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【寄稿】株式会社アイ・グリッド・ラボによる AI・IoT 技術で再生可能エネルギー活用を最適化する次世代エネルギープラットフォーム①
この投稿はタスデザイングループ 代表取締役 甲田 将史氏から株式会社アイ・グリッド・ソリューションズの AWS IoT Greengrass V2、Amazon Timestream、Amazon SageMaker を利用した再生可能エネルギープラットフォームの構築の取り組みについて寄稿頂いたものです。
次世代エネルギープラットフォーム「R.E.A.L. New Energy Platform®」
株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ(以下「アイ・グリッド」)は、再生可能エネルギー業界においてグリーンテックのけん引役となっている、脱炭素ソリューションを展開するエネルギーサービスプロバイダーです。
AI・IoT を活用して、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの地域循環モデルを実現する「R.E.A.L. New Energy Platform®」は、アイ・グリッドの代表的なプラットフォームです。
本記事では第1回目として R.E.A.L. New Energy Platform® で使用している AWS のサービスについて紹介し、次回以降は4回に分けて各サービスの事例を紹介します。
アイ・グリッド・ラボ取締役 CTO の岩崎氏から、初めて次世代エネルギープラットフォーム構想を伺ったのは 2020 年 10 月末でした。クラウド上に AI プラットフォームを構築したいこと、エッジデバイスを利用してデータの収集、蓄電池や EV の制御をしたいことなどを聞きました。我々タスホールディングス(クラウド、AI 技術に強みを持つ『株式会社タスデザイングループ』、アプライアンス機器の開発、設置に強みを持つ『株式会社トライ・ワークス』の 2 社)が培ってきたノウハウが評価され、本プラットフォームの構築に貢献することが出来ました。
約 6 ヶ月でプロトタイプ版を構築
2020 年 12 月に次世代エネルギープラットフォームの構築プロジェクトが本格的に始動し、2021 年 6 月の実証実験開始を目指すことになりました。
プロトタイプ版プラットフォームの構築に与えられた半年という期間で、まず工数的にリスクがあると考えたのが、「(1) エッジデバイスからのデータ収集機構」、「(2) 大量データを高速に処理するためのデータ機構」、「(3) 予測 AI の管理機構」の 3 つでしたが、需要量や太陽光発電量の予測 AI はプロトタイプ版では外部サーバ連携にすることが決まり、課題は (1) のエッジデータ収集と (2) の大量データ処理機構 の 2 点に絞られました。
まずエッジデバイスからのデータ収集は、AWS IoT Core を前提に検討を始めましたが、ちょうど AWS IoT Greengrass V2 が発表されたばかりで、V1 と V2 のどちらを採用するかフィジビリティ・スタディを実施しました。結局、V2 の最大の特長でもあるコンポーネント単位の管理が「スマートメータのデータ収集」、「電力計のデータ収集」、「蓄電池の充放電制御」、「EV の充放電制御」など、各拠点の設置機器に応じて必要な機能をエッジデバイスにデプロイしたいという要件に非常に合致していたことから、V2 の採用を決めました。
次に、プラットフォームとしては最も重要とも言える大量データの高速処理を実現するデータストアの選定です。
AWS IoT Core といえば Amazon DynamoDB が利用されることが多いのですが、ここでも 2020 年 10 月に一般リリースされたばかりの時系列データベース Amazon Timestream を有力な選択肢として考えました。
その理由は、本プラットフォームがエッジデバイスから収集するデータは、太陽光発電量、電力需要量、日射強度、気温、充放電量と、全て時刻に紐づくデータであり、エッジデバイスから送信される 1 分値から 30 分値、日間値、月間値への時系列集計が業務要件となることが明らかだったからです。
スケーラビリティや処理パフォーマンスの面だけでなく、bin() 関数による指定時間間隔ごとのまとめや ago() 関数による過去時間指定など、時系列データの取り扱いに特化したクエリ機能の利便性を高く評価できたので、すぐに Amazon Timestream を選択することになりました。
AWS のマネージドサービスを駆使して約半年で完成させたプロトタイプ版のプラットフォームが図1となります。
図1:プロトタイプ版プラットフォームのアーキテクチャ
Amazon SageMaker で AI 基盤を再構成
プロトタイプ版プラットフォームは、太陽光発電量予測、需要量予測、蓄電池充放電制御の全ての AI 機能を外部の AI エンジンとのサーバ連携に頼っており、AI 活用を特長に掲げるプラットフォームとしては不完全なため、プロトタイプ版のリリース後すぐに Amazon SageMaker による AI 基盤の構築に着手しました。
タスデザイングループは、Amazon SageMaker リリース前から多数の AI エンジンを AWS 上に構築してきた経験から、AI をシステムに組み込む際に必ず課題になるのが以下の3点であると考えています。
- モデル学習環境の構築(最適なコストでスケーリング)
- モデル管理の方式
- システムとのインタフェース方式
過去を振り返ると、スポットインスタンス割り当て機構を自作してモデル学習環境を構築したり、モデル評価・入れ替えを自動化するモデル管理機構を作ったり、AI 基盤の構築は試行錯誤の歴史でした。
今では、学習時のスポットインスタンス自動割り当てからモデルの一元管理、エンドポイントの公開まで、過去に時間を費やした多くの課題を Amazon SageMaker が解決してくれます。
アンサンブルモデル(複数モデルの結果を組み合わせて最終結果を得る手法)を AWS Step Functions を用いて実装するなど、100% Amazon SageMaker で構築とはいかなかったものの、商用版プラットフォームでは、機械学習モデルによる需要量予測 AI、強化学習モデルによる EV 充放電制御 AI など、エネルギー活用を最適化する各種 AI が Amazon SageMaker で稼働しています。
Scheduled Query で Amazon Timestream のコスト最適化と高速化を実現
2021 年 9 月に商用版プラットフォームのリリースをして、いくつかのシステムでプラットフォームの利用が始まりましたが、1 ヶ月経過した 10 月頃からスキャン量の増大による Amazon Timestream のコスト増加への対策が必要になってきました。
エッジデバイスの AWS IoT Greengrass から送信されてくる IoT データが 1 分値なのに対し、多くのシステムが利用するデータは 30 分値、日間値、月間値なので、集計値の格納が効果的と考え、AWS Lambda によるバッチ集計の設計を概ね完了した頃、Amazon Timestream で Scheduled Query 機能がリリースされたという記事が目に飛び込んできました。
本プロジェクトでは、ちょうど良いタイミングで 何度も AWS の新サービス、新機能との出会いがありました。今回も設計を進めてきた集計処理を Scheduled Query を活用して短期間で実装し、当初の目的であったスキャン量の低減に加えてパフォーマンス向上も実現できました。
時系列データを利用するサービスでは、収集するデータよりもアプリケーションで使うデータのメッシュが粗いケースは珍しいことではありません。Scheduled Query での集計処理により、コスト、パフォーマンスの両面でメリットを享受できるユースケースは多いのではないでしょうか。
Amazon SageMaker による AI 基盤構築、Scheduled Query による Amazon Timestream に格納するデータの再整理、データをアプリケーションや外部システムに提供する API 機能の整備などを行い、商用版となったプラットフォームのアーキテクチャを図2に示します。
図2:商用版プラットフォームのアーキテクチャ
今後に向けて
今回紹介したプラットフォームの主な AWS サービスの利用方法について、次回以降 4 回に分けて紹介していきます。
2022 年 3 月現在、既に複数のサービスがこの「R.E.A.L. New Energy Platform®」を利用しており、今後も継続的にプラットフォームを利用するサービスのリリースが予定されています。
AWS for Energy について詳細はこちらをご覧ください。