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ITを乗り越えれば、イノベーションがやってくる

企業は、コスト構造、市場投入のスピード、提供する商品の質を改善するために研究開発( R&D )に投資しています。研究開発費は、ヘルスケア、製薬、テクノロジー業界のように、研究活動が製品ロードマップと連動している業界で最も高くなります。これらの業界では、通常、売上の 10% から 15% をイノベーションに充てています。しかし、その他の業界では、売上の 0.5% から 3% しか研究開発に割り当てられず、短期的な技術インフラのニーズや業界のトレンドによって増減する裁量的支出となっています。これらの企業は、プロセスからサプライチェーン、オペレーションに至るまで、ビジネスの一部をデジタル化し始めています。イノベーション能力は企業の成功に不可欠であり、クラウドはそれを実現する最良の手段です。

なぜクラウドがイノベーションにとって重要なのかを理解するために、1982年に Harvard Business Review ( HBR ) に掲載された論文に話を戻しましょう。この論文は、テクノロジーを使って永続的な競争優位を築けるかどうかという議論を始めたものです。著者/jp/https://aws.amazon.com/blogs/news/move-over-it-here-comes-innovation-2/?preview=trueは、企業が成功するために技術の進歩だけに頼る必要はない、と結論づけています。なぜなら、テクノロジーへの投資は、しばしば企業戦略や乗り越えなければならないさまざまな課題や障害から切り離されているからです。

その20年後、ドットコムブーム (訳者注: dot-com bubbleのこと) によって、「競争優位としてのテクノロジー」派にバランスが傾きました。しかし、少数の成功したオンライン企業には概ね当てはまることでも、レガシーシステムや実店舗 (訳者注: brick and mortar ) を持つビジネスには適用できないことが判明しました。

それからさらに20年が経ち、この議論はすっかり影を潜めました。今では、より速く、より効果的にイノベーションを起こす方法を見つけることについて焦点が当てられています。それはなぜでしょうか? テクノロジーとイノベーションは、もはや競合する2つの独立した企業イニシアチブではないからです。クラウドコンピューティングは、無限の柔軟性と拡張性を提供する新しい技術です。これにより、企業は、顧客のニーズに焦点を当て、そこから逆算して、望ましい結果を導き出すことができます。そして、既存のクラウドサービスを活用して、特定した問題を解決したり、新しい機会を獲得したりすることができます。ハードウェアとソフトウェアのレイヤーを構築してから、その上に載せるアプリケーションを開発する心配はありません。IT とビジネスが抱えるベンダーとクライアントの関係を排除することで、イノベーションを簡素化することができます。ビジネスチームは開発プロセスへの積極的な参加者となり、彼らの焦点はそれらを実現する技術についてではなく、イノベーションに置かれたままとなります。

元デジタルトランスフォーメーション担当役員で、現在は AWS カナダのイノベーションリードとして、私が関わるほとんどの企業がイノベーションの課題を持っています。成功する企業の共通点は、クラウドを採用し、関連するベストプラクティスを導入していることです。私は、クラウドコンピューティングがイノベーションを可能にする理由を、4つの柱に集約しました。すべての組織のクラウド戦略は、この4つの柱を考慮する必要があります。

1- 資金調達

クラウドは、企業が必要な時に必要なテクノロジーサービスを利用することを可能にします。企業は、テクノロジー・プログラムを実行するためにインフラを購入し、維持する必要がありましたが、今ではより多くのリソースをこれらのプログラムに向けることができます。家を建てるとき、既存の電力網やきれいな水、下水道に頼りますよね。もし、これらのインフラをすべて自分で構築し、費用を負担しなければならないとしたら、家を買うことができないか、あるいはもっと小さいものになってしまうかもしれません。クラウドコンピューティングも同じです。インフラや保護、メンテナンスの費用が不要になれば、研究開発やイノベーションに多くの資金を割くことができるようになります。

2- スピード

アマゾンの社長兼 CEO であるアンディ・ジャシーは、”発明には2つのことが必要です。1つは、たくさんの実験を試す能力、2つは、失敗した実験の巻き添えを食って生きていく必要がないことです。” オンデマンドでコンピューティングサービスを利用できるようになったことで、テストが可能になり、はるかに安くなりました。アイデアはすぐにプロトタイプ化され、試験的に使用することができます。この記事の時点では、AWS には 200 以上のフルサービスがあり、新しいサービスもどんどん追加されています。ユーザーは、他の方法では手が出せないような技術を試すことができるようになった。量子コンピューティング、衛星サービス、強力なデータ処理エンジン、ブロックチェーンと IoT サービス、コンタクトセンターシステム、機械学習(ML)プラットフォーム、特殊なデータベースなど、例を挙げればきりがありません。ある中堅企業では、5つの新規構想の同時進行という目標がありました。2つを停止して新しいものに置き換え、1つを大幅に変更し、2つを開発するという前提です。既存のクラウドサービスを活用することで、大規模な投資をせずにアイデアをテストし、失敗したものは評価損を出さずにシャットダウンすることが可能になったのです。

3- アジリティ

長い導入期間や調達スケジュールはもはや邪魔にならず、高価な技術専門家も電気を点けるのに精一杯で、ビジネスの要求に素早く対応することはできません。その代わりに、クラウドサービスはビジネスのゴールと目標を実現します。これにより、「シャドー IT」の必要性がなくなるだけでなく、イニシアチブの成功のために連携する多職種のメンバーで構成されるプロダクトチームの創設が促進されます。国際的な取引所である Deutsche Börse Group は、 AWS を使用して 、新しいクラウドベースのデータ分析プラットフォームである A7 をわずか 4ヶ月で構築し立ち上げました。

4- 顧客志向

クラウドは、顧客に焦点を当てた新しいイノベーションの方法を可能にしています。しかし、インフラをクラウドに移行したからといって、組織が顧客中心主義になることを保証するものではありません。組織の障壁を取り除くことから、顧客から逆算することまで、未開拓の市場の可能性を引き出すために必要な文化的変革を生み出し、または加速させるための新しい手法を開発しました。AWS が開拓したこれらの手法は、今やあらゆる業界のあらゆる企業が利用可能であり、一般に公開されています。そのためには、ビジネスのスポンサーシップと現状に挑戦する意志が必要なだけです。

まとめ

テクノロジーと研究開発の間で行わなければならなかったトレードオフがなくなり、それとともにイノベーションを遅らせる制限要因もなくなりました。クラウドの恩恵を最も受けるのは、クラウドを活用するために自社の能力(ビジネス、人材、ガバナンス、プラットフォーム、セキュリティ、オペレーション)を変革できる企業でしょう。イノベーションの実現は、クラウド移行戦略と変更管理計画から始まります。クラウドコンピューティングは、1982年の HBR の議論をついに陳腐化させました。イノベーションこそが永続的な競争優位をもたらすものであり、テクノロジーがそれを可能にするのです。

クラウドへの移行を開始する方法についてはこちらをご覧ください。また、社内でイノベーションの境界を押し広げたいとお考えなら、世界中の AWS のお客様の経験に興味を持たれるかもしれません

Francois Chevallier

Francois Chevallier

Francois は、カナダのアドバイザリー部門でイノベーションのプラクティスリードを務めています。大企業がクラウド機能を活用し、近代化、イノベーション、業務効率化の道を切り開くのを支援する。エグゼクティブコーチ、AWS クラウドプラクティショナー、講演者としても活躍中。

この記事はアマゾン ウェブ サービス ジャパン ソリューションアーキテクトの佐藤伸広が翻訳を担当しました。原文はこちらです。