Amazon Web Services ブログ

クラウドコスト見積もりとオンプレミス環境との比較

みなさん、こんにちは。カスタマーソリューションマネージャー (CSM) の北川です。今回は AWS コストの最適化を行う際に役に立つ、コストモデルを用いたクラウドコストの見積もりの考え方と、出来上がった見積もりについてオンプレミス環境とクラウド環境の見積もりを比較する際の注意点をご紹介します。コストのモデル化を行うことで、クラウド上で新たに稼働するワークロードの総保有コスト (TCO) の見積もりや、投資収益率 (ROI) の算出が可能になります。比較の際の注意点を確認いただくことで、適切な視点でコストの比較を行うことができるようになります。

クラウドコストの見積もりツール

モデルのお話をする前に、まずは代表的な見積もりツールのご紹介をします。

料金ページ

Amazon Web Service の各サービスにはウェブページが用意されており、サービスの内容、仕組み、料金設定の詳細が記載されています。コストの透明性は AWS の理念の一部であり、ウェブページを参照することでAWS のサービスに関連するコストを確実に把握できます。例えば、 AWS Lambda の料金は Lambda リクエストの所要時間 (ミリ秒単位) や、リクエストに割り当てられたメモリ量などに基づいて計算されます。当該サービスの料金ページには、詳細な料金の計算方法に加えて、具体的な例も記載されているため、予想される使用量に応じてコスト見積もりをすることができます。

AWS Price List API

AWS の料金情報の取得および使用方法をプログラム的に行うには、AWS Price List API を使用してください。JSON と HTML を使用して AWS サービスの価格をクエリできます。 また、 Amazon Simple Notification Service (Amazon SNS) の通知を購読して、価格の変動や、新サービスの導入時にアラートを受け取ることも可能です。

AWS 料金見積もりツール (AWS Pricing Calculator)

AWS 料金見積もりツール (AWS Pricing Calculator) を用いてコスト見積もりを行うことも可能です。料金見積もりツール自体にはこちらからアクセス可能です。このツールは、使用予定の AWS サービスと、その使用方法を指定することでコスト見積もりを行います。見積もり結果は、 CSV、 PDF、 JSON にエクスポートすることやリンクで共有することが可能です。リンクは公開リンクのため、機密情報が含まれないように注意が必要です。また、複数の条件を比較したい場合には、条件を変えて複数見積もりを作成することや、見積もりをグループに分類してグループ単位でコストの確認することも可能です。リージョンにより提供されているサービスが異なることも反映されています。なお、AWS 料金見積もりツールで算出可能な対象サービスはこちらをご参照ください。

移行評価ツール (AWS Migration Evaluator)

大規模なクラウド移行案件では、数百から数千のシステムが対象となることがあり、それぞれのシステムにおいてサーバとライセンスを特定して、AWS へのマッピングを行い、サイジングを行い最適化の検討が必要となります。この場合には、移行評価ツール (AWS Migration Evaluator) を使用することが可能です。移行評価ツールは、大規模なクラウド移行案件の概算をするための優れたツールであり、仮説をもとにしたコスト再見積もりの自動化に加えて、主要なステークホルダーや意思決定者と共有するためのレポート (Business Summary Report) も提供します。当該ツールを使用するためには、こちらのフローを参照し、移行評価をリクエストする際にはこちらのページから必要な情報を送信ください。

クラウドコストモデル

クラウド見積もりを行うためのコストモデルとして、まずは (1) 技術的なアーキテクチャの整理から始めます。これには、既存環境の情報収集に加えて、新環境の要件の整理が含まれます。次に、想定しているアーキテクチャコンポーネントを実現するために、(2) AWS サービスの特定とマッピングを行います。AWS サービスを特定した後には、要件を満たすために (3) AWS リソースの選定をします。最後に、前述の見積もりツールを用いて (4) コスト概算の算出をします。概算見積もりは設計を進める中で再作成が必要となる場合もあります。

1. 技術的なアーキテクチャの整理

見積もり対象がオンプレミスの移行ワークロードであるか、クラウド新規のワークロードであるかによって技術的なソリューションの整理を行う切り口が異なります。対象が移行ワークロードである場合には、クラウド環境の適切なリソースを選択するために既存環境のリソース使用履歴や稼働実績の情報が役に立ちます。対象がクラウド新規のワークロードである場合には、まずはアーキテクチャ方針の決定が必要です。アーキテクチャ方針は AWS Well-Architected フレームワークを参考にして決定することが可能ですが、要件を踏まえてコストのトレードオフが必要な項目が含まれます。トレードオフとしては例えば、可用性の要件に応じてマルチ AZとするかマルチリージョンとするか、ということがあります。併せて、サードパーティー製品の構成やライセンス要件についても確認が必要です。オンプレミスのライセンスがそのままクラウド環境でも使用できるかどうかや、移行期間に環境が現新2環境になったときにライセンス追加が必要になるかどうかなどを明確にすることが必要です。

2. AWS サービスの特定とマッピング

技術的なソリューションの整理を行なった後には、ソリューションを実現する詳細アーキテクチャの決定をするために、ソリューションとAWSサービスのマッピングを行います。マッピングとは例えば、コンピューターサーバー(図ではCompute serverと表記)を Amazon EC2 にマッピングすることや、データベースサーバー(図ではTransactional databaseと表記)を Amazon RDS に変更することを行います。マッピングを行う際には、選んだAWS サービスが要件を満たすことを十分に確認することが必要です。

マッピングの例)

3. AWS リソースの選定

マッピングを行なった AWS サービスをより詳細化するために AWS リソースの選定を行います。リソースの選定としては例えば、システム要件を満たすために必要な、Amazon EC2 のインスタンスタイプを判断し決定することを意味します。

リソースの選定の例)

4. コスト概算の算出

AWS リソースの選定まで進めることで、コストの概算が可能になります。コストの概算には、前述のクラウドコストの見積もりツールを使用します。ワークロードによっては、リザーブドインスタンス、 Savings Plans、 スポットインスタンス などの購入オプションを使用する方針を決めることでさらに最適なコスト見積もりが可能です。例えば、移行期間はリソース使用量の変動が大きいためオンデマンド形式での購入を行い、移行後に安定稼働したところでリザーブドインスタンス や Savings Plans の購入を行うという方針や、冪等性が保証されるワークロードに対しては常にスポットインスタンスを使用する方針などが考えられます。

他の概算手法としては、実装と測定 (Build and Measure) アプローチがあります。 Proof-of-concept (PoC) として実際に小さな環境を実装してみて、AWS Cost Explorer でコストを確認することで、正確な予想の基準となる金額を実際に測定することが可能です。 PoC を実施する際に、PoC 用の AWS リソースに対して専用のAWS コスト配分タグを付与することでリソースごとのコスト内訳を Cost Explorer で確認可能です。コスト配分タグについては、こちらの記事も合わせてご参照ください。

コストに関する追加の検討項目

より正確なコスト算出を行うために、例えば Amazon CloudWatch, AWS CloudTrail, Amazon GuardDuty などの監視ツールやセキュリティツール、バックアップに使う AWS Backup などの運用ツールのコストを含めることも重要です。また、開発やテストに必要な追加環境の検討も必要です。 AWS 金額見積もりツールを用いることで、これらの追加の検討項目についてもあわせて概算が可能です。

オンプレミス環境とクラウド環境のコスト比較

クラウド環境のコストを算出した後にはオンプレミス環境のコストとの比較が必要となるケースが多くあるかと思います。ここでは両コストを比較する際の注意点をご紹介します。

総所有コストの比較条件の一致

総所有コスト (TCO)を比較する際には、オンプレミス環境とクラウド環境で同一条件となるように注意が必要です。比較時に条件の不一致が発生しやすい項目は表中にオレンジで強調表示をしています。例えば、イニシャルコストの計算であれば、ハードウェアやソフトウェアの調達費用の算出時にサーバやストレージ費用だけでなく、ラック、電源タップ、スイッチ等の周辺機器も含めて条件が一致していることの確認が必要です。また、ランニングコストの計算であれば、物理機器の管理や保守の人件費、データセンターの使用量、場所代、電気代、空調代、ネットワーク機器代、ネットワーク回線費用や、定期的に発生する保守切れやリース切れに伴う機器交換費用を含めて条件が一致していることの確認が必要です。クラウド移行で実現できるビジネス価値と経済性評価の考え方については、こちらの AWS Black Belt Online Seminar 資料も併せてご参照ください。

AWS クラウドエコノミクス

AWS クラウドエコノミクスに基づいた検討を行うことで、上記でご説明をした総所有コスト (TCO) の削減だけでなく、クラウドを活用することでスタッフの生産性、運用の回復力、ビジネスの俊敏性、サステナビリティのそれぞれを向上させることが可能となります。以下の図に記載されている例にある通り、オンプレミス環境からクラウドへ移行することで得られる経済的メリットを定量化することで、数値的なメリットの可視化が可能になります。また、The Business Value of Amazon Web Services, IDC Research, Inc. June 2022 によると、クラウド移行により得られる価値の90%以上をコスト削減以外の価値が占めていることが分かります。また、投資収益率 (ROI) の観点においても、インタビュー対象組織においては5年間で 413% の ROI と、10 か月以内の損益分岐点の試算をおこなったケースを報告しています。クラウドへの移行をご検討の際は、コスト削減(TOC)による価値だけでなく、それ以外の価値も含めて総合的にクラウド移行のメリットを評価されることをお勧めします。クラウドエコノミクスの詳細については、こちらも併せて参照ください。

本ブログでは、コストモデルを用いたクラウドコストの見積もりの考え方と、出来上がった見積もりについてオンプレミス環境とクラウド環境の見積もりを比較する際の注意点をご紹介しました。ご紹介した考え方を活用して、最適なクラウドコスト見積もりを検討ください。

参考情報:

この記事は、AWS Cloud for Finance Professionals の “Planning and Forecasting : Estimating Cloud Costs” を基礎情報として、カスタマーソリューションマネージャーの北川裕介と山下大介により作成されました。

コストに関するご質問やお問い合わせは、お問い合わせページ、もしくは担当営業までご連絡をお願いします。
コスト最適化を行うために以下の情報も併せてご参照ください。