Amazon Web Services ブログ

カヤバ株式会社における AI ハッカソンを活用したデジタル人材の育成

本稿では カヤバ株式会社 (以下、カヤバ)において、データとデジタル技術を活用できるデジタル人財の育成を目指し、AI ハッカソンなどを活用して教育の体系化・内製化を推し進めた取り組みについてご紹介します。この取り組みについてより詳しくご覧になりたい方は カヤバ技報 第66号 デジタル人財育成の取組み もご覧ください。(カヤバでは社員は会社の「財産」との認識があり、「人材」を「人財」と称しています)

また本活動と並行して実施した、内製化によるシステムモダナイゼーションの取り組みについてはこちらでご紹介しています。

デジタル人財育成の必要性

カヤバは、四輪車や二輪車のショックアブソーバー、建設機械用油圧シリンダー、コンクリートミキサー車などの技術や製品を提供しています。これまでに予知保全システムでのクラウド利用をきっかけとして 2017 年より AWS 上でクラウドネイティブな IoT プラットフォームを構築し、社員が場所や時間の制約を受けることなく柔軟にデータを活用できる、コスト効率に優れた基盤を提供してきました。

カヤバでは 2019 年に設立された DX 推進部(現、デジタル変革推進本部)が旗振り役となり、ロードマップとして独自に6段階からなるデータ活用のステップを定義し、デジタルトランスフォーメーションを加速を目指しています。

Data Usage Steps

図: データ活用ステップ

個人に依存したデータ活用から、あらゆる社員がデータを利用できる民主化、データ主導の意思決定を経て、ビジネスモデルの変革に至るこのステップを滞りなく進めるためには、システムの整備だけではなく、それを活用できる人財の育成が必要不可欠です。カヤバでは目指すべきデジタル人財を「デジタル技術を扱うテクノロジースキルとビジネス変革スキルを兼ね備えた人財」と定義し、特に重点的な育成が必要な分野と位置付けた AI (Artificial Intelligence) および BI (Business Intelligence) について、社員一人一人が次に目指すべきレベルを明確化するためにスキル別の階級策定表を策定し、また成長を支援するための教育計画を策定し、年間を通じて教育プログラムを提供しています。

 

Skill Ranks

図: デジタル人財 スキル別の階級策定表

Training Plans

図: デジタル人財育成の教育計画

AI 人財育成の取組み

カヤバでは上記教育計画に基づいて、AI および BI の人財育成に重点的に取り組んでいますが、ここではそのうち AI に関する取り組みについてご紹介します。

AI人財育成では「AI教育カリキュラム」および「AIコミュニティ」の 2 つが活動の主たる柱となっています。

AI教育カリキュラム

AI教育カリキュラムは知識や技術の習得を目的として、基礎理論からサービス化を視野に入れた実践的な内容までを網羅的にカバーしています。データサイエンティストやデータエンジニア、機械学習エンジニアが相互に円滑なコミュニケーションをとりながら技術的に連携できるよう、すべての受講生に対して MLOps を考慮した教育カリキュラムの提供を目指しており、2022年はAI基礎、プログラミング基礎、AWS基礎、AI実践の4種類の講座と、AIハッカソンプログラムを展開しました。AIハッカソンについては後述します。

AIコミュニティ

AIコミュニティは、製品開発や生産技術など様々な領域から集まった人財がAI/MLに関する知識や技術について意見を交換しています。チャットツール上で社員がオープンに交流する場を提供し、またグループワークとして日頃の開発業務で抱えている具体的な課題を募集し、メンバが協力して解決を試みるなどの試みを行なっています。

AI ハッカソン

通年の教育カリキュラムで習得した知識や技術をチーム単位でアウトプットするイベントとして、2022 年より AWS の支援を得て AI ハッカソンを開催しています。

ハッカソンでは DX 推進部が運営主体となり、参加者は4人毎のチームを組んで運営から提供された仮想の課題に対して協力して機械学習によるソリューションの開発を行います。この活動では、単に機械学習モデルを実装するだけでなく、機械学習モデルの運用の仕組みや、AWS が提唱する Well-Architectedフレームワークへの適合なども課題として採用しました。2022年度は DX 推進部を含む 5 部署から計 16 名の社員が AI ハッカソンに参加し、3 ヶ月の活動期間中は週次のオフィスアワーとして AWS のソリューションアーキテクトへ自由に相談できる場を用意することで、チームが検討している設計や機械学習に関する実装上の不明点の解決をサポートしました。

ハッカソンの最後に実施した成果発表会では、カヤバの経営層や AWS 社が参加し、チーム毎に機械学習モデルの実装結果や機械学習システムの設計に関する工夫点を発表しました。

outputs

図: 成果発表会資料

2023年には、2022年のAIハッカソン受講生が担当する開発テーマの中から 2 つがプロジェクト化され、実証実験 (PoC: Proof of Concept) が開始されました。生産領域から製造ラインの外観検査におけるMLOps基盤の開発を、製品領域からCAEとAIを融合させたサロゲートモデルの活用基盤の開発に着手し、2024年から順次、運用を見込んでいます。

mlops

図:製造ラインの外観検査におけるMLOps基盤

sorrogate model

図:サロゲートモデルの活用基盤

まとめ・今後について

本稿では,カヤバにおけるデジタル人財育成の取組みをご紹介しました。カヤバでは教育の目的は、社員が習得した知識や技術を日頃の開発業務に応用し、ビジネスに貢献することで初めて達成されると考えています。カヤバは今後も社内のデータ活用事例を増やし、DXの実現に向けて世の中のトレンドを意識しながら,必要な教育カリキュラムを展開・拡大していく予定です。

 

本稿はソリューションアーキテクト 内田、石井が担当し、カヤバ株式会社 デジタル変革推進本部 宮内 悠樹との共同執筆です。デジタル人材育成に取り組む方の参考となれば幸いです。

カスタマープロフィール: カヤバ株式会社 (KYB Corporation)

1919 年創業、設立1948 年。従業員数: 13,920名(2023年度・連結)四輪車や二輪車のショックアブソーバー、建設機械用油圧シリンダー、コンクリートミキサー車などの技術や製品を提供しています。