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【開催報告】With コロナ時代の顧客体験価値と従業員体験価値の向上 「未知を想定した経営⼀体のデジタル戦略と真に顧客中⼼のデータ活⽤」

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 エンタープライズソリューションアーキテクトの山下です。2022 年 2月 10 日 (木) に「 With コロナ時代の顧客体験価値と従業員体験価値の向上」というテーマで、消費財・流通/小売・サービス業界の変革をリードするゲストスピーカーにご講演をいただきました。

本ブログでは、プラス株式会社において経営・デジタル戦略立案から実行、プラスグループのデジタル・データ・IT の統括をされている山口様のご講演を紹介します。BCP の在り方についての洞察、顧客中心のデータ活用と CX への適用において、AWS の俊敏性や特徴を活かして実現されており、コロナ過におけるデジタル戦略実行の貴重な事例となっています。

「未知を想定した経営⼀体のデジタル戦略と真に顧客中⼼のデータ活⽤」

プラス株式会社
コーポレート本部 デジタル統括部 部長
山口 善生 氏

1.未知を想定した経営一体のデジタル戦略
– 流通業に身を置く企業にとって BCP は事業戦略 –

文具・事務用品やオフィス家具の製造をはじめ、流通や物流の業界においてブランドを確立されているプラス様の事業、及び各事業における BCP の大切さとその取り組み方についてご説明頂きました。

現在では在宅勤務が当たり前となっているものの、コロナ初期には、急な環境変化に苦慮している企業が数多く見られました。そのような状況下でもプラス様は、コロナ発生前から経営と現場担当が一体となって未知を想定した BCP と向き合っていたため、コロナ過においても混乱なく、現在のニューノーマル環境に移行することが可能となりました。

プラスグループにおける BCP への取り組み

経営と現場担当間で 、BCP に対する考え方と取り組みにギャップがあるケースがあります。経営側としては、お金はかけたくないが、何とか動くようにしておきたい。一方で担当者としては、計画の作成指示への対応を目的としてしまい、机上での書類作成にとどまります。そのため、 BCP は実態が伴わず、有事の際に追加コストがかかる、リソース・物資が不足、調達の時間がかかる等、机上の空論になっていることが多く、プラス様も同じ状況だったと言います。

見直しのきっかけとなったのは、2016 年の熊本地震においてです。地震発生後、BCP 策定通りには物資の供給ができず、商品の仕入、出荷、配送ができませんでした。しかし、地域物流業者からの交通情報をプラス様コンタクトセンターに吸い上げ、物流部門を通して他の物流業者に連携することで、困難な地域への配送を実現していきました。また、お客様の声をコンタクトセンター、営業にて吸い上げ物流業者へ連携し、仕入れの正常化、欠品を防ぐという対応につなげることも実施しました。このように危機的状況下での事業継続を、主に人の連携によって実現できました。結局有事の際には、人の連携でアイディアを捻出し、課題に素早く取り組み、お客様との絆を深め、信頼を得る。根っこでのつながりが醸成されて、状況を乗り切ることが大事であると気づかれたとのことです。そのため、プラス様においてはこの熊本地震をきっかけに、人の連携を強化する BCP を経営とともに新たな計画として再作成していくことになりました。

プラスグループにおける BCP の検討と実現

一方、新たな BCP 作成には苦労されました。事業切り替えの判断はとても難しいもので、企業活動の方向性を決めるには勇気がいることです。その判断には様々な条件が複雑に関係し、判断基準を事前に設定するには幾重もの条件をかけあわせる必要がありました。そこで、何が起こるかわからないことを想定して条件を決めるのではなく、常に危機が起きている状態を想定して、業務・事業環境を設計することに切り替えました。

いつでもどこでも業務を継続することができ、ステークホルダーと連携できるために、社員全員の仕事環境をクラウド化することにしました。この環境構築では、Amazon WorkSpaces の導入検討を開始しました。また、コンタクトセンターは内勤前提という固定概念を変え、在宅でも対応できるように Amazon Connect を導入することにしました。このように、 Amazon WorkSpacesAmazon Connect の組み合わせにより、在宅対応可能なコンタクトセンターシステムを構築され、2016 年に計画を開始した仕組みは  2019 年に構築完了させることができました。

この実態に即した BCP 計画とシステム構築により、プラス様においてはコロナ過で大きな効果を生み出しました。BCP 計画に則り、在宅訓練をしていたため、社員がオフィスへ出社できない事態においてもスムーズに在宅勤務を実施できました。また、コンタクトセンターにおいても、在宅オペレーターによる対応が可能となっていたため、設置、搬入等、お客様との調整が伴うサービスにおいてもコロナ過による機会損失が発生することなく、事業を継続することができたとのことです。

なぜ AWS?

プラス様が AWS サービスを選ぶ理由は、AWS サービスがカスタマーセントリックであるからと言って頂いております。AWS サービスは、Amazon.com で使われている。Amazon が事業を行うために作られているサービスが、AWS クラウドにあり、他のクラウドサービスと比較して確実にカスタマーセントリックだと理解できる。また、Amazon が事業を成長させるために使われるため、他クラウドに比較して機能の成長速度が速い。これが AWS の特徴であり、選ぶ理由とのことです。また、他クラウド・サービスとの連携による追加コストを避けるため、AWS を中心にシステムを構築をして頂いているとのことでした。

2.真に顧客中心のデータ活用
– CX を考える上で何よりも信頼性のあるデータは顧客の声 –

次に、カスタマーセンターにおいて、お客様からの声をサービス改善、商品調達、システム改善と CX の向上に活かしているお話を伺いました。

プラスグループにおける顧客中心の CX 向上

プラス様では、月次で「お客様の声を聞く会」が催されております。各本部責任者、担当者全員で、コンタクトセンターにかかってくるお客様の声を聞き、対応について経営がその場で決定し、担当本部に直接指示する会議とのことで、お客様からのシステム機能についての要望はシステム部門に、商品についての要望は、商品の取り扱い担当部署に経営からの指示が出されます。一方で、コンタクトセンターでは、2,000件/日、40,000件/月もの問い合わせを受けており、要望については、コンタクトセンターの責任者の主観により選定されることも多く、全件網羅し、偏りのないデータ抽出の仕組みを検討する必要がありました。

その対応として、AWS のサービスを活用されたとのことです。プラス様のコンタクトセンターシステムは、AWS 上にあるため、AWS サービスよる、音声データのストレージへの蓄積、声を文字に起こすサービス、AI によるデータ解析が可能でした。そのため、これらの AWS サービスを組み合わせて、コンタクトセンター担当者の生産性を向上しつつ、偏りなくお客様の声をデータとして作成をすることができました。

そして作成したデータから、トピックモデリング解析手法により、お客様の声を分析、分類し、分類ごとに満足度を可視化、また、ホットワード分析解析手法により、お客様の現時点で求めているニーズを可視化し、調達部門と連携して商品確保などにつなげることができたとのことです。

最後に、
「元来持っていたお客様の声を大切にする文化と、AWS の最新のテクノロジーを組み合わせることで、自信をもってサービスの改善につなげることができた。」とのメッセージをいただき、ご講演を締めくくっていただきました。

質疑

AWS: コンタクトセンターの変革について、組織横断的にこのような取り組みを推進する過程でのご苦労だったり、この取り組みを成功に導くために、意識すべきポイントがありましたら、教えて頂けますでしょうか?

大きな苦労は感じていないが、システム構築の際に、成功に導くためのポイントとして、対話が大事と考えている。これは、様々な人と対話をすることで、全員が鋭く、同じビジョンを持つことができる。そして同じビジョンを持つことで、各自にオーナーシップ、責任が生まれ、個々人が持てる力を発揮して物事を推進することができるためである。皆が一丸となって取り組むことができるというのは、システムに限らず万事に共通する、成功するための大事なポイントである。技術的なものは後からついてくる課題なので、まずは、対話でビジョンを共通化することが大事と考えている。

AWS: BCP への取り組み、VoC への取り組みを支える技術基盤として、AWS サービスをご採用いただいております。プラス様には基盤インフラ等を含め、長く AWS のサービスをお使い頂いておりますが、今回ご発表の取り組みの中で、あらためてメリットと感じた点がございましたら教えて頂けますでしょうか?

メリットでもあり、デメリットになるかもしれないが、今 AWS 上で同じ機能を実現しようとすると、今回紹介したサービス・機能とは異なる AWS サービスを使うことになると思われる。それだけ AWS は進化が早い。その進化の早さについていければ、我々ユーザーにとって大きなベネフィットを得ることができる。一方で、その進化の早さについていけない場合は、自分たちのサービスは陳腐化しているのだと考えている。なので、AWS のサービスの成長速度が、AWS を使う上での大きなメリットと考えている。