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次なるフロンティア:金融業界向け生成系AI

本投稿はAWS のキャピタルマーケットスペシャリストであるRuben Falkによる寄稿を翻訳したものです。

ChatGPTなどの生成系AI(人工知能)アプリケーションがニュースのヘッドラインを賑わし、人々の想像を掻き立てています。生成系AIは、会話、ストーリー、画像、動画、音楽などの新しいコンテンツやアイデアを作成できるAIの一種です。すべてのAIがそうであるように、生成系AIにも機械学習(ML)モデルが使用されています。生成系AIで使用される機械学習モデルとは、大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる膨大な量のデータで事前にトレーニングされた大規模なモデルのことであり、一般に基盤モデルと呼ばれます。

金融業界では、リーダーや開発者がこぞって、生成系AIの持つ可能性を理解し、それを実用化しようと躍起になっています。

例えば、銀行業界のグローバルリーダーの1つであるスペインのビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)は今後、Amazon Bedrockのような先進テクノロジーの持つ可能性を検討していく計画を発表しています。Amazon Bedrockは Amazon が提供する新しいサービスです。これにより、主要な AIスタートアップやAmazonの基盤モデルをAPI経由で利用できるようにして、革新的な金融ソリューションを開発することができます。

今年始め、Goldman Sachs(ゴールドマンサックス)は、法律文書をはじめとする数百万の文書の分類や仕分けなど、生成系AIの活用方法に関する実験を開始しています。従来のAIツールはこうした事例に活用可能ですが、組織としては、LLMを使用することで、このようなプロセスを新たなレベルに引き上げる可能性があると考えています。J.P.Morganも先日、顧客の投資先選びを支援するChatGPTのようなソフトウエアサービスを開発していることを発表しました。

Bloombergは、幅広い領域の金融データで学習させた新しい大規模の生成系AIモデル「BloombergGPT™」のトレーニング結果を発表しました。金融データを提供する企業であるBloombergのデータアナリストたちは、40年以上にわたって金融用語関連の資料を収集、管理してきました。センチメント分析のような既存の自然言語処理(NLP)タスクを向上させ、金融業界でAIの能力を最大限に引き出すために、Bloombergは500億パラメーターを持つLLMを、生成系AIとして金融機関向けにイチから構築しました。

MLが幅広く普及する中、私たちはまさに大いなる転換点に立っていると言えますが、金融業界をけん引するリーダー達が今後前進していくためには、生成系AIを利用してどのような問題を解消したいのかを明確に定義し、生成系AIの持つ可能性を実現するためのクラウド戦略を確立していく必要があります。

本ブログでは金融業界における生成系AIのさまざまな活用事例に焦点を当て、顧客企業が生成系AIアプリケーションを素早く構築して、大規模に実装するためにAWSがどのように貢献しているのか、さらにAWS上でどのように生成系AIをスタートできるのか紹介します。

金融業界におけるユースケース

銀行、証券、保険、決済など、金融業界のあらゆる企業のリーダー達がこぞって、生成系AIの持つ可能性を理解し、それをさまざまなケースに応用したいと考えており、開発者は使いやすく安全で、しかも拡張性の高い生成系AIツールを試したいと考えています。金融業界で生成系AIの応用を検討できる領域として、以下の4つの活用カテゴリーが考えられます。

1. 顧客体験の向上

LLMは、人事に関する質問に答えるHRボットなど、従業員からの質問に対して直観的で、人間が回答するようなより正確な応答を行うことによって、従業員の生産性を向上します。エージェントに自動化された支援機能、状況や意図に応じたレコメンデーションやネクスト・ベストアクションを提供するコールセンター支援機能など、外部のカスタマーサービス アプリケーション向けに、より優れた性能を持った魅力的な対話型AI体験を構築することもできます。LLMがなければ、通常、質問をあらかじめ予測し、いくつかの決まった回答セットを人間が作成しておかなければならないでしょう。LLMがあると、回答はその場で生成でき、新たな情報が提供されると、回答に自動的に組み入れることができます。

現在、金融機関ではMLをコンピュータービジョン、光学文字認識(OCR)、NLPなどの形で活用し、顧客のオンボーディングや顧客の本人確認(KYC)プロセスの効率化を図っています。生成系AIにより、企業は顧客に適した会話スタイル(カジュアルな会話モードやフォーマルな会話モードなど)を採用して、会話を柔軟かつ有効に活用し、顧客体験全体の向上に役立てることができます。

LLMを使用することで、企業は内部ユーザーや外部顧客からの込み入った質問を自動的に解釈して意味を理解し、文脈を分析して、極めて精度の高い会話型の応答を生成できます。特に、LLMは自由回答形式の質問に対して長文の回答(何千ページもある法律文書や技術文書を検索して、重要な点を要約して質問に回答するなど)の生成を可能にします。

通話記録やチャットログなど、顧客とのやり取りから得たデータも要約してセンチメント分析を行い、ポジティブないしはネガティブな顧客体験に関連付けられるテーマをより簡単に理解することもできます。同様に、顧客がそれぞれに関心あるテーマや以前の会話の文脈も要約して取り込むことで、オムニチャネルのアプローチを強化して、顧客に対して統一感のあるブランド体験を提供できます。

2. ナレッジワーカーの生産性向上

生成系AI関連のツールは、金融や法務のアナリスト、新商品開発の担当者、コンサルタント営業の担当者などのナレッジワーカーの業務効率化や効果的な職務の遂行に役立てることができます。

ナレッジワーカーは、テキストや画像の検索や集約、重要な部分を要約することなどから、生成系AIモデルによって提供される回答の精度や完全性の確認へと、仕事の重点をシフトしていくことになるでしょう。

こうしたユースケースは、投資機会のアドバイスを準備するファイナンシャルアドバイザーやアナリスト、新たな法規制の影響に対応するコンプライアンス・アナリスト、融資関連の書類を作成する融資担当者、保険証券を作成する保険の引受人、RFIへの回答を準備するセールス担当者など、さまざまな職務に応用できます。いずれの場合も、編集権や最終決定権を保持しながら、人間の専門家はより付加価値の高い活動に焦点を移すことができます。

3. 市場や顧客のセンチメントを理解する

現在、イベントドリブンでニュースを追跡する機能が存在しており、多くのヘッジファンドやクオンツが、ニュースやソーシャルメディアのセンチメント、信頼性、取り上げられた件数からのシグナルに基づいてさまざまな市場取引の方法を開発しています。

しかし従来のイベントドリブン型の投資戦略やサーベイランス手法は、既知の行動やパターンのマイニングに依存したものです。生成系AIには、指令がなくても新たなテーマや関連するセンチメントを浮かび上がらせる可能性を秘めています。例えば、LLMはソーシャルメディアで類似した意味を持つ投稿をクラスタリングし、センチメントの測定結果をクラスタに割り当てることによって、ソーシャルメディアコンテンツから新たな消費者行動のトレンドを特定できます。同様に、新たな広告キャンペーンのような特定のコンテンツに結びつくネガティブなセンチメントも素早く特定して要約するため、投資家や起業家はこうした情報に素早く対応することができます。

4. プロダクトイノベーションの推進と、ビジネスプロセスの自動化

生成系AIは、会話形式のテキストを活用して、高度にカスタマイズされた投資戦略やポートフォリオを自動的に作成できるようにすることで、ファイナンシャルアドバイザーや投資家にも役立つ可能性があります。

例えば、ファイナンシャルアドバイザーや投資家がウェルスマネジメントプラットフォームで、口頭あるいは文章で「人権意識の乏しい国で採掘された資源に頼らないクリーンエネルギーの会社に投資したい」と入力すると、生成系AIを搭載したプラットフォームは該当する会社のリストを、その会社がなぜ選ばれたのかというコメントを添えて提供します。同様に、投資家は投資先やポートフォリオについて、プラットフォームにアクセスして自動生成された要約コメントを読むことができます。

現時点では、正確さの点で生成系AIには限界があることを考えると、こうしたソリューションはまず、社内でファイナンシャルアドバイザー向けに導入される可能性が高いと思われます。ソリューションが本格的に大規模に展開されるようになるには、こうした限界を克服する必要があります。リテールの顧客ごとにカスタマイズされた日次のポートフォリオのコメンタリーが人間による確認を必要とするのであれば、少なくとも富裕層にとっては、そもそも生成系AIがコメンタリーを生成する意味はないでしょう。

生成系AIは、現在はあまり利用されていないテキストデータ・ソースから迅速かつ効率的にデータ商品を創り出すこともできます。例えば、財務諸表の情報源として、主に年次報告書や届出書類 (米国の場合ならSECに提出するForm 10-Kなど) が使用されます。こうした文書のテキストには、製品カタログに役立つデータや、世界各国のすべて、あるいはほとんどの上場企業の顧客やサプライチェーンのリレーションマップを作成するためのデータが埋もれています。生成系AIは、こうした情報を人手、あるいは従来の NLPプロセスで抽出する場合に比べて、非常にわずかなコストでこの種のデータ商品を作成できます。以前のブログで、SECの提出書類など、特定の種類の文書でのパフォーマンスを最適化するために、LLMをどのようにファイン・チューニングできるのかを説明しました。

年次報告書はデータ商品にデータを供給する重要な情報源ではあるものの、ほんの一例に過ぎません。存在するあらゆるデータのうち、約80~90%は非構造化データと推定され、そのほとんどがテキストです。生成系AIはこのような書き言葉や話し言葉の大量のリポジトリを、投資プロセスや個人投資家との交流に役立つよう、オンデマンドで、構造化あるいは半構造化情報に変換するのに非常に適しています。包括的で適切に要約されたデータを検索する際に、特定の商品や商品分野の価格動向、消費者嗜好など、投資家に対して付加価値の高いターゲット情報を提供できるコンテンツの情報源として、投資リサーチ、投資家向けプレゼンテーション、決算説明会議事録、テレビのニュースやインタビュー、新聞、業界紙、ウェブサイトが挙げられます。

20 年以上の経験をもとに構築

Amazonは 20年以上にわたり AIおよびMLの分野に注力してきました。eコマースのレコメンデーションエンジン、フルフィルメントセンターにおけるピッキングロボットの最適経路、サプライチェーンや需要予測、キャパシティプランニングなど、Amazonの多くの顧客体験は、MLによる情報を活用し、またMLを活用して稼働しています。

アマゾン ウェブ サービス(AWS)ではAmazonやAmazonのお客様の経験を生かして、MLを民主化し、利用したい人が誰でも利用できるように努力しています。またAWSは、業界をリードする機能を備えたAIやMLを活用して、金融業界をはじめとする、あらゆる規模、業界の10万を超えるお客様が進めるイノベーションを支援してきました。現在、AWS には業界をリードする幅広く奥深いAIとMLのサービスポートフォリオがあります。

例えば、AWSはすべての開発者がモデルの構築から学習、展開を簡単に行うことできるAmazon SageMakerを開発しました。また、AIやMLの幅広いサービスへのアクセスを提供し、金融業界においてシンプルなAPIコールで画像認識、予測、インテリジェント検索など、AI機能を搭載したアプリケーションを追加できるようにしています。今日の金融業界をリードするNatWestや Vanguard、PennyMacをはじめとする企業から、世界中で何千ものスタートアップ、そして各国の政府機関などがAWSのツールを利用してAIやMLを活用し、組織や業界のミッションの実現に向けた変革に取り組み、前進しています。

AWSは金融業界向けの生成系AIについても同様の民主化のアプローチを取っており、インフラストラクチャ、ツール、目的に応じて構築されたAIサービスという3階層のMLスタックすべてを通じて、お客様がそれぞれのビジネスで使いやすく実用的で、コスト効率の高いツールを提供しようとしています。AWSでは、すべてのMLスタックに投資を行い、イノベーションを起こすことで、研究の領域を超えて、大小あらゆる規模のお客様と、あらゆるスキルレベルの開発者に生成系AIを活用してもらうことを目指し取り組んでいます。

生成系 AI の可能性を広げる

AWSを活用することで金融業界のお客様は、ニーズに応じて構築されたMLインフラストラクチャで独自の基盤モデルを作成することができます。さらに、基本モデルとして事前学習済みの基盤モデルを活用してアプリケーションを構築、あるいは基盤モデルについて特別な専門知識を一切必要としないビルトイン型の生成系AIサービスを利用するなど、生成系AIを構築する方法を柔軟に選択することができます。AWSでは生成系AIアプリケーションを素早く構築して、大規模なスケールで展開できるようにするために考慮すべき4つの重要なポイントを明らかにしています。

1. AWSを基盤モデルで最も簡単にアプリケーションを開発できる場にすること

Amazon Bedrockによって、お客様は基盤モデルを使用して生成系AIベースのアプリケーションを構築・拡張でき、すべてのアプリケーション開発者がそれを利用できるようになります。Amazon Bedrock は、AmazonやAI21 Labs、Anthropic、Stability AIなどの主要なAIスタートアップの基盤モデルをAPI経由で利用できるようにする新サービスです。Amazon Bedrockはお客様が基盤モデルを使って生成系AIベースのアプリケーションを構築・拡張する最も簡単な手法であり、すべてのアプリケーション開発者が利用することができます。

2. 機械学習のために最もコストパフォーマンスの良いインフラストラクチャに投資すること

生成系AIの能力を活用するためには大量の計算リソースやデータが必要です。これを取得して運用管理するには多くの費用と時間がかかる可能性があります。AWS TrainiumおよびAWS Inferentiaのチップを使用することで、クラウドで最も低コストのトレーニングモデルを提供して推論を実行します。

3.Amazon CodeWhisperer などの画期的な生成系AIアプリケーションの展開

生成系AIによって、時間のかかるコーディングタスクから解放されて、慣れないAPIでの開発を加速することができます。Amazon CodeWhisperer は基盤モデルを活用して、統合開発環境(IDE)において開発者の自然言語によるコメントやこれまでのコードに基づいてリアルタイムにコードの候補を生成することで、開発者の生産性を大幅に向上させるAIコーディング支援ツールです。

4. オープンソースモデルとの連携や独自の基盤モデルの構築により柔軟性を提供

Bedrockのモデルに加えて、Amazon SageMaker JumpStartはアルゴリズムやモデル、MLソリューションを揃えたMLハブを提供します。SageMaker JumpStartによって、お客様はBedrockでは利用できなかったOpenLLaMA、RedPajama、Mosiac MPT-7B、FLAN-T5/UL2、GPT-J-6B/Neox-20B、Bloom/BloomZなどのオープンソース基盤モデルの発見、精査、導入が可能になります。

明日を見据えて、今すぐビジネスの再構築に着手する準備はできていますか?

取り組みが進むにつれて、金融機関には生成系AIの技術に関する十分な理解や、特定のタスクに対する異なる基盤モデルの有効性を比較対照できる能力、ドメインの適応やモデルのカスタマイズに対するさまざまなアプローチを試す機会が必要になります。AWSが目指すのは、お客様がより簡単かつ実用的な生成系AIを追求し、ビジネスで活用できるようになることです。

AWSの金融サービス企業向けAI、MLおよび生成系AIの詳細については、こちらをご覧ください。

今すぐ Amazon SageMaker Jumpstartを活用して、金融業界向けのユースケースで問題解決を図りましょう。

原文はこちらです。

Ruben Falk

Ruben Falk

Ruben はデータアーキテクチャ、分析、機械学習、AI にフォーカスしているキャピタルマーケットスペシャリストです。Ruben は、S&P Global Market Intelligence から AWS に入社しましたが、そこでは投資管理ソリューションのグローバル責任者を務め、デスクトップ、データフィード、自然言語処理、ClariFi クオンツプラットフォームなどの S&P の基本的かつ定量的な投資管理製品の製品戦略と市場開発を担当していました。以前、Rubenは UBS インベストメント・バンクの取締役を務め、経営コンサルタントとしても活躍していました。Ruben は、ブランダイス大学でコンピューターサイエンスの学位を、カリフォルニア大学バークレー校で経営学修士号を取得しています。