Amazon Web Services ブログ
カシオ計算機の AWS 生成 AI 事例:社内 AI チャットボットでの Amazon Bedrock の採用
本ブログは、カシオ計算機株式会社と Amazon Web Services Japan が共同で執筆しました。
カシオ計算機は、時計、電子辞書、電卓、電子文具、電子楽器などを手掛けており、グループ全体で 9,594 名( 2024 年 3 月末時点)が所属しております。
同社では、全社員に向けて 2023 年より社内業務支援のため AI チャットボットの検討および試行を開始し、2024 年 3 月に全社展開を行いました。
AI チャットボットではコード作成支援や技術調査、文書作成やアイデア創出など多様な業務利用が想定され、精度が良く且つ用途にあった基盤モデルを都度選択できる必要があり Amazon Bedrock の採用に至りました。
採用アーキテクチャ
本チャットボットシステムは専用線を用いた閉域網で社内利用できるようにして、フロントエンドは Next.js 、バックエンド処理は FastAPI で実装しました。また、これらのアプリケーションはコンテナ化した上で AWS App Runnner でホストし、 Amazon Bedrock の複数の基盤モデルを利用できるようにしています。
また、 2024 年の全社展開後、 3 月に公開された Anthropic の Claude 3 Sonnet をすぐに利用できるように対応し、さらに Anthropic の Claude 3.5 Sonnet については 6 月の公開から数日のスピードで実装及び検証、公開を実現しました。
このスピード感を実現できた背景として、実装に AWS 標準のライブラリである Boto3 を使ったことがあげられます。Boto3 はストリーミング処理など複雑な処理を簡単に実装でき、 LangChain などの外部ライブラリを使わずとも、 Boto3 の豊富な機能で柔軟な開発が可能でした。さらに、利用する基盤モデルの切り替えも、モデルの指定を変更するだけで対応できるため、非常にシンプルかつ効率的に実現できています。
今後も新しい基盤モデルが提供され次第、有用性を見極めたうえで、順次利用できるようにアップデートしていきます。
その他のアーキテクチャのポイントとしては、プロンプトログを Amazon DynamoDB に保存しており、 zero-ETL により Amazon OpenSearch Service へ連携し、ダッシュボードでの可視化によりリアルタイムでの利用状況分析を可能にしています。AWS CodePipeline を利用した CI/CD にも対応し、自動ビルドや自動デプロイを実現しており、機能追加や拡張に迅速に対応可能な環境を整備しました。
これらのインフラ環境は全て IaC ( AWS CDK ) で実装しており、これによりシステム構成の変更や環境の横展開などデプロイ作業における柔軟かつ迅速な対応を実現しています。
今回の社内 AI チャットボットは、カシオ計算機の CCoE および AI アルゴリズム開発部の 3 名を中心に実装し、内製で 1 ヵ月程度で構築を完了しました。
利用状況
本チャットボットシステムは、グループ会社を含むカシオ計算機国内従業員に公開されています。 2024 年 9 月現在で 1,600 人強の登録者がおり、そのうちアクティブユーザは約 1,200 名 となっています。現時点ではコーディングサポートとしての利用が最も多く、次いで文章作成/構成、検索、翻訳、ブレストが続きます。特に Claude 3.5 Sonnet はコーディング能力と日本語能力が非常に高く、多種多様な業務に幅広く活用されており、社員の生産性向上に大きく寄与しています。
今後の展望
現在、カシオ計算機内での社内チャットボットの利用は、前述のようにシステム開発業務が中心ですが、アイデア出しなど創造性の高い業務への生成 AI の活用も徐々に広がってきています。 Anthropic の Claude 3.5 Sonnet をはじめとした日本語性能の高い高品質な生成AIに大きなポテンシャルを感じており、今後も利用ユースケースの拡大を狙い、社内での周知を通して浸透を図る予定です。
また、 PoC レベルでは画像生成や PDF 解析、 RAG による社内文書検索の実装等も進めており、ガイドライン整備や精度向上のチューニング等が完了次第、順次全社展開していく予定です。特に RAG に関しては大きな期待を寄せており、さらなる業務効率化や生産性向上を目指して日々対応を進めています。
まとめ
カシオ計算機で実用化された社内 AI チャットボットにより、 Amazon Bedrock を利用して社員のスキルの底上げを図ることができました。今後は更なるユースケース拡充を狙って、 AWS サービスを活用した RAG や基盤モデルのバリエーション増を検討し活用の幅を広げていきます。
シニアソリューションアーキテクト 秦 将之