Amazon Web Services ブログ

塩野義製薬におけるデータ駆動型の営業活動を実現するデータマネジメントプラットフォームの構築

このブログは、塩野義製薬株式会社と AWS による共同投稿です。

製薬協の発表によると、2020 年以降、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、引き続き製薬企業による医療機関への直接訪問が制限されており、製薬企業の情報提供の環境がオンラインに大きくシフトしています。しかし、オンラインでの情報提供は、質・量ともに十分ではなく、データや様々なコミュニケーションツールを活用した情報提供にシフトしていく必要がある、と問題提起されています[1]。このような状況の中で、塩野義製薬様は、コマーシャル領域において Data Management Platform (以下、DMP) を AWS 上に構築されています。営業データを活用することでデータ駆動型のイノベーションを創出するこの取り組みについて、AWS 主催イベントAWS Summit Online 2022 でご発表いただいたところ、視聴者の方々から多くの反響があり、ブログでもご紹介いただく運びとなりました。


背景

塩野義製薬は、1878 年に創業して以来、「常に人々の健康を守るために、必要な最も良い薬を提供する」ことを掲げて活動を続けています。近年では、人々にとって最もよいヘルスケアソリューションを皆様に届けるヘルスケアサービスプロバイダーになることを目指して、これまでに培ってきた創薬型製薬企業としての強みを活かし、他産業とも連携しながらヘルスケア領域の新たなプラットフォームを構築するための取り組みを進めています。

その取り組みの一つとして、データの利活用により生産性を高め、データ駆動型で経営をおこなうというものがあります。業務改善と、製品開発の両方の分野で、社内外のデータを駆使しながら仮説・検証のサイクルを素早く回し、業務プロセスの変革とヘルスケアソリューション創出に貢献することを目標としています。本ブログでは、業務改善の文脈において、特に営業領域でデータを活用した取り組みをご紹介します。

プロジェクト概要とアーキテクチャ

現在、営業部門は、リアルとデジタルの相乗効果による効率のよい組織づくりを行っています。いくつかの営業デジタル施策から得られたデータ・情報を基に、主に医師を中心とした顧客の状態を客観的に把握・分析し、営業担当者が次に何をすれば効果的なのか、それをいつ実施することが最善なのかといった意思決定ができるようになることを目指しています。私たちは、一人でも多くの医療従事者に対して必要な情報を素早くタイムリーにお届けすべく日々活動を行っていますが、それぞれの状況に合わせて最適なタイミングとコンテンツで情報をお伝えするためには、長年の経験や勘に頼る部分もありました。もちろん、こういった担当者個人の知見は大切にすべきである一方で、経験の浅い営業担当の支援や、仕事の質のバラつきを抑え、より成功に導けるようなデータや確率論に基づくデジタル施策が求められています。

そこで、営業活動の中で利用しているデータを一元的に管理するための基盤として、営業 DMP を AWS 上に構築し、オムニチャネルデータを一元的に管理・可視化できるように環境整備を進めています。そのシステムの構成は次の図のようになっています。
DMP Architecture

このアーキテクチャの中心となっているのが、営業活動のデータを蓄積・分析する環境である、データウェアハウスサービスの Amazon Redshift (以下、Redshift) です。これまでも営業データを収集し活用していましたが、一部の担当者がExcelなどで都度集計し、属人的になっていることや、手作業での集計に時間がかかっていることが課題でした。この営業 DMP では、Redshiftへのデータ集約や、その後の集計の大部分が自動化されており、これらのデータを可視化することによって、営業担当者の主観に頼った判断だけでなく、客観的なデータから医師のニーズを的確にとらえ、意思決定できるようなツールを提供しています。営業担当者は、各自の端末から BI ツールにアクセスし、インタラクティブに自分の得たいデータを検索・閲覧します。BIツールが参照するデータは、Redshiftに蓄積されていますが、Redshiftは社内のオンプレミス環境ともシステム連携し、定期的にデータ更新されています。

Redshift を採用した理由

今回の営業 DMP 基盤を構築する上で、データ分析基盤として AWS を選択した理由は三つあります。一つ目は、Redshift のクエリの性能です。営業 DMP 構築にあたって PoC を実施する中で、Redshift がデータの規模にかかわらず安定して高速にクエリの結果を得ることを確かめることができました。二つ目は、Redshift のクラスター運用のしやすさです。Redshift では、クラスターのバックアップやバージョンアップを自動で実行できるので、IT担当者による運用管理の作業時間が削減できました。また、データ量は日々増加していきますが、データウェアハウスのクラスターサイズを後から自由に変更できるので、初めから過剰にリソースを用意する必要がなくなりました。三点目は、AWS プラットフォーム全体としてのデータセキュリティを実現できる点です。上の図にもある通り、データウェアハウスクラスターは分離したネットワーク上に構築しており、セキュリティグループを適切に設定することで容易にアクセス制御が可能です。

まとめと今後の展望

このブログでは、塩野義製薬において、Redshift を中心として、営業データの分析基盤を構築したプロジェクトについてご紹介しました。営業 DMP のデータを可視化した帳票は、営業領域の従業員の約80%以上が1回以上/週の頻度で利用しています。従業員へ取得したアンケートでは、約90%の満足度が得られており、帳票のデータを拡充するたびにこれら指標の改善がみられています。

今回の営業 DMP の構築を通して、AWS サービスは柔軟性が高く必要に応じて分析環境を拡張できることや、他のサービスと組み合わせることでデータを様々な方法で活用できるといったメリットを実感することができました。今後は、営業 DMP に蓄積されたデータを活用して、より効率的な営業活動につなげることを視野に入れています。例えば、営業担当が医師を対面・オンラインで訪問する際、訪問計画を事前に立てる必要があるのですが、その計画立案には時間がかかる上、各人の経験値によるところも大きいという課題があります。さらに、訪問時の効果的な面談内容の選択にも経験値の差が非常に大きいと実感しています。こういった課題を解決するためにも、 引き続き営業 DMP のデータを拡充し、より一層の活用をしていきたいと考えています。

参考文献

[1] 製薬協, 産業ビジョン2025 追補版

著者

塩野義製薬株式会社 データエンジニア 渡邉 慶氏
データサイエンス部データエンジニアリングユニットにて、全社のデータ活用基盤の整備を担当。データベースの設計だけでなく、データベースシステムやETLツールの導入も行う。

塩野義製薬株式会社 大谷 和也氏
ヘルスケア事業支援室デジタル企画グループにて、国内営業のデジタル施策・IT基盤構築業務を担当している。BIやCRMの導入にも携わっている。

塩野義製薬株式会社 福永 真一氏
データサイエンス部データサイエンス2グループにて、各バリューチェーンや経営に関するデータサイエンス業務を担当している。営業データの蓄積・加工や可視化の検討にも関与している。

塩野義製薬株式会社 西村 亮平氏
IT&デジタルソリューション部ITフロンティアグループにて、インフラ・ワークスペースなどの全社IT環境の企画・構築・運用を担っている。本件をはじめとしたクラウド利活用推進におけるITテクノロジ領域の統括責任者。

塩野義製薬株式会社 北西 由武氏
データサイエンス部の責任者として、データ活用施策の策定、解析環境整備や人材育成の統括を通じて、コーポレート全体のDXを推進する。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 石尾 千晶
製薬業界・製造業界のお客様を担当するエンタープライズ ソリューション アーキテクトとして、お客様のクラウド活用の技術支援に従事している。