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Amazon QuickSightのBIダッシュボードで小売りデータを分析する

社内に眠っているデータを一か所に集約(=データレイク)したら、次はそれを全社員で活用します。データからインサイトを抽出するための可視化・分析サービスとしてBusiness Intelligence(BI)がありますが、データは年々増加していきますし、その速度は加速しています。そういった規模の増加に自動対応でき、かつコストパフォーマンスが高い環境が求められます。そんな時代のニーズを満たすのがAmazon QuickSightです。大規模なデータ量・ユーザー数に対応するサーバーレスなセルフサービスBIです。

BIから効果を得るには、もちろん使い方の習得もありますが、どのような可視化・分析を通じてビジネスインサイトを得るかの計画が大切です。数字が羅列している集計表に慣れているとBIならではの効果的な表現が分からないという課題もあります。本ブログでは、小売り業界で頻繁に使われる可視化パターンを盛り込んだAmazon QuickSightのダッシュボードを例に、どのような分析手順でインサイトを抽出するか説明します。

このデモダッシュボードのリンクを別タブで開いて実際に動いていることを確認しながら本記事をご覧ください。

なお、本ブログは準備されたBIダッシュボードを閲覧および操作する閲覧者(Amazon QuickSightでいうReaderユーザー)向け機能が中心となり、グラフ作成のような分析者(Authorユーザー)向け機能には触れません。

ダッシュボードの概要

今回の小売りダッシュボードは2つのデータセットより構成されており、それぞれに対して下記のような分析をします。なお、前者は小売り向けのサンプルデータ、後者はAmazon.comの公開データを使っています。

  1. 店舗およびeコマースでの決済データ(売上金額、販売数、商品名、購入者の属性、など)
    • 売上全体の状況を商品カテゴリと販売チャネルの観点から分析
    • 店長が自店と類似店の実績を比較分析
    • 返品が多い商品の分析
  2. eコマースに記録されたお客様の声(商品レビュー)
    • 各商品に関する具体的な「なぜ」を分析

分析時に得たいインサイトが明確になっていると、どの軸をどのグラフで可視化するか必然と決まります。本ダッシュボードでは経営者、商品企画者、店長、マーケターなどの活用シーンを想定し、下記の流れでインサイトを抽出します。

  1. 売上は目標を達成しているか?
    • 年・月・週・日別で見たときにどうか?「なぜ」を時系列、商品カテゴリ、販売チャネルの観点から分析
  2. 売上を時系列で見たときに想定外な傾向があるか?
    • 特定のタイミングでスパイクしているか?影響力のあるイベント(マーケティング施策や社会ブーム)があったか?
    • 昨年対比で見たときにどうか?昨年と異なる点はどこか?
  3. どの商品が順調・不調か?
    • 商品カテゴリ別で見たときにどうか?「なぜ」をお客様の声から分析
    • 売上の構成比が高い商品に異常がないか?
    • 改善余地のある商品はないか?
    • 商品に欠陥がないか?返品が多い商品はどれか?顧客属性の傾向はどうか?「なぜ」をお客様の声から分析
  4. どの販売チャネルが順調・不調か?
    • 地域、都道府県、店舗別で見たときにどうか?
    • eコマースと店舗の構成比に変化あるか?
    • 類似店と比較したときに際立つ点はあるか?(売上、ヒット商品、ロス、アプリ会員、顧客属性、など)

小売りデータを分析

最重要KPIを確認

まずは最重要KPIの達成度をダッシュボードのトップに表示することで、どの領域で対策が必要かを全員が認識できるようにします。今回は全体の売上達成率を年、月、週、日単位で表示していますが、チームや商品カテゴリごとに表示する、あるいはユーザーごとに表示する内容を動的に変える、という方法もあります。また、最も売上が増減した店舗および商品を一覧化することで注目すべき領域をすぐに把握できます。

ダッシュボードの「売上概況」シートから見てみると、今年は達成率80~90%で推移していることから伸び悩んでいます。昨年対比からも同様の傾向が見受けられます。また、今週の下位商品部門より洋服、カメラ、おもちゃが減少傾向にあるので対策が必要です。特に洋服は週および月単位の両方で減少しています。逆に靴、音楽、ビデオ・DVDは増加傾向にあるため、この勢いに乗って積極的に伸ばすという考え方もあります。

地域ごとの店舗を管理するスーパーバイザーの場合、一番上の「コントロール」より対象地域や店舗種類を絞って分析します(スーパーバイザーごとに、担当している地域に自動的に絞り込むフィルタを設定することも可能)。

商品軸から「なぜ」の深堀

まずは減少傾向にある洋服、カメラ、おもちゃに着目したとき、パレート図よりカメラとおもちゃは売上の割合が高いため、下がったときの影響が大きいことが分かります。かつ、おもちゃに関しては年間の販売数が最も多いことがツリーマップより分かります。

一方、期間を最新月に絞るとおもちゃの販売数が比較的に減少しています。

そこで、ツリーマップ上のおもちゃを押下し、おもちゃに絞った状態で集計表の数字を見ていきます。そうするとカテゴリ0の達成率が前月から継続的に悪い状況です。不調の原因を調査すべく、次ステップの例としてお客様の声より不満評価を調査する、欠品率を確認する、などがあります。このような手順を通じて原因が明確になれば、あとは対策を実行するのみです。

本デモでは売上データとお客様の声データは紐付いていませんが、活用例を紹介します。上記のカテゴリ0を押下し、「商品レビューを見る」を押下して「商品レビュー」のシートに遷移します。

今回対象となるのはおもちゃなので、上にある商品部門フィルタよりToysのみ選択します。次にワードクラウドから不満ワードを押下し、右の表からその評価内容を確認します。表は★値を昇順にして低評価の内容から順に見ていきます。また、上にあるキーワード検索に例えば「良い」と入力すると、それに関する情報が表示されます。「今月のレビュー数 商品 TOP10」の円グラフより評価に関連する商品も確認できます。

Toysに絞った状態で下に進むと★評価の割合があります。棒グラフの「★1」を押下して低評価な商品とキーワードを確認します。時系列の折れ線グラフを使うことで、特定の評価がスパイクした断面を調査したり将来的な傾向を予測したりできます。このような手順を通じて、お客様の声から商品企画やマーケティング観点でのインサイトを得ることができます。

次は洋服に絞って見てみると、前月と比較して達成率が20ポイント以上低下しており、かつ年間を通して低調です。洋服の場合はサイズや好みが合わないという理由で返品が多くなりがちなので、「返品調査」のシートに遷移して確認します。予想通り、洋服の返品は2番目に高いことが分かります。これを改善すれば売上も向上(散布図の右側に持ってくる)できるかもしれません。属性としては女性の40代による返品が多く、それらに絞ると洋服のカテゴリ5の返品率が最も高いため、ここに対してアクションを実行します。お客様の声からサイズやデザインに関する不満を抽出できれば、それを来期の商品改善に繋げられます。

販売チャネル軸から「なぜ」の深堀

まずは地図上の情報から想定外な店舗がないか確認します。次に影響が大きい店舗から達成率の悪い店を確認します。都道府県ごと売上の棒グラフを見ると東京都が上位であるため、東京都を押下し、集計表で詳細を見ていきます。すると東京都の中型店が最も達成率が低いです。

一方、店舗種類ごと売上の棒グラフでドリルダウンすると中型店は最も売上が高いため、今月の実績はイレギュラーであることが分かります。そこで東京都の中型店で最も不調な店番105にについて深堀りします。

店番105を押下し、「この店舗を見る」を押下すると「自店vs類似店」のシートに遷移します。

このシートは店長が自店と類似店を比較するのにも使えます。遷移時に店番105が自動的に選択されたので、比較対象を中型に選択します。数字を見ると、まず売上とその達成率ともに類似店よりも低い結果が続いています。次に属性の傾向から対策を考えます。類似店と比較して20代から40代が低いため、その層に合った商品が陳列されているかを確認します。例えば30代に着目すると、店番105の売れている商品がPCに集中しているため、類似店で好調な本やカメラをアピールすると良さそうです。本を押下した状態で集計表を見ると、類似店で売上トップの商品は店番105でほぼ売れていない(あるいは仕入れていない)ため、すぐにアクションが必要です。

Amazon QuickSightで分析を始める

本ブログで紹介したダッシュボードと分析内容は一例に過ぎません。ぜひAmazon QuickSightを活用してデータ可視化と分析の奥深さを体験してみてください。効果的な可視化はより深い洞察を実現し、データ活用の促進にもつながります。Amazon QuickSightのギャラリーには小売り用途以外のダッシュボードも揃っています。

Amazon QuickSightの基礎的な使い方の習得にはこのセルフハンズオンキットを参考ください。Amazon Athena Federated Query経由でAmazon DynamoDBのデータをAmazon QuickSightで可視化するハンズオンもあります。無料枠を使ってお試しいただけます。また、AWSのアナリティクスサービスを使った分析基盤の構築やAmazon QuickSightの運用ノウハウについてはAmazon QuickSight のノウハウ総まとめ! 〜BI設計から運用まで〜をご覧ください。

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アナリティクス事業本部 事業開発 伊東 大騎