの概要を確認する。 CUD のみ存在
Executive: Billing Summary 保持するアカウント全体の支払い状況と変動の傾向 毎月の請求金額と償却コストの実績を比較しながら、リザーブドインスタンスや Savings Plans やクレジットなどの割引の効果をアカウント単位やサービス単位で確認。割引が十分に活用されているかの分析を通して支払い全体像の把握を行う。 CUD ではリザーブドインスタンスや Savings Plans、クレジットなどによる支払い額の削減に関する情報が含まれない
Executive: RI/SP Summary リザーブドインスタンスや Savings Plans の使用状況 リザーブドインスタンスや Savings Plans の購入金額や使用率に加えて、これらの割引による実際の削減額を確認。加えて、オンデマンドやスポットインスタンスなど購入オプションごとの比率を分析を行う。インスタンス調達オプションの変更や追加の必要性を把握する。 CUDOS のみ存在
Executive: MoM Trends アカウントやサービス単位の月次の変動傾向 アカウントやサービスの単位で3ヶ月間のコスト変動のトレンドや償却コストの状況を確認。使用コストが大きく変動しているアカウントやサービスに関して変動の妥当性の評価を行う。 – (差異なし)
Compute Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) や AWS Fargate、AWS Lambda の使用状況や変動の傾向 EC2、Fargate、Lambda について、購入オプションによる単価の現状や過去推移の分析を行うことにより、購入オプションの追加や変更の必要性を確認する。 CUD ではリソースレベルの詳細グラフが省略 (図 1)
Storage Amazon Elastic Block Store (Amazon EBS) や Amazon Elastic File System (Amazon EFS)、Amazon FSx などのストレージファイルシステム EBA、EFS、FSx について、月間ストレージコスト、保管データ容量、単価、データ操作ごとのコストを確認。想定外の大容量データの保存や、SnapShot の過剰な取得によるコスト異常を発見する。 CUD ではリソースレベルの詳細グラフが省略 (図 2)
Amazon S3 Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) の使用状況と変動の傾向 アカウントやバケットごとの S3 利用料金や、Amazon Simple Storage Service Glacier (Amazon S3 Glacier) の使用状況を確認。S3 バケット使用状況の妥当性や、S3 のストレージクラスの変更の必要性を評価する。 CUD ではリソースレベルの詳細グラフが省略 (図 3)
Databases Amazon Relational Database Service (Amazon RDS) や Amazon DocumentDB (with MongoDB compatibility)、Amazon Redshift、Amazon ElastiCache、Amazon OpenSearch Service などデータベースに関する使用状況と変動の傾向 各サービスについて、アカウントやリージョン、プロダクトファミリー、データベースエンジンごとの償却コスト、リザーブドインスタンスの使用率、購入オプションの使用状況などを確認。データベースサービス利用状況の妥当性を評価する。 CUD ではリソースレベルの詳細グラフが省略 (図 4)
Amazon DynamoDB Amazon DynamoDB の使用状況と変動の傾向 データ転送やバックアップなど操作ごとの発生コストをアカウントごとやテーブルごとに確認。DynamoDB の使用状況の妥当性を評価する。 CUD ではリソースレベルの詳細グラフが省略 (図 5)
Messaging and Streaming Amazon Kinesis と Amazon Managed Streaming for Apache Kafka (Amazon MSK) の使用状況と変動の傾向 Kinesis と MSK について、アカウントごとに詳細状況を確認。Kinesis のコストはリソース単位、 MSK のコストはクラスターごとに確認。それぞれのサービスの使用状況の妥当性を評価する。 CUD ではリソースレベルの詳細グラフが省略 (図 6)
Data Transfer and Networking データ転送とネットワークの使用状況と変動の傾向 アカウントごとのデータ転送コストに加えて、データ転送量や、リージョン間通信、VPN Peeringなどのコスト内訳を確認。併せて AWS Direct Connect、Elastic Load Balancing (ELB)、 NAT Gateway、 VPN、 Amazon Virtual Private Cloud (Amazon VPC) Endpoint のそれぞれにおいて、日次のコスト詳細や Public IPv4 、 Amazon CloudFront の使用状況を確認。データ転送とネットワーク状況の妥当性を評価する。 CUD ではリソースレベルの詳細グラフが省略(図 7)
AI/ML Amazon SageMaker や Amazon Comprehend、Amazon Textract、Amazon Rekognition、Bedrock の使用状況と変動の傾向 SageMaker や Amazon Bedrock、Amazon Textract、Amazon Rekognition のアカウントごとのコスト現状や過去推移を確認。使用状況の妥当性を評価する。 CUD ではリソースレベルの詳細グラフが省略(図 8)
Monitoring & Observability Amazon CloudWatch と AWS CloudTrail の 使用状況と変動の傾向 CloudWatch と CloudTrail、AWS Config のアカウントごとのコスト現状や過去推移を確認することで、モニタリングとオブザーバビリティ関連サービス使用状況の妥当性を評価する。 CUD ではリソースレベルの詳細グラフが省略(図 9)
End User Computing
(※ CUDOSでは上記名称。CUD では Amazon WorkSpaces)
Amazon Workspaces の使用状況と変動の傾向 Amazon WorkSpaces のコスト現状や過去推移を確認することで、エンドユーザコンピューティング環境の妥当性を評価する。 CUD ではリソースレベルの詳細グラフが省略(図 10)
GameTech & Media Amazon GameLift と AWS Elemental MediaConnect などの使用状況と変動の傾向 Amazon GameLift や MediaConnect などのコスト現状や過去推移を確認することで、ゲームやメディアに関するサービスの妥当性を評価する。 CUD ではリソースレベルの詳細グラフが省略
TAGsplorer タグの状況分析 タグ毎の使用量やトレンドについて詳細を確認することで、タグ単位の使用量推移や妥当性の評価を行う。 CUD ではシートそのものが省略
OPTICS Explorer その他すべての使用状況と変動の傾向 アカウント毎に使用している主要サービスや、日単位での利用金額の傾向など、他のレポートとは異なる視点での分析を行う。 CUD ではリソースレベルの詳細グラフが省略(図 11)
Other Recommendations その他の有用なグラフ ここまでで使用されていない Anomaly Detection からの通知の確認などを行う。 CUD ではシートそのものが省略

図 1) Compute タブで省略されているリソースレベルの詳細グラフの例。CUDOS では過去 30 日間の Top 50 のコストが発生している Lambda usage をリソース ID 単位で確認可能。

図 2) Storage タブで省略されているリソースレベルの詳細グラフの例。CUDOS では過去 30 日間の Top 20 のコストが発生している EBS ボリューム使用量をリソース ID 単位で確認可能。

図 3) Amazon S3 タブで省略されているリソースレベルの詳細グラフの例。CUDOS では過去 30 日間の Top 20 のコストが発生している S3 に対する操作をリソース ID 単位で確認可能。

図 4) Database タブで省略されているリソースレベルの詳細グラフの例。CUDOS では過去 30 日間の Top 20 のコストが発生している Database に関するUsage を Database ARN 単位で確認可能。

図 5) Amazon DynamoDB タブで省略されているリソースレベルの詳細グラフの例。CUDOS では過去 30 日間のテーブル単位のコストを確認可能。

図 6) Messaging and Streaming タブで省略されているリソースレベルの詳細グラフの例。CUDOS では過去 30 日間の操作単位やリソース ID 単位のコストを確認可能。

図 7) Data Transfer & Networking タブで省略されているリソースレベルの詳細グラフの例。CUDOS ではリソース ID 単位で過去 30 日間のコスト Top 10 や、日次のコスト状況を確認可能。

図 8) AI/ML タブで省略されているリソースレベルの詳細グラフの例。 CUDOS では過去 30 日間の Top 10 のコストが発生している Amazon Bedrock に関するUsage をリソース ID 単位で確認可能。

図 9) Monitoring & Observability タブで省略されているリソースレベルの詳細グラフの例。CUDOS では過去 30 日間の CloudWatch のコストをリソース ID 単位で確認可能。

図 10) Amazon Workspaces タブで省略されている詳細グラフの例。CUDOS では End User Computing タブとして、過去 30 日間の Top 20 のコストが発生している Usage を Workspace id 単位で確認可能。

図 11) OPTICS Explorer タブで省略されている詳細グラフの例。 CUDOS では 過去 30 日間の Top 10 のコストが発生している Usage を リソース ID 単位で確認可能。

おわりに

本ブログでは、AWS コスト最適化と可視化を支援する ダッシュボードである CUD と CUDOS の特徴と差異、その利用ユースケース例をご紹介しました。皆さまの AWS のコスト最適化および可視化のヒントになりましたでしょうか。
初めて AWS コストに関するダッシュボードを利用する場合は簡単に構築できる CUD の利用をおすすめします。また、その一方で CUDOS のみで確認できるダッシュボードも存在しますので、必要なユースケースによっては CUDOS やそれ以外の CID の利用もご検討ください。

参考情報