Amazon Web Services ブログ

モダナイゼーションとクラウドへの移行を支援するために、二酸化炭素排出量削減に関する議論をどのように推進するか

このブログは 2023 年 11 月 22 日に Neelima Kadirisani, Nidhi Gupta, and Pavel Shilov によって執筆された内容を翻訳したものです。原文はこちらを参照して下さい。

2022 年 11 月に報告された Gartner 社の調査によると、87% の経営者が今後 2 年間で組織の持続可能性への投資を増やす予定であることが明らかになりました。このブログは、情報技術 (IT) チームに必要なリソースを提供し、経営陣と対話を始め、IT トランスフォーメーションを通じた炭素排出量削減の機会を強調する説得力のあるビジネスケースを準備することを目的としています。

組織は、温室効果ガス (GHG) 排出量の削減とカーボンニュートラルの達成に向けて真剣に持続可能性戦略に取り組んでいます。IT 組織が GHG 排出量削減の機会を探る中で、クラウドへの移行はこの目標に貢献する興味深い特徴的な展望として浮上しています。IT の炭素排出量の削減などのマイルストーンは、組織の持続可能性への取り組みにとって重要なものとなり得ます。Microsoft Windows Server と Linux は、世界中で最も広く使用されているサーバー向けのオペレーティングシステムです。このブログでは、Windows サーバーと Linux サーバーの炭素排出量削減に着目します。組織は同様の手順を適用して、他の種類のワークロードの炭素排出量削減も検討することができます。IT トランスフォーメーションの目標を達成するために、持続可能性に関する経営陣との議論では、以下の 4 つのステップをお勧めします。

第 1 ステップ – IT トランスフォーメーションの重要性の理解

温室効果ガス排出量削減に向けた第一歩は、自社の IT インフラのカーボンフットプリントがどの程度の大きさなのかを理解し、現在の温室効果ガス排出量レベルを測定することで基準を設定することです。世界経済フォーラムの記事によると、データセンターのカーボンフットプリントは航空業界 (2.1%) よりも大きく、人為的な二酸化炭素排出量の 2.5% を占めています。組織の総カーボンフットプリントに対する IT の寄与は、業界、市場、バリューチェーンにおける位置づけなどの要因により 5〜10% の範囲で変動しますが、保険会社のような組織では 45% に達する可能性があります。

第 2 ステップ – 削減機会の探索

現在の排出量と排出源を把握した上で、オンプレミスのデータセンターのエネルギー効率向上を目指した取り組みを行うことが、二酸化炭素排出量削減への第一歩となり、電力使用効率 (PUE) が良好なコロケーションプロバイダーを選択することにつながります。しかし、オンプレミスのデータセンターは、Amazon Web Services (AWS) などの大手クラウドサービスプロバイダー (CSP) が享受している規模の経済性を備えていないことが多くあります。クラウドに関するビジネス・リーダーとの会話に使えるデータを探しているならば、再生可能エネルギー、エネルギー効率、新しいプロセッサーへの投資に関するお客様事例を以下に紹介します。

Bloomberg New Energy Finance によると、AWS は 2020 年以降、企業による再生可能エネルギーの最大の購入者の地位を維持しています。2022 年には、100% 再生可能エネルギーを利用した AWS リージョンは 19 になります。2022 年に世界中で、AWS は低炭素コンクリートを使用した 16 のデータセンターと、低炭素鋼を使用した 10 のデータセンターの建設を完了しました。

国際アナリスト企業である 451 Research による調査では、オンプレミスのワークロードを AWS に移行することで、ワークロードのカーボンフットプリントを少なくとも 80% 削減できることが示されています。この数値は、AWS が 2025 年までに100% 再生可能エネルギーの目標を達成すれば、96% にまで上がる可能性があります。AWS のインフラストラクチャは、調査対象の米国企業データセンターの中央値よりも 3.6 倍エネルギー効率が高く、EU・アジア地域の平均よりも最大 5 倍効率的であることが示されています。クラウドが持つ動的にコンピューティングリソースを割り当てる機能により、需要に応じてサーバーをシームレスにスケールアップ・ダウンできるため、最適なエネルギー利用が可能になります。

IBM、Accenture、Deloitte、ATOS などのお客様が、クラウドへの移行を促すモチベーションとして、持続可能性が重要になってきていることを確認しています。ライフサイエンスツールやシステムの主要な開発・製造・販売会社である Illumina は、最近のケーススタディで、AWS を利用することで、炭素排出量を 89% 削減し、データストレージコストを削減できたと述べています。

AWS の持続可能性へのコミットメントには、より優れた価格性能と低エネルギー消費を実現するプロセッサの設計への投資が含まれます。Graviton3 ARM プロセッサを搭載した Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) インスタンスは、同等のEC2 インスタンスと比較して最大 60% のエネルギーを節約できます。AWS Inferentia の機械学習チップは最大 50% のエネルギー効率が高く、同等のインスタンスと比較して最大 90% のコスト削減が可能です。

上記の内容は、コロケーションプロバイダーや個別の組織が、大手クラウドプロバイダーと同様の競争力のある価格で再生可能エネルギーを調達し、持続可能なシリコンインフラストラクチャの構築に大規模に投資することが難しい可能性があることを示しています。オンプレミスまたはコロケーションのワークロードに対して、継続的な炭素排出量の最適化のみに依存しても、現在または将来的に大幅な炭素排出量の削減につながらない可能性があるため、AWS などのクラウドサービスへの移行が、IT オペレーションの持続可能性と効率性を高める上で、ますます魅力的なオプションになっています。

第 3 ステップ – カーボンフットプリントを計算するツールの評価

オンプレミスのサーバー台数を入力するだけで、炭素排出量の削減見積もりを生成できる炭素排出量削減計算ツールを見かけたことがあるかもしれません。しかし、そのような計算ツールの欠点は過度の単純化にあります。サーバーの実際の利用状況を考慮していないため、一般的な方向性しか示されません。移行後に予測された炭素排出量の削減が実現するという保証はありません。これらの計算ツールは、平均的な世界の炭素排出強度値に基づいて削減見積もりを提示しています。そのため、経済面と炭素排出量の両面で最適化するためのサーバー台数の調整に関する適切なガイダンスが得られない可能性があります。

AWS は、実際の消費量に基づいて IT 資産の炭素排出量削減とコスト削減に関するビジネスケースを構築するための自動化ツールを開発しました。AWS Migration Evaluator (ME) は、お客様の実際の IT リソースの利用データを使用する無料のサービスとして提供されるアセスメントツールです。各アセスメントでは、オンプレミスまたはプライベートクラウドのワークロードを AWS に移行する際の予想コスト削減額が示され、既存のソフトウェアライセンスを再利用してさらにコストを削減できるインサイトが提供されます。

Migration Evaluator (ME) のビジネスケースに「持続可能性評価」が含まれるようになりました (成果物の例はこちら)。Microsoft、Linux、その他のワークロードを AWS に移行する場合、炭素排出削減量の見積もりが得られます。これにより、現在のオンプレミスと AWS 上の適切なサイズのワークロードの年間推定炭素排出量を比較することができます。オンプレミスのデータセンターの炭素排出量をすでに把握している場合、この評価ではお客様のデータを使用して、ワークロードの炭素排出量と移行による予測削減量を提供します。これにより、IT トランスフォーメーションによる節約率を比較・計算する自信がつきます。Migration Evaluator Directional ビジネスケースは、オンプレミスのワークロードをクラウドに移行することで得られる削減効果について、ビジネスの意思決定者に提示する際に使用できるビジュアルを提供します (下図参照)。

二酸化炭素排出削減量の計算に使用した方法

オンプレミスの炭素排出量を計算するには、CPU の使用率やハードウェアの仕様など、お客様データセンターの情報が使用されます。次に、ネットワークデバイスやストレージデバイスを考慮して、すべてのデバイスの総 IT 電力消費量が算出されます。冷却や照明などのデータセンター建物の負荷を考慮するために、業界標準の効率指標である電力使用効率 (PUE) が適用されます。その結果得られた電力消費量を年間エネルギーに換算し、外部ソースから地理的な特定の排出係数 (kg CO2 換算 /kWh) を乗じることで、お客様のオンプレミスのカーボンフットプリントが推定されます。

AWS の予測される炭素排出削減量の評価には、公式の AWS Customer Carbon Footprint Tool (Carbon Methodology) が採用している方法と同じ方法を用いて評価を行います。AWS Customer Carbon Footprint Tool の炭素排出データは、温室効果ガス (GHG) プロトコルおよび ISO 規格に準拠しています。AWS 使用量のカーボンフットプリント推定には、スコープ 1 (直接事業からの排出) およびスコープ 2 (電力生産からの排出) のデータが含まれます。炭素排出についての詳細は、EPA の Scope 1 and Scope 2 Inventory Guidance を参照してください。

最後のステップ – 二酸化炭素排出削減のビジネスケースの作成

オンプレミスのワークロードをクラウドに移行することで二酸化炭素排出量を削減するには、現在の二酸化炭素排出量のベースラインを把握し、クラウドへの移行やモダナイゼーションによって削減できる見込み量を計算する必要があります。AWS Migration Evaluator アセスメントは、経営陣の意思決定に役立つ数字とストーリーを提供し、IT プロジェクトのサポートを得ることができます。どのクラウドサービスプロバイダーに移行するかに関わらず、このアセスメントではデータセンターの推定カーボン排出量が提供されます。

無料の AWS Migration Evaluator アセスメントは、アセスメントリクエストページまたは AWS アカウントマネージャーからリクエストできます。AWS パートナーは、AWS パートナーポータルからお客様のアセスメントをリクエストすることができます。

近年、多くの企業がオンプレミスのワークロードをクラウドコンピューティングに移行しており、さまざまな業界のお客様は、クラウド上での移行とモダナイゼーションにより、IT ワークロードの環境負荷を軽減する恩恵を受けています。AWS に移行する大きな利点の 1 つは、お客様の持続可能性への取り組みを加速できる可能性があり、これは環境への影響を懸念するエンドユーザを惹きつけ、維持する上で重要な要因となる可能性があります。このブログでは、持続可能な IT トランスフォーメーションへの取り組みを始めるためのステップバイステップのアプローチを紹介しました。

翻訳はソリューションアーキテクトの Yoshinori Sawada が担当しました。

利用可能なリソース

著者について

Neelima Kadirisani

Neelima Kadirisani は現在、Amazon Web Services (AWS) でシニア・サステナビリティ・ビジネス開発マネージャーを務めています。彼女は、ヨーロッパ、中東、アフリカ全域でクラウドテクノロジーを活用し、公共部門のお客様が持続可能な開発を加速するのを支援しています。Neelima は、さまざまな業界でサステナビリティのリーダーシップを経験しており、炭素排出量の削減、循環型経済のソリューション、環境・社会的な製品ライフサイクルアセスメントに精通しています。

Nidhi Gupta

Nidhi Gupta は Amazon Web Services (AWS) のグローバル Go-to-Market 戦略のリーダーで、AWS における Microsoft ワークロードのモダナイゼーションに特化しています。AWS に加わる前は、SLB (旧シュルンベルジェ) で 13 年間、ベーカーヒューズ /GE デジタルで 3 年間の豊富な業界経験を積んでいました。また、シリコンバレーでゼロから収益性のある起業を 5 年間行い、技術面での経験も持っています。ニディは、デリーのインド工科大学 (IIT) で化学工学の学士号を取得し、シリコンバレーのスタートアップリーダーシッププログラムのフェローでもあります。ニディは持続可能性に情熱を持ち、お客様第一主義を信じ、技術とビジネスの専門知識を活かして AWS でクラウドの恩恵を最大化するよう組織を支援しています。

Pavel Shilov

Pavel Shilov は Amazon Web Services (AWS) の EMEA 地域のサステナビリティ大使であり、ヨーロッパ、中東、アフリカ地域の公共機関向けの Go-to-Market ストラテジーの開発をリードしています。彼は、コストと持続可能性の観点からクラウド移行のビジネスケースを公共機関のお客様に支援し、IT マネージャーに対して経営陣との節約に関する対話の仕方をコーチングしています。AWS に加わる前は、セキュリティベンダーとマイクロソフトで Go-to-Market ストラテジーの開発を担当していました。Pavel はコンピューター科学の修士号を持ち、CEO やビジネス開発責任者からエンジニアリングチームまで、あらゆる層の人々と円滑にコミュニケーションを取ることができます。