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合併と買収: クラウドコストの相乗効果を実現する

本稿は、2024 年 7 月 29 日に AWS Cloud Enterprise Strategy Blog で公開された “Mergers and Acquisitions: Achieving Cloud Cost Synergies” を翻訳したものです。

調査によると、合併や買収によるコスト削減の相乗効果を獲得する動きは、取引完了後 18 〜 24 ヶ月で弱まることが分かっています。クラウドは、この取引後の時間との戦いにおいて役立つことができます。以下では、AWS がスケールメリットの実現、重複コストの排除、AWS への IT タスクのアウトソーシング、IT 調達とモダナイゼーションパスの簡素化を通じて、コストに関する相乗効果の達成にどのように役立つかについて、いくつかの例を挙げて説明します。これらのコスト削減手法は、必ずしもすべての関係者がクラウドを利用している必要はありません。買収した企業が AWS を利用していなかったり、複数のクラウドプロバイダーと連携している場合でも、これらの手法は有効です。

合併後の IT 統合は、AWS を共通分母とする分数の足し算のようなものと考えてください。AWS の規模と AWS パートナーネットワークの幅広さにより、AWS はお客様特有な統合に関する課題にも対応できる共通点を見つけられる可能性が高いでしょう。AWS は、クラウド内のシステムと、まだオンプレミスにあるシステムとを統合するための簡単な方法を設計しています。また、AWS は、お客様のさまざまなシステムやアプリケーション全体にわたってコスト削減の取り組みを特定し、実施するための FinOps ツールとベストプラクティスも提供しています (訳者注: FinOps とは 財務面からもクラウドリソースの効率的な利用を進め、ビジネス価値を最大化するための戦略的アプローチのこと)。

クラウドは、合併後の IT 統合による相乗効果を実現する上で、多くの利点をもたらします。クラウドは、アプリケーションを瞬時に作成・拡張できる機敏性を提供することで、統合を加速します。 Well-Architected フレームワークに基づく統一されたサービスと一貫したセキュリティ管理を提供することで、企業全体にわたる IT インフラとアプリケーションの標準化を支援します。AWS のサービスは完全に AWS により管理されているため、組織の負担や買収後の IT スタッフの人件費を削減できます。AWS のネットワークはグローバルでありかつ堅牢であるため、企業が異なる地域で事業を展開している場合でも統合が容易になります。また、AWS の従量課金制のアプローチにより、リスクを最小限に抑えて試行することが容易になります。プロジェクトがビジネス価値を実現できない場合にも、プロジェクトを簡単に中止することができます。

ここでは、クラウドがコストに関する相乗効果を促進する方法の具体的な例をいくつか紹介します。

データセンターの統合

買収した企業は、多くの場合、データセンターを統合し、管理費や諸経費を大幅に削減することができます。既存のリース契約、ハードウェアの更新サイクル、ライセンス費用を考慮する必要はありますが、買収したデータセンターを AWS に移行すれば (そのままでも、移行プロセスでモダナイゼーションを目的とした変更を加えても) 、重複した支出を排除し、競争優位性をもたらす活動に集中することができます。

データストレージ

自然に成長してきた企業でも、アナリティクスや AI の力を引き出すために、ばらばらでサイロ化されたデータソースを統合するという課題に直面しています。買収対象となっている企業におけるデータへのアクセスという課題は、さらに大きなものです。当初は収益の相乗効果の創出に重点が置かれるかもしれませんが、データの統合はコスト削減の重要な源泉にもなります。AWS のストレージサービスは、大規模なデータレイクのホスティングで業界をリードしており、段階的な価格設定と、アクセス頻度の低いデータを自動的に低価格の階層に移行するツールを提供しており、大幅なコスト削減を実現します。

データベースのモダナイゼーション

コスト相乗効果を早期に実現する必要性がありながら、例えば AWS のライセンスフリーのマネージドデータベースへの移行など、本格的なデータベースのモダナイゼーションを先延ばしにしている企業もあるかもしれません。しかし、ライセンスベースの Oracle や Microsoft のデータベース、あるいは自社で管理しているオープンソースシステムを AWS のマネージドデータベースサービスに移行するだけでも、データベース管理コストを削減できるだけでなく、将来的には AWS 独自のコスト効率の高い半導体で構築されたサーバーにデータベースでホスティングするなど、クラウドネイティブによるモダナイゼーションへの道が開かれます。

ガバナンスとセキュリティ

ターゲットとしていた企業を買収すると、その企業のセキュリティとガバナンスの管理を自社のものと統合するという課題に直面します。AWS は、標準ベースのセキュリティ、ガバナンス、およびコンプライアンスのフレームワークとツールを提供しており、WarnerMedia と Discovery の合併時に、WarnerMedia が AWS の機能を使用して、Discovery の AWS インフラストラクチャを用いて体系的に統制とセキュリティポリシーの適用を実現しました。 クラウドに移行すると、AWS がクラウドのセキュリティとコンプライアンスの責任を負うため (ただし、クラウド内のワークロードのセキュリティについては、お客様が引き続き責任を負うことになります)、統合を開始する際の組織の負担が軽減されます。

エンドユーザーコンピューティング

AWS のエンドユーザーコンピューティングソリューション、例えば Desktop-as-a-Service、アプリケーションストリーミングサービス、セキュアなウェブブラウザなどはすべてオンデマンドで利用でき、M&A 取引による人員再編の際に重要な IT の俊敏性を提供することができます。IT 統合が裏で進む間、従業員にビジネスに不可欠な共通アプリケーションへのセキュアなアクセスを迅速に提供する方法です。

ボリュームディスカウント

取得コストの相乗効果を実現する簡単な方法は、自社の IT の利用に加えてターゲット企業の主要な IT の利用 (ストレージ、コンピューティング、データベース) を追加し、ボリュームディスカウントを利用することです。多くの AWS サービスでは、利用量が多いほど単価が安くなる段階的な価格設定が採用されています。予測可能なコンピューティングおよびデータベースのワークロードをリザーブドインスタンスおよび Savings Plans でカバーすることで、コストをさらに削減することができます。 買収した企業を既存の AWS アカウント構造に組み込む方法の詳細については、このブログ記事 (Strategies for consolidating AWS environments) をご覧ください。 最後に、AWS の利用範囲を拡大することで、有利なプライベート価格が適用される可能性があることも見逃さないでください。

調達の簡素化

AWS Marketplace で調達を統合すれば、チームの時間とコストを削減できます。AWS Marketplace は、サードパーティのソフトウェア、データ、およびサービスを厳選したデジタルカタログであり、ワンクリックでの購入、請求の一元化、契約条件の標準化が可能になります。調達サイクルを大幅に簡素化し、短縮できるほか、身元不明な販売業者との取引に伴う不確実性を低減し、AWS およびボリュームに基づく割引を提供できます。

コンタクトセンター / テレフォニー

多くの企業が、新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミックの際に、オンプレミスのコンタクトセンターをクラウドに移行しました。AWS のクラウドコンタクトセンターサービスである Amazon Connect は、迅速な立ち上げ、使いやすさ、オンデマンドの低コスト、拡張性を提供します。買収によって取得した冗長なコールセンターを統合するのに最適な方法です。Amazon Connect のコールセンターは迅速に立ち上げ、稼働できる ため、統合後のコストに関する相乗効果を早期に実現するのに最適な候補です。

クラウドは、合併や買収において、勢いが衰えたり、金融市場が買収を失敗と評価したりする前に、相乗効果を迅速に実現するのに役立ちます。M&A クラウド戦略に関する詳細情報や戦略的サポートについては、AWS の M&A アドバイザリーチーム までお問い合わせください。

Mark Schwartz

Mark Schwartz

マーク・シュワルツは、アマゾンウェブサービスのエンタープライズストラテジストであり、『 The Art of Business Value and A Seat at the Table:IT Leadership in the Age of Agility 』の著者です。 AWS に入社する前は、米国市民権・移民業務局 (国土安全保障省の一部) の CIO、Intrax の CIO、および Auctiva の CEO を務めていました。 彼はウォートン大学で MBA を取得し、イェール大学でコンピューターサイエンスの理学士号を取得し、イェール大学で哲学の修士号を取得しています。

Dan Kearney

Dan Kearney

ダン・カーニーは、アマゾン ウェブ サービスのソリューションアーキテクトとして、金融業界の顧客を担当しています。クラウドソリューションの設計や技術的指導を通じて、顧客のビジネス変革を支援しています。 ヒューストン大学 C.T.バウアー・カレッジ・オブ・ビジネスの経営情報システム (MIS) の学位を取得しています。AWS入社前は、米国空軍で戦闘機のアビオニクス技術者として8年間勤務していました。

Jim Lovelan

Jim Lovelan

ジム・ラブランドは、アマゾン ウェブ サービスのソリューションアーキテクトとして、金融業界の顧客を担当しています。お客様と協力して、クラウドベースのアーキテクチャの設計と実装を行っています。 AWS入社前は、主に海外で20年以上にわたり米国の外交官として勤務していました。 経済学修士号を取得しています。

この記事はアマゾン ウェブ サービス ジャパン ソリューションアーキテクトの佐藤伸広が翻訳を担当しました。