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データ駆動型需要計画: 機械学習とデマンドセンシングにより消費財業界の混乱に向き合う

平時であっても消費財業界のサプライチェーン管理において需要の変動性は常に難題です。そして、今は平時ではありません。 COVID-19 のパンデミックは、サプライチェーン計画を完全に混乱させ、計画を行うために必要な水準や取るべきリスクが増えてしまっています。

予期しない外的要因が極端な消費者需要の変化を引き起こすため、複数の場所で複数のサプライチェーン要素が影響を受け、オンラインチャネルでの購買は急増しています。従来の需要予測を計画に適用するだけでは、こういった複雑さに対処しきれていると言えません。

サプライチェーンチームはなんとかしようと苦心していますが、サプライチェーンをニューノーマルに対応させるためには高度なツールが必要なことが明らかになってきています。高度な機械学習 (ML) ツールは、既存のシステムと連携し、不安定なビジネス環境でオペレーションを予測する負担を軽減してくれます。

AWS は人工知能 (AI)、 ML 技術適用の最前線に立っています。幅広い ML サービスを提供し、それを実現するクラウドインフラストラクチャを支えています。 Amazon がより深く顧客のニーズを理解し、顧客の期待を超える対応ができるような自動化を推進するなど、AWS は Amazon.com を支えるテクノロジーを提供しています。

機械学習: 消費財業界における予測の基礎

サプライチェーン管理者が需要を予測し、タイムリーかつ適切な措置を講じるためには予測は欠かせません。従来の予測とは、過去から未来を予測するアプローチであり、過去の情報(時系列データ)に基づいて行われていました。しかし今や、私たちは過去のパターンからは正確に予測できないような、 ニューノーマルの状態にあります。

サプライチェーン管理者が現在から未来にかけての需要の混乱に対して、より正確に計画、対応するために、ML は必要不可欠なツールとなります。 ML は AI アプリケーションであり、これによりシステムは自動的に学習し、改善できるようになります。アルゴリズムを使用してデータ内のパターンを検出し、そのパターンを使用して未来を予測する数学モデルを構築します。システムは人間の介入なしに自動的に行動を学習し調整し続け、時間の経過とともに精度を向上させます。

サプライチェーンにおいて組織がより完全で正確な予測を行うために ML が役立ちます。 ML のテクノロジーは、サプライチェーンの各ポイントで人間が持ち込んでしまうであろう、勘やエラーを排除し、より多くの変数を統合できるようにし、利用者から信頼されるような正確な予測に役立ちます。サプライチェーン計画全体が劇的に改善され、より優れた意思決定、より手厚い顧客サポートにつながります。

Amazon では、世界中の郵便番号ごとに 5 億を超える商品について毎日、予測を行っており、ML こそがその実現の鍵となっています。 ML を使用することで、Amazon は商品グループと消費者の購買行動を相互に関連付け、SKU 間の購買関係を形成することもできます。 Amazon では、ML を使用して、顧客が特定の商品を購入すると、同時ではなくても、翌週に別の特定の商品を購入する可能性が高い、ということを予測できます。たとえば、うがい薬の需要の急増が、歯ブラシの需要の急増に繋がる可能性がある、などです。

数十万の組み合わせを分析することで、予測をより完全かつ正確に行うことができるようになるのが ML です。たとえば、多数の異なるモデルを評価して、どの予測が最良の結果をもたらすかを検証することもできます。

ML は静的なものではなく、フィードバックループであるため、サプライチェーンを継続的に調整することができます。ビジネスルールを設定したら何か起こるまではそのまま維持されるような、一般的なマニュアル型の手法とは対照的です。

高度な予測に不可欠なデマンドセンシング

ML はそれ自身でも長期予測の基盤を提供しますが、高度な需要計画を可能にするためにはデマンドセンシング(需要検知)の実装は今や不可欠です。デマンドセンシングは洗練された新次元の機能であり、内外さまざまな影響による需要パターンの傾向と変化をより早く特定できるようにします。

さまざまな内外部要因の影響を考慮するために、デマンドセンシングは ML を使用します。これらの要因には、気象パターン、社会経済学、競合他社の活動、地理データ、内部販売データ、ソーシャルメディア、POSデータなど、あらゆるものが含まれます。デマンドセンシングでは、デマンドシグナルと呼ばれるこれらのソースからのデータを収集し、それを計画に統合して、需要の変動性を予測および管理するのに役立ちます。現在のような、極端なピークや低迷が発生することでビジネス計画プロセスの多くが混乱に陥っている状況では、デマンドセンシングは特に価値があると言えます。

デマンドセンシングを強化するテクノロジーはより身近な、経済的かつ使いやすいものになってきており、先見の明のある企業はそれをサプライチェーン計画に組み込む方法を模索しています。これにより、エンドコンシューマーに近いソースからの需要の変化をより早く把握し、必要な時間内に対応することができます。

たとえば、ある消費財企業が顧客のプロモーションや競合対策にデマンドセンシングアプリケーションを利用したとすると、需要の価格弾力性により敏感で、特定のマーケットにおける特定の商品の需要の短期的な変化を予測できるようになります。企業は予測の精度を向上させるだけでなく、これらの商品のインバウンドフローとアウトバウンドフローを優先してサービスレベルを向上させることで、不安定な需要変動への対応を改善できます。

サプライチェーン計画をより正確かつ効率的にするために、正しいデマンドシグナルをキャッチするということは、実行可能な最も効果的なステップの 1 つです。需要を生み出すシグナルを見逃すことは、重要な情報を失うことを意味します。デマンドセンシングを使用してそのようなシグナルをキャッチすることで、組織は短期的な変動を分析するだけでなく、必要であれば長期的な予測を適応させ、適切な措置を行うことができます。

デマンドセンシングの実践

プロモーションと需要の価格弾力性(マーケティングプロモーション、価格割引、競合対応のための価格マッチングなど)は、消費財業界、小売業界の短期予測の変化において重要な要素になっています。ただし、これらのプロモーションは、サプライチェーンの計画プロセスから切り離されていることがよくあります。デマンドセンシングと ML を使用することで、企業は計画プロセスに対するインプットを改善し、サプライチェーンマネージャーがこれらの需要に影響を与える要素を確実に考慮に入れることができるようになります。

ヨーロッパのある 消費財販売企業は、ML を使用して過去のプロモーションパフォーマンスデータを分析し、プロモーション計画を改善し、予測の短期的な変化を予測するためのモデルを生成しました。以後のプロモーションではこのモデルを使用して、プロモーション価格、動的価格設定、マーケティングキャンペーン、メディア、競合対策、人口統計、地理、店舗などのさまざまなインプットを分析してより正確なプロモーションを計画できるようになりました。デマンドセンシングを使用することで、プロモーションが開始されたときにモデルに影響を与える要因の変化を予測し、予測の精度をさらに高め、売上の損失を最小限に抑え、プロモーションのパフォーマンスを向上させることができました。

貴重な需要シグナルを提供してくれるもう1つの要素は、消費者行動です。 e コマースチャネルを持つオンライン企業であれば、自社のウェブサイトにおけるカスタマージャーニーと商品検索をトラッキングすることができます。特定の商品が、商品ページの検索数や新規クリック数に関して特定のしきい値に達した場合、通常のタイミングより早く新しい発注を行うことができます(顧客の検索が必ずしも購入に直結しているとは限りませんが)。 これにより重大な在庫リスクを発生させることなく、需要を正確に予測し、売上の損失を最小限に抑えることができます。

2019年春以降、オンラインチャネルが 消費財業界全体の成長の 70%近くに貢献しています。 オンラインチャネルは消費財企業が需要に対応していくための重要な要素になるでしょう。

多くの消費財ビジネスの需要に影響を与える短期変数として天候も挙げられます。貴重な洞察を掘り起こすためのデマンドセンシングの要素だと言えます。たとえば、アイスクリームを販売する企業であれば、夏の熱波によって商品需要が高まることをすでに理解しているでしょう。しかし、デマンドセンシングを使用したある企業は、冬の気温が 2 ℃上昇すると人々が前日よりも 30% 多くアイスクリームを購入するということを特定しました。これは予測と供給に影響を与える新しい洞察となります。

更に別の例として、需要の変動を先取りしようとしている PPE (個人防護具) 製造企業は、現時点の、そして今後予測されるパンデミックの発生に関する情報を組み込んで、商品が最も必要とされる場所を見極めていくことができます。

デマンドセンシングにより短期的なデマンドシグナルをキャッチできるようになるということは、その企業が通常の計画リズムを変更しなくてはならばいという意味ではなく、短期的なデータをもとからある通常のプロセスに提供することで、在庫、供給、配送計画を改善できるということなのです。

変革の時

この1年間の起きたことは、消費財サプライチェーンの世界に大きな混乱を引き起こしました。しかしこの混乱は、サプライチェーンのプロセス再発明の格好の機会ともなります。 クラウド上で ML をデマンドセンシングと組み合わせることにより、今後の需要予測というものを根本から変えることができます。独自の統計モデルを使用して独自の商品グループを効率よく予測でき、予測の精度が 5〜10% 向上します。

AI / MLを使用してより優れた予測を行い、さらにデマンドセンシングを追加することで、より効率的で正確な計画システムを作成することができれば、組織は今の、そしてこれからの嵐を乗り切ることがでるでしょう。

より詳しい情報については AWS for CPG をご覧ください。

 


著者について

Mayank Sharma

Mayank Sharma は、AWS EMEA のサプライチェーンビジネス開発リーダーであり、世界中のサプライチェーンの顧客のデジタルトランスフォーメーションジャーニーをサポートしています。Mayank は、サプライチェーン戦略、計画と最適化、コグニティブ・プロキュアメント、フルフィルメント、(ラストマイルを含む)ロジスティクス、およびサービス改善の分野で顧客をし、彼らの変革を推進しています。Mayank は2020年7月に AWS に入社するまでは Amazon.com で小売業界のサプライチェーンと EU におけるロジスティクスの領域で活動していました。それ以前は、デロイト社他のコンサルティング会社に在籍しており12年以上にわたりサプライチェーンの計画と最適化の変革を主導していました。

Michael Brown

Michael Brown は、ビジネストランスフォーメーションと次世代のサプライチェーン戦略開発のリーダーです。 AWS ではグローバルに戦略的顧客のビジネス開発を主導し、顧客がサプライチェーンを革新し、ディスラプトし、自動化する支援をしています。Michael はこれまで、AI、IoT、自動化、ブロックチェーンを活用して、消費財、製造、小売業界の顧客とデジタルサプライチェーン戦略を作成するための取り組みを IBM 社でリードしていました。IBM の前は NTT でグローバル e コマースマーケットプレイスの構築、運用をリードしており、アクセンチュア社、EY 社でのビジネストランスフォーメーションおよびサプライチェーン戦略の実践を行ってきました。

 

翻訳は Solutions Architect 杉中が担当しました。原文はこちらです。