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消費財業界パートナー対談: Treasure Data を活用した顧客データ戦略
COVID-19 のパンデミックはかつてない混乱を引き起こし、数日のうちに私たちの世界は大きく変わりました。外出自粛、マスク着用義務、ソーシャルディスタンスが定着するにつれ、新しい買い物のパターンが急速に拡がりました。おそらく、パンデミックの劇的な影響を、消費財(Consumer Packaged Goods; CPG)業界ほど強く感じた業界はないでしょう。しかし、リーダーたちは、レジリエンス、粘り強さ、そしてイノベーションによって前進しています。私たちは、AWS の消費財業界パートナー企業の経営陣と対談し、この混乱を乗り越えるためのリーダーシップとイノベーションに関する考えをお聞きしました。このブログ連載をお楽しみください。ご質問やご提案がございましたら、ぜひコメントをお寄せください。
ブログ連載シリーズ「消費財業界パートナー対談: かつてない混乱の中でのリーダーシップ」として、今回は Treasure Data 社の CMO であるトム・トレーナー氏にお話を伺いました。この会社は、クラウド型顧客データプラットフォームを提供しており、世界でも非常に知名度の高い企業がデータを収集・理解してビジネスを変革し、革新的で新しい顧客体験を生み出すことを支援しています。
AWS: 御社の立ち位置を読者に理解してもらいたいのですが、Treasure Data 社はどのような領域で活動しており、どのような消費財企業の経営者と交流しているのでしょうか?
トム・トレーナー, CMO, Treasure Data 社: 私たちは、AWS 上で動作する最先端の企業向け顧客データプラットフォーム(Customer Data Platform; CDP)を構築しています。嬉しいことに、アンハイザーブッシュインベブ、資生堂、キリングループ、ライオン、マテルなど、世界の消費財企業のトップ100社のうち15社以上で Treasure Data を利用いただいています。
近年、消費財企業の経営者の間で当社の CDP への関心が非常に高まっています。最高マーケティング責任者(CMO)、デジタルマーケティング担当ディレクター、そして CTO や CIO などのシニアテクノロジーリーダーは、いずれも自社のデジタルトランスフォーメーションを加速させることに関心を持っています。
Treasure Data のチームは、アクセンチュア、アクシオム、電通などのトップグローバルパートナーとともに、消費財業界のお客様に非常に大きなマーケティングビジネスの成果を提供することに注力しています。これらの成果は大別すると、収益および、マーケティング投資回収率(Return On Marketing Investment; ROMI)の2つに分類されます。 これらの基本的な構成要素を軸に私たちはお客様の変革を支援しています。
AWS: 消費財企業は、かつてない混乱を乗り越えようとしてきました。お客様にとっての最大の課題は何でしょうか。
トム・トレーナー: 消費財企業が直面している最も根本的な課題は、いかに消費者を理解するかということです。そのためには顧客データを収集して一元化し、各個人の消費行動に基づいてターゲットを絞り、セグメント化し、カスタマージャーニーをパーソナライズする必要があります。パンデミック発生以前から、消費財業界は過去数十年で最大の変革を遂げていました。消費者の優先順位はより持続可能で環境に優しいブランドへとシフトしており、デジタルネイティブブランドの台頭により、消費者はオンラインで購入するようになりつつありました。COVID-19 によって、消費財企業はデジタルトランスフォーメーションを驚異的なスピードで加速させなければ、より早く適応した競合他社に消費者を奪われてしまいます。デジタル化に対応した消費財企業は、データを活用して消費者とつながり、行動を理解し、パーソナライズしたユーザージャーニーを提供して顧客のニーズに応えています。
AWS: 消費財企業は市場の動きや消費者の期待に合わせて、現在の経営環境をどのように適用させているとお考えでしょうか。
トム・トレーナー: マーケティングや販売だけでなく、サプライチェーンや製品デザインに至るまで、まだ多くの混乱が予想されます。市場の変化にうまく対応するには、顧客データを活用して消費者との直接的なつながりを確立し、維持することが重要です。当社の消費財企業のお客様は、我々の CDP を使って170以上の異なるプラットフォームやデータソースにある情報をつなげています。当社のプラットフォームでは、これらのデータを統合してデータ駆動形マーケティングやパーソナライゼーションに必要な個人のプロファイルを作成しています。
例えばパンデミック以前から、アンハイザーブッシュインベブ社は当社の CDP とアナリティクスを使って、飲料の消費者を理解に取り組んでいました。COVID-19 により中南米で店舗閉鎖や時短営業しなければならなくなった際に、アンハイザーブッシュインベブ社はコロンビア市場向けに、消費者がどこで同社の飲料を購入できるのかを知ることのできるモバイルアプリをすぐに立ち上げました。アンハイザーブッシュインベブ社のグローバル IT マーケティングテクノロジーマネージャーのルーカス・ボルヘス氏は、デジタルトランスフォーメーションに関する最近のウェビナーで、このアプリについて説明してくれました。このモバイルアプリは新たな消費者データを収集する手段にもなりました。このデータは、Treasure Data の CDP 上で、e コマースやロジスティクスのデータが付加され、予測スコアリング、セグメンテーション、リアルタイムかつターゲットを絞った顧客体験(CX)に活用されています。
AWS: 消費財業界は驚くほどの回復力があります。ニューノーマルを見据えたとき、テクノロジーとクラウドは消費財企業にとってどのような役割を果たすでしょうか。消費財企業が製品を製造、流通、販売する方法を、テクノロジーがどのように向上させるとお考えでしょうか。
トム・トレーナー:2020年に消費財企業で成功したのは、組織の規模ではなく、素早く方向転換できる企業でした。何かを始めるのに何年もかかり、組織のデジタルトランスフォーメーションを遅らせるような長期的なプロジェクトの時代は終わりました。
パンデミックのような変化を乗り越えるために企業が迅速に業務を遂行するには、変化のスピードに対応できるクラウドプラットフォームが必要です。クラウドベースのインフラストラクチャとソリューションがこのアプローチの重要な要素となることは明らかです。
また消費財企業は、信頼を築き、継続的な関係性を確保し、顧客データをうまく使ってマーケティングプロセスを活用する必要があります。そのためにはデータ統合、予測分析、機械学習、デジタルアクティベーションなどの高度なマーケティングテクノロジー(MarTech)が必要です。
AWS: 現在、消費財業界が混乱している中で、御社は変化に対応するためにどのようなイノベーションを起こしていますか。
トム・トレーナー: 2020年にサプライチェーンを混乱させた変化に対して消費財業界のイノベーターたちは迅速に対処し、製品ポートフォリオや物流ネットワークを適応させる必要がありました。2021年についても、イノベーターにはやはり劇的な変化に先回りして対応することが求められていますが、今度はデマンドチェーンに対しての対応です。
例えば Treasure Data は、あるホームケア製品メーカーが、サイロ化した消費者データを統合し、高度な分析を適用し、それらのインサイトを使って、変化する(ただし暗黙の)消費者ニーズを見つけ出し、マーケティング機能全体で収益性を高めるお手伝いをしました。このように、ユーザー調査やパネル調査から、リアルタイムのデジタル分析へと移行することで、顧客がより迅速にイノベーションを起こし、以前には十分なスピード感で対応できていなかった差別化のためのトレンドを捉えることができるようになるのです。
AWS: 「ニューノーマル」が話題になっています。御社にとってこの「ニューノーマル」はどのようなもので、3年後の消費財業界はどのようになっていると思われますか。
トム・トレーナー:製品開発から需要創出、流通に至るまで、新規ブランドの参入障壁が低くなったことで、消費者の特定のニーズや欲求を満たすニッチなブランドが増え続けると思います。大規模なグローバルブランドも引き続き存在するでしょうが、もっと大きな「ロングテール」のブランドが登場し、多くは大規模に成長していくでしょう。
消費者は、いつでもどこでも商品を購入できることを期待するようになります。「Anywhere Commerce」は当たり前になり、消費財企業はこの新しいカスタマージャーニーに取り組む必要があります。
消費財企業は Direct to Consumer (DTC)モデルへ移行し続けているため、ある部分では小売企業に似てきています。小売企業の利益率が低下し続ける中、プライベートブランドの拡大が続いており、小売企業とメーカーの境界線は曖昧になっていくでしょう。
統一された顧客データ、リアルタイムのパーソナライゼーション、データ分析を活用することが、さらに大きな競争力となるでしょう。
AWS: 消費財業界の未来に何を期待しますか。
トム・トレーナー:需要を引き起こすものは大きく変化しており、特に健康分野では、人間の健康と地球の健康の両方の観点からの需要が高まっています。消費財企業の商品はこれら両方の変化の中核であり、消費者の行動や感情をより深く理解し、進歩的な社会的責任の方針と慣行を組み合わせることで、消費財企業は社会と地球に非常に意義深い貢献ができると私は信じています。
また、消費財企業がマイクロセグメントレベルで消費者のニーズに対応できるようになることにも期待しています。長年にわたり、「セグメント・オブ・ワン」(訳注:セグメントオブワンマーケティング、顧客のセグメント化を進めて個人のレベルにまで細分化する考え方)の可能性が語られてきましたが、以前の技術力では大規模に提供することは難しいものでした。現在、クラウドコンピューティング、機械学習、データ分析の進歩により、その可能性が現実に近づいています。消費財企業が個人を真に理解する日が近づいています。皆さんが愛するブランドとのより深い信頼関係を築くために、これが何を意味するか考えてみてください。
AWS: トムさん、ご協力ありがとうございました。あなたのインサイトと専門知識に感謝しています。
トム・トレーナー氏と Treasure Data あるいは、AWS への質問があれば、このブログにコメントしてください。
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著者について
Tom Treanor
トム・トレーナー氏は Treasure Data 社の CMO として、同社の顧客データプラットフォーム(CDP)ソリューションのマーケティング戦略と実行を担当しています。以前は、Alexa Internet 社の SaaS 型マーケティング、SEO、および分析ツールの製品ロードマップの策定に携わっていました。それ以前は、プロジェクト管理およびコラボレーションソフトウェアのリーディングソリューションである Wrike のマーケティング・ディレクターを務めていました。また、HP、PwC Consulting、Booz Allen、Meltwater、Sony Electronics などのハイテク企業やコンサルティング企業で経験を積んできました。ウォートン・スクールオブビジネスで MBA を取得し、ペンシルバニア大学で国際関係学の修士号を取得しています。LinkedIn や Twitter でつながることができます。
Kevin McCurdy
ケビン・マカーディーは、AWS におけるグローバル消費財セグメントリードです。 AWS の APN において戦略的な ISV パートナーおよび、SI パートナーとのリレーションに責任を持っています。これまでに E2open で需要シグナル管理の VP を務めていました。 Orchestro の戦略的アカウントの共同創設者兼 VP であり、同社は後に E2open に買収されました。また Mercari Technologies の共同創設者兼事業開発サービス VP も務めました。コカ・コーラ、ジェネラルミルズ、ケロッグ、ペプシコ、ユニリーバ、クラフトハインツなどのグローバル消費財企業や小売企業を支援しており、サプライチェーン管理、カテゴリ管理、需要シグナル管理の領域では25年以上の経験があります。ペンシルベニア州立大学でビジネスロジスティクスと国際ビジネスの理学士号を取得しています。
翻訳は Solutions Architect 千代田が担当しました。原文はこちらです。