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デジタル庁、リファレンスアーキテクチャと生成 AI を活用したアーキテクチャのレビューで政府システムの移行を促進

2021 年 9 月、日本はデジタル庁の創設とガバメントクラウドの取り組みを開始しました。デジタル庁は、デジタル技術を通じて国民の利便性、健康、幸福を向上させ、誰 1 人取り残されないデジタル社会を実現するという目標を掲げ、政府と社会全体にわたるデジタル革新へ国として果敢な取り組みをしています。

2024 年 6 月、デジタル庁の 2 人のクラウド エンジニア、武田一馬氏と西畑伸一氏が、国内最大の AWS 学習イベントであるアマゾン ウェブ サービス (AWS) サミット ジャパンで、「リファレンスアーキテクチャによるガバメントクラウド活用と Amazon Bedrock を活用したモダン化アプリの例」のセッションで、そのプロセスと学びを共有しました。参加できなかった方やバーチャルで視聴できなかった方のために、この投稿に彼らのプレゼンテーションを要約します。

デジタル庁のガバメントクラウド

デジタル庁は、日本のデジタルトランスフォーメーションの中枢として、2021 年からガバメントクラウドの開発を推進し始めました。ガバメントクラウドは、中央省庁 12 府省、1,788 の地方公共団体および準公共の組織向けの政府共通のクラウドサービスの利用環境です。 クラウドサービスの利点を最大限に活用することで、迅速、柔軟、かつセキュアでコスト効率の高いシステムを構築可能とし、利用者にとって利便性の高いサービスをいち早く提供し改善していくことを目指します。 政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針に従い、デジタル庁は政府のシステムの改革と近代化を推進してきました。

しかし、そのような取り組みは、省庁側の人材やベンダーの人員配置の不足、クラウド テクノロジーの経験不足などの課題に直面しました。

「政府がシステムをクラウドを前提に整備する際、職員やベンダーのマンパワーやクラウド技術の経験不足、期間や予算の制約、現行システムを踏襲するカルチャーなど、利用者側でシステムの設計や構築をする際に、迅速に最適なアーキテクチャを設計することが難しい状況でした。結果として、従来設計を踏襲した単純移行に留まり、クラウドの価値を活かしていない高コストなシステムが出来上がってしまう課題がありました。」と武田氏は述べています。

これらのハードルを克服するために、デジタル庁は、ガバメントクラウドに採用されている AWS を含むクラウド サービス プロバイダー (CSP) と協力して取り組みました。

リファレンス アーキテクチャの活用

品質を確保し、生産性を向上させ、最新の設計の模範を示すために、デジタル庁は各 CSP 毎にリファレンス アーキテクチャ (RA) を策定しました。これらの RA は、現在の管理システムの特性に合わせた最適なクラウド アーキテクチャ標準を示します。基本的に、これらはベスト プラクティスと合意された基準に基づいたテンプレートです。

RA は、行政システムの特性に応じたクラウド最適な標準アーキテクチャ群として、行政の汎用的な業務ブロック、非機能ブロックを示し、それらを組み合わせることで代表的なシステムパターンを提供しています。これらのブロックのアーキテクチャは、CSP の マネージド サービスを中心にしています。これらのリファレンス アーキテクチャを使用することで、政府機関は政府 システムの開発を合理化し、業界のベスト プラクティスに確実に準拠することを目指しました。

RA が最初に提供された 2023 年 11 月から 2024 年 6 月までの間に、RA は約 40 件の移行プロジェクトのシステム計画に使用されてきました。さらに数百件が開発中です。

「これらを活用することで、設計期間の短縮が可能であり、技術に明るくない職員でも一定の妥当性が判断できるようになりました。デジタル庁は今後もリファレンスアーキテクチャの改善に取り組み、ユーザービリティの向上、活用事例の拡充、見積もりやクラウド利用料算出の効率化など、ガバメントクラウドの利用者にとってのさらなる価値向上を目指します。」と武田氏は締めくくりました。

生成 AI を活用したアーキテクチャのレビューで政府のクラウド移行を促進

次に、西畑氏が登壇し、「デジタル庁は”動くリファレンスアーキテクチャ”の開発にも取り組んでおり、リファレンスアーキテクチャをベースにしたサンプルアプリケーションを IaC コードで提供することで、利用イメージの把握やシステム構築の支援を促進している」と伝えています。

800 を超える国および地域のシステムを移行するには、移行レビューを合理化することが不可欠でした。そのため、同庁のクラウドマイグレーションユニットでは、高性能基盤モデル (FM) の選択肢を提供するフルマネージド サービスである Amazon Bedrock 上で、Anthropic の生成人工知能 (AI) モデルである Claude の使用を開始しました。

検討しているシステムのアーキテクチャをチェックし、さらに重要なことには、Well-Architected の改善点を提案し、AWS Cloud Development Kit (AWS CDK) のリファレンスとしてコードを生成します。これにより、スタッフの負担が軽減され、システム構成の検討にかかる時間が短縮され、政府クラウドへのよりスムーズな移行が可能になります。

最後に、西畑氏は以下のように締めくくりました。

「今後もデジタル庁は、リファレンスアーキテクチャの進化と生成 AI の活用により、ガバメントクラウドの利用者の負担を軽減し、迅速かつ効率的なシステム構築を実現していく計画です。」

将来に向けて

デジタル庁が現在進めている RA への取り組みは、政府システムのユーザーに付加価値をもたらし続けます。利便性の向上とユースケースの拡大、クラウド利用の適正化を実現します。

デジタル庁の取り組みは、日本のデジタル変革の歩みにおいて重要なマイルストーンとなります。これは、イノベーションを促進し、国民体験を向上させ、テクノロジーが社会に力を与える未来に向けて国を推進するという新たな取り組みを意味しています。 AWS は、この先見の明のある取り組みの実現をサポートすることに全力で取り組んでいます。

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翻訳はパブリックセクター技術統括本部 ソリューションアーキテクト 豊原 が担当しました。